太陽と月のない時期(ヘリアカル・アポクリファ)・Ⅰ
早朝、サルサディアはとある屋敷にいた。屋敷に住むのは「魔女」のタヴィリール・ラドゥイ。
「ここ?」
「ええ……お願いね」
サルサディアの言葉にタヴィリールがそう言うと「わかった」と返事をし、彼は部屋に足を踏み入れる。
「……誰?」
部屋に入るのと同時に声がかかり、サルサディアは声の主に微笑んだ。
「おはよう、リヴィエル」
「サーディア……!」
サルサディアの姿を見て、老女は驚きの表情をする。老女はタヴィリールの母親だ。
「来てくれたのね」
「約束したじゃん、看取りに来るって。その証として、ソロモンを預けたんだから」
ソロモンという単語をきいたリヴィエルの目から涙がこぼれる。
「どうした?」
「ごめんなさい……息子がソロモンを売ってしまって」
「大丈夫。ちゃんと取り戻したから、安心して眠りな」
流れる涙を拭いながら、サルサディアは言う。
「眠る前に……アーヴィーにも会わせてくれる?」
リヴィエルの願いに「いいよ」と答え、アーヴィガイヌを表に出すサルサディア。
「久しぶりね」
「本当に……あの頃のままね、貴方たちは」
「変わらないわ。ずっと一緒にいたんだから、知ってるでしょう」
「ええ……」
かつて、リヴィエルは二人に拾われ、育てられた。──五十年ほど前のことだ。
「貴方の息子のことは許すから、安心して眠りなさい……リヴィエル」
その言葉を聞いて「ありがとう」と言い、リヴィエルは静かに息をひきとる。眠りについたリヴィエルの亡骸にアーヴィガイヌは触れ、双眸を細めた。
「──光と闇の狭間に彼の魂を導くのは、アーヴィガイヌ・リーティノア。〝世界の主〟の子供である我が声に応え、彼の魂に安らかな眠りと新しい生を……」
言葉を紡いでいくと、リヴィエルの亡骸は光の粒となっていき──消えた。
「また……どこかで会いましょうね、リヴィエル」
そう言って、部屋を出るのと同時にサルサディアと入れ替わる。部屋の外にはタヴィリールがおり、礼とお詫びと言って、お金を渡す。それを受け取り、サルサディアはラドゥイ家を後にした。




