10、転生者の噂と、白い森の招待状
「……この分類表、見覚えがある」
手元の書類を見ながら、俺は思わず息をのんだ。
それは、ギルド本部から送られてきた新たな依頼資料。
内容は「西方地域にて発生中の異常な地形変化と植物の成長促進」に関する調査。
だが、問題はそこじゃなかった。
添付された“被疑菌”の分析資料──そのレイアウト、分類、用語の使い方──
「完全に、日本式だ……」
細胞構造の略号、温度帯の記載、成分分類の並び順まで、俺が前世で使っていた研究所と酷似していた。
「ニホンシキ?それ、あなたの知ってる菌の世界の……?」
横からシエナがのぞきこむ。
彼女もこの数日で、すっかり“菌の異常”に慣れてしまったらしい。
「菌の世界っていうか……まあ、そんな感じだ。俺と同じ状況で。ただ──“菌を兵器にする”っていう、別の選択をした誰かだ」
ドン子が空中でくるくる回転する。
『ふむ、つまり“わらわ級の精霊と契約しておる菌の変人がもう一人おる”ということじゃな』
「たぶん、変人じゃなくて“本物の悪意”だ」
依頼書に記されていた場所の名は、“白の森”。
数年前まではただの農村地帯だったが、
突如、森全体が白く染まり、植物が異常繁殖、土壌が短期間で“死ぬ”という事象が確認されたという。
しかも──
「生物の死骸が消える速度が、常軌を逸してる。骨すら残らないらしい」
「……そんな菌、自然じゃない。完全に“誰かの意思”が働いてる」
「だから行く。俺の菌と……向こうの菌、どう違うのか、確かめないと」
シエナはわずかに目を細めた。
「……殺す気で使ってる菌を、あなたは“救う”つもり?」
「それができるなら、それが一番いい。でも、できなかったら──」
ルーカスの目が細くなる。
「菌が苦しんでるなら、そいつを止める」
ドン子が浮かび、肩にちょこんと乗った。
『行こう、ルーカス。そなたの菌が“本物”かどうか、世界が試しに来ておるぞ』
旅の準備は、もうできている。
次の目的地は、“白い菌が森を覆う土地”。
そして、そこで待つのは──俺の知らないはずの、俺の知っている菌。
読んでいただいてありがとうございます!
応援いただけると励みになります♪




