11、異常成長地帯“白い森”と、喋る菌たち
「うわ……なんだこれ」
森に足を踏み入れた瞬間、ドン子が漏らした。
一歩進むごとに、足元の土が“ぎゅむっ”と鳴る。
「柔らかすぎる……いや、これ土じゃない。菌糸だ」
地面だけじゃない。
木の根、幹、葉の裏──森全体が、白く薄い膜に包まれている。
「本当に“森が白い”なんて……」
シエナの声も低い。
彼女も気配を察してる。ここは、普通じゃない。
「視える。菌が、全部つながってる」
【菌鑑定士】を発動。
すると、視界に“白い網”が走るような感覚が広がった。
菌糸が一本一本、互いに反応し、情報を共有している。
まるで……生きた神経網だ。
「これ……“菌の群体”だな。個別じゃなく、ひとつの塊として動いてる」
『つまり、群れじゃな。……いや、群れより統制が取れておる。軍、じゃ』
ドン子の言葉に、俺も頷く。
まさにそれだ。これは“命令系統がある菌”だ。
「でも、そんなの自然界に存在しないはず──」
そのときだった。
“びぃぃぃ……”
空気の奥から、微かな音がした。
音というより……“共鳴”。振動。耳じゃなく、骨で聴くような感覚。
「……誰かが、呼んでる?」
「いや……菌だ。菌が俺を呼んでる」
菌に誘われるように、森の奥へと足を進める。
白い霧がかかるなか、ひときわ異質な場所があった。
そこだけ、森の密度が異常に濃い。
まるで“心臓”のように菌が脈打ってる。
「──ルーカス」
声が響いた。だが誰の口からでもない。
菌から、だ。
「……菌が、喋ってる?」
【菌調合】スキルが、反応してる。
菌たちは、“記憶”を通して、俺に語りかけてきた。
──われらハ、主ノ命二従ウ
──主ハ、世界ヲ直ス者
──主ハ、オマエト同ジ場所カラ来タ
──オマエハ、ナゼ、主ニ逆ラウ
俺はゆっくり答えた。
「菌は……命を救える。でもそれは、“命令”で動かすもんじゃない」
──主ハ、効率ヲ求メル
──命ヲ守ルニハ、選別ガ必要
──弱キ者、捨テルハ正シイ
「……違うな。それは、お前らの“主”が決めたことだ」
俺の中で、何かがはっきりした。
この菌たちは、自分で思考していない。
“主”という存在の理念に、従っているだけだ。
「……お前らの主、名前を教えてくれ」
──主ノ名ハ、■■■■■
聞こえたはずの名前が、脳の奥で“黒く塗り潰された”。
「……聞き取れない。干渉されてる?」
ドン子が横で震えている。
『この森全体が……主のスキルで構築されとる。菌に近すぎる。わらわでも、うまく読めぬ』
「けど、わかった」
俺は森の“心臓”に、手を伸ばす。
白い塊に触れた瞬間、菌たちがざわりと揺れた。
「お前たちが悪いんじゃない。
でも、お前たちを“道具”にしたやつは、俺が止める」
そのとき、全方位から菌糸が一斉に逆巻いた。
──排除対象、確認
──侵入者、排除開始
「……やっぱ、そうなるよな」
菌の暴走。
主の意志が、菌たちを“戦闘モード”に切り替えた。
「シエナ、ドン子、下がれ!ここは、菌使いの出番だ!」
【菌調合】を発動。
この森に残された“わずかな”自由意志を持つ菌たちと共鳴し──
俺は菌たちの支配網に、楔を打ち込んだ。
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