太陽と月のない時期(ヘリアカル・アポクリファ)・Ⅳ
「まあね……アーヴィガイヌとサルサディアだよ」
「人の姿を与えられてからの名です」
「そうなんだけどね」
訂正して言うレヴィにヴィレナがバッサリ言うと苦笑するレヴィ。
「あの者らがどうかしたのですか?」
「相変わらず、自由に生きていると思ってね」
含みのある主の言葉にヴィレナは何も言わない。もちろん、レヴィもそれ以上は話さない。
「……ヴィレナ、もうすぐ「太陽と月のない時期」がやってくる。あの男にとっては三度目、ロークにとっては四度目。〝あの三人〟にとっては八度目。ふたりにとっては何度目になるかわからない、〝四人目〟にしてみれば初めての「太陽と月のない時期」が」
本を閉じ、彼は言葉を続けた。
「あの男は〝鍵〟を手にしているから〝扉〟が開くだろう……」──と。
豪邸と呼ぶに相応しい屋敷の前に立ち、「いいところに住んでるのねえ」とアーヴィガイヌは言う。
「そりゃあ、競売を開く資金があるんだから、住居もそれなりだろ」
「アンタの住居はこれよりあるでしょ」
隣に立つローゼンクロイツに嫌味を込めて言いながら、アーヴィガイヌは呼び鈴を鳴らす。
「──レネリア様、なにか?」
数分して出てきた館主はレネリアの隣に立つアーヴィガイヌに気付き、一瞬だけ、顔をしかめた。
「もうひとつ、ソロモンを持っているようなので、引き取りに」
「……なんのことでしょう? ソロモンはレネリア様が落札したひとつだけです」
館主の答えにアーヴィガイヌは「アンタがソロモンを二個持ってるのはわかってるの」と言い、さらに続ける。
「一個はこいつが落札して、もうひとつはまだアンタが持ってるでしょ」
「ですから、知りません」
「アンタねえ……!」
いい加減にしなさいよね、という言葉をアーヴィガイヌは続けなかった。代わりに表情を厳しくする。




