第八話 京子と雪子
西暦2000年4月16日。時刻は午後4時を回った頃。
名護屋テレビ塔の亜空間レストランに、久しぶりに村田京子がやって来た。
地下室で、助手の杉浦鷹志とともに、またぞろ怪しげな研究に打ち込んでいる、夫のサン・ジェルマン伯爵を迎えに来たのだ。
彼女は少し早めに到着したので、バーカウンターに控えている、今日もメイド服姿の由理子に、アメリカンをホットで一つ注文すると、居心地の良さげなテーブルを物色した。
昨日グズッていた空もすっかり晴れて、この後は、夕焼けに映える、街の夜景を見られそうだ。どうせなら、まったりとソレを眺める事が出来る、西の窓側をと、歩を進めて行くと……そこには既に先客が居た。
「あらっ?奇遇ね。」
先方が先に気づいて、京子に声を掛けて来た。
それは自称永遠の17歳、真田雪子だった。
彼女は今日も、冬物のセーラー服を着て、レモンティーを飲んでいる。
「お隣、よろしいかしら?」
譲るのも癪に障るので、あえて京子はそう言ってみた。
「どうぞ、構わないわよ。」
雪子は余裕の笑顔で、そう言った。
そんな訳で、久々の"呉越同舟"の出来上がりである。
「元気にしてた?」
「ええ、まあ、そこそこね。」
などと、当たり障りの無い挨拶めいた言葉を交わした後は、会話が止まる。
それは或る意味、仕方が無い事なのである。
元を正せば、彼女たちは、"宿敵"とも言えるような間柄なのだから……主にその原因は、"オトコ"なんだけれど。
由理子からアメリカンコーヒーを受け取った後、京子は彼女自身の中で、かねてから棚上げにしていた件を、話題にする事にした。
「ねえ、覚えてる?アレは今から、20年くらい前の事だったかしら?私がアナタと……ううん、アナタたちと、初めて対決した、あの、夜の廃校舎の事を?」
(※ 第1巻 参照)
「ああ、あの時までの事を、まだ根に持っているのか?京子さんも、意外と執念深いんだなあ……。」
「……違うわよ。あの時のアナタ、まるでフィルムの、ネガとポジみたいに、二人に別れていたけど、アレはアナタお得意の、オフザケ……つまり茶番だったのよねえ?」
「いやあ?あの時のアレは……ホンモノのアクシデントよ。実は私も、どうしたモノか、困っていたのよ。」
「アクシデント……ですってぇ?」
「気がついたら私、二人に分裂していたのよ。笑えるでしょ?」そう言いながら、実際に雪子は、フフッと思い出し笑いをしたのである。




