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残念世界の残念勇者   作者: XT
96/96

ループワールド・勇者ケイン編 96 最終回

馬のような長い顔。

額にVの字型に並ぶ、7つの目。

ヨダレの滴る口からは2本の鋭い牙。

大きな胴体からは、7本の触手が蠢く。

触手の、それぞれの先端には、小さな顔が付いてる。

暗黒神、ドザーグだ。

余りの恐怖に、俺たちは魔法を撃つことさえ忘れ、立ち尽くしていた。


「さぁ、ドザーグよ。我に従え!我がスキル!魂鷲掴みだ!!!」

サタンはドザーグに命じた。

「ひとり、ひとり、味わって食うが良い!さぁドザーグ!いけ!!」

ドザーグは1歩、2歩前に出る。

立って居られない程の地響きが、俺たちを襲う。


ドザーグの触手の1本が、動く。

サタンに噛みついた。

「!?何をする?俺ではない!食うのは向こうの奴らだ!」

触手は、お構いなしにサタンを本体の口へと運ぶ。

「やめろ!よせ!」

足掻くサタンだが、本体の口は無情にも閉じられる。

「ぐはぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

サタンの断末魔の叫びだ。



「やはりコントロールは不可能でしたか」

ヴィーナスは、気丈にも前に出た。

「ケインさん、私たちが防壁を張ります。ドザーグを倒す手を考えてください」

エクセレントとビューテーが続いた。

「ワシも協力しよう」

「はい。私たちも行きます」

「見習い女神の加護。防壁です」

閻魔とティナ、シータも前に出た。


「考えろって、アレの相手かだぞ?」

「何も考えていない。復活させないことが・・」

俺達も弱気だ。

「今は弱気なことを言っている場合ではありません。何か策を。お願いします」

ヴィーナスは冷静だ。流石は神女神。


「考えるぞ。どのくらい持つぞ。時間はどのくらいあるかだぞ」

エクセレントは笑顔で振り返る。

「どのくらい?1撃でも来たら、アウトです」

なんて爽やかな笑顔だ!


「なら防壁の意味がないぞ」

「あははは。よくあるじゃないですか。長き眠りから覚めた、強大な力を持つ者が、早すぎたんだぁ!!とか言いながら溶けるシーン。

後々女神が逃げたと言われると生き恥ですから、ここは、それ期待で前に出ています」

見栄だけで前に出れるってすごいぞ。


「ケインさん、皆さん!かたまってください。アズサさんの魔法で、1撃だけは躱せます」

シータが叫ぶ。


「私たちの居る空間の時間を止めます。時間の無い物は破壊できません。1回だけなら、どんな攻撃にも耐えられるはずです」

確かに、時間の無い物は破壊できない。

だが、アズサの魔法は、1回しか使えない。その間に・・・・。


「ティナ、水だぞ!水を発生させるだぞ!」

そうか、セイレーン!その手があったか。

「はい。神の加護!水浸しです!」

「セイレーン!魔道砲だぞ!すぐ撃てだぞ!」

「はい。流石にあれは敵です。一撃貰わなくても撃てます」

「ねぇ様、充電開始」

「ねぇ様、充電完了です」

時間が無いから、ここはシークエンスカットだ。



「ハドロンブラスターXYZ発射します!」

俺達の真後ろから轟音が鳴り響く。

閻魔も、閻魔砲を合わせ撃つ。俺達の持つ最大攻撃だ。

女神の防壁が、俺たちを守る。

が、ドザーグは直撃を受けるも、ハドロンブラスターと閻魔砲を、体に吸収してしまった。

触手の顔がケタケタと笑っている。まるで通じない。化け物だ。



「ケインさん、孫の顔、見たかったです」

ヴィーナスが投げた!


「あははは。これは夢ですわ」

「そうだよ、おばぁちゃん!起きたら、朝食だよ」

アイリスとアリッサが現実逃避した。


「パルム、おむつ交換の時間よ」

「おお、みんなの前だが、これは欠かせない日課だ」

パルムとセシルが壊れた。


「ケイン!!!聞くぞ!」

アリス?何かいい策が?


 「春を待つ わが身桜の 小枝にて 

      溶け行く想い いと悲しかな だぞ」

辞世の句なんか読んでいる場合か!

「これは、小枝に積もった雪と、今の私を掛けて・・」

解説はいらん!

くそ!頼みのアリスまで・・・・。


「ケインさん、来ます!ドザーグ砲です!」

くそ、防御だ!諦めるな!

「時間停止魔法!空間固定です!」

アズサの魔法が、俺たちの周りの空間の時間を止める。

体が分解しそうなほどの振動が襲うが、俺たちは何とか耐え抜いた。



「ケイン・・・・上を見るぞ」

上?だと?

!!!!空が、月が見える。

ここは地下500Km。氷の下3000mだ。

今の1発で、天井が吹き飛んだというのか?

「時間を止めてもらえなければ、消し炭も残らないかったぞ」

桁違いだ。威力が桁違いだ。


・・・こうなれば、可能性は一つだ。

「みんな!、俺に魔法をくれ!重ね合わせて叩き込む!」

九重の能力、重ね合わせ。

複数の魔法を重ね合わすことで、この世界の理すら変える、絶大な攻撃力だ。

こいつに効果があるとしたら、アリスとアリッサの物理限界魔法と、みんなの魔法を重ね合わす以外にない!


「バカ言わないで。貴方の戦力では、1つの魔法さえ受け取れないのよ。重ね合わせた魔法など撃ったら死ぬわ。9回は死ぬわ!」

確かにだ。アリスのプチブリザードも受け取れなかった。

だが今は、そんなこと言っている場合ではない。


「ダメだぞ。私たちの魔法でケインを殺させないぞ。やり直しをするぞ。ループワールドだぞ」

「なら、俺を強化だ!俺の力を高めてくれ!」

「ダメだぞ!」

アリスは何としても反対した。


ドザーグが地団駄を踏んだ。

俺達に自慢のドザーグ砲が利かなかったのが、悔しかったようだ。

「触手が集まって、なだめてるぞ」

プライドを傷つけた。

「あ・・・ニヤ付いたぞ。嫌な予感がするぞ」

あの顔は、奥さんが悪だくみした時の顔だ。


「ケインさん・・・今度はドザーグの咆哮の構えです。ドザーグ砲の50倍の威力で、大陸が吹き飛びます」

解説有難う、ヴィーナス。今更50倍も100倍も驚かん。


ドザーグは後ろ足で立ち上がり、腹にエネルギーを貯めだした。

明らかにさっきとは違う。黒い腹が赤くなる。


「・・・ケイン。悪い知らせと、良くない知らせよ」

聞きたくない。

「悪い知らせよ。あれの50倍だと、アズサの魔法で時間を止めても、助からないわ」

ピーから絶望情報が出た。

「良くない知らせは、ドザーグの持つエネルギー量だと、ループワールドが発動しても、ドザーグは消えないわ。1200年前に現れるだけよ」

な!なんだと!!!

1200年前に現れたら、俺達が生まれてくる前だ。

世界が滅んで、俺たちは生まれてこれなくなる。

「もっとも、その前に・・・聖杯が動くわ。ドザーグには、聖杯を動かすだけのエネルギーがある!世界はやり直しではなく、消滅し、1から作り直されるわ!」



「神女神の加護!スキル回復です!皆さん、何としてもドザーグを討ちます!ケインさんの強化を!」

ピーの言葉で、ヴィーナスは状況を理解した。

ここでドザーグを倒さなければ、カモミールや、魔界、天界はもちろん、すべての世界は終わる。世界の終焉だ。


「大女神の加護、ケインさん強化です!」

「大女神の加護かな!ケインさん強化かな!」

「神女神の加護!!ケインさん神強化です」

「はい。神の加護。旦那様強化です」

「見習い女神の加護、お義兄さん強化です」

「閻魔法!小僧強化だ!」

「妖精魔法!初めての人!激激激激激パフ!」

神女神や大女神、閻魔やティナ、シータ、ターナのパフが俺を強化する!

力が漲る!

「どうだ九重!これで撃てるだろう!」


「全然足らない!無理なのよ。貴方のレベルはマイナス。元が無いから300倍に強化されても、たかが知れているの」

くそ!なら足らない分は、根性で上げる!!

  「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」

どうだ!?

「1mmも上がらない!」

くそぉ!!!!!!!!



「どうやら、ここまでのようですね」

ヴィーナスは、俺たちの方を向いた。

「皆さん、よくやってくれました。皆さんの努力に感謝します」

エクセレントも、清々しい顔だった。

「頑張ったかな。負けちゃったけど、それは仕方ない事かな」

ビューティー迄も、諦めた。


「俺に力が無いからだ・・・俺に・・俺に力さえあれば・・・」

俺は、体中の力が抜けた。呆然と立ちすくむ。

もうすぐドザーグの攻撃が来る。

もう・・ダメだ。


「違うぞ。ケインは良くやったぞ。ケインの力は私たちだぞ。私たちの力が足りなかっただけだぞ」

「そうですわ。婿殿は、よく頑張りましたわ」

「パパ!パパとママの娘でよかったよ」

「そうだね~負けて悔いなしだよね~」

「私死にたくない。ハウルなんとかしろ」

「ケインさん、お嫁にもらってほしかったです」


「ケイン、最後は潔くだぞ。胸を張ってやられるぞ」

アリスは、呆然と立ちすくむ俺に手を差し伸べた。


くそぉ!

悔しさ、悲しさ、苦しさが、体の中を駆け巡る。

なにが勇者だ!

こんなにも良い仲間を助けられない勇者なんか、勇者ではない!

俺は只のバカだ!


俺は差し出された手を取ることも出来ず、地に崩れ落ちた。

「ちくしょう!!!!!」

諦めの悪さ、醜さには自信がある。だがもう・・・・。


          俺の負けだ。 


俺は・・・負けを認めた。   


      

       


        『諦めるのか?相棒』

!?

心の中に声が響いた。

だれだ?

        『お前だよ。俺はお前だ』

・・魔王か?なんで?

『同じことをした。800年前のお前が、食われた魔王の魂に中に入り込んだように、お前に戻る魂の中に、俺も魂を残し、お前の中に入っていたんだ』

あの時?・・・魔王から魂の欠片が、俺に戻った時か?

『お前のマイナスレベルの魂は、居心地が良かった。おかげで間に合った』

間に合った?

『ああ、完全に力を取り戻せた。俺たちは戦えるという事だ。俺たちの目指すところは同じ』

目指すところ・・・俺の目指すところは・・仲間たちと共に、平和な世界で・・。

『そうだ。俺の力を使うんだ』

魔王!

『俺の力はお前の力だ!まだ終わりではない!立ち上がれ!剣を構えろ!ドザーグごときに負けるな!』

俺は立ち上がった。


「ちょ!主!なにしたの?あなた一体!?」

『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!』

「ケイン・・・凄いぞ。根性で力を跳ね上げてるぞ」

『違う!俺の中の魔王が力を貸してくれている!』

俺に流れ込む魔王の力。

「魔王?メイドインカモミールの魔王?そうだぞ、魂を同じくする、もう一人のケインだったぞ」

アリス達は理解した。


「行けるわ!充分よ!今なら、みんなの魔法が重ね合わせられる。相反する物理限界が、みんなの魔法の中にある。炎と氷、プラスとマイナスが同時に存在する、あり得ない魔法。そう、これは虚数世界の魔法。ドザーグがどんなに強くても、所詮はこの世の存在。虚数世界の攻撃なら倒せるわ!!」

九重がGOサインを出す。


「行くぞ!ケインに、みんなの魔法を委ねるぞ!」

『頼む!皆!俺に魔法をくれ!』



ドザーグは充電中だ。

俺の気配に気が付いた触手たちが、攻撃を開始した。

「私たちは防壁です。なんとしてもケインさんを守り抜きます」

ヴィーナスやティナたち、閻魔が防壁を張る。

「ルピ、ルカ、前に出ます。本体に防壁を張り、壁になります」

「はい、ねぇ様。防壁展開」

「はい、ねぇ様。攻撃を受け止めます」

セイレーンが壁に成って、俺達への攻撃を受け止めてくれた。



「ケインさん、行きます!時間魔法です!」

「ケイン、行くわよ。風魔法よ」

アズサとウリエルから魔法を受け取る。


  俺は戦力を持たない勇者だった


「婿殿!行きますわよ!氷魔法ですわ」

「坊主!受け取れ!ツンドラ魔法だ」

「坊や!火炎魔法よ」

アイリス、パルム、セシルから魔法が来る。


  何も持たない俺に、みんなは付いてきてくれた


「毒魔法だよ~」

「受け取れ。精霊魔法」

マオ、ターナ。


     俺を支えてくれた


「パパ!絶対高温!いくよ!」

「ケイン!行くぞ!絶対零度だぞ!!!!」

アリッサ、アリス!

    

    俺に力を与えてくれた

     

「主、九つの魔法、受け取ったわ。重ね合わすわ」

九重は、九つの魔法を受け取る。

剣に帯びる力が、暴走を始めた。


くっ!!!剣が震える!?凄い力で体が持っていかれそうだ。腕がちぎれる!!


!?

「勇者を下がらせたりするものか」

「坊主は俺達が支える」

「お前は剣の制御に集中しろ」

「あなたを支えて見せるわ」

ハウル!パルム!レナにセレスが、スクラムを組んで俺を支えた。



アリスとアリッサが、左右から九重の柄を握り締める。

「ケイン、私たちも支えるぞ」

「パパ!一緒だよ!」

「ルピ、ルカ、本体を放棄します。トーレフさん、マリーさん脱出してください。私たちもケインさんを支えます」


マオが、ターナが、アイリスが、アズサが、ナナが!

仲間達が、前後左右から、俺を支えてくれた。


 

  そうだ、俺はいつも支えられている。みんなが俺を支え、力を貸してくれていた。

   俺の力は、みんなの力だ!その力が、今一つになる!

        負けるわけがあるか!!



「もう限界です!」

ヴィーナス達が吹き飛ぶ。防壁が破られた。

セイレーンの本体も崩壊寸前だ。

攻撃が直接来る。


だが当たらない。

ドザーグの触手から放たれる攻撃は、俺たちの前で大きく曲がり、逸れていく。

剣から漏れ出すエネルギーが、俺たちの周りの空間を歪めていた。

攻撃を直進させない。


「主!重ね合わせ終了よ!撃ちなさい!!」

九重の言葉と同時に、ドザーグの咆哮が来る。

が、空間の歪んだ中に居る俺達には、攻撃は届かない。

漆黒のドザーグの咆哮は、俺たちの前で四方に逸れていく。



      『行くぞ!みんな!』

「行くぞケイン!」

「パパ!」

「いけぇ~だよね~」

「いけ」

「はい。行ってください!」

   

  『俺たちの全てだ!食え!暗黒神!闇に消え失せろ!』

九重の柄を握る、俺とアリス、アリッサは、渾身の力を込めて剣を振り下ろす。


黄金に輝く光が、ドザーグの放つ咆哮を切り裂きながら、ドザーグの直前で拡散し、多数の穴を穿つ。

穴は金色に輝きながら、次第に広がり、ドザーグの全身を包み込む。

   「ぐはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

暗黒神ドザーグの断末魔の叫び声。



「・・・ドザーグ・・暗黒神の消失を確認です」

ティナの声が俺たちの勝利を伝えた。


       「俺たちの勝ちだ!!!」






苦しかった戦いから、3か月が過ぎた。

今日は、俺がこの世界に来て、ちょうど2年目の、カモミールではケイン記念日と呼ばれる日だ。

温かな春の日差しが窓から差し込む。


「ケイン、時間」

ターナが俺を呼びに来た。


俺はターナと通路を歩く。突き当りを右に曲がると、アリスとマオが居た。

純白のドレスに身を包んだアリスは、俺に手を差し伸べる。俺はその手を強く握りしめた。

アリスは優しく微笑む。


見つめ合い、腕を組み、向き直る。

「行くよ~」

マオとターナが、俺たちの前の扉を開ける。

俺はアリスと式を挙げ、永遠の誓いをした。



この世界で、この星で、カモミールで、やっと俺とアリスの、本当の生活が始まる。

平和で、なんに心配もない世界での生活が・・・・。


ーーーーENDーーーー

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