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残念世界の残念勇者   作者: XT
72/96

ループワールド・勇者ケイン編 72

「茶だけで良いぞ」

俺達は愛美さんに招かれ、和室に来ていた。

「粗茶です」

愛美さんは人数分の茶と、厚切りの羊羹を、俺たちの前に置く。

「ふん!」

羊羹が気に入らなかった閻魔は、吐き捨てた。

カッパの爺さんを思い出した。確か初めて会った時もこんな感じだった。


「で?聞きたいとはなんだ?答えてやるから、さっさと聞いたら帰れ」

閻魔は、嫌悪感を丸出しだ。

「この羊羹美味しいぞ。どこ産だぞ?答えると言うから聞いたぞ」

それ、今聞くか?

「俺は勇者が嫌いだ。女神からスキルを授かり、いかにも自分の力です、的な使い方をしやがる。女神の加護に胡坐をかいていやがる」

ごもっとも。女神あっての下界だし勇者だ。

「ならケインは嫌われないぞ」

でも、俺もティナ有っての俺だからなぁ。女神に頼っているのは確かだ。

「ケインは勇者スキルなんかに頼らない勇者だぞ」

閻魔がちょっと驚いたようだ。


「どういう事だ?勇者スキルに頼らない勇者など、いるものか」

「いや、頼らないという意味なら、俺は頼らない。なんせ使えない」

「なんだと?勇者が勇者スキルを使わずに、魔王を3体も倒したというのか?」

「ああ、俺のチームはみんな優秀だ。俺は何もしてないさ」

「謙遜だぞ。ケインが居なかったら、魔王は倒せないし、私たちは生きていないぞ」

「はい。ケインさんはアリスさん達のように、ガンガン前には出ません。後ろで相手の弱みを探して、姑息に弱点を突く卑怯な勇者さんです」

それ、褒めてない。


「俺が聞きたかったのは、そのことだ。俺のレベルはマイナスなんだ。このままではスキルも技も使えない。何かプラスになる方法は無いか?知っていたら教えてくれ」

俺は、少し下がり、正座したまま頭を下げた。

いわゆる土下座だ。

「本当だ・・こいつレベルがマイナスだ・・・」

「何か方法は無いか?」

「・・確か昔、一人だけいたな。そいつにも相談されたが、どうにもならないかった」

くそ!だめか?

「だが、気にしない事だ。むしろ、このままレベル上げに励むがいい」

気にするなだと?さらに下げろと?

「貴様のマイナスレベルは、ありえない状態にある。存在しつつ、存在を否定している状態だ。だが、いずれそれが、お前の力となる」

なんだそれは?

「分からないぞ。どこぞの占い師でも言えそうなことだぞ。もっとわかりやすく言うぞ」

「いや、俺にも詳しくは分からん。だが、お前の魂がそう伝えて来た」

俺の魂が?だと?

「ああ、『このまま下げ続けてくれ』とな」

???


「父は仕事柄、魂の声が聞こえます。魂は嘘が付けません」

俺の魂は、マイナスの状態を良しとしているのか?

「確かに勇者スキルは使えないが、今さら下がったとしても困りはせんだろ。呪いではないのだからな」

まぁ、そうだが…いつまでたっても、俺はレベル1の技しか使えない。

が、俺の魂が望んでいるなら・・・

「分かった。プラス回復は、とりあえず諦めよう。聞きたいことはもう一つある」

露骨に嫌な顔をされた。


「トカゲに襲われたぞ。理由が分からないぞ」

「トカゲだと?トカゲ族か?」

「30万ほどで攻めて来た。獣都と言う、ケダモノの街が襲われたんだ」

「我が獣都に有る宝は、俺の嫁、ターナだけだ。後はゴミしかない」

「襲われる理由、分からない」

「きっとターナさんが欲しかったんだよ。最近売り出し中の似非女神だから」

閻魔も首を傾げた。


「もしかして、これではないですか?」

愛美さんが、スマホの画面を見せてくれた。

「これ!天空の鍵だぞ」

ああ、確か、う魔族の奴が、いいねが欲しいからと、写メ撮らせてやったんだ。

「馬鹿か?お前馬鹿だろう?こんな高価なアイテムを、私が持っていますと、言いっているようなものだ」

う!確かにだ。返す言葉が無い。

「でも、ここにはケインの名前が無いぞ。鍵しか載せてないぞ」

「この前の記事です。『カモミールの勇者が、女神の痔を治すために(ティナ)ボラギノー草園に来た。ひひ~~ん』とあります」

くそ!あいつら個人情報漏らしやがって!

「まぁ、馬族は気は良いが、あまり深くは考えないからな。お前の不注意だ」

言い返せん・・・。


「普通はこんな記事、信用せん。が、バカは別だ」

トカゲ・・馬鹿だよな。

「馬族へはワシから伝えてやる。偽物でした位を付け加えれば、トカゲ族も手を出すまい」

ああ、頼む。

「よし、用事は済んだな。さぁ帰れ」

マジで嫌ってるのか?

「待ってください。私は勇者様とお話がしたいです。ティナ様に天界の事もお聞きしたいですし」

「ダメだ。ここは天界や下界の者が居ていい場所ではない。用事が済んだら帰るんだ」

「お父様、嫌い!」

「ヴぇぇ!」

愛美さんがすねた。

それを見て即反応した閻魔。

「だいたいお父様は仕事ばかりで、私を構ってくれません」

「それは仕事だから・・・仕方ないだろう。ワシは下界の亡者を、地獄か天国か振り分けねばならん」

やはり閻魔はそういう仕事か。

「嘘!ここ数100年、お父様は「お前地獄」「お前も地獄」「はい。地獄」としか言っていません。皆さん地獄送りなら、部下に任せてもいいはずです」

口をとんがらせた愛美さん、髪の色は違うが、口調とかもティナに似てる気がする。


「ケインさん、どう思いますか?」

俺に振る?

「仲がいいぞ」

「はい。仲のいい親子に見えます」

「カモミールは基本、父親不在だぞ。1人で多くの子を作るから、父親は子育てに関与しないぞ。だから、パパとの会話はないぞ。うらやましいぞ」

アリスは野良犬が父親だから、父との会話は未体験だ。

「うちもです。母は恋多き女です。姉や妹も、全員父親は別々で、私も父に会ったことはありません」

ティナもだったか?


「父親と口喧嘩が出来るって、うらやましいぞ」

「はい。愛美さんは、幸せです」

「だから、もっとやれ」

・・・俺は・・前世のだが両親が居た。俺は幸せなんだな。

「と言う事です。お父様、もっと愛美を構ってください」

「はい。善処します」

閻魔が丸くなった。娘に弱いな。父親なら当然か。

「では愛美は、これからケインさん達とお話をします。宜しいですね?」

「はい。ごゆるりと」

アリスとターナが舐めるような笑顔になった。



愛美さんを交えて、アリス達の会話は弾んでいた。

「おい、勇者。ちょっといいか?」

そこに閻魔が来て、俺を庭に連れ出した。


「用件は2つだ。他に知られたくない」

???

「黒い羽。何枚持っている?」

!?

「エクセレントから聞かれたが、ごまかした。あれは笑いごとに成らん代物だ」

「良いのか?俺に言って」

閻魔の顔は真面目だった。これは冗談の類ではない。あの黒い羽は、何か重要なアイテムだ。


「何枚持っている?」

「7枚だ。だが全て天界にある」

「7・・か」

「数が意味を成すのか?あれはなんだ?」

「24枚集めないと意味がない。だが、いずれは狙われるかもしれん。・・・何かは、知らん方がいい」

言う気はない様だ・・が、こいつは、あれが何か知っている。

そして、閻魔が気にするほどの代物だ。


「もう一つ。どこまで知っている?」

???

「何をだ?」

俺の顔を睨みつける閻魔。

「知らんのか?」

「知っているかもしれないが、知らんかもしれない。なにがか分からないと答えようが無い」

「ならいい」

なんだ?

閻魔は何も言わずに去って行った。


黒い羽の事、閻魔が確認したかったこと。

俺には、何も分からなかった。



「そろそろ帰るぞ。皆が待っているぞ」

アリスの言葉に、少し寂しそうな顔をした愛美。

「また来るぞ。愛美ちゃんが来てもいいぞ」

「はい。大歓迎です。薄汚れた下界も、たまにはいいものです」

自分が守護する世界を、薄汚れたと言い放つ女神。

「是非!今度お邪魔します」

横に居た閻魔は、いい顔をしなかった。


俺達はカモミールへと戻る。

結局何も分からず仕舞いだが、帰りに閻魔がアイテムをくれた。

対トカゲ兵器だそうだ。

「ゲートホイホイ」

名前はふざけているが、効果は絶大だ。

開いたゲートに使うと、中が粘着質で覆われ、動きが取れなくなる。

ゲートが閉じると元居た世界に戻るだけだが、侵入は防げる。

閻魔自作の(特許申請中)アイテムらしい。


「これもお土産に貰って来たぞ。もちろん内緒でだぞ」

アリスがビニールの袋に入れた茶碗を出した。

「茶碗?パクッてまで欲しかったのか?」

「欲しいのは閻魔のDNAだぞ。ちょっと確認したいことが有るぞ。レナに解析させるぞ」

科学捜査班みたいなことを言い出した。

俺は考えるを纏める為に、部屋で休むことにした。




ーーーーパルスの家ーーーー

「お答えします。貴方達の勝率は0%です」

意識を止められたパルスは、単なる機械人形だった。

「くそ!このポンコツ軍師!私たちには勝ち目はないと言うのか?」

リリス達は、パルスの演算機能を利用して、勝てる策をパルスに求めさせていた。

「このポンコツさ、性能だけは良いから、勝つ手はないのかもね」

ギルバは諦め気味だ。

「何かある、これだけの情報を持って、手がないはずがない」

諦めきれないリリスは、パルスに問う。

「私たちの勝利に必要なものはなんだ?何があれば勝てる?」

「検索中・・・検索中・・・・」

パルスは答えを探す。

「解。計画性と、資金。知恵です」

リリス達には、全部ない。


「このままではじり貧だ。いずれここも見つかるだろう」

「僕さ、思うんだけど。ここは神頼みかな?」

ギルバは祈りだした。

ーーーーーーーーーーーーーー




「ケイン君~遊びましょ!」

「坊主~遊ぼうよ!」

あいつ等が来た。今時そんな誘い方はしないって。


「まぁまぁ、よくいらしましたわ」

「おじいちゃん、おばぁちゃん!アリッサ、会えてうれしいよ」

随分と友好的な二人だ。

「当然ですわ。娘の旦那様の親ですわ。男の知り合いが沢山いる世界からの、親戚訪問ですわ」

「当然だよ。祖母も祖父も、孫には弱いんだよ。おねだりすれば、何でも手に入るよ」

一般的な対応だが、下心が見え隠れしていた。


「今日はお願いがあって来たのよ」

「俺たちに、子供との思い出を作らせてくれ」

セシルは、アリッサにラッピングされた大きな包みを渡す。

パルムは、アドレス帳と書かれたノートを、アイリスに渡す。

将を射んとする者は、まず馬を射よ…周りから攻めて来た。

・・・こいつら、色々分かっていやがる。


「あら?アリスちゃんはお留守なの?」

「二号の女神も居ないな?」

アリスは、用事で出かけている。ティナはエクセレントに用事で、天界に戻った。

「そう、残念。アリスちゃんにもお土産で、フリスビーを持って来たのよ」

犬扱いか?

「二号には、力が付くようにダンベルを持って来た。技の1号、力の2号だからな」

ライダーか?


「坊主、まずは俺の願いをかなえてくれ。父子と言えば、キャッチボールだ。俺の夢は、親子でキャッチボールをすることだ」

ほぉ。随分まともだな。OKだ。

「私は、おむつを替えたり、授乳する事よ」

帰れ。

「ちょ!パルムはOKで、なんで私の母としての夢はダメなのよ!」

キャッチボールと授乳を同列に考えるな。NOだ。

「坊主、恥ずかしがるな。セシルのおむつ替えは上手いぞ。母乳も最高に旨い」

おい、なぜ知ってる?

「パルムのおむつも、毎晩交換してあげてるのよ。授乳だって・・・ねぇ、あ・な・た」

赤ちゃんプレイかよ!?


「ドン引きです!今、姉から聞いてきました」

ティナだ。

「パルムさん、姉に赤ちゃんプレイを要求したようですね!それでチームが解散に成ったって聞きました」

解散の理由、それなのか?勇者としての考え方の違いだって言っていたよな?

「勇者と担当は一身一体だ。俺のおむつが交換できないような担当は、担当ではない!」

おい。

「私はケインさんのおむつの交換位出来ます!喜んでやります。むしろウエルカムです」

「ほら坊や、女神もおむつの交換はOKよ。私にも、やらせてくれるわよね」

待て待て、おむつの交換は、人生の最初と最後の方だけだ。


「話は聞いたぞ!ケインのおむつ位、私だって交換してやるぞ。今は嫁の仕事だぞ。姑の出番はないぞ」

アリスが戻って来た。ややっこしくなった。

「良し!お前らは、おむつ交換3者会談をやっていろ。俺は坊主とキャッチボールだ」

ナイスだパルム。俺はパルムと庭へ出た。



「この前の話だが・・」

俺はパルムの投げるボールを受けては投げ返す。

「ああ、正直、心が揺れた。まさかお前から誘われるとは、考えていなかった」

「やはりダメか?」

「ノスには、恩があると言ったはずだ」

「それって大事な事なのか?」

俺の投げたボールを受け取ると、パルムは動作を止めた。

「大事なのは内容ではない。約束という事実だ。それに、何事にも代えがたい恩・・お前を探し出してもらった」

俺の事か?

「俺たちは契約時に、お前を探すこと、そして、何より優先でお前の対応に当たることを約束してもらった。見つかった際は、どんな仕事より優先でお前に会う。わかるか?これがどれほど、ノスにとってマイナスな条件か?」

聖剣が見つかっても、俺が優先・・と言う事だな。タイミング次第では、大事に成る。

「奴は、約束を守った。お前を探し出してくれた。俺は奴との約束を破るつもりはない」

パルムはボールを投げよこした。


パルム達が来てくれたら理想だ。だが、約束を破れとは言えない。

この話は此処までだ。

「お前が説得しろ」

「なに?説得だと?」

ボールは互いの意思を乗せて、相手に届く。

「奴は気が付いていないが、奴が欲しいのは勇者ケインではない。ケインと言う名の男だ」

???

「奴はお前に魅かれている」

俺にか?

パルムは話し出した。



「ノスは魔族だ。だが、魔力を持たなかったせいで、ずいぶん苦労した。お前がした苦労のようにな。

自分を曲げず、のし上がった姿、そこに自分を重ね合わせたんだ。

ノスが欲しいのは、勇者としてのお前ではない。お前と言う人間性だ。だから説得しろ。そして自分の力でノスを仲間にして見せろ」

そうか、ノスフェラトゥが仲間に成れば、パルム達は・・・

「俺はお前のチームに行くことが出来る」

「分かった。やってみる」

「お前と真剣に話したい、と言っていた。近々来るはずだ。正面からぶつかり合って、腹の内を晒し会え。お前たちが向いている方向は同じだ」

ノスが俺と・・・

「あまり期待しないでくれよ。俺は正攻法の策は苦手だからな」

俺達は、王宮に戻る。


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