ループワールド・勇者ケイン編 64
「坊主、本当にイカサマなのか?」
「坊や、教えて、お願い」
パルム達も、仲間の引退ともなれば必死だ。
「おいおい、聞いても俺の気持ちは変わらないぜ。って言うか、聞くのは野暮だ」
サバサバしてやがる。
「イカサマだぞ。私たちは不正をしたぞ」
アリスが答えた。
「だよな。絶対の自信があった。このゲームだけはイカサマが出来ないとな。
だが、見事にやられたぜ。俺の限界の上を行った訳だ」
「俺達が来た時は、坊主が1枚目のカードを選んでいた最中だ」
「でも、変な動きは無かったのよ。イカサマできないゲームのはずよ」
1人では無理だが、アリスが居れば出来るイカサマもある。
「種明かしだぞ。最初にケインに見せたカードは、ダイヤの5だぞ。でもその下に1枚ハートのA を隠していたぞ。2枚重ねていたんだぞ」
「ダブルリフト・・・か?」
ザイクは、当然知っている。マジックのテクニックだ。
「ハートAを選んだのは偶然だぞ。13でも良かったけど、ルールが分からないから、一応Aにしたぞ。
私からカードを受け取ったケインは、ダイヤの5の表と、ハートのAの裏に触ったぞ。
並べられたカードに、2枚だけケインの臭いが付いているぞ。
裏返しで並べられているから、裏に触ったハートのAの方が、匂いが強いぞ。
私がケインの肩越しに、身を乗り出したのは、臭いを確認するためだぞ」
後はアリスが俺の背中に、指先で指示を出す。
「今回のルールだと、ハートのAさえ避ければいいぞ。指示は簡単だぞ。後ろはアリッサとママが壁に成るから、私の手の動きは見れないぞ」
種を明かせば簡単な話だ。
「犬族の嗅覚・・か。打ち合わせもなしに、大したもんだぜ」
俺とアリスの仲は、前世からの関係だ。阿吽なんてものではない。
「でもアリスちゃん、カモミールは不正すると、魔獣に成っちゃうんじゃないの?」
呪いは健在だ。当然不正は魔獣落ちする対象だが。
「正当防衛だぞ。一見フェアなルールだぞ。でもザイクはケインの最弱運を知っているぞ。引けば必ずハートのAを引くぞ。先攻をケインに持たせれば100%勝ちだぞ。これはズルだぞ。だから私が不正しても呪いは発動しないぞ」
「イカサマはできないが、ケイン相手なら必勝法がある。確かに俺はズルをした。すべて見透かされていた、と言う訳だ」
ザイクは帽子を被り直す。
「勝手で悪いな。俺はギャンブラーとして、史上最低運の奴に2連敗した。
最低に負けたんだ。もう勝てる相手はいない。国に還って実家の跡を継ぐさ。じゃな。お前たちとの冒険、楽しかったぜ」
ザイクは、そう言うと部屋を出て行った。
「名を賭ける・・か。まさかこう言う意味だったとはな」
「本気だったのね。って言うか馬鹿よ。カードで負けたぐらいで引退なんて馬鹿よ」
いや、馬鹿じゃ無い。男とは拘りにしがみ付いて生きる生き物だ。
拘りが持てない奴は二流だ。ザイクは一流だったという事だ。
「うん馬鹿だぞ」
おいアリス、俺に良いセリフをぶち壊すな。
「坊主、責任をとれ」
「そうよ、うちのメンバーが引退したのよ。責任を取って頂戴」
俺が悪いのか?
「ケインはやらないぞ。勇者ケインのチームからケインが抜けたら、ただのチームだぞ。ケインはチームの顔だぞ」
「ザイクは俺のチームの大事な攻撃職だ。あいつが居ないと攻撃力が半減する」
「パルムが守る。ザイクが攻撃、私は両方。これがパルムチームのスタイルなのよ。攻撃職が居ないと困るのよ」
「ならセレスをやるぞ。攻撃職だぞ。結構強いぞ。ほぼ役立たずだから、セレスならくれてやるぞ」
セレスが泣くからやめろ。
「パルム!パパは渡さないよ。欲しいものは自分たちの足で探すんだよ」
2歳児に正論を言われた。
「お困りでしたら、王都の求人掲示板に募集広告を張りますわよ」
何て貼る?傭兵攻撃職募集、委細面談か?
「ちょっと待ってろ。オーナーを呼んでくる」
「ノスの財力で、坊やをゲットして見せるわ」
俺を金銭トレードするつもりか?
「良いぞ受けて立つぞ。マオを呼んでくるぞ。オークションだぞ」
マオVSノスヘラトゥ、代理金銭戦争になりそうだ。
「ママ!ダメだよ!パパが取られちゃうよ」
「そうですわ。婿殿をオークションで取り合うなんて、ダメですわよ」
「え?だぞ?えええええええ!!!だぞだぞだぞ!」
今、気が付いたのか。
「やっと隙を見せたな」
「受けて立つと言ったわよ。もう逃げられないわよ」
うまく乗せられた。アリスには珍しいミスだ。
「これは驚いたな。アリス君が凡ミスをするとは、正直、思っていなかったよ」
パルムが開いたゲートから、ノスフェラトゥが出て来た。
「やられたぞ。慢心したぞ。奥さん失格だぞ。腹を切って詫びるぞ。先立つ不孝を許すぞ」
まてまて、大事にはならない。マオが居るんだ。
「ママ!介錯は私がするよ。スパっと切り落としてみせるよ!見ててね」
される側は見れないし、ママの首を跳ねちゃダメだ。
「婿殿の言う通りですわ!アリス、腹を切るのは、婿殿が取られてからですわ」
「そうだぞ。今はケインを守るぞ。マオなら、楽勝だぞ。私の首は安泰だぞ。考えてみれば大事件じゃないぞ。オークションの準備にかかるぞ。ケインは、マオを呼んでくるぞ」
立ち直りの速さもアリスだ。準備のため、部屋を出て行った。
「ケイン君、残念だがマオ君は、お留守だよ」
なに?
「まさか、ノスフェラトゥ!貴様、マオを!」
マオが拉致された?俺達は身構えた。
「おいおい、勘違いしないでほしいな。マオ君はレイラ君と商談中だよ。
勿論、同意の上での話さ。今頃は高級なヒマワリの種の話で、盛り上がっているだろうね」
くっ!やられた。手際がいい。最初から計画していたのか?
「どうやら運も、俺たちにあるようだな」
「ええ、マオちゃんが居ないとなると、勝算ありね」
くそ!とぼけやがって。
「不味いですわ。マオさんが居ないとなると・・・」
「不味いよ!マオさんが居ないと、お金が積めないよ」
「王宮の金をかき集めるんだ!シータが出した予算なら使える」
大盤振る舞いの予算が数兆円はある。
「私の貯金もあるよ!3億あるから使っていいよ!」
アリッサ、無駄使いしないで貯めていたんだな。
「婿殿!私のへそくりが2019円ありますわ」
一国の女王のへそくりが?2019円?
「国民の血税ですわ!1円抜くにも心が痛みましたわ!」
良い女王だが、なぜかダメ臭がする。
「良し、準備出来たぞ」
アリスが、大きな箱を持って戻って来た。
「アリス、マオさんが居ませんわ。この勝負は私たちだけですわ」
「ママ、介錯してあげるからね」
アリスに状況を説明する。マオを上手く外されたことも伝えた。
「大丈夫だぞ。私には策があるぞ。2重の策だぞ。任せるぞ。だからアリッサは素振りを止めるぞ」
負けを覚悟したアリッサは、首を跳ねる練習をしていた。
「では、王宮オークションを開催するぞ。まずはこれだぞ」
アリスが箱から取り出したのは、パンツだ。
「プリンセスの使用済みパンツだぞ。かなりの高額だぞ。500万からスタートだぞ」
ノスフェラトゥ、パルム、セシル、さすがに唖然としていた。
「アリス君?」
ノスフェラトゥは、困惑の様子を隠せなかった。
「金持ちが目の前に居るぞ。不用品を金に換えるぞ。しかも敵の戦力が削げる、2重の効果だぞ」
まさか2重の策って・・・
「ママ!素振り初めていいかな?」
「おかしいぞ、なんで売れないぞ。プリンセスだぞ、飛ぶように売れるはずだぞ」
俺達は買わないし、ノスフェラトゥだって値を付ける訳が無い。
「箱ごと行くぞ。200枚はあるぞ。1箱5000円からだぞ」
泣きながらの、叩き売りになった。
「パルム、見てられないわ。雑巾にするから、落札してあげましょう」
同情されてる。
「ダメだ。相手はあのアリスだ。この先に、どんな卑怯な策が待ち構えているかもわからん」
パンツに策などない。
「私の経験から、使用済みと言う所が危ないね。ここはスルーの一手だよ」
仕様済みパンツが異常に警戒されていた。
「もう只で良いぞ!持っていくぞ。帰りのお土産にするぞ。ラッピングして渡してやるぞ」
あ、切れた。
「次はケイン行くぞ。50円からだぞ」
パンツより安い。
「やっと本命だね。私は5兆円、積むよ」
俺に5兆だと?
「高くはないよ。歴代6位。しかもパルムたちに勝ち、魔王を3体も倒した君ならね」
ノスヘラトゥは余裕だ。
「不味いですわ。王宮の権利書と、予算など合わせても5兆しかありませんわ」
「大丈夫だよ!体も温まって来たよ。スパっと行けるよ」
アリッサは、首を跳ねるつもりだ。
「びっくりしたぞ。私のパンツも買わないノスフェラトゥが、5兆だぞ」
パンツと同列かよ。
「なら私は500兆ほど積むぞ」
!?
「アリス君、それは反則だよ。君のお金で500兆円あるのかね?」
ノスフェラトゥは、余裕のままアリスに返した。
「ないぞ、マオの金だぞ」
「なら認められないよ。同意書でもあれば別だがね」
「同意書もないぞ。そんなのいらないぞ。これを見るぞ。マオの天界銀行のキャッシュカードだぞ。私が使って良いと、預かっているぞ。マオの現金は全て天界銀行だぞ。腐るほどあるぞ」
なんだと!?
「!!君はそのカードを使えるというのかね?暗証番号は知っているのかね?」
ノスフェラトゥの慌てた姿、初めて見た。
「勿論だぞ。いつも使ってるぞ。このカードでパンツも買ってるぞ。暗証番号は知ってるけど、秘密だぞ」
使ってるのかよ!
「過去の話をよく読むぞ」
ーーーーーーーーー
ふんだんって言うが、王都の税収って、そんなにあるのか?
「婿殿、優秀な女王は、やりくりも上手ですわ」
「マオの固定資産税だぞ。足らない時は適当な理由で請求すると、いくらでも払ってくれるぞ」
「私のキャッシュカードは~アリスが持ってるよね~いつも自由に使ってるよね~」
「とりあえず、秘密基地建設費用だぞ。マオ、呼吸税を払うぞ。息してると税がかかるぞ」
「あいよ~3兆ほど払うよね~」
1個人のお財布が国を支えていた。
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「私とマオの友情は、お金より重いぞ」
確かに、そんな会話があった。
「だが他人のカードだ。認める訳には行かない」
「そうよ、本当はカードを預かっているだけじゃないの?」
パルムとセシルは食いついてきた。
「衛兵!ここにATMを持ってくるのですわ」
アイリスが、衛兵に命じた。
この場でカードを使えば、アリスが預かっている証拠となる。
「いや、その必要はないよ。私の負けだよ」
ノスフェラトゥは、セリから降りることを宣言する。
「ノス!」
「ちょっと!」
パルムとセシルは、納得がいかない様子だ。
「ここはカモミールだよ。嘘はつけないし、友人とは言え、勝手にカードを使えば犯罪さ。犯罪は魔獣落ちだからね。アリス君は、マオ君から運用を任されているという事だよ」
流石はノスフェラトゥ。その通りだ。
「私の資産は全額でも、マオ君の預金額には届かないからね。勝負は決した。残念だが、諦めるべきだ」
引き際も良いな。
悔しがるパルムとセシル。
ノスは俺の近くへ来た。
「今回は、私の負けだ。でも諦めないよ。私はケイン君が気に入ってしまったからね。今度は正々堂々と来るとしょう」
アリスから手渡された、ラッピングされた袋を持って、3人は帰って行った。
「危なかったぞ。ケイン、済まなかったぞ。私のミスだったぞ」
「ですわ!アリス、少し気を付けなくてはいけませんわ」
「そうだよママ!首を切り落とし損ねたよ」
全く油断ならない連中だ。
だが、大事にならないでよかった。




