第一話:いばらという少年
これはかつて人であった鬼たちのお話。
二人が出会い、引き寄せられ、魅せられた者、友と呼んでくれた者、あるいは狂わされた者、戦いを楽しむ者、遺志を受け継いだ者、そしてーー彼らが辿った行く末の運命の物語。
【いばらと童子】
〇〇
時は平安より少し前。摂津の国、水尾村でその子供は生まれた。16ヶ月の難産の末に生まれたときは歯が生えていて、生まれてすぐに歩き出した。
「ああ、なんてこと…」
その姿を見た母はその言葉を最後に事切れてしまった。父親は生まれた赤子を持て余し、隣の茨木村の九頭神の森近くにある床屋の前に捨てたのだった。
日中にあるのは太陽の光だけである。朝一番を告げる鶏のけたたましい鳴き声と共にちょうど日が明け出した時間だった。床屋の主人イサクは家から出て日の光を浴びようと家を出ると何かを見つけてそれが何なのか分かり仰天した。
「おい、こんなところに赤ん坊がいるぞ!?」
男性の驚く声と次に女性の声が同じように驚く。
「ええ!?」
二人の男女は赤ん坊をじっと見つめた。
「まあ、なんて可愛らしいんでしょう、坊やかしら、娘かしら?」
女性は赤ん坊の容姿を褒め称えた。男性はそれに同意した。だけど不可解なところは拭えなかった。
「そうだな、でもなんでこんなところに…」
男性は周囲を見ても人っこ一人いない、そして置き去りにされた赤子、それだけで十分だった。
「ヤエ、この子はきっと天からの授かりものだ。私たちが育てよう」
二人はいつも仲が良かったが、いつまで経っても子供には恵まれなかった。夫の言葉に妻のヤエは声を震わせて涙ぐむ。
「あなた、そうね…この子は天からの授かりもの…名前はそうね、この村からの名をとって『いばら』というのはどうかしら?」
「いばらか、そうだな、いばら、お前の名はいばらだ!」
男性は嬉しそうにいばらを抱き上げて笑った。それに女性は嬉しそうに肩を寄せ合った。その日、三人は家族となった。
〇〇
「いばらくん、一緒に遊びましょう」
赤ん坊だった少年はイサクとヤエの愛情からすくすくと育ち、いばらは5歳になった。
「は〜い、行ってきてもいいかな?」
いばらは家を出る時は必ず言うようにと言いつけを守っている。床屋で仕事をしている父と母に声をかけた。
「ああ、行っておいで、あまり山奥に行くんじゃないぞ、ケモノが出るからな」
「は〜い、行ってきます」
いばらは返事をして出かけた。
「ふふ、あの子も段々と大きくなったわね。少し前は女の子のように可愛いくて最初は女の子かと思ったけど、顔もいいけど優しいから村の女の子達からモテモテよ」
床屋にきた常連の客がいばらを褒めそやす。それに母のヤエは嬉しそうに声を上げる。
「ふふ、私たちの子供ですもの」
妻の明るい声を聞きながら、夫のイサクは口元に笑みを浮かべた。いばらは女の子に声をかけた。
「待った?」
いばらが声をかけると女の子は頬を赤らめて、首を横に振った。
「ううん、全然大丈夫」
「そっか、よかった。今日はどこに行こうか」
「うん、今日はお花畑に行きましょう。ばあばに花冠を教わったの」
女の子は嬉しそうにいばらの手を握った。
〇〇
産みの親が容姿がよかったのか生まれつき顔立ちが良くて人気があった。特に同年代の女の子達から。
「今日は私と遊びましょう」
一人の女の子がいばらに話しかけてきた。返事をしようとしたその時だった。
「ちょっと抜け駆けはダメって話したじゃない!」
そこには数人の女の子がいた。女の子達の睨みにいばらを誘った女の子は肩をすくめる。
「ご、ごめんなさい。どうしても一緒に遊びたくて…」
怯えながらだが、言葉を綴ると女の子達はいばらを勝手に独り占めしたことに対し怒りを露わにしていた。
「それは私たちも一緒よ!」
抜け駆けした女の子を糾弾しようと詰め寄ろうとした時にいばらはそれに制止をかけた。
「ちょっと待って、喧嘩は良くないよ」
いばらの声に女の子達はぴたりと止まる。それにいばらはホッとしたのか止められた女の子たちがぐずり出した。
「でも、私たちも遊びたいのに…」
女の子が泣きそうな表情を見たいばらはなんとか出来ないかと考え咄嗟にあることを閃いた。
「そ、それじゃ、それぞれ1日ずつ遊びに行くのはどうかな?」
そう提案するとシーンと静まり返った。自分でもおかしな提案だと思ったが他にいい案が思い浮かばなかった。
『ダメかな…』
と考えたが、女の子がポツリと言葉がつぶやいた。目を無邪気にキラキラと輝かせながらいばらは少し驚く。
「それって、一日いばらくんと一緒にいれるってこと!?」
いばらはうなづきかけるが女の子たちの圧にたじろく。
「う、うん そうだけど どうかなって」
そういった途端に女の子達は歓声を上げる。
「きゃあああああ」
「嘘、1日いばらくんっとずっと一緒にいれるってこと!?」
「え、どうしよう めっちゃ嬉しいんだけど」
女の子達は興奮状態になりながら、その光景にいばらは唖然とする。
「それじゃあ、あの子が今日抜け駆けしてもいいわ」
それに女の子達は次々と同意する。
「そうね、そうしましょう」
「悪かったわね、メイちゃん。今日は遊んでいいからね」
「バイバイ」
その言葉を最後に女の子達はどこかへと散っていく。いばらは女の子達を呆然としながらも見送った。
「えっと、花畑に行きたいんだったよね?」
いばらに話しかけられたメイと呼ばれた女の子は先ほどまで泣きそうな顔から徐々に顔を赤らめてこくりとうなづいた。その日を境に次々と違う女の子と遊ぶ日々が続いた。
「今日はよろしくお願いします」
可愛らしい声ながら丁寧にお願いしてきたのは村で一番可愛いと評判の美少女だった。彼女の名前はアズサ。けれどいばらは容姿が醜かろうが、美しかろうが関係はなかった。
「うん、今日はよろしくお願いします」
今日も一日女の子と遊んで過ごすはずだった。その姿を村の男の子が目撃するまでは。
「あれはアズサちゃんといばらじゃねえか、どうしてあの二人が!? こうしちゃいられない」
男の子は駆け足で男の子達が屯している秘密基地に向かった。
「みんな、大変だ!?」
男の子の声に男の子達はなんだなんだと驚く。
「なんだ、どうした」
「そんなに慌てて?」
男の子は自分が見た光景をありのままを伝えると男の子はショックで悲鳴を上げる。
「ええ、アズサちゃんといばらが!?」
「でもいばらだぜ、僕らは敵わなくないか」
いばらが平凡な少年であれば男の子達は逆上していたかもしれないが、幼くても大人顔負けの腕力に優れていたため、男子達からも羨望の的になっていた。男子達がため息をついていると、森の奥から違うグループが出てきた。
「お〜い、今日の魚がいっぱい釣れたぜ」
先頭に立つのはこの村の村長の息子のダンである。そしてその周りにいるのは取り巻きの男子たちである。
「お前ら、何をしているんだ?何かあったか?」
村長の息子のダンは威張る事なく、人柄も良かったため他の男子たちからも好かれていた。ダンに男の子の一人が訳を話すと声を上げた。
「何〜、アズサちゃんといばらが二人っきりで!?」
ダンの大声に男の子達がそれにざわついた。
「ええ、アズサちゃんが!?」
「うそだろっ」
男の子達はあまりの衝撃にうちのめされていた。
「おおおおお前ら、しっかりしろ! まだそうと決まったわけじゃ」
動揺しながらも彼らを宥めようとするダンに一人の男の子は冷静に口を開く。
「いいんですか…あなたもアズサちゃんのことが好きなんでしょう?」
「うぐ…」
思わぬ図星をつかれたダンは咳払いをする。
「こほん、まあ、アズサちゃんがいばらをす、好きならしょうがないんじゃないかな」
といいながらも口元は引き攣っていて無理に笑顔を作っているのが子供が見ても丸わかりである。先ほどの冷静な一人の男の子がポツリとつぶやいた。
「あの二人付き合っているのでしょうか?」
それはダンを含め誰もが気になっていた。
「そうだ」
「あの二人が一緒にいたのを見ただけだと聞いただけだし」
「そうだな、よし、まずはいばらに聞いてみるぞ」
ダンの声ともに男の子達はわずかな希望と不安を胸に野原を元気良く駆けていったのだった。
この物語をどこで入れようかと、このタイミングしかないかな…と思い投稿しました。
第九部の下書きは全て終わりましたがまだまだ練り直したいところは多々ありますが、(・_・;
「いばらと童子」をどうぞお楽しみください。




