第四話 帰還
『……ま、……さま、……あさま、……かあさま、お母様。』
「う~ん、誰よ?せっかくの日曜日に、いい気分で寝ているのに……。」
真田香子は、豊橋市の自宅のベッドの中に居たのだが、誰かがしつこく起こしてくる声に気がついた。
(だいたい、私、まだ独身だし、私生児なんて作ってないわよ?なのに何なのよ、お母様だなんて!失礼しちゃうわ!)なんて事を考えつつ、香子が薄目を開けた時だった。目の前にギョッとするべき存在――でも実は懐かしい者――が立っているのを認識したのだ。
ソレは、長い旅から戻って来たメジェド君だった。
相変わらず、白いシーツを頭からスッポリと被り、眼と脚だけを出している。
ただ今までと大きく違うのは、彼の"心の声"が、香子にも聞こえる事だった。
彼が進化したのか、香子が進化したせいなのか、或いはその両方か?
これまでも時々、何となく気持ちが伝わるような気がする事もあったが、今のはハッキリと聞こえた。
香子は布団をガバッと跳ね上げて、飛び起きた。
ソレを見たメジェド君は、少しだけのけぞったように見えた。
(あら、随分リアクションが、ニンゲン臭くなったわね。コレも旅の成果なのかしら?)
香子はソレを意外に思った。
「メジェド君、久しぶりね。今までどこに行ってたの?」
『お母様、一緒に来て。』
何だか会話が嚙み合わない。コチラの言っている事は通じているはずだが……。
「どうしたの?どこに行くの?」
『みんな困ってるの。だから来て。』
そう言いながら、彼は白い布の下から右手を出した。
「メジェド君、手、あったんだ。」
なんて言いながら、彼女は思わずその手を握った。
すると次の瞬間、とんでもない事が起こったのだ。
まず最初に香子を襲ったのは、暑い!という感覚だった。
次に、眩しい!という感覚だ。
やたらと日差しが強い事に気がついたのだ。
最早、目を開けるのも辛かった。
無理も無い。ついさっきまで、薄暗い部屋のベッドの中に居たのだ。
「何?ここは、どこなの?」
『ここは2万年前のエジプト。みんな作物が枯れて困ってる。だからお母様、助けて。ボクは壊す事しかできない。ボクには作るチカラが無いんだ。』
メジェド君にそう言われて、香子がやっとの事でまぶたを開くと、二人を取り囲むように、古代エジプトの住民たちが平伏して、拝み倒していた。それはまるで、神に相対しているようだった。




