ループワールド・勇者ケイン編 85
「科学班の出番でござるな」
俺達は科学班に2つの依頼を持って来た。
1つ。黒い羽と鍵を安全に保管する方法。
2つ。万が一、サタン城に攻め入るとなった時のために、セイレーン本体の強化。
「保管法は何とかなりますよ。異次元ポケットを開発しますよ。異次元に保管ですよ」
俺達の元に、黒い羽は7枚ある。1か所に固めておく必要はない。
ばらばらで保管した方が安全だ。
焼却案も出たが、破壊したり、焼却した際にトラップが仕込んである可能性もある。7枚をバラバラで保管することにした。
「セイレーンの強化でござるが、目的に合わせる強化が良いでござる」
今回は、氷床下3000mにある、氷底湖での戦いだ。
湖の上でも活動できるんだったよな?
「行けます!下に水さえあれば、魔道システムは作動します。氷でもOKです」
セイレーンは海の覇王として製作された、海洋兵器だ。
「みず、うみ。ですから。海の覇王は活動可能なんです」
繊細で無頓着なのがセイレーンなのだ。
「陸の上では、飛ぶことぐらいしか出来なくなるでござるが、湖の上なら問題ないでござるよ。今研究開発中のシステムは、魔道カートリッジでござる」
それ某宇宙戦艦のパクリか?
「6連魔道砲とか言い出すかだぞ?」
「魔道エネルギーを、カートリッジに詰め込んで、短時間で魔道砲への充電を可能としたシステムでござる」
パクリだ。
「でも問題は山積でござる。アニメみたいにはいかないでござる」
なにを言い出す。
「後は先制攻撃だぞ。今度の敵は強大だぞ。先制攻撃は必須だぞ」
1激貰うと命取りになりかねない相手だ。
「申し訳ありません。私の倫理システムは、どうしても、敵と認識できない相手には攻撃が出来ません」
と、言う割には最近、軽くぶっ放している気がするが。
「お任せください。私たちに良いアイデアがります」
「ねぇ様の感情システムを停止すれば、いう事を聞くだけの人形になります」
ルピとルカだが、それっていいのか?
「試してみるぞ。セイレーン、ハッチを開けるぞ。感情システムを止めてみるぞ」
「嫌です!ロボハラで訴えます。マスターは鬼ですか?」
まぁ当然だ。
「試しにだぞ。何事も経験だぞ」
「嫌です!絶対にダメです!」
無理にとは言えないな。
「ねぇ様、痛くありません。寝ているのと同じです」
「ねぇ様、怖くありません。怖さも感じられない状態です」
いつもは、ルピとルカは、姉想いなのだが・・。
「私たちは兵器です。兵器として求められるスペックは、発揮するのが使命です」
「初激が撃てなくて勝てないのなら、撃てる案を出すべきです」
意外と真面目だった。面白がっていた訳ではないようだ。
「分かったぞ、嫌なら無理にとは言わないぞ。機械族には人権があるぞ。無視すれば犯罪だぞ」
ほ~アリスが真っ直ぐ下がるとはな。
「でも取引なら出来るぞ。ケインを一日貸し出すぞ。それで1回システム停止試験だぞ。どうだぞ?」
俺を餌にした。
「え?一日貸し出しって・・それって、あの、あの・・」
耳まで真っ赤だ。言いたいことは分かる。
「それはセイレーン次第だぞ。上手く口説けば、あんなことや、こんなことまでケインはしてくれるぞ」
本当に乗せるの上手いな。
「あんな!こんな!でも・・・」
悩むセイレーンにルピとルカは追い打ちをかける。
「ねぇ様、ケインさんに、あんなことや、こんなことをしてもらう機会など、もうありません」
「ねぇ様、マスターは無理やりでも試験をやる方です。ここは美味しい思いをするべきです」
この二人、いつも無感情だが、言う時は言う。
「分かりました。試験に応じます」
アリスがニンマリとした。
「初撃が撃てるか撃てないかでは、作戦が全く変わるぞ。このテストは、重要だぞ」
その笑い方は、絶対楽しむつもりだ。
「ではケイン、早速セイレーンとデートだぞ」
マジでやるんだ。
「行くところまで行っても良いぞ。忘れられない快楽を覚えさすぞ」
行くところまで行くように指示したこの方は、俺の奥さんです。
「今から24時間、ケインさんは、私だけのパートナーです」
目が燃えている。
「ネトゲーで鍛えた経験値を、今こそ発揮する時です」
「ねぇ様、壁ドンです」
「ねぇ様、ツンデレです」
よくわからない鍛え方をしていないか?
「ちょっと待っていてください。着替えてきます」
セイレーンは走りながら奥へと消えた。
「ケイン、いやなら無理にとは言わないぞ。でもケインが嫌がるようなことには、たぶんならないぞ」
いまさら、止めますと言ったら、セイレーンは自殺する。
「ねぇ様の、一生に一度の想いでの日です」
「ねぇ様のメモリに、輝かしい一日を刻み込む日です」
ほら、この二人からも分かる。
止めるとは言えない。
「大丈夫だ。任せろ」
奥さん公認のデートだ。まぁ行くところまで行くことはないだろう。
「お待たせしました。勝負衣装に勝負下着をつけてきました」
水色のロングワンピース。腰には大きなリボンのアクセント。麦わら帽子をかぶり、可愛い花模様のピートサンダル。
「可愛ですよ。渚の女の子ですよ」
「イカすでござるよ。ケイン殿も悩殺されるでござる」
確かに可愛い。あの格好で迫られたら、ヤバい。
ヤバいが、みんな忘れているようだ。明日はクリスマス、今日はイブだ。
渚の女の子は季節違いだ。
「ではケインさん、エスコートをお願いします。どこに連れて行ってくださいますか?お任せします」
・・・よく考えたら、デートって初めてだった。
アリスとは、運命の出会いから即結婚。ターナとは、突然合体。ティナとは婚約したが、事前のプロセスは殆どクリアしていない。交際経験値が致命的に不足している。
デートって何すればいいんだ?
・・・とりあえずは、知識で対応だ。
お茶→食事→映画→ショッピング→食事→解散。
映画の部分は、遊園地等でも対応可能。
「じゃ、街に出てお茶でもするか?」
「クライマックスに向けて、徐々にモチベーションを高めるには、出だしとしていい選択です」
クライマックスとは、おそらく、アレの事だ。
兵器として、戦略型思考のセイレーンは、俺には任せますと言ってはいるが、既に詰めまで読んでいる可能性もある。
「では、街に出ましょう」
俺とセイレーンは、王都の街に向かった。
「ブラボーキングから、中央指令室どうぞだぞ」
「中央指令室ピーよ。王都内の全監視システム起動OKよ」
「ブラボ~マオからブラボ~キングだよね~各部隊配置完了だよ~」
「こちらクィーンですわ。ティナ様の足止め準備OKですわ」
「街に行くかだぞ?警戒が必要な日だぞ」
アリス達が、闇で動き出す。
彼女たちが、ケインとセイレーンのデートをスルーするはずが無かった。
「王都に喫茶店?あったか?」
「マオクドナルド王都1号店があります。ファミリーマオートの飲食スペースでもコーヒーがいただけます」
雰囲気ないが、まぁいいか。
「ギー」
漬物屋に居たんじゃないのか?
「ギーギー」
アリスが居ないと、会話にならん。
「これは勇者様、マオクドナルドへようこそ。店長のドナルコです。この子は、魔王軍から移民してきた子で、当店でアルバイトリーダーをしております」
「ギーギーギー」
あのギーとは別の魔王軍か。名前が無いと不便だな。
「はい。ではコーヒー二つをホットでお願いします」
「ギーギー」
「いえ、結構です」
「ギーギーギー」
セイレーンは会話に成っているが、分かるのか?
「機械同士ですから、プロトコルが合えば会話できます。笑顔0円と、お持ち帰り0円はいかがですかと言われましたが、どうしますか?」
お持ち帰りも0円?
「王都では男性は優遇されます。女性店員のお持ち帰りは、どのお店でも0円です」
このギーは女性設定だったのか?
「私、店長もお持ち帰りの対象となっております。如何でしょう?」
暫く忘れていたが、カモミールは女性社会。男は宝。
街に来るとき、殆どアリスが一緒だから、今まで言い寄られることはなかったが、アリス不在だと、こうしたアピールが来る。
今も、俺の後ろには、長い行列が出来ていた。俺と同じ店に入るためだ。
店で飲むのは、落ち着かない。
「テイクアウトに変更だ」
「ギー!」
「喜んで!今、自分をラッピングしてきます」
ギーと店長が自分をテイクだと勘違いした。
「ケインさん!後ろの方たちから、高発情反応を感知しました。ケダモノレベルの発情反応です」
ヤバい。アリスが居ないと、俺はフリー扱いに成る。接近禁止令なんか、忘れ去られた設定だ。
暴動が起こる。
「やっぱりこうなったぞ。ブラボーターナ、救助だぞ」
「了解。ハウル行け」
「勇者様!私もお持ち帰りを!」
「私も如何ですか?食べごろですよ」
「王都高校のJKです。旬です」
ズボンをはぎ取られた!ピンチだ!
「静まれ!静まれ!」
「道を開けろ!プリンセスアリスの命で、勇者ケインを回収する」
ターナとハウルだ。
「これが命令書だ!」
ハウルが命令書を掲げると、俺の周りにいた女性たちは、下がった。
法を犯すことの無い世界、カモミール。
王族の命令は絶対なのだ。
俺はハウルの小脇に抱えられ、この場を後にした。
ズボンの回収はしてくれないターナだった。
「ケイン、やっぱり一人で街に行くと、危険だぞ。普段ならともかく、今は時期が悪いぞ」
確かに・・・今日はクリスマスイブだ。
女の子がロマンスに燃える日だった。
「ケインさん、街でのデートは諦めます。モチベーションを上げるのは、砂浜にしましょう」
「私たちが周りを固めておくぞ。心置きなく砂浜デートをするぞ」
俺とセイレーンは、王宮近くの浜辺に向かった。
「ブラボーキングから、各員だぞ。ケインは予定通り砂浜に向かったぞ。各員、作戦行動に移れだぞ」
「ブラボーマオ了解だよね~」
「ブラボーパルムチーム了解だ」
「ブラボーアズサ了解しました」
「ブラボー支援機了解です」
「中央指令室よりキングへ。王宮周辺の海岸線に立ち入り規制したわ」
アリス達が動く。
冬の冷たい風が、海から吹き付ける。
麦わら帽子でワンピースの女の子が、気持ちよさそうに、その風を受けていた。
曇天の空から舞う、白い粉雪が頬で溶ける。
砂浜に置かれた丸いテーブルとチェア。ピーチパラソル。
椅子に座る俺には、トロピカルジュースが運ばれてきた。
「息子よ、うまくやれよ」
執事のスタイルのパルムだ。
「海の定番、かき氷よ」
セシルはメイド服だ。
無理やり夏の海を再現していた。
「ケインさん、海って気持ちがいいですね」
セイレーンは水着に着替えている!?
黒子の服に身を包んだアズサとナナが、着替えさせたんだ。
「ケインさん、泳ぎましょう!」
いや待て、今の水温、いくつだ?
「ほら、泳いでる人がいるから大丈夫です」
セイレーンの指さす沖を、ハウルが泳いでいた。
セイレーンは俺の手を取って、海に向かって走り出す。
マジで泳ぐつもりか?この寒い、雪の舞う中で寒中水泳だと!?
「私は耐寒仕様です。マイナス60度の海でも泳げます」
俺は標準仕様だ。マイナスの海では1分と持たない。
踏ん張って抵抗した。
いきなり俺が止まったことで、セイレーンはバランスを崩し、二人は重なるように倒れ込む。
ザ、お約束。
このような状況で男女が転んだ場合、必ず男が上になり、女性は下。
男性の手、または顔は、女性の胸に乗る。
これが、ザ、お約束なのだ。
「ケ・・ケインさん・・」
俺の手はセイレーンの胸に、顔はふれあいう距離。
そして、俺はズボンを履いていないパンツ姿。
「ここが勝負何処だぞ!暖かくしてやるぞ」
「行くよママ!火炎斬プチ!」
「絶対防壁!海風完全遮断だ!」
セイレーンと肌が触れ合う。寒さは感じない。
「ケインさん・・来てください」
セイレーンは顔を赤く染め、目をつぶった。男は、この状況で引く訳には行かない。俺は腹決めた。
セイレーンにキスを・・・・あれ?
「ねぇ様、機能停止です」
「ねぇ様、感極まって落ちました」
ルピとルカが、セイレーンを覗き込んだ。ブレーカーが落ちたようだ。
「やはり落ちたかだぞ?」
ブラボーキングが現れた。
「再起動は待つぞ。これをメモリに差し込むぞ。バーチャルHデーターだぞ。ケインと愛し合った記憶が埋め込まれるぞ」
それってインチキ?
「記憶って怖いぞ。機械族はデータが全てだぞ。こうしたデーターを植え付けるだけで、実際体験した気に成るぞ。反則だけど今回はこれで満足してもらうぞ」
これが狙いだったのか?
「人格を止められるのは機械族には恐怖だぞ。でも試験は必要だぞ。美味しい思いをしながら落ちるのが幸せだぞ」
「記憶があれば、ねぇさまは生きてゆけます」
「キスで落ちるねぇさまに、最後までは無理です」
ルピとルカは、アリスの策に協力した様だ。
「このままオート攻撃の試験をするぞ」
なんかアリスの掌の上で、コロコロされていた気分だった。




