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残念世界の残念勇者   作者: XT
73/96

ループワールド・勇者ケイン編 73

「婿殿のおむつは、娘の母である私の担当ですわ」

「パパのお世話は娘の義務だよ」

厄介なのが、増えてる。

「違うぞ。ケインの妻の仕事だぞ」

「これから妻に成る女神の仕事です」

「ママの仕事よ」

俺自身は全面拒否だが、これって収集着くのか?

「困ったね。話は平行線だ」

って、なんでノスが、おむつ会談に参加している?

「やぁ、ケイン君。君と話がしたくて来たんだが、随分難しい問題が起こってるね」

近々って数分単位の話だったのか?


「こうしよう。この問題は、すぐに解決するのは不可能だ。それぞれの意見や立場が微妙すぎる。公平な第3者委員会を設立して、意見を纏めさせた上で、再度会議を開こう」

第3者委員会だと?

「いいぞ。賛成だぞ」

「良いですわ。望む所ですわ」

「分かったよ。公平だよね」

「ここはノスに任せるわ」

「はい。揉めた時は第3者委員会です」

おむつで話がデカくなりすぎだが、いったん収まったのは助かった。

「ケイン君、君も知っているように、私は君が欲しい。直接交渉に来たよ」

望むところだ。



俺はノスフェラトゥと別室に来た。

アリスと俺、ノスフェラトゥだけで話し合う。

「ノスフェラトゥ、分かっていると思うが、俺は金では動かない」

「ああ、理解している。君を説得するには、私の信念で動かすしかないとね。それから、私はノスと呼んでもらえるかな?」

「分かった、ノスと呼ばせてもらう。ではあんたの信念、聞かせてもらおう」

テーブルを挟み、正面に座った俺とノス。俺の横にアリス。

俺獲得会議が始まる。



「君たちは女神と仲が良いが、私は女神を信用はしていない。そして、この世界は、女神の加護なしでは成り立たない」

「言っていることに整合性が無いぞ」

「あはは。その通りだね。女神が下界の加護を止めれば、下界は滅ぶ。女神は使命感から加護をしているだけで、いつ加護が打ち切られても不思議ではない。

下界が無くても、女神は困ったりはしないからね。故に、今受けている加護には、確証がない。だから私は女神を信じていないのだよ」

その通りだ。女神は使命感だけで下界を導いている。ノスの言うように、女神が今後も庇護してくれる確証は、実はどこにもない。


「私は天界の加護なしでも、自分たちで戦える力が欲しい。だから強力なアイテムを探し、手持ちにしている。私はこの世界を守りたいのだよ、ケイン君」

正論だ。自分たちでできる事は、自分たちでやる。

出来ない事を、助けてもらう。これは、紛れもない正論だ。

だが、違う。正論でも正しいとは限らない。

「女神は俺たちの世界を守ってくれている。これは歴史が証明していることで、過去の歴史からも分かることだ。女神が俺たちを裏切ったことはない」

「裏切られてからでは遅いのだよ」

「裏切られる心配をしながら付き合うのでは、信頼関係は築けない」

「裏切られる時の準備が必要だと言っているのだよ」

「仲間を信用しないで何が出来る!?」

「女神を仲間と思ったことはない!」

「仲間だ!共にこの世界で生きていく、助け合う仲間達だ!」

「違う!私たちはペットだ。飼われて、生されているだけだ!!」

ダン!っとテーブルに強く手を置く。アリスだ。

「お茶にするぞ。美味しいお茶を入れて来るぞ」

笑顔のアリスは部屋を出て行った。



ノスはネクタイを緩めながら言う。

「いい奥さんだね」

ああ、熱く成った俺たちを、止めてくれた。

「私は裏切られ続けて来た。商売上の事でもあるが、何度も信用した仲間に、苦が湯を飲まされたよ」

「俺もだ。俺はカモミールでアリス達に出会わなかったらと考えると、ぞっとしている」

「そして私は考えたんだ。なんで信用しているのに裏切られるのか、とね。答えは簡単だった。人は裏切る生き物だと分かったのさ。だから私は、裏切られることを前提に、人と付き合う事にしたんだ」

「俺も考えたよ。答えはあんたとは違う。俺に力がないから、付いてきてもらえない。俺に力があれば、裏切られることはない。俺自身が弱いのが理由だと分かった。だから俺は強くなることを考えた」

少しの間、静寂が俺たちを包んだ。


「・・・・君は強いな」

「・・・」

「裏切られた理由を、人に押し付けた私と、自分で背負った君とでは、だれが聞いても私に分はないよ。私は天辺に立つ器ではないようだ」

「器は・・・・考えだけで決まるものではない。あんたには、商才もある。それに、パル・・・いや、俺の親との約束を守るだけのデカさもある」

「商人は信用が大事だからね。裏切られる覚悟はしておいても、自分から裏切らないと決めていたからさ」

「お待たせだぞ。お茶だぞ」

アリスが戻って来た。お茶は少し冷めていた。

ドアの前で、話が一段落するのを待っていたのだろう。

俺の嫁は、何処までも気遣いが出来る、出来た女だ。


「ノス、俺のチームへ来い。共に平穏な世界を作ろう」

「私と君は道は違えど、同じ方向を向いている。だが、君が目指す先は理想だ。理想を目指す力が君たちにあるか?君の言葉が真実か?証明してほしい」

「証明だと?」

「この場でパルム達と戦うんだ。君たちが勝てば、私は君の言葉を信用しよう。全力のパルム達に勝てる力を持ち、パルムが私を裏切らないことの証明をしてもらえるかな?」

パラドックスだ。

パルムは俺と組みたがっている。故に勝ちには来ない。

だが、全力で戦わないと言う事は、ノスを裏切ることに成る。

全力のパルム相手では、俺たちは勝てない。

これは俺たちにとってパラドックスだ。

「いいぞ。受けて立つぞ」

アリス?

「準備と作戦を立てる時間は3時間でいいかな?」

「いいぞ。3時間後に王都の海岸線で待ってるぞ」

アリスには策があるのか?

「ケイン君、私の蟠りだが、許してほしい」

ノスは出て行った。


「ケイン、時間がないぞ。策を立てるぞ」

アリスに考えがあったのではないのか?

「ないぞ。私では勝てる策は考えられないぞ。考えられるのはケインしかいないぞ。このチャンスを逃がせば、ノスとの共闘はないぞ。ここが勝負所だぞ」

そうだな。張著したり、断ったりするのは大愚策だ。

流石は俺の奥さんだ。勝負どころを見極めている。

ここは無理やりでも、卑怯な手でも、なんでも使って勝ちに行くところだ。

アリスがメンバーを集めてくれる。俺は全力のパルム達に勝つ方法を考える。



ーーーーリリス達ーーーー

「おいギルバ、何か感じないか?」

リリスが祈り続けるギルバに言う。

「ん~~~~あれ?なんだろう?神の加護ではないけど、なんか神聖な力を感じるね」

2人が窓から外を覗く。遠くの森が光っていた。

「これは女神の物ではない。確認しに行くぞ」

「ぼくは残ろうかな?」

残らせてくれるはずがない。ギルバは引っ張り出された。


遠くの森は、魔都の方角だった。

リリスとギルバは身を潜めながら、光の方へと向かう


「これは?ゲート?」

「ゲートだね。でも女神の作ったゲートじゃないよ。こんな神聖なゲートは、作れないよ」

「入ってみよう」

「マジ?どこのだれが作ったゲートか分からないのに?何処に繋がってるかも不明なんだよ」

ギルバの意見はもっともだ。

「分かっている。だが、感じるんだ。この先に勝機があると」

「感?ただの感で、無茶したくないよ」

「行くぞ!覚悟を決めろ!」

嫌がるギルバを引っ張り、リリスはゲートへ飛び込んだ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「坊主と戦えだと?」

「本気って、傭兵として戦えって事なの?」

ノスはパルム達に説明した。

「君たちには、済まないと思っている。だが、私にも信念がある。間違えている信念でも、それを支えに私は今を作った。私はケイン君を信じたい。信じたいとも思っているよ」

ノスは自分の出した条件の理不尽さを分かっていた。

「分かった。全力で戦おう」

「ちょ!パルム、本気なの?」

「俺は坊主と組みたい。だが、親として、簡単に坊主に超えられるわけにはいかない」

「なるほどね。そういう事。そういう事なのね」

「いずれ子は親を超える。今がその時なのか?俺は全力で相手をすることで、見極めたい」

「いいわ。やりましょう。ノスも裏切らない。坊やも裏切らない。いいわそれ!」

ノスは少し不思議そうな顔をした。

手を抜けばノスを裏切ることに成る。そして全力を出せば、組みたいと思っているケインを裏切ることに成る。

どちらも裏切らないと言う、2人の言い分が理解できなかった。


「分からないか?ノス?全力で戦うと言う事は、坊主を裏切ることと考えているのか?」

「それ、間違えよ。手抜きでもしたら、それこそあの子は怒るわ」

「坊主には一度、俺たちの本気を見せている。一度見た強さに、何の策も立てないでいるほど弱いやつではない」

今の言葉でノスも理解した。

「驚いたよ。そんな考え方、私にはできなかったな・・・」

「この負けられない戦いで、坊主は俺たちを超えてくれる。俺はあいつを信じる」

「親が子を信じられないはずないわ。だからこそ、全力で叩き潰すの」

パルム、セシル共に気迫が漲っていた。

裏切りと言う行為は、信用できないから起こる現象だ。

パルムとセシルはケインを信じていた。

「随分長く生きて来たけど、私は今後、ケイン君から多くの事を学ぶことになりそうだね」

部屋に居た秘書のレイラが、小さく舌打ちをし、部屋から出て行った。



「全員よく聞くぞ。この戦いは絶対に負けられない戦いだぞ」

「だが、相手はケインパパとママだ。きっと手を抜いてくれる」

「そうよ。ケインと組みたいはずよ。負ければ組める。簡単だわ」

レナとセレスは理解していなかった。

「レナさん、セレスさん、甘いですわ。婿殿が手抜きで勝てて、うれしがると思いますか?」

「パパは怒るよ」

「考えを改めるぞ。そんな考えだと、ぼろ負けするぞ。策はケインが考えてるぞ。全員気合いを入れておくぞ」

「でもさ~前回の負け方さ~酷かったよね~」

「はい。ぼろ負けでした」

「前回は策が無かったのと、敵の戦力を見誤ったせいだぞ。今回は敵の戦力を知ってるぞ。それに私の魔砲が進化した事と、絶対零度が3発まで撃てるようになったことを。パルム達は知らないぞ」

「その辺を軸に策を立てるのか?魔獣王としては正面からぶつかりたいところだがな」

「正面からぶん殴って死んだの誰だ?」

「兎に角だぞ、策はケインが立ててるぞ。今できる事は、気合いを入れるだけだぞ」

全員が静かに頷いた。



ーーーー天界ーーーーー

「あの方たちのしぶとさは、毎度の事ですね」

「申し訳ありません。私が居ながら逃がしてしまいました」

「気にすることはありません。もう大したことはできないはずです。ループワールドが発動すれば、リリス達も1200年前に戻るのです。・・・とはいえ、歴史再現のために見過ごしていますが、目障りですね」

「はい。次周回は必ず」

その次の周回が無いために動いてるのですよ・・と言いたげなヴィーナスだが、言葉は飲み込んだ。


「ケインさん達がパルムとガチります」

「この大事な時期に、大事は起こして欲しくはないのですが、ケインさんにとっては、重要な事なのでしょう。見守りましょう」

「はい。ティナとシータが現場に居ます」

「もうそれほど時間はありません。前兆が起これば、30日後にはループワールドの発動です。今は、アイリスさんを監視するように」

「はい。幸い捜査1係が付けたカメラがあります。監視は手抜かりなく行います」

「後は、私の降臨手配も、よろしくお願いします」

「早急に手配いたします」

ーーーーーーーーーーーーー


ーーーー魔界ーーーーーーー

「ドーマよ、例の情報はどうした?」

大魔王サタンに尋ねられたドーマは。片手に持った資料を読み上げる。

「女神解放戦線からの情報によりますと、カモミールに聖杯と起源の水が存在するとのことです。

所在などは不明で、ソースは現在逃亡中の女神、リリスとギルバからの物です。信頼性は現在確認中になります」

4本の手を持つ大魔王サタン。そのうちの1本を顎に当て言う。

「聖杯と起源の水。下っ端の女神が持つ情報にしては、大きすぎるな。ガセの気がするが」

「御意。確かに俄かには信じがたい話です。が、確認はしておいた方が良いかと」

「うむ。任せる。で、黒羽と鍵のほうはどうだ?」

「はい。我らの集めた11枚の他では、閻魔が3枚、そしてカモミールの勇者が7枚と鍵を所持しているのを確認できました。その7枚と鍵は天界にあります。残りの3枚に関しては、現在も捜索中です」

「また、カモミール・・・か。地獄の窯の蓋を開き、この世界をわが手にするためには、24枚と鍵を集めねばならん。探せ!3枚を探し出した後、奪え!」

「御意」

ーーーーーーーーーーーーーーーー

黒い羽と鍵は、重要なアイテムだった。



カモミール。パルム戦30分前。ケインが策を伝えていた。


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