第七話 雪子と雪村
西暦2026年7月9日。時刻は午前10時ごろ。
もうすぐ62歳になる真田雪村は、長野県南部の、天龍村に来ていた。ここのところ、毎日のように続いていた雨が、ようやく上がり、晴れて撮影日和になったからだ。
今回のターゲットは、"森の宝石"と呼ばれている青い鳥、ブッポウソウだ。この村では毎年、各地に巣箱を掲げて、その野鳥を手厚く保護しつつ、観光資源としても活用している。その取り組みが当たっているせいなのか、駐車場のクルマのナンバーは、関東から関西まで様々だ。中には"札幌"なんてものまである。
因みに、ブッポウソウは、良く誤解されている鳥だ。森でその姿に遭遇した者は、美しい青緑の翼の色にうっとりするのだが、対して泣き声は「グエッ、グエッ」と色気が無い。実際に「ブッポウソウ」と聞こえる声で鳴いているのは、実は小型のフクロウの仲間の"コノハズク"だったりするのだ。
それはさておき、昼時過ぎまで撮影に没頭した雪村は、カロリーメイトのバニラ味をかじりながら、臨時駐車場の、シエンタのところまで戻って来た。するとその隣に、見覚えの有る、黒いワーゲンビートルが駐車されているのを見つけたのだ。
カメラバッグを担いだ彼が近づくと、運転席のドアが開いて、セーラー服を着た、懐かしい笑顔の、例の少女が現れたのである。
「お久しぶり。今日も暑い中、精が出るわね?」
笑顔の雪子がそう言った。
「ああ、雪子さんも元気そうだね。」
雪村も笑顔で答える。
「ねえ、ここ、まあまあ標高の高い山間部なのに、ちょっと暑すぎない?まだ7月の初旬よねえ?」
挨拶の直後にぼやく雪子。
「うん、地球の温暖化は、もう深刻なフェーズに入っているみたいだよ。」
「また京子さんのお仲間の、雪女軍団の協力を仰がなくっちゃだね?」
「……確かに。」
「ところで雪村、アナタはチカラを、すっかり失ってしまったみたいね?傍に居ても、全然感じないわ。」
「ああ、ベルゼブブとの闘いで、少々無理な使い方をしたし、これから20年ちょっとで、キミたち雪子軍団を生み出すための、準備も有るからね。」
「準備?」
「死んで火葬される直前に、コッソリ蛹になるんだよ。その時のために、チカラをセーブしてあるんだ。」
「ええっ、そうなの?」
「キミたち多次元の雪子たちは、言わばボクという蛹から産まれる、無数の蝶なんだよ。そんな芸当を実現するためには、大きなチカラが必要だからね。」
「太陽神アモン・ラーから産まれる、分身の、天空の神ホルスが、私って事なのね。」
「そういう事。だから新世紀の、これから先の事は頼んだよ?」
「もちろん、任せて!」
雪子はそう言ってまた、ニッコリと笑ったのだった。




