ループワールド・勇者ケイン編 71
獣都、魔獣たちの都。
「魔獣王ハウル様、トカゲの軍勢、約7万。間もなく獣都に達します」
グリス。ハウルの右腕の魔獣。鷹の顔にクマの体を持つ、見掛け倒し男。
「2時間前、東の海の海岸線より現れましてな。右往左往しておりましたが、小1時間前に、こちらに進路を向けよりました」
ミネルバは、魔獣軍の作戦参謀だ。
「凄い数だぞ。地べたが見えないぞ」
「あれは魔界のトカゲ族だ」
パルム、知っているのか?
「ええ、たいして強くはないけど、魔法耐性と数で押し切る、厄介な連中よ」
パルム達もついてきてくれた。心強さは半端ない。
「どうするぞ?陸の上ではセイレーンは使えないぞ」
ミドルレンジからの攻撃に成るな。獣都があるから、ハドロンは使えない。
「あの数だと~押し切られるかもね~」
「はい。今見たら、魔法耐性により、効果は約半減してしまいます」
迫りくるトカゲ軍団。もうあまり時間はない。
「壁を築き、進行を遮断。持てる火力で一斉攻撃だ」
パルムの案だ。王道の策だ。
たぶんそれで止められる。が、相手が7万だけならの話だ。
「ターナ、マオだけ集中パフだ。マオ!地面に毒を撒け!地べたを、広範囲に溶かすんだ」
「坊主?なにを?」
俺の戦い方を見せてやる。
「姑息勇者の戦い方だぞ」
マオが激激激パフされた。
「いくよぉ~毒水だよだよだよだよだよ~~~だよだよだよ~」
マオの放つ強毒水が、トカゲ軍の進路に撒かれた。
大地は煙と共に溶け出す。穴は広がり、次第に深くなる。
トカゲ軍は、それでも進行を止めない。穴の中に突っ込んできた。
「マオ!毒霧だ!敵に毒の霧を放て!」
「あいよ~~~毒霧だよだよだよだよだよ~」
マオの毒霧で、視界は遮られる。穴に向かい止まることはない。
足元は大地が溶け、底なし沼のようにぬかるんでいる。しかもそこは全て毒、足元は毒の中だ。
いくら耐性が強くても、マオの毒の中で、長くは生きられない。
足から溶け出すはずだ。奴らが、穴から抜け出ることはない。
「なるほど。これは楽だ」
「凄い毒ね。食らうとこうなるのね。骨まで溶けているわ」
2人にも放ったことはあるが、パルムの絶対防壁や、セシルの紫炎防壁に阻まれ、食らわせたことはない。
「ケイン、次の準備だぞ」
「ああ、敵の出鼻を挫く。ゲートが現れたら、アリッサの爆裂斬だ」
「次って?」
「あんたが言ったぞ。敵は数で押し切るって。7万が終わりとは限らないぞ」
「だから、魔法温存なの?そこまで考えていたの?」
「考え抜いた策を武器に戦う。これが俺たちの戦い方だ」
「ケインさん、ゲートです」
ティナがいち早く、反応を捕らえた。
「行けアリッサ!ゲートの中だ、向こう側ごと、ぶち壊せ」
アリッサは頷くと剣を抜いた。
「荒ぶる神々よ!全てを焼き尽くせ!魔法剣!爆裂斬!よ」
ゲートの中で爆裂斬がさく裂。向こう側も無事では済まない。
「これで迂闊にゲートは開けないぞ」
「これでは私たちの出番は無い様だな」
「そのようね」
近接戦闘には、ならないだろう。レナとセレスは出番なしだ。
「私も出番なさそうだぞ。これでも来たら、バカの集まりだぞ」
だな。
「ケインさん!ゲート反応です!3か所!穴の手前です」
馬鹿どもだな。
「パルム、力を貸してくれ」
「任せろ!永久凍土!氷河壁!」
「アイリス、氷河の上に氷壁展開だ」
「任せてですわ!氷魔法氷壁!」
壁が大分高くなった。これで時間が稼げる。
「セシル、攻撃は任せた。アリッサとマオを回復。ターナ急いでくれ」
俺が出す指示に、各自が的確に行動する。
アリスの絶対零度を温存のまま、戦いは終わった。
トカゲ族が、これ以上来ることはなかった。
「25万ほど倒したか?俺の策では、持ちこたえられなかったな」
「ええ、7万と思い込んだ時点で、私たちの作戦負けね」
パルムが俺に近寄り、右手を出した。
「勇者ケイン。やはりお前たちは強い。俺達の力任せの戦いとは違う」
「あなたは立派に成長している。嬉しい限りよ」
俺はパルムの出した手を握る。
「援助、感謝する」
「いいチームだぞ。パルム達が居れば、私たちはもっと強くなれるぞ」
アリスの言葉・・・そうだ!
「パルム、俺を誘っていたな?」
「来るのか?来てくれるのか?」
「坊や、大歓迎よ」
「いや違う。俺を誘ってくれたことは、評価の高さと思ってる。実際嬉しいよ。だけど、行くのではない。俺が誘ってるんだ。パルムチームが勇者チームに来いと」
「!?」
「・・・!」
2人が来れば、チームは強くなる。
「傭兵など止めて、もう一度勇者に成れ!勇者パルムとして、俺たちと共に戦おう」
「ははは・・・流石に心に響いたが、ダメだ。俺たちはノスに借りがある」
「人して、彼を裏切れないわ」
「・・・そうか」
パルム達は、戻って行った。俺たちも王都へと帰る。
『アリスの魔砲は、超進化した』
『アリッサの爆裂斬は、爆砕火炎斬へと進化した』
『マオは猛毒を覚えた』
カモミールへ戻ると天の声が、みんなのレベルアップを知らせた。
アトランの魔王軍や、トカゲ族との闘いで、さらなる強さを手に入れた。
『ターナは攻撃魔法を覚えた。その他大勢はみんな強くなった』
主要メンバー以外は手抜きされた。
『ケインは傷が広がった』
うるさい。
俺のレベルが、マイナス666まで下がっていた。
「ケインさん!大変です!」
ティナが来た。
「調べてきました。過去に一人だけ、マイナスレベルの勇者が居ました」
前にも聞いた気がする。
「これが、集めてもらった資料です。マイナスレベルが1007に成ると、その勇者は、死んでしまいました」
「!!なんだと!」
「ケイン666だぞ。後375下がると死んじゃうぞ」
動揺して計算が出来てない。
「パパ!何とかしないと」
「ですわ。ティナ様、何か手はないのですか?」
そうだ、いつものように、物知りのキャラが出てきて、ナンタラとか言うアイテムがあればの展開だ。
「はい。物知りキャラは、この後に登場予定があります。が、今は内緒です」
甘い。甘すぎる情報管理能力だ。
「資料よるとマイナス800位で、歩行障害。900を超えると記憶障害などが出て。950からは、寝たきりになります。ついには1007で死亡したとあります」
マイナスレベルは、老化を速めるのか?
「ケイン…よく読んでみたぞ。その勇者、103歳だぞ。これって単なる老衰だぞ」
なに?
「この勇者、チーム登録から外れてないぞ。だからいつまでもレベルが上がりっぱなしだぞ。1007で死んだのは偶然だぞ」
言われてみれば、老化の典型的な症状だ。
「はい。でも、このままでは、ケインさんは基本スキルしか使えません。
物知り老人を探して、ナンタラとか言うアイテムを手に入れなくてはなりません」
「確かにそうだ。だが今は、トカゲ族が襲ってきたわけを知る方が先だ」
「そうだぞ。なんで奴らが来たか、理由を探るだぞ」
「姉が魔界の閻魔様なら、どちらも知っているかもと、言っていました。アポを取ってあります。行ってみますか?因みに、物知りキャラは閻魔様のことです」
閻魔だと?
「生きて会いたくない奴だぞ。地獄行きを言い渡されそうだぞ」
兎に角、知りたい事が沢山ある。
折角、リリスの方が片付きそうなのに、新しい敵が現れたのでは、たまらんからな。閻魔とやらに聞きに行くか。
ーーーー魔界ーーーーー
「なんだ奴らは?あの強さはなんだ?」
「若、アレが本当に下界民なのでしょうか?」
「若、ゲート内攻撃とか、ありえないぜ」
「相当な被害が出ましたな。これは由々しき事態ですぞ」
トカゲ族反省会。
「このままでは、親父殿に食い殺されてしまう。大手と組んで、奴らにリベンジだ」
「流石は若!あれだけやられて、懲りないとは、トカゲ頭ですぜ」
「で?何処と組みますか?」
爺さんトカゲの問いに、若はニヤリとした。
「これから考える!」
トカゲ頭、炸裂だった。
ーーーーーーーーーーーー
「ケインさん、閻魔様は、とても難しい方です。言葉使いと対応には、毛が抜けるほど神経を使ってください」
気難しいのか?
「分かってるぞ。今回の魔界遠征メンバーは、気遣いメンバーで構成したぞ」
アリスとターナ、アリッサとハウル?何処が気遣いメンバーだ?
火薬庫抱いて行くような気がするが?
「仕方ないぞ。マオは商業的理由で、閻魔と合うのは良くないと、ピーに言われたぞ。ママには、逞しい男を合わせたくないぞ」
魔界で商業展開しているマオ商会のトップ、マオ。
ピーが言うなら理由があるのだろう。
アイリスに関しては、どうでも良い理由だ。
「レナとセレスは、トーレフが連れてっちゃったぞ。なんでもパワーアップさせるらしいぞ」
機械族のスペックアップは無理だと聞いたがな。
「それを何とかするのが科学班だぞ」
厳選メンバーではなく、残り物メンバーと言う事か。
「パパ!任せてよ!おもてなし精神はあるよ」
「任せろ」
「この魔獣王の前に立ちはだかる者は、何人たりと許さん!」
戦いに行くわけではない。教えてもらう立場だと忘れないでくれ。
最近よく当たってる、嫌な予感しかしない。
「では、ゲートを開きます。閻魔様のご自宅前に繋げます」
俺達はゲートをくぐる。
「着きました。ここが閻魔様のご自宅です」
立派な門を構えた、武家屋敷のような平屋の家。そうとう広そうだ。
「では、くれぐれも会話には、気を付けてください」
ティナは、インターフォンを押す。
「天界の女神、ティナです。閻魔様との謁見をお願いします」
「はーーーい。伺っております。少しお待ちください」
予想と反して、可愛い女の子の声が聞こえた。
「お待たせしました」
門が開き、中から現れたのは、ティナと似た美女。だが女神ではないのは一目でわかる。後光はないし、黒髪だ。
「本日はお忙しい中、お時間を割いて頂き、閻魔様には感謝の言葉もありません」
ティナの緊張が、俺達にも伝わる。
「気難しいと言うのは、相当のようだぞ」
ああ、これは迂闊な言葉は使えないな。
「どうぞ、中へ。ご案内します」
案内され、中へと入る。が、建屋には向かわない。
直接庭に案内された。
「ワシが閻魔だ」
小太りに、いかつい顔、ぼうぼうの髭。体は閻魔と言うイメージ通り。
ザ・エンマの横書きTシャツに、短パン。足にはすね毛が生えまくり。
スタイルは、住所不定の不審者だ。
「何で閻魔が、Tシャツ、短パンだぞ?」
アリスの一言に、ティナが震え上がった。
「ふん!今は公務中ではない。休日に自宅でラフな格好をして何が悪い?」
ごもっとも。
アリスが一言で、次の句を失った。
「お前がエクレアとか言う女神の妹か?確かテラミスだったか?」
わざとだろ?
「は、はい。エクレアの妹のテラミスです。今日はありがとうございました」
ティナの緊張度が、半端ない。
「全く下界民は、困るとすぐに神頼みだ。賽銭払えば、いう事を聞いてもらえると勘違いしているようだな?」
閻魔は俺の前に立つ。大した迫力だ。
「貴様が勇者か?」
アリスとターナが割って入る。俺の前に立った。
「勇者ケインだぞ。まだ信用してないぞ。気安く近づくなだぞ」
「勇者と話がしたければ、私たち通せ」
導火線の短い二人だ。閻魔の横柄な態度が気に入らないのだろう。
だが、ティナが泣き出しそうな顔に成っている。
俺は二人の間から、前に出た。
「教えて頂きたい事が有り来ました。2人は俺を守ろうとしただけです。どうか、ご無礼をお許しください」
「ふん。まるで礼儀知らずのサルではないようだな。だが、女に守られる勇者とは情けない」
短い導火線に激しい炎が付いた。
「誰が情けない・・だとだぞ?旦那を馬鹿にされて、黙っているほど淑やかな嫁ではないぞ。絶対零度だぞ!」
「初めてを捧げた男を馬鹿にされた!ハウル行け!」
「私はパパの種から生まれたんだよ!パパを馬鹿にされて黙ってないよ!」
もう、ナウシカでも止められない。なら行け!力でねじ伏せろ!
「この技は!?物理限界だと!?」
アリスの絶対零度炸裂だ。
「だが、大魔王クラスには効かん!」
腕だけ凍っただけだ。
「ハウルウルトラキーーーーック!」
「ぐは!」
ナイス急所。弁慶の泣き所、脛に直撃だ。
「爆砕火炎斬!」
「ぐはぁ!」
股間にアリッサの爆砕火炎斬だ。
「き、き、貴様ら!何処狙って撃ってやがる!」
敵の嫌がるところを責める。当然の攻撃だ。
「もう一発撃てるぞ。私も股間を凍らせるぞ」
「はい。援護します」
ティナ?
「お、お前、いいのか?お前の振る舞いが、天界と魔界の未来を変えるぞ」
ビーナスとの友好を考えろと言う事か?
「構いません!知ったことではありません!私の婚約者を馬鹿にすることは、ぜったに許しません!」
「良く言ったぞ。ケインの嫁の資格あるぞ」
閻魔が黙り込んだ。
「お前、こいつに初めてを捧げたと言ったな?」
「言った。ケインは初めての男」
「お前、こいつの嫁と言ったな?」
「言ったぞ。私の旦那様だぞ」
「女神、こいつの婚約者と言ったな?」
「はい。言いました。4年と11か月後に挙式です」
「・・・お前悪魔だな」
五月蠅い!余計なお世話だ!
「myターンだ!黙ってやられると思うな!閻魔魔法‼地獄の業火・・・」
閻魔の魔力!!クソとんでもない魔力だ!
「お父様!!!!!」
え?
「さっきの、美人かわいい子ちゃんだぞ」
門を開けてくれた黒髪の子だ。
「お父さんとか聞こえたぞ」
これから、アレは生まれんだろう。聞き間違いだ。
「お父様!お客様に、何をしようと為さっていますか?」
「あ・・いや・・これはだな」
炎を纏い、振り上げた拳をフリフリしながら下ろす。
「魔界用語で、お父さんって、赤の他人の事を言うのかだぞ?」
「文字通りだ。俺の娘の愛美だ」
「どこで拾って来たぞ!?」
「お前、本当に失礼な奴だな。血を分けた親子だ」
まじか?
「閻魔愛美です。父は無作法で、申し訳ありません。お部屋にご案内します。どうぞこちらへ」
俺達は、愛美さんの後に続いた。
あのまま戦っていたら、無事では済まなかった。




