第十九話 伯爵の気がかり
それから数日後の午後、サン・ジェルマンは、珍しく一人でコーヒーを飲んでいた。場所はいつもの名護屋テレビ塔、亜空間レストランの窓際の席。彼が浮かない顔で、ぼんやりしとていると、エレベーターの扉が開いた。
中から現れたのは、パートナーの村田京子だった。
「あら、どうしたの?……貴方がそんな顔をするなんて、珍しいんじゃない?」
彼女は彼に思わず尋ねた。そうなのだ。伯爵と言えば、これまでどんなトラブルが有っても、いつも余裕たっぷりな表情で、切り抜けて来た策士なのである。
京子は伯爵の隣に座ると、じっとその顔を見つめた。伯爵は、訳を説明せざるを得なくなった。
「例の鷹志君の覚醒以来、古代エジプトの神々に関わる、我々メンバーに、ちょっとした影響が現れている事は、ご存じですよね?」
「……ああ、ある種の、チカラの拡張が見られるって事ね?」
「そうです。むしろ、チカラの肥大化と言ってもイイ。多分、スカラベによって隠されていた、本来のチカラが戻ったせい……という事なのでしょうが。」
「私は、雪女の末裔だから、実感は無いのよねえ……残念だけど。それで、何かモンダイでも?」
「ここ最近、凄く不安を感じるのです。いや、違うな。不安で一杯の、自分自身からのSOSを感じる、と言った方が、より正しい印象なのかも……。」
「それは……どこから?」
「何だか遠い未来に、良くない事が起きるような……まだ漠然としています。」
「……2012年の事じゃなくて?」
「いや、もっともっと、遠い……。」
「それ、中国の故事で言う、"杞憂"ってヤツなんじゃないの?」
「ただの、取り越し苦労なら良いのですが……。」
「貴方、いつも言ってるじゃない。未来を見に行く事は、ほとんど意味を為さない。実際に、自分でソレを体験する時が来るまでは、無意味なんだって。」
「ええ、今まではそう思ってました。でも、それはあくまでも、三次元人的な捉え方に過ぎないと、最近は思うのですよ。」
「どういう意味?」
「もしも四次元人、或るいは、もっと上位の次元の住人から見れば、過去も現在も未来も、並列に感じるし、扱えるのですよ。因みに、雪子さんにも、そういう感覚があるらしいのです。」
「……ああ、それは確かにそうね。」
「ただ、多くの高次元の者たちは、我々三次元の世界に対して、悪意を持っていない。いやむしろ、そんなつまらない事には、関心すら持っていないのかもしれません。」




