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第三話:恋ってどんな気持ちなんだろう


 翌日になってもそれは消えなかった。まず思ったのはダンの後ろ姿だった。逃げるように山の中を駆けていく姿が頭の中から離れなかったのだ。


 なので村の女の子と遊びに行く前にどうしても気になるだろうとその子に断りを入れてからダンの元に向かった。


 ダンは秘密基地におらず、今日は家の仕事をしていると一緒に遊んでいる子から聞いたので家の方に向かった。


 ダンの家は村長の家というだけあって、他の家とは違って一際大きく出来ている。そして使用人までいるのだ。村長は使用人を家族同然として扱っている。


 村長の人柄の良さがよその村の捨て子であるいばらを受け入れたのも大きい。育ての両親であるイサクとヤエも村長と仲がよく、髪を切らせてもらっていた。


 いばらは村長の家を覗くと使用人の一人と目が合った。


「あら、いばらくん、どうしたの?」


「こんにちは、ダンくんはいませんか?」


「ダン様でしたら、今日は畑の方を手伝いに行っていますよ」


「分かりました、ありがとうございます」


 使用人にお礼を言ったいばらは畑の方に向かった。すると数人の人影が見えた。いばらに気づいた使用人がダンに知らせる。


「ダン様、友達がお見えです」


 くわを持っていたダンは振り上げながら振り返り硬直した。


「え、いばら…?」


 彼の驚く顔にいばらは困ったように歩み寄る。


「ちょっと話せないかな?」


「あ〜、今は…」


 ダンは昨日のことが頭に浮かんで答えを渋った。しかしそんな事情を知る由もない使用人は気をきかせた。


「ダン様、早朝からやっていますよね。一休みされたらどうですか?」


「ああ…まあ、そうだな…」


 使用人の気配りにダンは断ることもできずに已む無く受け入れた。いばらとダンは木陰があるところに移動して話をすることにした。


「…で話ってなんだ?」


 ダンは木に寄りかかり根元に座った。


「話っての昨日のことなんだけど…」


 昨日という言葉にダンはドクンと胸が高鳴った。


「昨日?」


「うん、昨日アズサちゃんと釣りをしたんだけど、ダンが近くにいたのかなって思って」


 いばらはダンの言葉をまった。そしてダンはおもむろに口を開いた。


「ああ、そうだな…二人の邪魔しちゃいけないかなって思って」


 ダンは笑いながら言葉を述べた。いばらはその表情を見て心から笑っていないことに気づいた。


「邪魔じゃないよ、ダンも釣りをしたかった…?」


 いばらの言葉を聞いたダンは思わず感情が昂った。しかし、いばらの表情を見て何の感情も乗ってないことに気づいた。いばらのことは小さい頃から知っている。人に卑しいことを言う人間ではないことを。


「…い〜や、お前が邪魔じゃなくてもアズサちゃんにどう思われるかわからないだろう?」


 ため息をつきながら話すといばらが首を傾げる。


「どうしてアズサちゃんが嫌がるんだ?」


「それはお前と二人っきりになりたいからだろ…?」


「一緒に遊ぶなら二人でも三人でもいいと思うが」


 いばらの言葉にダンは衝撃を受けた。


『もしかして…』


 ダンは恐る恐る口を開いた。


「どうして、アズサちゃんが二人っきりになりたいのか分からないのか?」


「え、僕と遊びたいからじゃないのか?」


 いばらの即答に抑えきれなくなったダンは堰を切ったように笑い声を上げた。


「あははは」


 ダンの爆笑にいばらはこれでもかと目をぱちくりとさせた。


「ダ、ダン? どうしたんだ…!?」


 いきなりの挙動にいばらは分からなかった。なぜ笑われたのか、分からずダンのことを訝しむような表情をしていると目が合った。


「悪いな、思いっきり笑っちまって」


 ふふふと笑いを噛み殺しながらいうダンにいばらは理解ができなかった。


「いや、特におかしなことは言ってなかったと思うが…」


 そういういばらにダンは息を吐く。


「その言葉、女の子達が悲しむぞ、まあいつかは気づくか…俺さ、アズサちゃんのことが好きなんだ」


 突然の告白にいばらは目をまん丸と見開く。


「え、す、好きって、俺もアズサちゃんが好きだけど」


「そうなのか!?」


 ダンはいばらの思わぬ言葉に声をあげようとしたが、その後の言葉に急停止する。


「うん、ダンも好きだし、ダンのお父さんもお母さんも好きだしー」


 いばらは思い出すように名前を呼んでいく様子にダンは制止した。


「???お前ちょっと待て、なんでそれに俺が入るんだ…?」


「だって、好きってそういうことじゃないの…?」


 ダンはいばらの言葉を聞いて開いた口が塞がらなかった。


「お前が言っている好きっていうのとは別に特別な気持ちがあるんだよ。それが恋っていうんだ。」


「恋…?」


 漠然とした言葉にいばらは首を傾げる。不思議そうな顔をする幼馴染にダンはうなづいた。


「それってどういうものなの?」


「どういうって…その子と目を合わせたりするとドキドキしたり、話していると落ち着かなくて…ってもういいだろ!?」


「う、うん、わかった…?」


 ダンの説明が途中で終わってしまったため、理解が薄くなってしまったがとりあえずアズサと二人っきりはよくないのかと会うのをやめた方がいいのかと告げると首を横に振った。


「それは…いや、アズサちゃんはお前に会いたいっていうだろうから会ってくれ、ただ知って欲しかっただけなんだ」


「わかった」


 ダンのなんとも言えない表情にいばらは何もうことができなかった。なんとも言えない雰囲気の中口火を切ったのはダンだった。


「このことは秘密にしてくれよ」


「うん、絶対に秘密にする」


 いばらの返事にダンはうなづいて声を上げた。


「ほら、今日も女の子の約束をしているんじゃないのか?」


「あ、そうだった!?」


 ダンの一言でいばらは約束していたことを忘れるところだった。


「ごめん、ダン 行かないと」


「おう、気をつけてな」


「うん、それじゃまた」


 ダンの突然の告白に驚いたものの、恋愛感情を芽生えたことがないいばらにとって最後まで理解することができなかった。いばらは手を振りながらダンと別れを告げた。


『恋ってどんな気持ちなんだろう』


 米が好き、野いちごが好き、魚が好き、鹿が好きだが、人に対しての好きに何か違いがあるのかと分からなかった。いばらは父と母が好き、ダンにアズサにダンのお父さんとお母さんも好きだ。村人たちもみんな大好きなんだ。


 その後いばらは急いで約束していた女の子の元に行き、一日中遊ぶのだった。帰ってからも考えたが分からず、その日はどっと疲れてしまいぐっすりと眠った。


 穏やかな日々がしばらく続いていた。あの瞬間が起きるまでは。

間違えて投稿のボタンを押してしまいました…。

予約したつもりが…( ゜д゜)

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