ループワールド・勇者ケイン編 73
「婿殿のおむつは、娘の母である私の担当ですわ」
「パパのお世話は娘の義務だよ」
厄介なのが、増えてる。
「違うぞ。ケインの妻の仕事だぞ」
「これから妻に成る女神の仕事です」
「ママの仕事よ」
俺自身は全面拒否だが、これって収集着くのか?
「困ったね。話は平行線だ」
って、なんでノスが、おむつ会談に参加している?
「やぁ、ケイン君。君と話がしたくて来たんだが、随分難しい問題が起こってるね」
近々って数分単位の話だったのか?
「こうしよう。この問題は、すぐに解決するのは不可能だ。それぞれの意見や立場が微妙すぎる。公平な第3者委員会を設立して、意見を纏めさせた上で、再度会議を開こう」
第3者委員会だと?
「いいぞ。賛成だぞ」
「良いですわ。望む所ですわ」
「分かったよ。公平だよね」
「ここはノスに任せるわ」
「はい。揉めた時は第3者委員会です」
おむつで話がデカくなりすぎだが、いったん収まったのは助かった。
「ケイン君、君も知っているように、私は君が欲しい。直接交渉に来たよ」
望むところだ。
俺はノスフェラトゥと別室に来た。
アリスと俺、ノスフェラトゥだけで話し合う。
「ノスフェラトゥ、分かっていると思うが、俺は金では動かない」
「ああ、理解している。君を説得するには、私の信念で動かすしかないとね。それから、私はノスと呼んでもらえるかな?」
「分かった、ノスと呼ばせてもらう。ではあんたの信念、聞かせてもらおう」
テーブルを挟み、正面に座った俺とノス。俺の横にアリス。
俺獲得会議が始まる。
「君たちは女神と仲が良いが、私は女神を信用はしていない。そして、この世界は、女神の加護なしでは成り立たない」
「言っていることに整合性が無いぞ」
「あはは。その通りだね。女神が下界の加護を止めれば、下界は滅ぶ。女神は使命感から加護をしているだけで、いつ加護が打ち切られても不思議ではない。
下界が無くても、女神は困ったりはしないからね。故に、今受けている加護には、確証がない。だから私は女神を信じていないのだよ」
その通りだ。女神は使命感だけで下界を導いている。ノスの言うように、女神が今後も庇護してくれる確証は、実はどこにもない。
「私は天界の加護なしでも、自分たちで戦える力が欲しい。だから強力なアイテムを探し、手持ちにしている。私はこの世界を守りたいのだよ、ケイン君」
正論だ。自分たちでできる事は、自分たちでやる。
出来ない事を、助けてもらう。これは、紛れもない正論だ。
だが、違う。正論でも正しいとは限らない。
「女神は俺たちの世界を守ってくれている。これは歴史が証明していることで、過去の歴史からも分かることだ。女神が俺たちを裏切ったことはない」
「裏切られてからでは遅いのだよ」
「裏切られる心配をしながら付き合うのでは、信頼関係は築けない」
「裏切られる時の準備が必要だと言っているのだよ」
「仲間を信用しないで何が出来る!?」
「女神を仲間と思ったことはない!」
「仲間だ!共にこの世界で生きていく、助け合う仲間達だ!」
「違う!私たちはペットだ。飼われて、生されているだけだ!!」
ダン!っとテーブルに強く手を置く。アリスだ。
「お茶にするぞ。美味しいお茶を入れて来るぞ」
笑顔のアリスは部屋を出て行った。
ノスはネクタイを緩めながら言う。
「いい奥さんだね」
ああ、熱く成った俺たちを、止めてくれた。
「私は裏切られ続けて来た。商売上の事でもあるが、何度も信用した仲間に、苦が湯を飲まされたよ」
「俺もだ。俺はカモミールでアリス達に出会わなかったらと考えると、ぞっとしている」
「そして私は考えたんだ。なんで信用しているのに裏切られるのか、とね。答えは簡単だった。人は裏切る生き物だと分かったのさ。だから私は、裏切られることを前提に、人と付き合う事にしたんだ」
「俺も考えたよ。答えはあんたとは違う。俺に力がないから、付いてきてもらえない。俺に力があれば、裏切られることはない。俺自身が弱いのが理由だと分かった。だから俺は強くなることを考えた」
少しの間、静寂が俺たちを包んだ。
「・・・・君は強いな」
「・・・」
「裏切られた理由を、人に押し付けた私と、自分で背負った君とでは、だれが聞いても私に分はないよ。私は天辺に立つ器ではないようだ」
「器は・・・・考えだけで決まるものではない。あんたには、商才もある。それに、パル・・・いや、俺の親との約束を守るだけのデカさもある」
「商人は信用が大事だからね。裏切られる覚悟はしておいても、自分から裏切らないと決めていたからさ」
「お待たせだぞ。お茶だぞ」
アリスが戻って来た。お茶は少し冷めていた。
ドアの前で、話が一段落するのを待っていたのだろう。
俺の嫁は、何処までも気遣いが出来る、出来た女だ。
「ノス、俺のチームへ来い。共に平穏な世界を作ろう」
「私と君は道は違えど、同じ方向を向いている。だが、君が目指す先は理想だ。理想を目指す力が君たちにあるか?君の言葉が真実か?証明してほしい」
「証明だと?」
「この場でパルム達と戦うんだ。君たちが勝てば、私は君の言葉を信用しよう。全力のパルム達に勝てる力を持ち、パルムが私を裏切らないことの証明をしてもらえるかな?」
パラドックスだ。
パルムは俺と組みたがっている。故に勝ちには来ない。
だが、全力で戦わないと言う事は、ノスを裏切ることに成る。
全力のパルム相手では、俺たちは勝てない。
これは俺たちにとってパラドックスだ。
「いいぞ。受けて立つぞ」
アリス?
「準備と作戦を立てる時間は3時間でいいかな?」
「いいぞ。3時間後に王都の海岸線で待ってるぞ」
アリスには策があるのか?
「ケイン君、私の蟠りだが、許してほしい」
ノスは出て行った。
「ケイン、時間がないぞ。策を立てるぞ」
アリスに考えがあったのではないのか?
「ないぞ。私では勝てる策は考えられないぞ。考えられるのはケインしかいないぞ。このチャンスを逃がせば、ノスとの共闘はないぞ。ここが勝負所だぞ」
そうだな。張著したり、断ったりするのは大愚策だ。
流石は俺の奥さんだ。勝負どころを見極めている。
ここは無理やりでも、卑怯な手でも、なんでも使って勝ちに行くところだ。
アリスがメンバーを集めてくれる。俺は全力のパルム達に勝つ方法を考える。
ーーーーリリス達ーーーー
「おいギルバ、何か感じないか?」
リリスが祈り続けるギルバに言う。
「ん~~~~あれ?なんだろう?神の加護ではないけど、なんか神聖な力を感じるね」
2人が窓から外を覗く。遠くの森が光っていた。
「これは女神の物ではない。確認しに行くぞ」
「ぼくは残ろうかな?」
残らせてくれるはずがない。ギルバは引っ張り出された。
遠くの森は、魔都の方角だった。
リリスとギルバは身を潜めながら、光の方へと向かう
「これは?ゲート?」
「ゲートだね。でも女神の作ったゲートじゃないよ。こんな神聖なゲートは、作れないよ」
「入ってみよう」
「マジ?どこのだれが作ったゲートか分からないのに?何処に繋がってるかも不明なんだよ」
ギルバの意見はもっともだ。
「分かっている。だが、感じるんだ。この先に勝機があると」
「感?ただの感で、無茶したくないよ」
「行くぞ!覚悟を決めろ!」
嫌がるギルバを引っ張り、リリスはゲートへ飛び込んだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「坊主と戦えだと?」
「本気って、傭兵として戦えって事なの?」
ノスはパルム達に説明した。
「君たちには、済まないと思っている。だが、私にも信念がある。間違えている信念でも、それを支えに私は今を作った。私はケイン君を信じたい。信じたいとも思っているよ」
ノスは自分の出した条件の理不尽さを分かっていた。
「分かった。全力で戦おう」
「ちょ!パルム、本気なの?」
「俺は坊主と組みたい。だが、親として、簡単に坊主に超えられるわけにはいかない」
「なるほどね。そういう事。そういう事なのね」
「いずれ子は親を超える。今がその時なのか?俺は全力で相手をすることで、見極めたい」
「いいわ。やりましょう。ノスも裏切らない。坊やも裏切らない。いいわそれ!」
ノスは少し不思議そうな顔をした。
手を抜けばノスを裏切ることに成る。そして全力を出せば、組みたいと思っているケインを裏切ることに成る。
どちらも裏切らないと言う、2人の言い分が理解できなかった。
「分からないか?ノス?全力で戦うと言う事は、坊主を裏切ることと考えているのか?」
「それ、間違えよ。手抜きでもしたら、それこそあの子は怒るわ」
「坊主には一度、俺たちの本気を見せている。一度見た強さに、何の策も立てないでいるほど弱いやつではない」
今の言葉でノスも理解した。
「驚いたよ。そんな考え方、私にはできなかったな・・・」
「この負けられない戦いで、坊主は俺たちを超えてくれる。俺はあいつを信じる」
「親が子を信じられないはずないわ。だからこそ、全力で叩き潰すの」
パルム、セシル共に気迫が漲っていた。
裏切りと言う行為は、信用できないから起こる現象だ。
パルムとセシルはケインを信じていた。
「随分長く生きて来たけど、私は今後、ケイン君から多くの事を学ぶことになりそうだね」
部屋に居た秘書のレイラが、小さく舌打ちをし、部屋から出て行った。
「全員よく聞くぞ。この戦いは絶対に負けられない戦いだぞ」
「だが、相手はケインパパとママだ。きっと手を抜いてくれる」
「そうよ。ケインと組みたいはずよ。負ければ組める。簡単だわ」
レナとセレスは理解していなかった。
「レナさん、セレスさん、甘いですわ。婿殿が手抜きで勝てて、うれしがると思いますか?」
「パパは怒るよ」
「考えを改めるぞ。そんな考えだと、ぼろ負けするぞ。策はケインが考えてるぞ。全員気合いを入れておくぞ」
「でもさ~前回の負け方さ~酷かったよね~」
「はい。ぼろ負けでした」
「前回は策が無かったのと、敵の戦力を見誤ったせいだぞ。今回は敵の戦力を知ってるぞ。それに私の魔砲が進化した事と、絶対零度が3発まで撃てるようになったことを。パルム達は知らないぞ」
「その辺を軸に策を立てるのか?魔獣王としては正面からぶつかりたいところだがな」
「正面からぶん殴って死んだの誰だ?」
「兎に角だぞ、策はケインが立ててるぞ。今できる事は、気合いを入れるだけだぞ」
全員が静かに頷いた。
ーーーー天界ーーーーー
「あの方たちのしぶとさは、毎度の事ですね」
「申し訳ありません。私が居ながら逃がしてしまいました」
「気にすることはありません。もう大したことはできないはずです。ループワールドが発動すれば、リリス達も1200年前に戻るのです。・・・とはいえ、歴史再現のために見過ごしていますが、目障りですね」
「はい。次周回は必ず」
その次の周回が無いために動いてるのですよ・・と言いたげなヴィーナスだが、言葉は飲み込んだ。
「ケインさん達がパルムとガチります」
「この大事な時期に、大事は起こして欲しくはないのですが、ケインさんにとっては、重要な事なのでしょう。見守りましょう」
「はい。ティナとシータが現場に居ます」
「もうそれほど時間はありません。前兆が起これば、30日後にはループワールドの発動です。今は、アイリスさんを監視するように」
「はい。幸い捜査1係が付けたカメラがあります。監視は手抜かりなく行います」
「後は、私の降臨手配も、よろしくお願いします」
「早急に手配いたします」
ーーーーーーーーーーーーー
ーーーー魔界ーーーーーーー
「ドーマよ、例の情報はどうした?」
大魔王サタンに尋ねられたドーマは。片手に持った資料を読み上げる。
「女神解放戦線からの情報によりますと、カモミールに聖杯と起源の水が存在するとのことです。
所在などは不明で、ソースは現在逃亡中の女神、リリスとギルバからの物です。信頼性は現在確認中になります」
4本の手を持つ大魔王サタン。そのうちの1本を顎に当て言う。
「聖杯と起源の水。下っ端の女神が持つ情報にしては、大きすぎるな。ガセの気がするが」
「御意。確かに俄かには信じがたい話です。が、確認はしておいた方が良いかと」
「うむ。任せる。で、黒羽と鍵のほうはどうだ?」
「はい。我らの集めた11枚の他では、閻魔が3枚、そしてカモミールの勇者が7枚と鍵を所持しているのを確認できました。その7枚と鍵は天界にあります。残りの3枚に関しては、現在も捜索中です」
「また、カモミール・・・か。地獄の窯の蓋を開き、この世界をわが手にするためには、24枚と鍵を集めねばならん。探せ!3枚を探し出した後、奪え!」
「御意」
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黒い羽と鍵は、重要なアイテムだった。
カモミール。パルム戦30分前。ケインが策を伝えていた。




