ループワールド・勇者ケイン編 94
「司令長官!ゲート反応!黒い球体出現」
「北北東、距離1800 球体直径30m。個体数1」
俺達は、サタン城のある氷底湖に来た。
「あれはカモミールの魔道兵器!単体で来た?・・いや、疎外の効果で、他は入り込めなかったという事か。これ以上の侵入は許すな!移動疎外、最大出力!エネルギーを阻害システムへ回せ!」
指令長官は指示を出す。
「たかが1機で何が出来る?魔砲台を出せ!攻撃だ。沈めてしまえ!」
サタン城、第一層の攻撃棟から、3基の魔砲台が現れた。
「予定地点に侵入。敵の攻撃サーチを受けています」
セイレーンが現状の報告をする。
「ねぇ様、敵砲台を確認です」
「ねぇ様、砲身仰角から、着弾地点を計算です」
一撃貰うのが目的だ。
アリスの策、セイレーンの感情を止めるテストは成功した。
だが、感情を止めると、細かな命令を出さなくなる。『勝つ』という感情がないと、先制攻撃はできるが、セイレーンの持つ戦闘ノウハウは使えなくなる。
そこで、考えたのが、一撃貰う作戦だ。被害を最小限に止め、撃沈偽装する。
作戦の準備をする時間も稼げる。
「敵攻撃来ます!着弾予測地点に防壁多重展開」
爆音は着弾を知らせた。
「偽装爆破だぞ!」
偽の爆発を起こす。撃沈したかのように見せかける。
「偽装爆破。本体着水。沈降。着底します」
「偽装品放出だぞ」
偽装品とは、爆散した際に出る、構成部品やオイル。俺たちの死体の事だ。
「ねぇ様、偽装映像展開します」
大きな穴が開いて、撃沈したように見せる映像を、本体の周りに映し出した。
「ねぇ様、ペンギン君放出です」
サタン湖に生息するペンギンに似せた自走自爆機。防壁を破った後、攻撃棟の破壊に使う。
解き放たれたペンギン君は、俺達が死んだふりをしている間に、陸へと向かう。
「システム停止です。偽装行動に入ります」
セイレーン本体は、一部のセンサーを除き、機能を停止した。
「あっけない。と言うか、所詮は下界の兵器か。噂は尾ひれがついたものだったようだな」
司令長官は、安堵の声を出した。
セイレーンと言えば、過去の戦いで活躍した噂が流れていた。
閻魔とばかり思っていた司令長官としては、虚を突かれたが、倒してみればあっさりで、安心が声に出た。
「司令長官、哨戒機、哨戒艇出ます」
「ああ、一応確認して置け。移動疎外、警戒レベルも最高のままだ」
閻魔が来るなら、このタイミングだ。
司令長官の読みは、あくまで閻魔が来る、だった。
「ねぇ様、哨戒機接近です」
「ねぇ様、海中より哨戒艇来ます」
確認に来たか?
「いいかだぞ。音を立てるなだぞ。静かに静かに・・はっくしょん!!!だぞ」
やらかすと思った。だが大丈夫だ。完璧防音にしてある。
「哨戒機より入電。湖面には油、複数の死体、構造部品とみられる破片を確認です」
「哨戒艇より映像来ます。敵球体は着底。致命的な穴を確認」
映像が指令室に流れる。
「あの穴では助かるまい。よし、戻らせろ。今のうちに交代で休憩を取れ。今日は手不足だから、ロングシフトに成るぞ」
司令長官は椅子に座ると、ポケットから、チラシを取り出した。
「サタン食堂で、サタン様万歳割引セールをやっていてな。魔界コーヒーと、アリッササンドがセットで只だ。手の空いている者から、交代で食べてこい」
移動疎外は最大レベル。侵入は不可能。
敵球体は撃沈。このタイミングで閻魔が来ない。
司令長官は油断していた。
「身代わり君も、いい仕事をしてくれるぞ」
浮いている死体は、身代わり君たちだ。
「後は閻魔砲を待つぞ。4時間後ぐらいだぞ。その間にアリッササンドを食ってくれれば、大万歳だぞ。と、言うか食べてくれないとヤバいぞ」
アリッササンド・・・魔界の食材で作ったアリスの自信作。加熱することで、超強力な下剤効果のある玉子と、食えば寝てしまう効果のある野菜を、ふんだんに使ったサンドイッチ。
保険所の無い魔界では、危険食材の情報が出回っていないうえに、知識を持ったものが少ない。それに、社内食堂で毒が盛られるなど、考えても居ない。
アリスの策は、敵の胃袋から攻撃する、恐ろしい作戦だ。
「ペンギン君、湖岸迄30分です」
自走式ペンギン君。可愛い見た目とは裏腹に、爆発力はえげつない。
複数の攻撃棟を破壊する予定。出だしは順調だ。
この戦いに、世界の命運がかかっている。
艦内には、極度の緊張感が漂う。
「ダメだ!耐えられん!少し緊張をほぐす」
レナが素振りを始めた。
「お?俺もやるか?」
ギムも続く。
「緊張感で食欲がなくなるわ」
ウリエルは持って来た弁当、3つ目を完食した。
「パパ!おばぁちゃんがトイレで変な声出してるよ」
緊張感からの行為だ。スルーしてやれ。
「ちょっとそこ!やめるぞ」
アリスが制したのは、レナとギムが模擬戦を始めたからだ。
レナと同じレベルか?ギムってやつも馬鹿?
ギムは今回の作戦の胆となる。
ウリエルが言うのは、信用はできるとのことだ。あらゆることに無関心で鈍感。
飲む、寝る、剣を振り回す。脳内にある単語は、この3つだけだそうだ。
が、いざ戦いとなると人が変わる。敵に回したくない相手だと言う。
「ペンギン君、上陸です。まもなく予定時刻になります」
艦内に緊張が走る。
ここからは、シリアスモードだ。
「空間に反応!来ます」
セイレーンが叫ぶ。
城の右上にゲートが開く。女神たちがこじ開けた。
そして閻魔砲!
「司令長官!!!空間にゲート反応!」
「なんだと!?」
「ゲート内に高エネルギー・・・」
『ぶぼぉぉぉぉぉん!!!』
大震動が城を揺らす。
「第一層防壁消失。攻撃棟火災発生」
警報が鳴り響びく。
「デフコンレッド!第2層、3層、4層、各防壁最大出力!攻撃に備えろ」
「第1攻撃棟起動。第2攻撃棟起動」
「各砲台、ミサイル準備良し」
城は臨戦態勢となる。
「まだだぞ。まだだぞ。今は我慢だぞ」
そうだ。まだ第2層の防壁がある。セイレーンは魔道カートリッジで、短時間に2発のハドロン砲が撃てる。
が、2発だけだ。カートリッジの製造が間に合わなかった。
この2発は、3層と4層の防壁破壊用で、2層の防壁は、閻魔の間者による破壊工作頼りだ。
「氷底湖内、異常なし。次弾来ません」
「どういう事だ?閻魔砲1発だけなのか?敵の動きが読めん・・何を企んでいる?」
「司令長官!第2層防壁出力低下」
「なんだと!?」
「2層第5指令室と連絡が取れません」
「防壁、更に出力低下」
「コントロールをこちらに回せ!急げ!」
「コントロール、切り替え・・・・」
『ドゴーーン!!バゴーーン!グゴーーーン!』
「2層各指令室!爆発!防壁消失!」
「今だぞ!」
アリスが号令を発した!
「システム再起動。バラスト放水。浮上します!!」
「ねぇ様、偽装解除。魔道機関緊急起動」
「ねぇ様、チビレーン射出。コントロール開始、散開です」
チビレーン。セイレーン本体と同じ信号を発し、通常攻撃が行える、直径1m程の黒い球体。
魔王軍との戦いの時より改良がくわえられ、偽装映像により、機械的にも視覚的にも、本体と見分けがつかないようになっていた。
「司令長官!北北東1800 黒い球体多数出現!」
「馬鹿な!いつの間に!?何処から来た?」
「司令長官!黒い球体に高エネルギー反応!」
「撃ち落とせ!全部撃ち落とせ!全砲門開け!防衛機隊発進だ!」
敵の攻撃が激しい。
が、チビレーンが散開したおかげで、本体を集中的に狙われることはない。
「こっちも打つぞ!全砲門斉射だぞ!」
「ルカ、コントロール渡します」
「ねぇ様、攻撃解析開始」
「ねぇ様。直撃弾を避けます」
チビレーンが通常兵器での攻撃を開始する。
セイレーンは、敵攻撃砲台を解析、砲身の仰角から着弾地点を予測。
ルピはミサイルの軌道計算。
2人の情報を元に、ルカは本体をコントロール。
直撃弾を避け、被害を最小に食い止める。
「防衛機隊!なぜ出ない?」
司令長官が叫ぶ。
「緊急事態!防衛機隊乗組員。お漏らししながら、深い眠りについています!発進不可能!」
「なんだと!!」
「司令長官!食堂のアリッササンドから毒が検出されたとの報告」
「これは中からの攻撃?スパイが?」
「戦闘機隊が出てこないぞ。アリッササンドが利いてるぞ」
戦闘機が出てくると計算が複雑になり、処理が重くなる。
敵の攻撃が避けられない状態になれば、セイレーン本体と言え、撃ち落とされる。アリスの策が功を奏した。
「少し煽って、冷静さを奪うぞ。通信を繋ぐぞ!」
「司令長官!敵球体より通信です」
「スパイ捜査班の編成を・・なんだと?通信だと。繋げ!」
アリスが大型モニターに映し出された。
「馬鹿めだぞ」
「なに?」
「馬鹿め!!だぞ!」
プツン
通信が切れる。
「なんだとぉ!!!なんなんだ!スパイは後回しだ!あいつらを叩き落せ!!」
そういう使い方か。斬新だな。
「ハドロンブラスターXT充電開始します」
「ねぇ様、損傷率7%。魔道機関異常なし」
「ねぇ様、回避行動順調。損傷率想定の範囲内です」
上手くいっている。順調だ。
次は上陸したセイレーンが、魔道エンジンを使えるようにする。
「アリッサ!セシル!準備だぞ」
アリスは間者を使い、徹底的に調べた。この湖の地形から水深迄。
この湖の最深部は、俺たちの前にある。
そこに、アリッサとセシルの爆裂魔法を叩き込む!
「今だぞ!撃つぞ!」
「爆砕!爆炎斬!」
「火炎!爆砕龍よ!」
魔法の着弾点をセイレーンが通過する。
直後、後方に天井まで届く水柱が上がる!
大波だ!
「本体上昇します。大波を先行させます」
「ねぇ様、ハドロンブラスター充電完了」
「ねぇ様、照準合わせます」
大波の高さは、各層の建屋の3倍以上ある。
建屋を破壊しつつ、城の中を水浸しにする。
「ペンギン君、Aグループ自爆だぞ!」
大波の到達直前にペンギン君が自爆する。
弱体化させた建屋を大波が襲う。
「司令長官!大波が!大波が来ます!」
「慌てるな!防壁がある!」
「ハドロンブラスターXT発射です!」
大波を突き抜け、ハドロンブラスターが3層防壁を破壊する。
「司令長官!防壁・・・ぐはぁぁぁぁ」
「ぐはぁぁぁぁぶくぶくぶく!!!」
防壁の消えた3層を大波が襲い、中央指令室は倒壊。
「よし、完璧だぞ!このまま中央ゾーンに侵入だぞ!」
「上陸します。建屋に突っ込みます!」
「ねぇ様、魔道機関正常稼働」
「ねぇ様、魔道カートリッジ使用です」
上陸したセイレーンは、低空飛行で建屋を突き破りながら進む。
最終防壁、4層防壁に照準を合わせた。
4層防衛棟からの攻撃が来る。
「残りのペンギン君を開放だぞ。ハドロン砲発射後、全火力を防衛棟に向けるぞ」
アリスが立て続けに指示を出す。
セイレーンは正確に指示に従う。
「ハドロンブラスターXT照準よし」
「ねぇ様、魔道防壁展開します」
「ねぇ様、機体そのまま。照準よしです」
「撃つぞ!」
セイレーン最大の火力、ハドロンブラスターが4層防壁を破壊した。
魔道エンジンは。まだ動いている。
4層防衛棟からの攻撃は、温存したセイレーンの魔道防壁により効果はない。
本体の通常攻撃で、4層防衛棟を沈黙させた。
城は大きい。破壊したのは、ほんの一部だけだ。
侵入を阻害するシステムがどこかにある。
チビレーンと、ペンギン君が地上に残り、残りの城を破壊する。
移動疎外が消えれば、女神たちの援軍が期待できる。
「もう私たちを止めるものはないぞ!このまま地獄の穴に突入だぞ!」
アリスが防衛棟の奥にある、地獄の穴を指さす。
「ルピ、ルカ、直進です!」
セイレーン本体は地獄に穴に向かう。
「ここまでだ」
!!!
俺達の進路上に、ドーマが現れた。
「サタン様より、近づけるなとの命を受けた。ここがお前たちの墓場となる!」
ドーマだな。
「ドーマだぞ」
「ドーマだよね~」
「ドーマ」
「ふみつぶすぞ」
アリスが棒読みの指示を出した。
セイレーン本体相手に、ドーマ一人で何が出来る?
戦車にアリが立ち向かうようなものだ。
プチ・・・蚤をつぶした時にする音がした。
「哀れだな」
ギムが一言呟やいた。
「さて、お笑いに引き込まれそうだったぞ。気を取り直して、地獄の穴に突入だぞ!」
そうだ。シリアスで行かないと勝てない。
俺達は、地獄の穴へと突入した。




