Ⅹ.インテルメッツォ:大学図書館
Ⅹ.インテルメッツォ:大学図書館
目が覚めたのは昼前だった。
森の中の小屋で、正体不明の物音に慄いて、何ともどうしようもない気持ちで布団にくるまっていたいたはずが、目を開いた時に目の前にあったのは、下宿の天井だった。起き上がって、部屋のテーブルの上を見るとあの『緑の書』が開いて置いてある。
安物の金属製のベットを出て、立派な装丁のその本を手にすると、林の中の一本の小道が描かれている。以前見たときには無かった絵だ。あの大きな森の世界での出来事と連動してこの本に絵が付け足されていくということなのだろうか?
午前の授業はもう終わってしまっているが、昼飯を食べて夕方の授業に出るために学校へ行く。『緑の書』はとりあえず、下宿の本棚にしまって家を出た。
学食で380円のカレーを食べる。すごく旨いわけではないが、なんとなく懐かしい気分になるというか、切なくなるというか、大学生をしている気分になる。
夕方の授業まではまだ時間があるので、とりあえず図書館に行くことにした。
小学生のころから本が好きで、休み時間は大体図書館に行っていた。今では、本が好きというより、図書館という空間自体に強い愛着がある。大学の図書館はバカでかい建物の中に、天井まである書架が並び、上から下までびっしりと本が入っている。まるで入る人を圧迫して来るような威圧感があるが、悠士にはこれが好ましかった。
今日は、地下の書庫に入ってみることにする。カウンターで入庫の受付をし、コインロッカーに荷物を預けて地下への階段を降りる。地階では、図書館の地上部以上に多数の書架が林立しており、視界が極端に限定される。特に何か探している本がある訳ではないので、適当に興味を惹きそうな本を物色する。
何とはなしに、神話や伝説についての本を開くと、蝶の話が載っていた。ケルトの神話ではエーディンという美しい女性が、魔法で蝶にされた後に、同じ名前で再び別のところで生まれ変わったということだ。どうやら、蝶は太古から不思議な意味を持つ虫だと思われてきたらしい。とすると、昨日の森の奥で光りながら飛び交っていた蝶たちはいったい何者だったんだろうか?
そう考えながら、本を書架に戻し、隣の本へと目をやったとき、ギョッとして体が固まってしまった。
そこにあったのは、下宿の本棚に置いてきたはずの『緑の書』だったのだ。
思わず書架から取り出し、頁を開く。開いたのは、あの「扉」の書かれた頁だった。
緑がかったインクで描かれた扉がゆっくりと開いていく…。




