↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
我儘女神の転生譚  作者: 浜中良寛
PR
4/10

第1話③

 鋭く振った剣は音速を超え、放たれた斬撃は城の扉を斬り裂く。

 巣穴を突かれた蟻のように魔族軍が湧き出てくる。


「邪魔だ!」


 スグルは兵たちを斬り捨てながら、魔王の城に攻め込んでいく。

 魔王率いる魔族軍の侵略は、人間の国を削り取り、その前線は確実に王都へと押し込まれていく。

 宗教の筆頭巫女により勇者一行が選出され、スグルもその1人に選ばれた。


 勇者一行の仲は非常に良かったと思える。リーダーシップに溢れる勇者、サポートに優れた魔術師、鉄壁の盾役、回復に特化した巫女、偵察能力に優れた忍者、勇者と共に前衛を担当する剣士のスグル。

 思い遣りや軽口に溢れ、冒険と成長に心を踊らせ、この一行の旅路は魔王も見逃せなくなる。


 しかし、魔王は真正面から戦うことはしなかった。真正面から戦えば少なくない被害を出すことになると、魔王は予見していたのだ。

 戦争孤児として潜り込ませた手下に、勇者一行に疑心暗鬼を植え付けた。植え付けられた疑心暗鬼はジワジワと勇者一行の絆を侵食し、魔王城を前にして勇者一行は解散状態に追い込まれた。


 散り散りになった一行の中で、スグルだけが魔王との決戦に臨む。前世だって1人で戦ったのだし。その前世もスグルが望んだものではなかった。


「ふ、人間の割にはやるではないか」

「お褒めに預かり光栄だ」

「だが、ここまでだ」


 魔王は魔力を集約し、城が揺らぐほどの力を発する。

 スグルは体の前で剣を斜めに構え、防御の姿勢を取る。

 いつものメンバーがいれば守りを任せ、躊躇なく突撃できるのだが、無い物ねだりをしたって仕方ない。

 魔王の一撃を耐え凌ぎ、一撃を放った後の隙を突いて魔王を倒す。

 スグルの考えを知ってか知らずか、魔王は強力な一撃を放つ。強烈な魔力の濁流がスグルを飲み込み、勢いは衰えることなく、魔王城を貫いて、大地を抉る。


「ふ、回避もままならず、消し飛んだか」


 魔王の言葉に、思わぬ声が応える。


「それはどうかな!!」

「何? 貴様は!」


 虹色に輝く結界に包まれ、スグルは無事だ。

 それだけでなく、散り散りになったはずの勇者一行がスグルを囲んでいる。


「やっぱ、スグルは突撃していたか」


 勇者がスグルを支えながら、微笑みを浮かべる。


「負担をかけて申し訳ないです」


 魔術師が、本当に申し訳なさそうに言う。


「1人だけにカッコつけさせない」


 結界を張った盾役が言う。


「ごめんなさい、私たちは使命を忘れて……貴方だけ戦わせてしまった」


 巫女がスグルに回復術をかけながら、目尻に涙を溜めて言う。泣き虫なのが玉に瑕だ。


「もう、スグルだけに戦わせないぜ。これからは、俺たちも戦う!」


 勇者の言葉に、気を引き締めた勇者一行が魔王を睨む。


「お前ら……!」


 スグルも剣を握り直し、魔王に向き直る。


「よかろう! 向かってくるがいい。力の差を思い知らせよう!」


 魔王の言葉を皮切りに、最終決戦が始まる。




 巫女がスグルの手を握り締め、涙を流す。涙だけで脱水症状になるのではないかと思えるほどに、涙を流し、しゃくり上げる。


「……さい! ごめ……なさ……!」

「……泣くなよ……。お……れたちは……魔王を倒し……たんだぜ……」

「でも……! でも……! 私の力だけじゃ……この傷は……!」


 致命傷を受けたスグル。巫女に残された力では回復はおろか現状維持も難しい。

 勇者も、仲間たちも涙を流す。


「最初から、一緒に戦っていれば……! 俺たちのせいで……!」

「トドメを刺したのはスグルです……! その功績だけでも国中に伝えなければ……!」


 疑心暗鬼に陥り、一度でも戦いから逃げたことを悔やむ仲間たち。

 スグルは微笑みを浮かべ、頭を振る。


「俺だけじゃない……皆の力が……な、無ければ……旅も戦いもできなかった……。……皆と……仲間になれて……嬉し……かっ……」


 そこで、スグルは息を引き取った。

 仲間たちの手により、スグルは故郷へ帰り着き、立派な墓が建てられた。功績は讃えられ、仲間たちと一緒に英雄と持て囃されたのだった。




「はーい、次の人」


 母の神妃からトラウマになるほどの説教を食らい、アステリアは以前よりは真面目に職務を全うするようになった。

 担当業務である〝魂の転生〟を行い、また1人の転生を促した。

 新たな魂を呼び込もうと、扉の外に呼び掛けた時、髪の毛が逆立つような寒気を感じる。反射的に椅子から飛び降りる。

 その直後、部屋の柱や扉、背後のアステリアを象った石像に線が走る。その線の位置から見て、飛び降りなければアステリアにも線が走っていただろう。


「……はい?」


 アステリアが恐る恐る頭を上げると、走った線を基準に柱や扉、石像がスライドし、轟音を立てて滑り落ちる。切断面は滑らかで、最初からそう加工されていたかのようだ。


「何事ですか!? これは……! アステリア様、何をなさっているのです!? また、お部屋のリフォームを勝手に!?」

「ち! 違うわよ!」


 駆け込んできたミリアムが、滅茶苦茶になった部屋の様相を見て、アステリアに説教の姿勢を取る。神妃直々に説教する権力を与えられている。


「今度は私は何もしてないわよ!」

「何も……? 仕事をサボっていたのですか!?」

「そうじゃない! この惨劇は私のせいじゃないってことよ!」

「……本当ですか?」

「本当よ! やめてよその疑惑の目!」

「実績がありますから」

「や、やめてよ、反論しにくい事言うの」


 そこへ、大きな音が響いてくる。

 音の発信源に視線を移すと、扉の下半分が蹴り倒されたようだ。蹴り倒したと思わしき足がゆっくりと下ろされ、この惨劇を生み出したと思われる犯人が姿を見せる。


「よお。覚えてるか?」


 不敵どころか、憎しみに満ちた笑みを浮かべ、スグルが立っていた。抜き身の剣をアステリアに向けている。

 スグルの姿を見たアステリアは、顔を青褪めさせ、悲鳴を上げる。


「い! いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「ミヤタカスグル様! よくぞお越しくださいました」

「あ、ども。さて、アステリア、覚悟しろ」


 言うやいなや、スグルはアステリアとの距離を詰め、振り上げた剣を振り下ろす。


「ひぃぃぃ!」

「逃がすか! 〝絶対切断(ギガスラッシュ)〟!」


 光を纏った斬撃が放たれ、部屋に巨大な切断跡を作る。丈夫な石材さえ、豆腐のように斬り裂く。スグルがこの時のために徹底的に鍛え上げた剣術だ。


「お待ちを! 神王陛下から頼みたいことがあると」

「ごめんなさい、後で! 〝永劫切断(テラスラッシュ)〟!」

「ひぃ! あ、これ危ないやつだ! 治療できない感じのやつだ!」

「喰らえ!」

「嫌よ!」

「死ねぇ!」

「もっと嫌よ!」


 逃げ惑うアステリア。ただでさえ滅茶苦茶になっている部屋が余計に滅茶苦茶になる。仕事で使う〝転生の書(スクロール)〟さえも散らばっている。

 そのスクロールの一巻に足を取られ、アステリアは見事に転ぶ。


「ぎゃん!」

「今だ! 〝王の一撃(エクスカリバー)〟!」

「きゃぁぁ!」


 スグルの一撃から逃れたい一心で、アステリアは手当たり次第にスクロールを撒き散らす。

 このスクロールにより苦汁を飲む羽目になったスグルが剣を振り抜けず、アステリアは辛うじて攻撃を躱すことができた。


「ちぃ、見苦しい!」

「あ、スグル様! 避けて!」

「え?」


 ミリアムの言葉を受け、スグルがミリアムへと振り返った時、頭の上に何かが落ちてきた。

 その落ちてきた〝何か(スクロール)〟が光を放つ。


「げぇ! まさか!」

「あぁ! スグル様!」


 再び、赤の他人の運命を背負って転生する羽目になったスグル。光に包まれ、新たな人生へと旅立った。


「た、助かった」


 アステリアはホッと胸を撫で下ろす。


「何です? この状況は?」

「へ? あ! ママ!?」

「し、神妃殿下!」


 現れたのは、神王の妻にして、女神を束ねる神妃〝ヘラクレア〟。衰えぬ美しさを讃えられ、アステリアも憧れている存在だ。

 そのヘラクレアはこめかみに青筋を立て、アステリアを見下ろす。


「ミヤタカスグルが訪れたようですから、少し話をしようとここまで来ましたが……。アステリア、何を遊んでいるのですか?」

「ち! 違うのよママ! 遊んでいたのではなくて」

「言い訳の前に片付けなさい!」

「は! はいぃぃ!」


 憧れると共に、最も恐れる存在からの一声に、アステリアはせっせと片付けを始める。スグルによって斬り倒された柱の残骸に手を焼く。

 こうして、魂の転生が数年ほど滞ることになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。