ループワールド・勇者ケイン編 95
「カップINだぞ!」
4層防壁を突破した俺たちは、防御塔に突っ込む。
建屋を破壊しながら、地獄の穴へと進んだ。
地獄の穴の直径は約40m。セイレーンの直径30mがすっぽりと入る。
「上手くいってるぞ。上手くいってるぞ。このままだぞ・・・女神様、ケイン様、ご加護をだぞ」
アリスは呪文のように繰り返す。
難攻不落と言われた城を、鮮やかに陥落させたアリスの策。
女神、閻魔、間者、何一つ欠けても、成り立たない状況の中、俺たちは順調に此処まで来た。
科学班が必死に用意したチビレーン、ペンギン君。
大波を起こすことで、魔道エンジンを動かすアイディア。
道のりは、結果ほど楽ではなかった。
「魔道エンジン停止します」
「ねぇ様、地獄の穴に突入」
「ねぇ様、自由落下です」
遂に、地獄の穴に突入した。
「最下部まで500km。通常エンジンにて減速」
「ねぇ様、最下部迄3分」
「ねぇ様、穴側面に攻撃システム無しです」
ここでやっと道半ばだ。サタンたちを倒し、ドザーグの復活を阻止する戦いはこれからだ。
「来るならここだぞ。警戒態勢だぞ!」
穴を落ちる俺たちは、下から狙われると良い的に成る。
防壁の張れないセイレーンに、魔法防壁を持つ、アイリス、ティナ、パルムが攻撃に備える。
が・・・こない。
「おかしいぞ?侵入を防ぐのは、此処のはずだぞ」
確かに変だ。すんなり下まで行かせてくれるとは思えない。
が、攻撃はない。
「無いなら無いで良いぞ、楽ができたぞ」
違う。口では言うが、これはイレギュラーだ。
ドーマをよこしたことから、サタンたちは、俺たちの侵入に気が付いている。
ここで攻撃する必要が無いから、あえて侵入を許してる。
と考えるべきだ。
勝ちへの道は細い。用意された道順から外れることは、失敗を意味する。
嫌な予感がする。
「今のうちの確認をしておくぞ。先に倒すのはサタンだぞ。兄弟からはダメだぞ。対峙したら、後ろに隠れているギムが『異空間剣』の一撃で倒すぞ。どこぞのバカみたいに、空振りとか無しだぞ」
「隠れて・・か?やはり汚くないか?俺としては正々堂々と・・・」
「言ってられないぞ。世界の命運がかかってるぞ。どんなに汚い手でも使うぞ。世界の為だぞ」
ギムは渋々だが納得した。
「私たちは、壁に成ってギムを隠すぞ。そのあとは根性を見せるぞ」
策は、サタン討伐までだ。兄弟は根性で倒す。
「マスター、最深部まで20秒です。準備してください」
「ねぇ様、エアブレーキ作動」
「ねぇ様、減速、着地カウントダウン10です」
いよいよサタンとの闘いだ。
最深部。地下空間は広く、天井も高い。野球場程は楽にある。
壁面は岩石で、空間を支える石柱が幾本も立ち並んでいた。
穴から降りて来たセイレーンは、ゆっくり着地した。
「セイレーン、科学班、よくやったぞ。後は、私たちに任せるぞ」
アリスは礼を言う。そして俺達は外に出た。
「婿殿、あれですわ!」
アイリスが、サタンたちを見つけた。
俺達の着陸した場所の反対側。巨大な祭壇のような物の上に、奴らは並んでいた。
ドザーグの復活はまだだ。今なら間に合う!
俺達は、サタンたちの方に走り出した。
サタン兄弟。俺達が近づくと、3人は祭壇から降りて来た。
「良くここまで来ました。褒めて差し上げます」
弟のサダオが、俺たちに近寄ってくる。
「流石は勇者、と言う事ですね」
並んで妹のサタコ。
「だが、お前たちの努力もここまでだ」
中央、サタコとサタオの後ろから、サタン。
「見るがいい!この祭壇を!伝説の暗黒神ドザーグは・・・」
通常、ボスクラスの敵が講釈をしている最中は、攻撃は禁止だ。
だが・・・。
「今だぞ、ギム、遣るぞ」
アリスは、無視した。
「おい・・今は・・」
「やりなさいギム。今しかないわ」
「ほんとかよ。知らねぇぞ俺は」
ウリエルに言われ、渋々剣を抜き、構えた。
「・・・ドザーグは、復活する!私の手足となり!世界は・・・ぐはぁぁぁぁ」
ギムの『異空間剣』が炸裂。
ギムの放った突き。剣の先半分は異空間に消え、サタンの胸の前に現出。
そのまま心臓を貫いた。
「手ごたえあり」
ギムはサタンを殺った感触を確かめた。
「やったぞ!サタンを倒したぞ!」
が、反応が薄い。
まさか?
「ギム、居るのよね」
「ギムの能力は知っている」
兄弟は慌てない。倒れたサタンを前にしても、一向に変化がない。
「まさかだぞ・・・・」
アリスも気が付いた。
「カモミールの勇者チームの諸君!お初にお目にかかる。わが名はサタン!」
祭壇の後ろから現れたのは、今倒したと思ったサタンだった。
「影武者?」
「その通り!貴様たちなど恐れるに足らん。ギム・・以外はな」
やられた。
「汚いぞ!偽者なんか用意して!正々堂々と戦うぞ!」
どの口が言うのか?
「絶対零度だぞ!」
「絶対熱だよ!」
「火炎飛竜!」
「ピーーーーー!!」
アリスとアリッサ、セシル、ピーが攻撃。
が、防壁に阻まれる。
「防壁だと!?」
サタン攻略の切り札を失い、その上、まさかの防壁。
「あははははは!!!絶望したか?我らが黙って討たれるとでも思っていたか?強力な防壁ぐらい用意しておくとは考えなかったか?」
サタンたちは高笑いを始める。
「不味いぞ。防壁を突破する手段がないぞ」
サタンたちは目の前だ。だが、張られた防壁は強力。セイレーンは魔道砲が撃てない。
「あと僅かで、暗黒神ドザーグは復活する。そこで指でも咥えて見ているがいい。貴様たちが最初の生贄だ!!!」
3人は祭壇へを戻っていく。
「くそぉ!だぞ!。この指、美味しいぞ!」
俺の指だ。指を咥えろと言われたら、自分に指を咥えろ。
「あら、いただくわ。まぁまぁね」
だから、俺の指だ。自分の指を食え。
「ケインさん、相当不味いです」
ああ、上の移動疎外が解除され、女神や閻魔が来るまで動けない。
「チビレーンと、ペンギン君に期待ですわ」
閻魔たちは、移動疎外が解除されれば、すぐに来てくれる。
まだ、サタン城の移動疎外システムが破壊できていない、と言う事だ。
「おかしい」
ギムが気が付く。
「そうよね・・・サタンたちに、防壁を張る能力はないわ」
ウリエルも気が付いた。
!!!
「この防壁はシステムだ!機械的に張られたものだ!」
壁際にある祭壇。サタンたちの居る空間、システムは、そこにある。
「私の魔砲だぞ!」
アリスが叫ぶ。
アリスの魔砲は最終進化を遂げている。
4式弾。自分の魔法を詰め、1式弾で可能だった、発射地点の設定が出来る。
防壁の内側に、絶対零度を打ち込める。
サタンたちに効果は無くても、防壁を張る装置は破壊可能だ。
「見渡す限り、祭壇以外は何もないぞ。あるなら祭壇の中だぞ。祭壇めがけて、撃ち込むぞ!」
行け!アリス!
「魔砲4式弾、絶対零度装填だぞ!目標防壁内部!発射だぞ!!!」
アリスの4式弾が撃ち込まれた。
防壁の内側が凍る。と、同時に防壁が消えた。成功だ!
「く!こんな技を?」
「兄さま、後ろへ。防御スキルの発動を」
「奴らは私たちで倒します。」
サタン兄弟も、アリスの魔砲までは知らなかった。
虚を突いた形で、俺たちは攻撃に出る。
アリスが魔砲1式弾、2式弾を使う。
レナとセレスが斬りかかる。
アイリスとアリッサ、マオが魔法を撃つ。
パルムとセシルの全力攻撃。
が、まるで効果がない。予想通りだ!
サタンはスキルで無敵状態となり、3時間の間、あらゆる魔法と攻撃をキャンセル。サタオとサタコは、防御力は低いが、自身の魔法を使って、俺たちの攻撃を楽に躱す。
「くそだぞ!手を休めるなだぞ!撃って撃って撃ちまくるぞ!」
アリスが指示するが、敵は余裕だ。
「タイムだ!タイムを要求する!」
サタンがタイムの声を出した。
「子猫が迷い込んだようだ。双方動くな」
いつの間にか、子猫が俺たちの戦いの場に迷い込み、ニャーニャーと鳴いていた。
「仕方ないぞ。手を止めるぞ。子猫の保護が優先だぞ」
アリスも同意した。
「子猫ちゃん、こちらですわ」
アイリスが子猫に近寄る。
「フニャ!!!」
子猫はアイリスから逃げるように離れた。
「あら、嫌われましたわ」
「ママ、ダメだぞ。動物は本質を見抜くぞ。綺麗な心の持ち主だけに懐くぞ」
アリスが近寄る。
「ブニャーーーーー!!」
毛を逆立て、威嚇。逃げだした。
「ふん!姑息勇者と言われた貴様たちに、綺麗な心などあるか?ほら、子猫ちゃん~サタン様ですよ~」
今度はサタンが、近寄る子猫に手を差し出す。
「にゃ~~~~~~」
猫なで声で、サタンの差し出す指を舐める。
「我が王は、心も綺麗なのよ」
「兄上は、動物に愛される、清らかな心の持ち主だ」
アリスがニンマリ笑う。
「ほら、サタミちゃん~ここは危ないですからね。奥に避難しましょう」
名前まで付けたか。
サタンは子猫を抱き上げると、頬刷りを・・・。
「ニャン!ぷはぁぁぁぁぁぁぁぁ」
子猫の口からニンニク臭が吹き出る!
「いまだぞ!魔力5倍解放だぞ!!」
アリスの号令!
アリッサの爆裂斬が左から、セシルの爆炎竜が右から。
更にはレナとセレスが、正面から切りかかる。
サタンはニンニク臭を嗅ぐと脱力し、スキルは無効化する!
この子猫も、当然アリスの仕込みだ!未来から来ない猫型ロボットだ!
「私たちの勝ちだぞ!」
「卑怯な!」
「なんて姑息な!」
サタンを獲った!と思った瞬間、サタオとサタコは、サタンを守り、無防備に攻撃を受ける。
「ぐはぁぁぁぁぁ」
「ぐはぁぁぁぁぁ」
サタオ、サタコ絶命!
「貴様ら!!!!」
飛びの居たサタンは、怒りの叫び声をあげた。
「貴様ら!貴様ら!良くも俺の兄弟たちを!!」
お怒りだ。
「もう遊びは終わりだ。聞くがいい。我がスキル!魂の嘆きを!!」
即死攻撃が来る!
「今だぞターナ!」
「妖精魔法!サタン激激激パフ!」
ターナはサタンの攻撃力を大幅にアップした。
「・・・何をした?なんだ漲るような、この力は?」
サタンは、自身の状態向上に気が付く。
「今、お前の攻撃力を上げたぞ。5倍にしたぞ。魂の嘆きを使えば、お前も死ぬぞ」
魂の嘆きを聞いた者は即死する。
が、使い手のサタンも無事では済まない。自分の魂も50%以上が砕け散る。
ターナがパフすることにより、サタンの能力は5倍に成った。
使えば、自分も死ぬという事だ。
アリスの苦肉の策。ひねり出した奇策。
「!!!!なんだと!」
「さぁ、使うぞ。魂の嘆きとやらを聞かせてもらうぞ。一緒にあの世に行くぞ」
自爆覚悟で使う可能性もある。
「私たちが戻らなければ、守護者がループワールドを発動するぞ。この世界の時間は巻き戻るぞ」
そうだ。俺たちの切り札。俺たちに関わりを持った者の時間が巻き戻るループワールドだ。
「時間がまき戻れば、記憶がなくなるぞ。私たちは女神から、今回の事を聞くぞ。いの一番に、油断しまくっているお前たちを殺しに行って、問題解決だぞ」
これが俺たちの最後の手段だ。
「くそぉ!!!!まさか、そんな手が・・・」
サタンは魂の嘆きが使えない。
使えば自分も死ぬ。過去に戻っても、記憶のない彼らでは、閻魔や俺たちの攻撃から逃れられない。
両膝を突き、手を地につけ、サタンは崩れ落ちた。
「ケインさん!」
エクセレントだ。ヴィーナス、閻魔、ビュティーも来てくれた。
移動疎外のシステムが破壊されたんだ。
「やったぞ。サタンを落としたぞ。私たちの勝ちだぞ」
アリスが安堵の表情を見せる。
苦しい戦いだった。が、俺たちは勝った。
「婿殿!」
「パパ!」
「ケインさん!」
「坊や!」
皆が俺の元に集まった。喜びを讃えあった。
「ふっ・・ふっはははは!ははははははは!!!!」
サタンが高笑いを始めた。
「私の勝ちだ」
!?
「今、地獄の窯の蓋は開いた!間に合ったのだよ!私の勝ちだ!!」
なんだと!?
祭壇が吹き飛んだ。
祭壇の下にあった直径30m程の穴から、黒い邪悪な煙が噴き出す。
地響きが俺たちを揺らす。
「ドザーグの復活だ!楽に死ねると思うな!」
馬鹿な・・・復活には、まだ時間があるはずだ。
俺の考えとは逆に、穴の周りの地面を盛り上げながら、7つの目を持ち、真っ黒な巨体の暗黒神が姿を現す。
「ケインさん、ドザーグです」
ヴィーナスの震える声がした。




