第二十一話 伯爵の後悔
……"そのサン・ジェルマン"は、精神的に疲弊していた。
見に纏う服もボロボロで、砂まみれだ。
だが皮肉な事に、肉体的にはすこぶる元気だ。
そして、右手に握り締めた、オリハルコンの剣は、刃こぼれ一つしていない。言わば、この状況こそが、かつて彼が食べてしまった、人魚の呪いといったところなのだろう。
空は常に暗い雲に覆われ、地上はどこまでも荒廃しており、悪魔と呼ばれる、四次元からの侵略者たちで、すっかり溢れ返っていた。最早、ソレに抵抗する勢力は、この世に、自分の他には居ないのでは?とさえ思えた。
ただ、コレは、数有る様々な未来の中の、一つの可能性に過ぎない。別の時間軸では、もっとましな展開が有る筈なのだ。
しかし、今ここには、時空旅行機が、一台も残っていない。5台有ったビートルは、全て悪魔たちに、破壊されてしまったのだ。だから彼にはもう、他の可能性の未来を、探る術も無かった。
もしもコレが、20世紀末から21 世紀にかけて流行ったRPGなら、こんな世界における、自分の役割は何だろうか?彼は、ふと、そんな事を考えて、皮肉な笑いを顔に浮かべる。
正にその時、いきなりヤツが、目の前に現れたのだ!
「久しぶりだな。サン・ジェルマン!」
ソイツは、まるで勝ち誇るように、大声で怒鳴った。
それは一見すると、かつて杉浦鷹志が倒したはずの、ベルゼブブに似ていた。しかし、よく見ると、その素体をベースにして、あらゆる種類の悪魔たちが合体した、よりおぞましい姿になっていた。
「名誉に思えよ。オマエにトドメを刺してやるために、近場の悪魔たちを、この物理的ボディに集合させたのだからな?」
そのバケモノは、そう言って、愉快そうに笑って見せた。
「ソレは……ご丁寧に、どうも。」
そのサン・ジェルマンにとっては、皮肉を込めてそう答える事が、せめてもの抵抗の表れだった。
「覚悟は良いな?たかが三次元人の分際で、長年に渡って、我々四次元人に盾突いた報いを、今こそ受ける時だ!」
そんなセリフを叫んだその怪物は、鋭い爪の生えた両腕を振り上げた。
「やれやれ……流石に万事休す、かな?」
そのサン・ジェルマンも、やっとの事で、力無く剣を正眼に構える。
しかし、次の瞬間、とんでもない轟音と閃光が起こり、そのバケモノの首が地面に落ちていた。そのサン・ジェルマンは、最初、何が起きたのか、さっぱり分からなかった。しかし、次第に一つの可能性を見出していた。
「今のは……まさか"神の杖"?」
彼がそう呟くのと同時に、目の前に、12名のサン・ジェルマンのホログラムが現れたのだ!




