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我儘女神の転生譚  作者: 浜中良寛
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第1話①

 暗雲立ち込め、雷鳴が響く。雷鳴に照らし出される城は禍々しく、それそのものが悪魔であるかのような雰囲気がある。

 そんな禍々しい城に乗り込んだのは、1人の人間。

 動きやすさを重視して最低限の防備だけを身に着け、露出している肌には歴戦を物語るような傷跡。固く握り締めた拳は負傷と治療を繰り返した結果、一回り大きくなり、より固く、より強くなった。

 彼は、魔王討伐のために招集された勇者一行の1人にして最強の武闘家〝スグル・ミヤタカ〟である。

 彼の心にあるのは、たった1つの想い。仲間である勇者一行にも伝えなかった、譲れない行動指針。


(クソ女神(アステリア)に復讐する!)


 この世界に転生させられ、高名な武闘家の息子になり、来る日も来る日も修行ばかり。年相応に遊ぶことなど、一度たりともできなかった。

 それはいい。

 父は清廉な人物であり、厳しいながらも、優しさやユーモアのある人物だった。修行は辛くはあったが、僅かなものでも進歩を認め、武闘家としての成長を見守ってくれた。

 母は穏やかな人物で、包み込むような慈愛に満ちていた。何よりも、料理が上手く、修行のモチベーションを保つのに一役買っていてた。

 何も知らず、この2人の息子として過ごせたら、どれほど幸せだったか。

 それでも、アステリアへの復讐心が潰えることは無かった。父母と笑っていても、修行仲間と切磋琢磨していても、煮え滾るような復讐心は冷めることは無かった。

 魔王討伐の勇者一行に選ばれ、長く、険しい旅路に同行したのも、平和への想いによるものではない。この旅が、自身を強くすると思ったからだ。


 長く、険しい旅路の中で、勇者一行の仲間は次々と倒れていった。

 旅の序盤、魔王が差し向けた一軍を相手に、連携が取れていない仲間を庇って僧侶が倒れた。最年長の彼の最期の言葉が、勇者一行の結束を固くした。

 魔王が封印を解いたことで襲いかかってきた神話級の龍種との戦いは熾烈を極め、盾役(タンク)と魔術師(ウィザード)が倒れた。その隙を突けなければ、奇跡の逆転は無かっただろう。

 魔王城が近くなってくると、魔王軍の幹部級との連戦が続き、一行の疲弊は加速していく。旅の支援も途絶え、近隣の町村は魔王側。疲弊と罠により、神官(プリースト)と戦士(ソルジャー)が命を落とした。

 魔王城への道を切り開くために、剣士がその身を犠牲にした。

 そして、今となっては勇者も倒れた。

 状況は絶望感に満ちている。

 しかし、スグルに満ちているのは〝アステリア(バカ女神)への復讐心〟だけだ。仲間の死は悲しくはあったが、すぐに立ち直れた。


 重々しい装飾の成された扉を押し開き、魔王の城に攻め込む。

 押し寄せる魔王軍。

 迎え討ち、城の中を駆けるスグル。

 雑魚など敵にはならない。中には雑魚を束ねる隊長級もいたが、旅の序盤ならまだしも、ステータスもスキルも極まった今となっては脅威ではない。

 魔王城内部を魔人や魔獣の血で染め上げながら、スグルは走る。

 そして、遂に辿り着いた魔王城の最深部。一際禍々しい装飾の扉を押し開くと、そこは魔王の間。忍者(スパイ)が命懸けで伝えてくれた情報通りだ。


「よくぞ、ここまで辿り着いた。人生の終わりに残したい言葉はあるか?」

「無い」

「うぐっ!?」


 図々しい態度で口を開いた魔王に、スグルは迷うことなく殴りかかる。


「貴様! 戦闘の前の会話は作法であるぞ!」

「知るか」

「おぶっ!」


 非難する魔王と、意に介さないスグル。

 既に2発の拳を食らい、魔王は口から血を流す。ヨロヨロとスグルから距離を取った魔王は、不敵な笑みを浮かべる努力をする。


「ふっ、仲間を失った怒りで我を忘れたか。素晴らしい攻撃力だが、無謀な攻撃では我を倒せぬぞ」

「試してやる」

「ぐぶっ! ま、待って!」

「待たぬ!」

「ごふっ! ごばっ!」


 スグルのラッシュは止まらない。一撃一撃に必殺の威力が宿り、的確に急所を撃ち抜く。

 魔王は防御が間に合わず、一方的にダメージを受ける。ここにきて、魔王の耐久力の高さが裏目に出る。これでは、嬲られているのと変わらない。


「えぇい! おのれぇ!」


 魔王は魔力を増大させ、スグルは咄嗟に下がる。


「おのれ! 作法を知らぬ田舎者が! これでも食らうがいい! 『神聖魔術・極大爆発(ビッグバン)』!」


 魔王を中心にした特大級の爆発が起こる。あまりの威力の高さに、城内での使用を自ら禁じた魔術だ。その判断が正しいことを証明するかのように、魔王城そのものが消し飛ぶ。

 爆炎が収まり、爆風が止み、舞い上がった粉塵が晴れると、そこには無傷のスグルが立っていた。


「な!? 何故!?」


 流石に、驚きを隠せない魔王。

 スグルは軽く言い放つ。


「俺に『神に由来する力』は通じない」


 そのせいで、旅の道中で苦労することがあったが、隠し玉として神聖魔術を行使する魔族には滅法強い。

 アステリアへの怒りと復讐心が〝神への信仰〟を失わせ、神からの祝福を受けない耐性となったことが、スグルには大きな助けとなった。


「そ、それでも、私は魔王だ! 人間などに!」


 魔王とスグルの戦いは続き、互いの命を削り合う。

 魔術による搦手でスグルに対抗する魔王だが、機動力に優れるスグルには決め手に欠け、ジワジワと追い詰められる。

 天を突くような極大の一撃(アッパー)がスグルから放たれ、魔王の頭が砕け散る。

 こうして、スグルは念願の目標を達成したのである。


 故郷に帰ったスグルは、嫁を貰い、息子と娘を授かる。

 魔王討伐の肩書のおかげで、武闘家としての弟子志願者も多く、スグルの開いた道場は満員御礼となる。


(これで収入には困らないな)


 子を育て、弟子を育成し、自らを鍛え上げる。

 親としては父母を、師としては父を手本に、スグルは立派な人生を送った。

 老齢となり、床に伏してからは、誰もが進んで介護をしてくれた。

 やがて、その時は訪れ、寿命を迎える。嫁や子の涙、孫や弟子たちの泣き声を聞きながら、スグルは武闘家としての人生を終えたのだった。

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