ループワールド・勇者ケイン編 93
「ないぞ…絶対ないぞ」
まだ言っている。
まさかのドーマ取り逃がしで、俺たちは窮地に立たされていた。
サタンの城に攻め込むには、万全の準備が不可欠だが、限られた時間しかない状況は、俺たちを更に追い込んだ。
「無理でござるよ。間に合わないでござる」
忙しく動き回るトーレフへ、アリスは追撃をかます。
「無理とか聞かないぞ。勝つためには必要だぞ。一分一秒に命を懸けるぞ。間に合わずに死ぬか、間に合わせて死ぬかだぞ」
攻撃に必要な、セイレーンのオプションを、トーレフ達が作る。
「レナ達も置いていくぞ。馬車馬の如く、こき使うぞ。壊れれも直す暇はないぞ。機能停止が永眠だと思うぞ」
もう、無茶苦茶だが、それほど俺たちは追い詰められていた。
「みんなは休んでいるぞ。少しでも体を休めて、戦いに備えるぞ。閻魔とヴィーナスには協力を要請するぞ」
アリスは矢継ぎ早に指示を出す。
戦闘の時間を考えれば、猶予は12時間しかない。
足りないパーツは、アイデアで補いつつ、勝つための作戦を練り上げていく。
「天界は援助を惜しみません。なんとしてもドザーグの復活を阻止するのです」
「ワシも出来ることは何でもする。ワシの命を差し出してもかまわん!」
アリスはヴィーナスと閻魔に策を伝えた。
「閻魔は間者に指示を出すぞ。今夜以降の飯に毒を盛るぞ。第2層の防壁をなんとかするぞ。後は閻魔砲が撃てるようにしておくぞ。ヴィーナスは、1回だけで良いぞ。氷底湖の移動疎外を突き破るぞ」
全く策を練っていなかった訳ではない。
が、羽さえ守れば、の考えがあった俺たちは、甘さを痛感していた。
「今できる事は、これだけだぞ。ケイン少し休むぞ」
アリスから疲労の色が伺えた。
体力バカのアリスだが、精神的疲労は、顔に現れるほどだった。
「ああ、少し休もう。俺も一緒に居る」
俺はアリスを部屋に連れて行き、ベットに寝かせた。
横になり、腕を目に当てたアリスが呟く。
「勝てないかも・・しれないぞ」
ここまで弱気のアリスを見るのは初めてだ。それほど今度の戦いは、勝ち目が薄い。
「ああ、だが俺達には切り札がある。やり直しが出来る」
南の神殿の鍵。
ループワールドが、俺たちの最後の希望だ。
万が一、ドザーグの復活阻止に失敗したら、鍵を外し、ループワールドを発動させる。
世界は1200年前に戻り、やり直しが出来る。
「変だぞ。今まで苦しめられていたループワールドが、今度は最後の希望だぞ」
「皮肉なもんだな。だが、世の中はそういうものだ。苦しんだ分、それは糧となり力となる。俺たちの苦しみは、決して無駄ではなかったことを、証明しよう。最後に勝つのは俺達だ」
「ケインの、そういう所、大好きだぞ」
アリスは俺に求めて来た。俺はアリスの求めに応じる。
「貴方がこの世界に興味が無いのは知っているわ。でもね、一生懸命に生きようとしている人達はいるの。貴方の居た世界のように、この世界の人たちも、生きようと足掻いているのよ」
ウリエルは、ギムに語っていた。
「協力しなさい。愛美を攫い、閻魔を貶めることに、少しでも協力した貴方は、罪を償わなくてはならないわ」
「愛美は無傷で返す。奴らはそう言っていた」
ギムは、悔しそうに言う。この悔しさは騙されたことへの物ではない。
自分に対してのものだ。
ギムとウリエル、鬼奴はサタンとの付き合いが長い方ではない。
何時までも続く魔界の小競り合いに終止符を打つ。
ドザーグを蘇らせ従えることで、魔界は平和になると言われ、側にいただけだ。
魔界にとって、下界は敵。魔界の平定後、下界も魔界に取り入れ治める。
この言葉に騙されていた。
気が付いたのはウリエル。食事の不満もあり、抜ける考えがあった時に表れたのがアリスだった。
そして、早くから、ギムも仲間へ引き込もうと考えていた。
「貴方が、自分の元居た世界に戻る気があるなら、この世界をサタンの物にしてはダメ。ケインに協力を求めないと」
ギムは、転移者。流れ者だ。
「穴」と言う特殊な空間を通り、この世界にやってきた存在。
ギムは、カモミールのある世界とは、違う世界からの転移者だった。
ギムの持つ特殊能力「異空の剣」
半身中段の構えから繰り出される突きは、空間を突き破り、目標を貫く。
切っ先は、いったん異次元に入り、目標の直前で、現世へと現出する。
目標との距離が離れて居ようと、間に壁が有ろうと、関係ない。
20mの有効射程であれば、確実に敵を貫くことができる必殺技だ。
その存在を知るのは、サタン関係者。
ドーマがギムを恐れたのは、この技があるからだ。
ウリエルは、この技でサタンを倒そうと考えていた。
だが、この技にも、1日に使えるのは1回だけと言う制限がある。
兄弟もろ共、と言う訳には行かない。
「分かった。お前が正しい。気が付くのが遅かった」
ギムも仲間に成った。
12時間後。
「その技は助かるぞ。ギム、サタンは任せたぞ」
アリスが少し元気を取り戻した。
サタン3兄弟は、サタンから倒さなければならない。サタンが最後に残ると、俺たちの負けが濃厚になる。回避不可能な、即死攻撃が来るからだ。
非常手段的な回避策はあるが、確実性は乏しい。
兄弟が居れば、兄弟も殺してしまう為、使わないだろう・・が、俺たちの読みだ。だが、サタンを守る兄弟は強い。
アリス最大の悩みは、サタンから殺る方法だった。
「あと1時間で準備が整うと、科学班から連絡が来たぞ。これは最低限の準備だぞ。勝利への道は、蜘蛛の糸より細いぞ。でも私たちは勝つぞ!勝って、平和を手に入れるぞ!」
アリスが作戦の最終確認をする。
1層防壁は、女神たちが根性で空間の防壁を破り閻魔砲。
2層防壁は、間者による工作。
3、4層はセイレーンの魔道砲だ。
色々と問題はある。
強化された移動疎外を破り、閻魔砲は打ち込めるのか?
間者は、確実に防壁を破壊できるのか?
水が無いと魔道システムは動かない。3、4層迄セイレーンの魔道システムをどうやって動かすか?
タイトロープな作戦だが、勝てる道は示した。
これが俺たちの最後の戦いだ。
「ケインさん!」
シータが来た。
「間に合って良かった。アズサさんにお話がありました」
シータはアズサに話をした。
ーーーサタン城ーーーー
「今サタン様から通達があった。24時間守り切れば、全員に特別ボーナスと、ロング休暇だ」
3層にある中央指令室に、司令長官が入って来た。
「もう抵抗勢力を恐れることは無いと言っていたが、閻魔が突入して来る可能性があると言う。閻魔の閻魔砲は強力だが、3層に守られた中央指令室は安泰いだ。・・・・ん?人数が少なくないか?」
指令長官は、指令室の人員が少ないことに気が付いた。
「職員の半分が、腹痛を訴えています。使い物にはならないとのことです」
「何を食った?この大事な時に。休んでいる奴はボーナスも休暇も半分だ」
サタンの読みでは、来れば閻魔。だが、3つの防壁は、閻魔砲でも破れないとみていた。
「憎き閻魔を血祭りにあげるも良し、サタン様が暗黒神を従え、世界を取るのを見るも良し、我らは安泰だ!」
イスに深く座り、時計を見る。なんの不安の欠片もない顔つきだ。
ーーーーーーーーーーーー
「ケインさん、悩みましたが、今は言っている場合ではありません」
ヴィーナスが、俺達に禁断の加護をかけてくれた。
一時的に、みんなの魔法は5倍以上の力を出せる。魔族並みの戦力に成れるという事だ。
「この加護は、皆さんの限界を超えた力を引き出すでしょう。5倍の効果を使えば、皆さんの体は長くは持ちません。使えるのは、1時間の間だけです」
分かりやすく言うと、卍解だ。
俺達は任意のタイミングで、5倍の力を発揮できる。1時間限定だが、対サタン戦においては、頼もしい力だ。
「でも、アリスさんとアリッサちゃんのスキル、絶対零度、絶対高温の効果は変わりません。物理限界の効果は上げようがありません」
「ちょっと聞くぞ。絶対零度と、卍解した魔法は、どっちが強いぞ?」
聞かない方がいいこともある。
「勿論、絶対零度です。私が授けたスキルは物理限界です」
エクセレントがドヤ顔で言う。
が、これは・・・・。
「ならダメだぞ。ウリエルには絶対零度が利かないぞ。絶対零度より弱い魔法が利くとは思えないぞ」
「サタオとサタコは、私より強いわよ」
簡単な方程式だ。
ウリエルに効かない絶対零度より弱い魔法で、ウリエルより強い奴は倒せない。
「とは言っても、強いのは総合力。防御は大したことないから、直撃でも食らわせれば・・ね」
「奴らに直撃など食らわせられるかよ」
ウリエルの希望の言葉をギムが打ち砕く。
「魔法の強さは、下界民の限界です。後は根性で倒すだけです」
ティナも分かっている。とどのつまりが根性論だ。
「まぁ良いぞ。無い物はねだらないぞ。サタンを倒した後は、根性だぞ」
作戦はサタンを倒す迄で、手いっぱいだった。
「ドワーフ、後は頼んだ。俺たちが戻らない時は、鍵を外してくれ」
時間がきた。
「女神たちは残って、ゲートを開くぞ」
ヴィーナス達は、閻魔砲をぶち込むために、移動疎外の掛かった氷底湖の空間にゲートを開く役だ。
天界からは、大勢の女神が協力のために来ていた。
本来ならティナも残らせたかったが、ティナは聞かなかった。
俺と来ると、譲らない。
「城を破壊すれば、移動疎外は消えるはずだ。そうしたら全員で来てくれ」
僅かな希望だが、援軍も期待できる。やれることはやった。
「では、行って来るぞ」
俺達はセイレーン本体に乗り込む。
ドワーフ、ポセイドン、愛美さん、閻魔、大勢の女神が、俺たちを見送る。
閻魔と女神達がゲートをこじ開け、セイレーン本体は氷底湖へ入った。
決戦だ!!




