第七話:バケモノでごめん
最後の文章を少し書き直しました。
〇〇
狩人のソヨゴから山の中に何か得体の知れないものがいると聞いた時一斉に女性たちが悲鳴をあげた。その中にアズサが不安そうに表情をしているのが見えてダンは守ってあげたいと思った。
村長の息子として、先頭に立ち、見回りなどを提案すると断るものはいなかった。しかし、探しても探しても怪しい影も形もなかった。歩き回っていく中、友人の一人が愚痴をこぼす。
「本当にいるのかな…?」
それを見回りの一人がボソリと不安げにつぶやいた。
「いるかも知れないからこうやって探しているんだろ?」
「そうだけどさ…」
人によって運動神経や身体能力にはばらつきがある。山に登っていくのは歩き慣れた者でないと長時間は難しくなる。二人の不毛な会話を聞きながらダンはそろそろ限界かと感じた。
こうなれば山歩きに慣れたものだけ集めた方がいいのではとダンは考えた。まず最初に思い浮かんだのはいばらだった。
自分よりも足が早く、力もある青年。背丈があり体格がしっかりしている分、山道を歩くのも苦としていることを見たことがない。彼なら大丈夫だろうといばらに声をかけようと探すがなかなか見つからない。
「いばらを見ていないか?」
幼馴染のものたちに聞いても首を横に振るばかり。最近は正体不明の何かを探し出すのに熱中していて、姿を消すことも多くまともに話したのはいつだったか覚えていない。いばらの家に行ってもそこにはいばらの両親のイサクとヤエしかいなかった。
「いばらくん、いませんか?」
「あら、いばらはどこかに出かけたんじゃないかしら、最近多いわね」
イサクは客の髪を切っていて、ヤエは他の客の髪の毛を櫛でほぐしながらダンに答えた。それにいばらの父のイサクも髪を切りながら返事をした。
「夕方までには帰ってくるだろ」
「そうなんですか、ありがとうございます」
いばらの居場所を両親も知らないのかとダンは少し心配になった。両親にとってはいつものことかも知れないが…。
久しぶりに話がしたいのにと探し回っていると友人の一人がいばらを川の近くで見かけたと聞いた。
川の近くということは釣りにでも行ったのかとようやく向かう場所は決まったことに安堵のため息をついた。自分とアズサと彼しか知らない数少ない穴場に足早に向かった。木々を駆け抜ける爽やかな風と川のせせらぎが聞こえた。
そしてそこには一人の人影があった。いばらはなぜか水面を見ていてしゃがみ込んでいた。魚をいるか見ているのだろうと、無防備な背中を見たダンは魔が差した。
忍び寄ったダンはあともう少しで驚かせようとした時、足音を小さくしようと足元に力が入ってしまい、草むらに足を滑らせてガサリと音を立ててしまった。
そして彼が驚いたようにこちらを振り向いた。
「はは、びっくりした…」
ダンは友人を驚かせたことに笑いながら謝ろうとしたが、彼の顔を見てそれは止まった。
赤。
夕暮れ時に見るようなその鮮やな色にダンは動きが止まった。それと同時に感じたのは畏怖の感情だった。
あまりの美しさに目を奪われた。その瞳が驚きで目を見開いていたのがいばらだということを思い出す。
「ダン、俺は…」
いばらが歩み寄ろうとした瞬間にダンはパニックになり声を荒げた。
「く、来るな! 化け物!!」
その言葉がいばらの動きを止める。そして彼の心は深く突き刺さった。
『今、何を言われた…バケモノって…』
初めて受けた言葉にいばらの心は大きく揺れ動く。そしてダンの言葉が頭の中を反芻する。
バケモノ
バケモノ
バケモノ
何度も、何度も。
『ああ、そうか…自分はバケモノなのか…人間は血を啜ったり、目の色をこんな風にならない』
自分は人間とは違う生き物なんだー。
今までなんとか運よく人間として生きてこられた。
しかし、それも限界だと悟った。人として生きることの。ダンの目は友人として向けられるものではなかった。自分を人間ではないと拒絶する怒りよりも恐怖に歪む視線が何よりもとても悲しかった。
「ごめん…バケモノでごめん」
声を絞りながら出したのがせめてもの謝罪の言葉だった。けれどそれでもダンの瞳は恐怖に満ちていた。今の状態でどんな言葉を紡いでもきっと届かないだろうが伝えたかった。
「山で動物を狩っていたのは俺なんだ…」
いばらの言葉にダンは目を見開く。
「…だからもう探す必要はないんだ…ダン、君に出会えて、この村に、両親に拾ってもらって幸せだった…」
そう言葉を言い残していばらはその場を去った。




