第ニ十五話 例のアノ方
西暦2002年1月4日。時刻は9時を回った頃。
モンダイの日……つまり2012年12月21日まで、まだ10年以上余裕の有るその日。サン・ジェルマンは、かねてから気になっていた女性を、レスキューする意思を固めた。
彼は、今のうちに、趣味のニンゲンコレクションを進めておこうと、考えたのだ。もちろん今回も、本人が望まない場合は、その窮地から、助け出さないつもりだ。果たして、彼女はどう出るだろうか?
彼は地下駐車場の、黒いワーゲンビートルに乗り込むと、早速目的地の座標を、以下のように入力した。
西暦1793年10月16日
時刻12時00分
北緯48度52分
東経02度19分
伯爵はクルマを外に出すと、いつものように、光学迷彩を透明モードにして、垂直上昇させ、時空転移のスイッチを押した。
目指すは、パリ市のコンコルド広場である。
暫くして、サン・ジェルマンが到着した現場は、多くの群衆の、喧騒にあふれ返っていた。彼らの目的はただ一つ。例の女の、公開処刑の瞬間を、見逃さない事。それだけだった。まったく、そういう時代背景が有ったとはいえ、悪趣味な事だ。上空からその様子を見ながら、彼はそう思った。
その女性は、既に処刑台の上に運ばれており、今まさに、ギロチン台に首を乗せられる寸前だった。伯爵は、クルマに乗ったまま、その場の時間を、見かけ上、止めた……コレは、以前出会った、とある青年の能力からヒントを得て、先ごろ開発した装置だった。
死刑台の階段下に、ビートルを着陸させると、彼は悠々と、その女性の隣まで歩いて行き、彼女の時間だけを動かして、声を掛けた。
※ 毎度お馴染みの注意点ですが、以下の会話は、全てフランス語で成されています。しかし、作者の都合上、日本語表記になる事を、お許し下さい。
「お待たせしました……マリー・アントワネット様。私は、サン・ジェルマン伯爵でございます。以前お話した事を、覚えておいででしょうか?」
「……!?」
最初はビクッとしたものの、やがて、目隠しをされたまま、彼女は頷いた。
「では、約束の手はず通り、事を行わせていただきます。よろしいですね?」
念を押す伯爵に対して、彼女は再び頷いた。
それを見た伯爵は、早速行動を開始した。
まず、彼女の目隠しを外し、後ろ手に縛られた縄を解いた。
次に、彼女をビートルの中に乗せ、それと入れ替わりに、彼女ソックリの人形を持ち出した。
ソレは、例の合成タンパク質で覆われた、生体アンドロイドである。
彼は彼女に服を脱ぐように指示し、その人形にそれを着せた。もちろん、彼女には、自分が予め用意しておいた、21世紀初頭の、アップルグリーンのワンピースを着てもらった。
そして伯爵は、ご丁寧にも、その人形に目隠しをして、両手を後ろで、縛りあげたのである。つまりコレで、もとのマリー・アントワネットのままの姿の身代わりが、目出度く出来上がった訳だ。




