ループワールド・勇者ケイン編 68
「ゲート反応!」
王宮内に警報が鳴り響く。パルム達だ。
「場所を特定しろ。捜査員を向かわせるんだ!」
チーフの指示が飛ぶ。
「あれはパルムだぞ。パルムの襲撃だぞ!」
アリスが窓から外を指さす。
「パルム?あの天界指定の傭兵パルムですか?なぜ?なんでここに?」
「パルムはこの世界の宝を狙っている。何度も襲撃を受けている」
俺が言う分には、嘘でも呪いは発動しない。
「ケイン出るぞ!王宮を守るぞ!」
「ダ、ダメです!皆さんは此処に居てください」
「チーフ様、王宮が破壊されますわ!パルムは王宮を乗っ取ることが狙いですわ…もしかすると」
『もしかすると』は思いっきり小声で言うアイリス。
爆音!セシルの魔法が王宮に直撃した。
「南塔!倒壊!」
衛兵の叫び声。
「このままだと、王宮が破壊されるぞ。守らないと全滅だぞ!」
迫真の演技だ。
「分かりました。許可します。この書類にサインを」
余裕だな。絶対にサインしない。俺は婚姻届けを突き返した。
「アリス、アリッサ、マオは残れ。アイリスを守るんだ。レナ!出るぞ。2対2だ」
「坊や。行くわよ!紫炎火砕龍!」
「行くぞ!ツンドラ流星群!」
パルム達の攻撃は、遠く離れた所へ着弾する。
「パルム、天空のカギを使いまくってくれ!後は適当に攻撃を頼む」
頭の中でパルムに指示を出す。
「了解した」
パルム達は天空のカギを使い、移動しては攻撃を繰り返す。
「ケイン、私たちは?」
俺達も天空のカギで移動を繰り返す。今はそれだけだ。レナは頷き、俺と共にゲート移動を繰り返す。
王宮内には、警報が鳴り響いていた。
「ゲート反応!ゲート反応!ゲート反応!」
海で水柱が上がれば、次の瞬間、山では炎の竜が暴れまくる。また次の瞬間には、湖に氷河が現れる。俺たちはゲートを使いまくる。
「なんだ、この戦いは?相手は何人いるんだ?」
目まぐるしく戦いの場が変わっていく。
「相手は二人だぞ。でもゲートを使って、移動しながらの攻撃だぞ。意表を突く場所に出て攻撃されてるぞ」
「これは捕まえるのは、大変ですわ」
「目が回るよね~何処に居るのか分からないよね~」
「ママ!これってデスラー戦法だよね」
世界を守る戦いはしている女神だが、実践経験を積んでいる者は、多くはない。
余りに激しい戦を目の当たりにしたチーフたちは困惑する。
「ゲート反応!ゲート反応!ゲート・・ゲート・・エラーエラー」
「チーフ!ゲート感知装置が、追いつきません!エラーでシステムダウンします」
「再起動だ!急げ!」
アリスの口元が、ほほ笑む。
「援護するぞ!絶対零度だぞ!」
アリスの絶対零度が放たれる。が、放たれた所には、敵はいない。
「ケイン!アリスからのサインだ」
「よし!ティナを迎えに行く!」
ゲートを通り、魔都へ行く。ピーに頼んでアズサとも連絡を取っていた。
「ケインさん!」
待っていたティナが抱き着いてきた。不安だったに違いない。
「直ぐ移動だ!アトランのルーン神殿だ。地下にターナが作った秘密基地がある」
「はい!」
俺はティナを連れてゲートに入る。
アトランの秘密基地なら、ターナやハウルも居る。
ティナの隠れ家には最適だ。
「くそぉ~当たらなかったぞ」
「いきなり撃たないでください!ビビります」
「アリスの野生の感が外れましたわ。珍しいですわ」
「ママ!私も打ちたいけど、いいかな?」
「いいぞ。好きに打つぞ」
俺たちが戦場に居ないことを誤魔化した、王宮居残り組だった。
俺が戻ると、あえて王宮の前を走り抜ける。
アリスが確認して、アリッサに指示を出す。
アリッサの爆炎斬が放たれる。これは戦闘終了の合図だ。
パルム達はゲートで戻って行った。
「危なかったぞ。役に立たないお客のおかげで、衛兵も出せない状況だったぞ」
アリスがチーフをチラ見しながら言う。
「・・・これが、実戦・・ですか」
頬を伝わる汗を、ハンカチで拭う。
「それ、ケインのパンツだぞ。17号だぞ」
チーフは、慌ててポケットにしまった。
無事にティナをアトランへと脱出させられた。
だが、問題が片付いた訳ではない。
これからティナの無実を証明しなくてはならない。
犯人が分かっているが、これが意外と難しい。ヴィーナスが動けない以上、俺達には捜査をする手段が無い。
頼みのパソコンの解析だが、トーレフからの連絡では、パソコンの作りが違うので、仕組みを理解してからに成る。少し時間がかかるとのことだ。
1週間が過ぎたが、進展はない。
「陛下!魔族が攻めてきました!」
衛兵が駆け込んでくる。
チーフたちにも緊張が走った。
「落ち着くのですわ!どんな敵ですの?数は?何処に攻めて来たのですか?」
アイリスが慌てる衛兵に尋ねた。
「馬です!ウマの顔と人の体の魔族です。数は1です。正面玄関でピンポンを押されました」
それ、敵じゃない。ボラギノー草園の、う魔族だ。知り合いだ。通してくれ。
案内された、う魔族はペコペコしながら入って来た。
「突然で、すまんでごわす。人類域には、魔族は立ち入り禁止でごわす。驚かせてしまったでごわす」
馬なりに気を使ったようだ。
「その節はお世話に成ったぞ」
腰が引けてるアリス。突っ込まれたのがトラウマに成ってしまったか。
「あの時に居た、鬼族の母娘は覚えているでごわすか?」
「ああ、覚えているさ。ボラギノー草の取り方を教えてくれた方たちだ」
「大至急連絡が欲しいとの事でごわす」
「あの母娘がか?」
「女神の事で話があるそうでごわす」
「!?なんだと!」
「これがアドレスでごわす」
アリスがアドレスを受け取り、パソコンで繋げてくれた。
「ケインさん、暫くだっち」
母鬼だ。
「いま、う魔族の方から聞いたんだが、女神ってティナの事か?」
挨拶もままならないほど、俺は慌てていた。
「そうだっちよ。確かケインさんがティナ様のために、と言っていたのを覚えていたっち」
ティナの話は、魔界にも知れ渡っているのか?
「天界実力者の娘だっち。ニュースで持ちきりだっち。
〈天界の女神。下界を狙い魔族と共謀〉
これが普通の報道だっち。ティナは悪い女神として、報道されてるっち」
くそ!このままでは既成事実として、世間的に抹消されてしまう。
「で、本題だっち。先日、いかにも女神っぽいのから問い合わせがあったっち。対勇者組織の大手を教えてくれ、と言う問い合わせだっち」
「対勇者組織?俺たちを襲った裏の連中か?」
「違うっち。魔王とかが抱える、本業の下界侵略部隊だっち」
「先日となると、ティナじゃないぞ」
「そうだっち。音声と映像もあるっち」
「!!!」
「それともう一つだっち。これを見るっち。
〈ティナは嵌められた。黒幕の女神はこいつだ〉
下界新潮だっち。天界文春のライバル誌だっち。で、書いた記者にソースを聞いたら、情報元は、魔族戦隊と魔界仕事人だったっち」
「私たちを襲った連中ですわ!」
「パパ!新犯人だよ!」
ああ、間違いなさそうだ。まさか魔界から証拠が出るとは、思っても居なかった。
「この記者の取材記録と、問い合わせの映像、他には大手侵略部隊への依頼記録があるっち」
「完璧だ!それは提供してもらえるのか?」
「うちの旦那が、取りに来れる勇気があるなら、無条件で提供すると言ってるっち」
勇気?
「鬼族は閻魔域で平和に暮らしてるっち。でも、多くの住人は、下界民とは穏やかではないっち。そのど真ん中に来れるっちか?」
なるほど、勇者としての勇気が試されると言う訳か?
「行くぞ。苦難を乗り越え、仲間を助ける冒険だぞ!燃えて来たぞ」
「そうですわ。ティナ様の為なら、地獄の果てまで行きますわ」
「パパ!準備出来たよ」
と言う事だ。勇気なんか腐るほどある。
「鬼都の鬼城で待ってるっち」
通信は終わった。
「ケインちゃまは、魔族にも知り合いが居るのですか?」
悪いが説明している暇はない。
「直ぐ出発するぞ。今回はアリッサとマオだぞ」
「案内するでごわす」
「う魔族様、お礼の人参ですわ。少し塩揉みしてありますわ」
使用済みニンジンだ!
「うま、うま、うまでごわす」
いきなり食うか?
「では行くぞ!魔界に進撃だぞ!」
普通のゲートは、1回行った事のある場所にしか繋がらない。
が、天空の鍵は、イメージできる場所なら移動可能だ。
今回は、う魔族がイメージできる。俺達は一気に鬼族域の中まで来た。
ーーー鬼都ーーー
「鬼だらけだぞ」
「睨んでるね~」
「睨み返すぞ」
「パパ!剣を抜いて、素振り初めていい?」
友好的にとは言わないが、好戦的態度はダメだ。
「案内は、ここまででごわす。後は自分たちの力で、鬼城まで辿り着くでごわす」
う魔族が鬼城を指さす。
「あんたは一人で大丈夫なのか」
「先に戻っているから、心配ないでごわす」
う魔族はウンウンと頷く。
「こいつ馬鹿みたいに強いぞ。1人でも全然大丈夫だぞ」
アリスは戦ったんだな。模擬戦だが。
「パパ!これを首からぶら下げるよ」
アリッサが、俺の首にプラカードをぶら下げた。
『ぼく勇者ケイン。ぼくに楯突くと、卑怯な目に会うぞ』
卑怯な目って、どんな目だ。
「あれ、勇者ケインだ」
「出会ったら、逃げろだ」
「卑怯な目に会わされるわ」
俺らを睨んでいた鬼たちが、目線をそらした。プラカード効果は抜群だ。
「さぁケイン行くぞ!鬼退治だぞ。私は犬だぞ」
「パパ!私も犬だよ」
「じゃ~私は~サルかな~」
「私は鳥よ」
犬が一匹多かった。
「待て!そこの桃太郎!」
赤や青の鬼たちが、俺たちの前を塞ぐ。
「ここは通さない!宿敵桃太郎を通すと思うな!」
桃太郎じゃない。
「ごめんだぞケイン。私、のぼり旗に〈桃太郎御一行〉って書いちゃったぞ」
いつの間に掲げて歩いていた?それ下ろせな。
「パパ!こいつらの相手は私で十分だよ。魔法も使わずに、剣技だけで勝てる気がするよ」
達人の域に達すると、相手の力量も分かる。
任せた。
アリッサの快勝だ。
勿論、峰打ちなので死人は出していない。
俺達は先に進んだ。
「城が見えて来たぞ。この大通りを真っ直ぐだぞ」
邪魔が来ないと良いな。
「下界民!鬼族を代表して、お相手致す!」
と、言っている間に、また鬼たちが現れた。
アリスが〈挑戦者募集。私に勝てるかな?〉と書かれた、のぼり旗に持ち替えていた。
「苦難の末にティナを・・・だぞ」
まだ言っているのか?
俺は剣を抜く。ケインスラッシュは、弾く技だ。死人を出さずに、敵を突き放せる。
「うぁぁ!勇者が剣を抜いたぞ!」
「逃げろ!本気だ!殺される!」
「許してください!卑怯な目にあわさないでください」
敵は逃げた。
「これが名の持つ力だぞ。ケインを最凶クラスの勇者と、世間は認識しているぞ」
名前だけで・・・で?その最強の「凶」。それでいいのか?
剣を抜いた俺を見て、道が出来た。ど真ん中に居た鬼たちが、端っこに寄った。これが魔界での俺の名の力・・。
「ケイン、行くぞ。胸を張るぞ」
〈最強勇者ケイン。俺の通った後は屍だけだ〉と書かれた、のぼり旗を掲げた。
魔界での俺のイメージ、鬼より怖い人なんだろうな。
「良く来たっち。予想通り、大した戦闘に成らなかったっちね」
母鬼が城の前まで出迎えてくれていた。
「よく来たな、下界の勇者」
ひときわ大きな赤鬼。
「うちの旦那だっち」
あたるじゃないのか?
「ワシは鬼王アタレだ。妻が世話に成ったな」
世話に成ったのはこっちだ。
「良くここまで来た。勇気を評価しよう。本来なら宴会だが、時間もあるまい。欲しいものは用意してある。持っていくがいい」
顔つきは怖いが、堂々とした態度と紳士的な対応・・・あれ?足が震えている?
「うちの旦那、見掛け倒しで気が弱いっち」
母鬼が耳打ち。
アリスがニンマリとした。何かやらかす前に早く帰るべきだ。
俺はゲートを開く。
「後で、お礼に来たい。また来てもいいかな?」
「待ってるっち」
「うむ。丸腰なら歓迎しょう」
お、おう。
「また来るぞ。助かったぞ。有難うだぞ」
俺達はゲートをくぐった。
「只今だぞ。早速証拠の品を見るぞ」
アリスが受け取った封筒を開ける。
「待ってください!これは証拠の品です。特捜が捜査する案件です。一般の方の同席には許可証が・・」
チーフの行動はワンパターンだ。サインしない。どうせ婚姻届けだ。
問い合わせの映像と、大手への依頼には、リリスが映っていた。
闇戦隊と、闇仕事人の依頼には、ギルバからの依頼記録が残っていた。
見ていたチーフは、唖然としていた。
「ケイン殿!」
いいタイミングでトーレフだ。
「解析完了でござるよ。ティナのパソコンは遠隔操作されていたでござる。証拠が出てメモリ殿も、分かってくれたでござる。今IPアドレスから、犯人を調べて貰ってるでござる」
よくやった!こっちも証拠を手に入れた所だ。
「どうだぞ?これでもまだティナが犯人かだぞ?」
「こ、これは・・・」
「すぐに天界に連絡して、ティナの無実会見と、犯人の確保だ」
「わ、分かりました!この書類・・」
まだ諦めてないのか?早く行け!
「ケインさん!」
エクセレントだ。
「解放されましたの?」
「ええ!皆さんのおかげです」
「ティナはアトランだ。ルーン神殿の地下にある、ターナの秘密基地に居る」
「ありがとうございます。私は、リリスの逮捕の逮捕が先です」
そっちは任せた。
俺はティナを迎えに行って来る。
エクセレントは天界と連絡を取る。
俺はゲートで、アトランに向かった。




