第十話 弓子の迷い
弓子は、相変わらず自信が無かった。
雪村とは、小学生の頃からの知り合いだから、もう長い付き合いになるのだが……。
彼は何時でも、自分の事を第一に考えてくれている。その点は間違い無い。でも彼が圧倒的なチカラを持っている限り、"みんなの雪村"なのだ。自分の独占欲は、抑えなければ……。
彼女は長い間、ずっとそう思って来た。
しかし、先日のベルゼブブとの戦闘絡みで、雪村のチカラは、明らかに弱くなった。何でも、来るべき"約束の日"に備えて、チカラの放出を抑えて、チャージに回しているらしい。
"約束の日"って何かしら?
彼は時々、理解出来ない事を言う。
でも、別時間軸から来た、姉の雪子さんには、何の事か解っているようだ。
ソレも何だか、気に入らないポイントだ。
彼女は、モヤモヤした気持ちを抱えたまま、毎日を過ごしていた。そんな中、今日は久しぶりに、彼と二人で亜空間レストランにやって来て、他のメンバーの様子を見がてら、お茶を飲む事になった。
今日も赤い髪にメイド服を着た、義理の妹の由理子が居る。彼女が、運んで来てくれたレモンティーを、テーブルに置くのも待ち切れないように、弓子は話を切り出した。
「ねえ、貴方。」
「何だい?弓子さん。」
「"約束の日"って何かしら。教えて下さらない?」
「……どうしても知りたいの?」
「雪子さんにしか解らないのは、何かイヤなの。」
「ソレが、どんな事でも?」
「ええ、お願い。」
雪村は仕方無く、自分と雪子の本当の関係を、詳しく弓子に説明した。
弓子は話を聞いて直ぐは、目を丸くして驚いたが、やがて達観したような表情になった。
「ソレは、避けられない運命なのね?」
「そう。ソレを実行しないと、"全ての時空の雪子さん"は、誕生しないんだよ。そして、これまでの全ての努力が、無かった事になってしまう。」
「だから、貴方だけは、不老不死を選ばなかったのね?」
「そうなんだよ。そんな訳で、僕は予定通りの寿命を全うし、物理的に死ななければならない。だからもし、キミが不老不死になりたいのなら、僕に遠慮したりせず……。」
「……嫌よ!私は、貴方と共に生きるの。一緒に歳をとって、必ず貴方の最期を看取るわ。」
「……そうか。ありがとう。そうしてくれると助かるよ。」
雪村は本当に嬉しそうに、そう言った。
コレが、西暦2000年5月10日の事である。




