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残念世界の残念勇者   作者: XT
82/96

ループワールド・勇者ケイン編 82

ゲートを使ってきたのは、王都から東にある草原だ。

ハイキングにゲートを使って良いか別にして、見晴らしの良い小高い丘の上は、風が心地よく・・と言うか寒い。

今は12月だ。あと1週間でクリスマスだ。


「季節の感覚が無かったぞ。ケインが戻って来たのが3月だぞ。なんだかんだで夏のイベントをやり忘れて、ループワールドに振り回された秋が過ぎ、気が付けば、冬、真っただ中だったぞ」

「はい。少し寒いですが、北から吹く風が心地いいです」

俺に抱き着いたティナは、幸せそうに言う。


「せっかく作ったお弁当だぞ。さっさと食べて帰るぞ。ハイキングはミスチョイスだったぞ」

だな。帰って温泉でも行こう。

「はい。賛成です。女神は基本薄着です。長く居ると肺炎になります」

アリスはシートを広げると、弁当を広げた。


唐揚げからサンドイッチ、タコさんウィンナー。俺の大好物の肉じゃがも忘れていない。俺はサンドイッチを食べながら、肉じゃがを口にした。

「う・・旨い」

思わず口に出る旨さ。アリスは料理の天才だ。


  

  「あら美味しそう。頂くわ」

ふいに背後から手が伸び、唐揚げを摘まむ。


背筋が凍り付く感じ。恐ろしいほどの殺気。俺達は飛びのき、振り返る。

ショートカットの美女。雰囲気はセシルと似ていたが、明らかに違うものがある。

笑顔の中から、強い殺気が滲み出ている。


  

  「あら美味しい。これもいいかしら?」

俺たちの動きに構うことなく、唐揚げを食べ、肉じゃがに手を伸ばす謎の美女。

アリスとティナは、俺に前に立ち構えた。


  「これ、貴女が作ったの?」

笑顔だが、眼光は鋭い。

「何者だぞ?なんの用だぞ?」

アリスが問う。

  「聞いているのは私。これは貴女が作ったの?」

ゆっくりとした口調。だが、一言一言に乗せられた恐怖で、アリスの膝は震えていた。


「・・そうだぞ。私が作った料理だぞ。答えたぞ、今度はそっちが答える番だぞ」

  「そう。貴女は料理がお上手なのね。気に入ったわ」

謎の美女が立ち上がる。

俺達の後ろに、牛人が多数現れた。魔族だ。

牛の顔を持ち、3mはある体。手には俺の背丈ほどある斧を持っていた。


  「私はウリエル。魔界の王、サタン様に仕える四天王の一人。

    あなた達の持つ、天空の鍵と命を貰いに・・・・」

言い終わる前にアリスが動く

「絶対零度だぞ!」

至近距離からの絶対零度。しかも無防備に受けた。

「あら、寒い」

ウリエルは凍り付くどころか、微塵のダメージすら受けていない。


「料理だけではないのね。下界民にしては、強力な魔法を使うのね」

ウリエルは余裕を見せる。

「ケイン、逃げるぞ。私たちが時間を稼ぐから、逃げるぞ」

アリスの泣き出しそうな声。圧倒的な戦力差を悟っていた。

「ケインさん、逃げてください」

ティナも戦う事を諦めていた。


「あなた、お名前は?」

ウリエルは、タコさんウィンナーを口にしながら問う。

「アリスだぞ。ケインの妻のアリスだぞ」

「ティナです。ケインさんのお嫁さんになります」

この状況でも、俺の妻と嫁を強調する2人が凄いと思った。


「そう、アリス。いい名前ね。貴女は殺さないであげる。私に美味しいお料理を作って頂戴」

こいつ、何を言い出すかと思えば・・。

「お断りだぞ。ケインたちを殺したら、私も自害するぞ。死んだら料理は作れないぞ」

アリス的には当然の回答だ。


「あら、困ったわ」

ウリエルは本当に困ったように見える。

  

  「何を手間をかけている」

ウリエルの横に表れたのは、黒い布に全身を包んだ男。

とんでもない邪気を放っていた。


  「牛人共よ!さっさと片付けろ!」

悩むウリエルの横で、俺たちの後ろに居た牛人たちに、指示を飛ばした。


襲い掛かってくる牛人達。が、俺たちに攻撃することは無かった。

体が細切れになり、一瞬で肉の塊と化す。

  「ウリエル!貴様!」

やったのはウリエルだった。

「今、話の最中なの。邪魔するのなら、ドーマ・・貴方も」

ウリエルに睨まれたドーマと呼ばれた男は、2、3歩後ずさりした。


「裏切ると言うのか?」

ウリエルは俺たちの方へ歩きだす。

「私はね、美味しいものが食べたいの。ゴミを食べて生き長らえるより、数回でも良いから、美味い食事をして死にたいの」

アリスの横に来ると、アリスの肩に手を当て、振り返る。


「私は何度もお願いしたわ。サタン食堂の改善と、料理の品質向上を。でも、聞き入れてもらえない。あんなゴミを食べる位なら、アリスの作った物を食べて死ぬわ!」

会話が理解出来ない。言葉は分かるが、意図が全く不明だ。


「あなたのチームに入るわ。だから美味しいものを作って頂戴」

ウリエルはアリスの耳元で囁く。

「いいぞ。仲間に成るなら、いくらでも作るぞ」

よくわからない契約が成立した。


「でも天空の鍵だけは渡して。これは私が受けた仕事。仕事は約束。約束はきちんと果たさないと、だから」

よくわからないが、ここは素直に渡すべきだ。今はニノ三ノの言っている場合ではない。

俺はウリエルに天空の鍵を渡した。


「これを持って帰りなさい。そして私の退職手続きをするの」

ウリエルは、ドーマに向かって鍵を投げる。

「貴様・・・ただで済むと思うな」

鍵を手にすると、負け犬が良く使う言葉を残し消えた。



「本当に仲間に成ってくれるのですか?」

ティナに先を越された。

「ええ、だって仕方ないでしょ。あなた達を殺したら、アリスも死ぬって言うのだから」

四天王の座を捨ててまで、することなのか?


「さっきも言ったわ。私は美味しいものが食べたいの。たとえそれが数回でも、美味しいものが食べられるのなら、命と引き換えにする価値があるのよ」

価値観が理解できない。

「数回と言わず、延々と食わせてやるぞ。だから私たちを守るぞ」

意味不明な奴だが、仕事や約束を重んじることは分かる。

アリスの言葉は、言質を取る為の物だ。


「そうしたけどね・・・無理な話」

やはりこの場限りの話か?

「サタンの四天王、今は三天王だけど、私一人では勝てる相手ではないわ。次に攻めてこられたら、私もおしまい。だから言ったでしょ。数回の食事だって」

こいつ・・・マジで数回の食事の為に?


「それは、遣ってみなければ分からないぞ。私たちのチームなら勝てるぞ」

「はい。歴代6位の勇者チームの実力は、伊達ではありません」

ウリエルは笑い出す。

「あははは・・あ・・ごめんなさいね。でも、おかしい。私に勝てる気がした?」

一言で納得だ。ウリエル相手に勝てる気がしない俺達が、3人相手にできるはずがない。


「私は早く、美味しいものが食べたいわ」

命より食い気だ。いったん戻ろう。対策は戻ってからだ。

「はい。では神の加護、ゲートです」

ティナのゲートで王宮まで戻った。

アリスは全員に招集をかける。別行動中のパルムとセシル、アリッサも、呼び戻した。



「と言う訳だぞ。仲間に成ったウリエルだぞ」

「よろしくね」

アリスの作ったスパゲッティーを食べながら、軽く手を振るウリエル。

「信じられないけど、本心よ」

心を読んだピーが口にした。

「仲間増えるのは良い。でもケインに手を出したら、噛みちぎる」

どこをだ?

「強い方が仲間に成るのは良いことですわ。これも婿殿の人間性と言うモノですわ」

アリスの料理力だ。


皆は、一様に複雑な顔つきだが、ピーが言うように本心からだから、問題はない。


「仲間に成った以上、教えてもらうぞ。サタンの狙いは何だぞ?仲間の情報もよこすぞ」

アリスが早速情報収集に出る。

「ダメよ。いくら仲間に成ったと言っても、私には守秘義務があるわ。仲間の情報は渡せないわ」

ウリエルは、スパゲッティーを食べ終え、口をナプキンで拭きながら答えた。

「美味しいスープでも作ろうかだぞ?口が滑るほど美味しいのだぞ」

アリスのたくらみ顔。

「頂くわ。私の雇い主はサタン。魔界の3大勢力の一つを牛耳る魔族よ」

食い物で仲間を売りやがった。


「サタンの幹部は3人。情報収集と暗殺が得意な影使いのドーマ。流れ者剣士のギムと、繰り魔法使いの花魁、鬼奴よ」

アリスがスープを持って来た。

「サラダも食べるかだぞ?」

「頂くわ。狙いは聖杯と起源の水」

喋る喋る。料理につられて、なんでも喋りそうだ。

が、待てよ。

「狙いは聖杯なら、なんで天空の鍵を?」

「あら?知らないの?天空の鍵が無いと、聖杯は手に入らないのよ」

???


「ケイン、ちゃんと言っておくわ」

ピーが割って入った。

「ドワーフやポセイドン同様に、私も2本の鍵を守っているの」

「天空の鍵はピーが?」

「天空の鍵は、聖杯と起源の水に辿り着くために、下界に放たれた鍵なのよ」

「それで1本をパルムたちが持っていたかだぞ」

「天空の鍵を使って天空の扉を開く。中では聖剣が神殿への入り口を守っているわ。それが聖剣九重なの」


ピーの話だ。

聖杯と起源の水は、厳重に守られている。北と南の神殿で鍵を手に入れ、天空の鍵を使って天空の扉を開き、九重の試練をクリアして、初めてピーの天空神殿へとたどり着ける。

そして、天空の鍵は2本持っていないと、九重は試練を与えてはくれない。1本だと難癖をつけ、追い返されるそうだ。


「くそ!エクセレントに言われて九重の所へ行ったが、俺に与えられた試練は『へそで茶を沸かして見せろ』だった。無茶な試練は、1本しかもっていなかったからか」

パルム…行ったのか?

「そうね。九重は試練だけではなく、自分が気に入らないと協力してくれないわ。九重が主と認めないと、天空神殿には来られないのよ」

厳重なセキュリティーだ。


「でも、1本は取られちゃったぞ」

アリスはサラダの皿をテーブルの奥、ウリエルから遠い方に置きながら、ウリエルを見た。

「仕方ないわ。受けた仕事だもん。貴方達の殺害までやらなかったんだから許してよ」

両手にフォークを持ち、喰う気満々だ。


「ねぇパルム、あなたの天空の鍵を見せて頂戴」

ピーがパルムに言うと、パルムは頷き懐に手を入れる。

「!?ない?ないぞ!俺の・・・」

天空の鍵は、ピーの口ばしに挟まれていた。


「これが私の持つセキュリティー。私は何時でも鍵を手元に戻せるのよ。だから天空の鍵は、誰が所有していても放置していたのよ」

「あら・・・」

ウリエルが目を丸くした。

「じゃ盗られた鍵は?取り返せるのかだぞ?」

「ええ、いつでもね。でも今は取り返さない方がいいわ。取り返せば、必ずサタンの手下はくるわ」

ナイスだピー。いつでも取り返せるなら、権利として持っておくべきだ。

一番都合のいい時に取り返せばいい。


「でもサタンの本当の狙いは、聖杯ではないのよ。聖杯は邪魔をさせないために、手に入れたがっているだけ。どうしても欲しいわけではないわ」

なに?聖杯じゃない?だと?

「サタンの本当の目的はね。暗黒神ドザーグを復活させることよ」

ドザーグ?

ティナが口に手を当てたまま、しゃがみこんだ。

「ドザーグだと!?」

「あり得ないわ!」

パルムとセシルは知っているようだ。


「私も知っているわ。この世界の最強の暗黒神よ」

ピーの声は何時になく低かった。

「ドザーグは昔、魔界を滅ぼしかけました。そんなのを復活させたら・・」

ティナは絞り出すような声だった。

「サタンは制御できると思ってるのよ。自分のスキルでね」

ウリエルの言葉にピーが反応した。

「あれはダメよ。絶対にダメ」

何時も余裕のあるピーが、声を荒げた。


「偶然が重なって生まれた邪神なの。どんな魔法も物理攻撃も無効にし、超強力な攻撃・・・。倒せないわ。封印できたのは奇跡よ」

ピーは早口で言う。守護者する焦らせる、それほどまでの相手なのだろう。

「はい。魔界の総人口の半数を犠牲にして封印したと聞いています。しかも、偶然に近い幸運の元で、奇跡的な封印だったと」

ティナも付け加えたが、要は勝てない相手と言う事の様だ。

「あれはチートよ。創造主も想定していなかったチート」

運営がそれだと困るんだがな。


「なら簡単だぞ。そのドザーグとか言うのを復活させなければいいぞ」

その通りだ。サタンを倒せば済む話だ。

「それも無理ね」

ウリエルは笑いながら否定した。


「四天王も倒せない貴方達が、サタンを?無理な話ね。百歩譲って四天王を倒せても、サタンは無理」

会った時に、俺たちを見た目だ。冷たく感情にない冷酷な目。

「デザートを食べるかだぞ?」

「頂くわ」

食う時の目は可愛い。と言うかアリスが手なずけていることが分かった。


「サタンは殆ど攻撃魔法が使えないの。でも防御に特化した魔法を持っているし、弟と妹が、側で守っているわ。魔法が使えない代わりに、すごいスキルがあるのよ。『魂鷲掴み』『魂の嘆き』と言うスキルよ」

その二つのスキルが・・・。

「そう。無敵スキル。魂鷲掴みは、ドザーグを制御するつもりなので、私たちには使えないけど、魂の嘆きは、声を聞いた者の魂を砕くのよ。回避不可能。半径1Km以内に居る者は、例外なく死ぬわ」

即死スキルと言う奴か?


「なら聞かなければいいぞ。クラクションの音でかき消すぞ」

キカイダーで見た作戦だ。

「無理。それで防げたら三大勢力に居ないわ。防ぐ方法はないわ。例外なく魂を砕くわ」

なら、爆心地の中心に居るサタンもだな。

「そう。サタンの魂も半分以上砕け散るわ。魂の再生は500年掛かるのよ。前回使ったのが500年前。サタンは魂の嘆きが使えるようになる、この時期を待っていたのよ」

自分にもダメージを食らわせるとは・・・。


四天王だけでも厄介なのに、回避不可能の即死攻撃を持つサタンと、サタンを守る兄弟。

しかし、放っておけば、ピーがチートと言う暗黒神が復活する。

どうしよう?

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