第二十六話 替え玉作戦
サン・ジェルマンは、その身代わり人形をギロチン台に乗せると、ビートルの運転席に戻り、光学迷彩が透明モードなのを確認して、それまで止まっていた時間を、元通り動かしたのだ。
その間、5分もかからない早業だった。何故なら、あまり長時間コレを続けると、肝心の彼女の健康に、悪影響が出るからである。
垂直上昇するクルマの窓から、地上を覗くと、今まさに、ギロチンが操作されるところだった。例の人形の首は、人工の赤い血を噴き出しながら、見事に転がり落ち、集まった群衆からは、ひと際大きな歓声が上がった。
(……悪趣味な事だ。)サン・ジェルマンは、再びそう思った。同時に、こんな事をして喜んでいる人類を、果たして、この先起こる災厄から、救う価値は有るのだろうか?と、ふと思ってしまったのだった。
「……それでは、王妃、出発しましょうか?」
気を取り直した彼が、助手席の彼女に声をかけると、当のマリー・アントワネットは、名残惜しそうに地上を眺めていた。例えそこが、自分の処刑場になっても、第二の故郷を離れるのは、つらいのかもしれない。
しかし、やがて彼女は「ええ、お願いするわ……あと、もう私は王妃じゃないから、本名のマリアでいいわよ?」と言った。
「いや……流石にそういう訳には。私にとっては、貴女はやはり、王妃なんですよ。ですから私の事も、どうぞ伯爵と、お呼びになって下さい。」
サン・ジェルマンは、そのように返答した。
何だかんだ言っても、彼は彼女のファンなのである。
西暦2002年への帰還シークエンスの間、伯爵は王妃と、少しだけ話をした。
「やはり、以前貴方が、言っていた通りになったわね。あの時は本気にせずに、鼻先で笑った事を謝罪するわ。ごめんなさい。」
「いいんですよ。未来が見えるなんていう話、誰だって信じられないのが、普通ですから。まあ、何にせよ、間に合って良かったですね。」
「実は私、ギロチンにかけられる程、大して浪費もしてないし、"パンが無ければブリオッシュを食べればイイじゃない"なんて、言ってないのよ?」
「……ええ、知ってますとも。」
「そもそもアレは、叔母さまが発言なさった事で、私はただ、隣で、"ええ、ホントにそうですわね"って、笑っていただけですのよ?」
いや、それがマズかったのでは?……伯爵はそう思って内心苦笑したが、黙っていた。




