第六話:迫り来る現実
少し時間は遡る。
「ごめんください」
夕方になり日が沈みかけると、唯一ある光は囲炉裏の灯だけになる。家の外から声が聞こえた二人は誰が来たのかと、腰を上げたイサクは外に出るとそこには村長宅にいる使用人の一人のスイバがいた。
「スイバさん、どうされたんですか?」
「村長からの大事な知らせがあるようで、至急村長の家に集まるようにとのことです」
「分かりました、それじゃ俺少し行って…」
イサクは囲炉裏の前にいるヤエに言おうとした時にスイバがそれを止めた。
「いえ、家族全員でお願いします」
「家族全員でですか?…分かりました」
イサクはスイバの放たれた言葉と神妙な面持ちに眉間に皺を寄せた。それに嫌悪感を感じたというわけではない。得体の知れない違和感を感じたからだ。
「わかりました、いばらを呼ばないと…」
年頃になるということで近くに離れを作ったのはここ数年のことである。ヤエが心配そうにこちらを見ていた、二人の会話を聞いて外に出ようとした時に当人がこちらにやってきた。
「父さん、どうしたの?」
「いばら」
「声が聞こえて誰か来て… スイバさん?」
いばらは来客に目を止めて驚く顔にスイバは困ったように笑った。
「いばらくん、こんばんわ。今から村長様の家にみんなを集めているんだ」
「え、何があったんですか…?」
いばらの質問にスイバは先ほどと同じ表情で言葉を続けた。
「村長様がそれを話すようなので…」
「…わかりました」
囲炉裏の火を消し、三人は村長宅に向かった。村全体は五十人がいるが庭が広々としていて収まることができたが、密度が高かった。
「こうして集まるのは久しぶりだな」
他の村人たちも集まっており、その中で小さい頃から知っている友人たちを見つけた。灯籠に灯りをともして辺りを照らした。村人が集まったということで村長のナツメは前にでた。
「皆の衆、日が落ちてから呼んでしまってすまない、大事な話があってだな」
その絶妙な言い回しがおかしくて村人の男衆が吹き出した。
「お、なんだ、とうとう息子が誰かと結婚するのか」
「そうなのか?よかったじゃないか!」
それにあたりはざわめいたが、
「ふははは」
同じように村人の話を笑うが村長は目が笑っていなかった。それに男衆はまだ気づいていなかった。
「残念ながら違う、早いとこ結婚してほしいものだが今はその話は置いといて…近頃、山の方で何か異変を感じたものがいないか聞きたくてな…」
父からの言葉にダンは近くに面白そうに見ている友人たちの視線から逃れるように、むず痒い思いしながら腕を組んでいた。
ダンは恥ずかしそうに俯くしかなかったが話が切り替わったことにホッと撫で下ろしたのがいばらじゃなくても分かった。話が変わったことにダンの結婚の話しから山の方へと話題は注目された。
「山の方で?」
「私らは山の方まではいかないからね」
「何かあったの?」
人々がざわつく中、いばらは心臓の音が高鳴っていた。
『山の方で…まさか、もしかして、気づかれた…!?』
2年前に動物の血で渇きを癒すことを知ったいばらは山の中の動物の血を狩っては生き血を啜っていた。
これでここで暮らしていけると思ったのだがいばら以外にも山に足を運ぶものは少ならずいるのだ。それがこの村の狩人のソヨゴだった。
村長の後ろに控えていた獣の皮を被った男性が前に出た。
「狩人のソヨゴです、山にいる動物の減り方が激しいと思ったのは最近で、近くの山を探索したところ麓の山がもっとも多いと感じました。できるだけ山に近づかない方が身のためでしょう」
注意する言葉に女性たちは悲鳴をあげる。
「え、山に何かいるの…!?」
「そんなっ」
女性たちの悲鳴を聞いて男性たちは安心させようと奮起の声をあげる。
「その何かってのを退治すればいいんじゃないか?」
「おお、俺たち男衆が集まれば怖いものねえだろ」
威勢の良い声に男たちは盛り上がる。あまりの盛り上がりに村長は声をあげた。
「一人よりもなるべく集団で見回るように、危険を感じたらすぐに逃げることだ」
「はい、村長」
村長は釘を指していることを男たちは分かっているのか、それともわかっていないのか、ダンは男たちと盛り上がっていると、呆然と立っている友人が目に入った。
「いばら、お前も手伝ってくれるだろ?」
「え、ああ うん もちろん…」
いばらはダンにそう返事をするとそれに満足したように他の村人たちのも声をかけていた。その後ろ姿を追いかけようとは思わなかった。ただ呆然としてどうするばいいのかと迫り来る現実に立ち尽くすしかなかった。
それから山には頻繁に村人たちが出入りするためにいばらは動物を狩りに行くことができなかった。けれど村で人気がある彼は友人たちに声をかけられて無視することはできなかった。
それが数ヶ月続いた。いくら探せども最初に男たちはドキドキしながら探し回っていたが、山の中にいる何かを見つけ出すことはできなかった。
それもそうだろう。犯人は村の中にいるのだから。男たちは数ヶ月が経ち何人かはもう諦めて、いやまだ俺は諦めないと残るものが少数いた。その中にダンがいた。
あれから血を摂取することは極力避けていた。そのため吸血の衝動が狭まってきていた。
夕暮れ時、水面に浮かぶ自分の顔を見つめた。その瞳を見て憂鬱と絶望感に苛まれる。いつもは黒い瞳が爛々と赤く染まっていた。
いばらが血を飲まざる得なくなったのはこの変化も原因の一つだった。あの日、ハサミで客の肌を誤って傷つけてしまい、血を舐めた時から自分の体の変化に追いついていけなかった。
初めて桶の水面に浮かぶ自分の瞳が赤く染まっていた時にただ茫然と見ていた。
「何だ、これ…」
まるで血のように赤い、その瞳が何か病気ではないかと、両親に相談した方がいいのでは思ったがそんな病気見たこと聞いたこともなかった。今の自分を見てなんて言われるのかも怖かった。
『やばい、今夜絶対に狩りに行かないとーーっ』
そう考えた矢先だった。ガサリと後方から音がした。思った以上に近くで音がしたことに驚きいばらは咄嗟に振り向いた。そして目と目が合ってしまった。
そこにいたのは…。




