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残念世界の残念勇者   作者: XT
63/96

ループワールド・勇者ケイン編 63

「待たせたな」

帽子に顎鬚。入院加療していたザイクが、ノスヘラトゥの社長室へ来た。

「そろそろだとは聞いていたよ。治ってよかったよ」

「ザイク!もう良くなったのか?」

「おかえりなさい。少しやせたわね」

帽子の中から鋭い眼光が、復活を伺わせた。


「俺が居ない間に、やられたらしいな」

「ああ、不覚にもな」

「あの子、本当に強いわよ」

「だが、これで大丈夫だよね。君らが3人揃えば、敵はいないはずだよ」

ケインたちが勝ったのは、パルムとセシルの2人相手だ。パルムチームではない。

「ああ、任せて置け。パルムチームは負けない」

「ええ、あの子が強くても、ザイクが戻ったチームなら、勝てるわ」

ノスヘラトゥは安心したように、椅子にもたれる。


「勘違いするな。俺はまだ復帰するとは言っていないぜ」

3人は、驚く。

「まだやり残したことがある。チーム復帰は、置き忘れたモノを取り返してからだ」

「置き忘れ?坊主に負けたことか?」

「ダメよ。せっかく友好的な関係なんだから、あの子たちに嫌われるようなことしちゃ」

ザイクはニヤリと笑う。


「話は聞いてるさ。俺個人の問題だ。あの時の負けた理由は、まだわからない。だから、このままでは俺は戦えない。もう一度勝負する。前に進むために、俺は勝つ」

「勝てる自信があるのか?」

「また、病院リターンはダメよ」

「ああ、確実に勝てる。絶対イカサマのできないゲームがある。運勝負だ。奴が本当の不運男なら、俺は間違いなく勝つ」

「そうか、勝負師としてのプライド・・・だな」

「分かったわ、協力はできないけど、応援してるわ」

笑顔で成り行きを見ていたノスヘラトゥが口を挟む。


「私としては、余りケイン君に負けて欲しくはないのだけどね。でも、ザイク君が前に進めないのも困るから、ダメとは言わないが、関係が壊れるようなモノを賭けるのは、見過ごせないな」

ザイクは分かってますと、言わんばかりの顔で返す。

「賭けるのはプライドだ。問題ないはずだぜ」

「待てザイク、坊主はそんな勝負、受けてくれないぞ」

「そうよ。坊やは、そんなプライドとか、持ってないわ」

「マジか?」

賭けに対する温度差があった。


「前回は、アイリスたちを人質にして、席に着かせたのを忘れたのか?」

「無理やりだったのよ。ただ行って勝負しろとか、受けてもらえないわ」

「・・・・また人質を」

「却下だよ。ザイク君」

「なら、仕方ない。俺の名を賭ける。クローバーのザイクの名をな」

「たぶん、いらんと言うはずだ」

「無理ね。価値観が違いすぎるわ」

「私が何か、価値のあるモノを提供しても良いのだけど、これは君たち、チームの問題だからね」

「ザイク、これを持っていけ。名を賭けても受けて貰えない時に使え」

「ああ、これなら受けてくれるわ。流石はパルムね」

ポケットティッシュが手渡された。

「これは、濡れティッシュだ。奴の年頃なら、いくら有っても足らんはずだ」

「奥さんと毎晩。お盛んな時期よね」

「なるほど、助かるパルム。これで奴と一勝負してくるぜ」

ザイクは部屋を出た。

「ティッシュをマジに受け取るとは、まだ完治してないようだな」

「ええ、バカが治ってないわ」

「君たちのチームだが、補強を考えるかね?」

哀れザイク、引退は近い。



「ケイン、TV始まるぞ。早く来るだぞ」

王宮の夜。アリス、アリッサ、アイリスはTVの前に居た。

古今東西の珍しい魔法が紹介される人気番組「なにこれ珍魔法」の時間だ。

 「皆さんこんばんわ!早速3つ珍魔法を見てみましょう」

司会者の進行で番組が始まる。

 「まず最初の珍魔法。花札マンさんです。え?1枚引け?私が?はいはい」

花札マンは、トランプを広げて司会に差し出した。

 「では、このカードを引きます。見せるな?花札マンさんにですね。分かりました。私と視聴者は見て良い?はい。これです(ハート5)え?元に戻せ?引いたカードを中に入れます」

花札マンは、カードをカットして、中から1枚抜きだす。

 「これ?!!!なんと!ハートの5!私が引いたカードです。凄い魔法です」

それマジックだ。魔法じゃない!


 「続きましては、小島プロによる、高難易度魔法です」

マージャン卓が出て来た。

 「小島プロの魔法詠唱「明日は晴れるかな?」が詠唱されました。山が積まれて、14枚の手牌とる。配牌を開く!上がっています!これは天和です!33万分の1と言われる天和です!」

イカサマだ!裏芸だ!魔法じゃない!


 「3人目の魔法使いは、巾着切りの竜さんです。人込みの中を、するりと歩く、あら不思議!お財布が一杯!何処から出たのか?まさに魔法!」

スリだ!警察だ!魔法じゃない!!


「面白い魔法だったぞ。世の中広いぞ」

「私もできるかな?」

「氷魔法は、普通ですわね」

まぁ、面白いと言うなら良いが・・・。


 「では、今週のロスト魔法コーナー。過去に存在した不思議な魔法のご紹介。今回は『魔砲』と言う、世にも不思議な、ロスト魔法のご紹介です」

!?

「今、魔砲って言ってたぞ。私の魔法だぞ」

 「僅かな記録はあるものの、謎に包まれたロスト魔法『魔砲』。番組総力取材で、そのベールの一端が明らかに!番組が探し当てた、古文書、古の記録とは?」

タイトル画面で『魔砲』と書かれた文字、間違いないアリスの使う魔法だ。


 「その戦力、木星ト0ゲのごとし。その火力、破壊王ゴ0ラのごとし。その威力、波0砲のごとし」

何時の時代の、どの世界の記録だ。

 「その獲得法は、特殊な状況下で、特殊な経験値を得た上で、天文学的な確率を引き当て、更には特殊な人格者にのみ、与えられると言われる。まさに奇跡の魔法」

特殊な経験値って、尻に薬草ぶち込まれることか。

「特殊な人格者ってなんだぞ?私は普通だぞ。どこにもいる女の子だぞ」

居ない。ある意味、特殊レアガールだ。

「ママ、私無理だよ。特殊人格者じゃないよ」

「でも、ロスト魔法って凄いですわね」

ああ、アリスが持ってると知れたら、大騒ぎだ。

 「既にこの魔法を持つ者は居ない。我々の取材で明らかになった、ロスト魔法『魔砲』は、謎に包まれたままなのだ」

「いるぞ、ここに。名乗り出るぞ」

いや、公にはしな方がいい。後でティナたちに相談だ。



番組が終わる。アリスがお茶を入れてくれた。

俺達は「魔砲」の話題で、話が弾んでいた。

「女王陛下、ケイン様にお客様です」

衛兵が部屋に入って来た。

「あら、こんな時間にですか?どなたでしょう?」

「はい。クローバーがどうのこうのと申しておりました」

「ザイクだぞ。退院したようだぞ」

快気祝いでも貰いに来たか?

「良いですわ。今は、あの方たちとは友好的ですわ。ご案内を」

いまさら俺に何の用だ?


「暫くだな勇者。パルムたちが世話になったようだ」

相変わらず、鋭い眼光と雰囲気は持ってる。

「率直に言おう。俺と勝負しろ」

「いやだ。理由が無い」

「くっ!」

「まだ懲りてないかだぞ。ケインには勝てないぞ。普段は引きの弱いヘタレでも、いざとなれば、無敵の勝負師だぞ」

褒めてるのか?それ褒められてるのか?


「なら、俺の名を賭ける。どうだ、ギャンブラーの世界では、クローバーのザイクの名は、宝だぜ」

「いらない。欲しくない。興味ない」

「くっ!!」

「そんなのケインが欲しがるかだぞ。もっといいの持ってくるぞ」

「ケリのついた勝負に、文句は言わない。だが、前回の勝負は、お前のイカサマ勝ちだ」

証拠はあるのか?

「ない。悔しいが、どんな手法かもわからない。だが、間違いない。俺のソウルがイカサマだと訴えていやがる」

「証拠も無いのにイカサマ扱いはないぞ」

「・・・勇者、俺は勝負師だ。勿論相手のイカサマでも負けは認めるぜ。だが、貴様とはイカサマ抜きで勝負したい。頼む、この1戦、受けてくれ」

気持ちは分かるが、なぁ・・・。


「そうだ!これを賭けよう!ポケットティッシュだ!」

壊れてるのか?なんでそんなものを?

「しかも濡れティッシュだぜ!」

アリスが耳打ちした。

「・・ケイン、受けて立つぞ。頭テンテンしてるぞ。ポケティはないぞ。馬鹿に絡まれると厄介だぞ」

だな。受けて立つか?負けても良いし。

「良いだろう。受けてやるよ」

「流石はパルムだ!ナイスアイディアだ。たすかったぜ相棒」

パルムだと?マジか?あいつがポケティを?


「ただし条件がある。次はない。勝っても負けても、あんたとの勝負はこれっきりだ」

「ああ、分かっているぜ。俺はこの一戦にすべてを賭ける!」

「で、どんな勝負だぞ?」

「聞いて驚くな。絶対にイカサマの出来ない、運勝負だ」

くそ、やはり運か。

「絶対はないぞ。どんな勝負でもイカサマの要素はあるぞ」

「ふふふ、それが無い。この勝負に限ってイカサマは絶対にできない」

大した自信だ。だがアリスの目が輝いた。この勝負も俺の勝ちだ。


「まず、俺と相対した席に座れ。使うカードはこれだ」

俺はザイクの前に座る。ザイクが懐からカードを取り出した。

「それって、あんたの持って来たカードだぞ。そんなの使えないぞ」

俺の肩越しに、後ろに立っていたアリスが咎めた。

「当然だが、このゲームに関しては、どんなカードでも問題はない。まぁ調べたければ、好きに調べろ。俺は裏からでも数字とマークは分かる」

なんだと?全部わかった上での勝負じゃ、俺達が不利だ。

「面白いぞ。それでイカサマ無しと言うなら、このカードで勝負してやるぞ」

いいのか?

「良いぞ。どんなゲームか興味があるぞ。でもイカサマ即負けだぞ。一応カードは調べるぞ」

アリスがカードを手にした。が、相手は裏からでも、どのカードか分かるなら、調べても無意味だがな。

「使い込んでるぞ。見るぞケイン、これ」

アリスが1枚のカードを俺に渡す。ダイヤの5だった。

俺は裏表を確認した。

「ああ、裏に汚れがある」

ザイクの口元に笑いが出た。

「俺の相棒さ。長年俺と勝負を共にした相棒だ。よく見ないと分からない程度の汚れだが、俺は全部覚えている」

俺はアリスにカードを返す。アリスはカットしてからザイクにカードを戻した。


「では勝負だ。今からこのカードを1枚ずつ並べる。これは52枚あることの確認のためだ」

「私が抜いた、とでも言いたいかだぞ」

「勘違いするな。全てのイカサマ要素を排除するためだ」

確かに、裏からでも分かるお前が見れば、抜く、すり替えは、できないな。

「確かに元からあった52枚だ。次にルールだ。1枚ずつ引いて、自分のカードを決める。数の多い方の勝ち。Aは最弱の1扱いで、マークの強さもスペード、ダイヤ、クローバー、ハートの順で強いとする」

今回は、引き分けなしだな。

「そうだ。さぁ最初に自分のカードを選べ」

「待つぞ。それでは普通にイカサマだぞ。ケインが選んでから、裏からでも分かるザイクが選んだら負け確定だぞ」

「そうですわ。イカサマですわ」

「ずるいよ!私でもわかるイカサマだよ」

ザイクが笑う。

「確かにそうだ。だが、俺のカードを選ぶのもケイン、お前だ」

なに?

「俺はカードには触れない。お前自身のカードも、俺のカードも、選ぶのは、お前だ。故に、このゲームはイカサマが出来ない。どうだ?」

なるほど、確かにフェアなゲームだ。

だが、俺相手にはフェアではない。お前は俺が、最弱カードしか引けない事を知っている。

先行が俺なら、俺が引くのはハートのAで、52枚中最弱。引いた時点で負け確定だ。


「良いぞ。思ったよりフェアだぞ。ケイン引くぞ。本気を見せてやるぞ」

俺の後ろから、肩越しに体を乗り出したアリス。真後ろにはアリッサとアイリス。

周りに仲間が居ても、イカサマはできないから、問題なしだ。

「パパ!頑張って!」

「婿殿!気合いですわ」

2人の応援に後押しされて、俺は気合いで1枚引いた。

クローバーのAだ!


「ほぉ。ハートのAじゃない所が、成長の証だな」

「やるわね坊や」

パルム?セシルもか?ゲートで、アリッサの後ろに来ていた。

「応援に来たぞ」

「私は坊やのだけど」

まぁ後ろに立たれても、特に問題はない。


「お前のカードはクローバーのAだ。次に俺のカードを引け」

「ケイン、いつものモードだぞ。今度は、気合いゼロで引くぞ」

ああ、分かってる。任せろ。俺は心を無にしてカードを引いた。

当然、ハートのAだ。俺の勝ちだ!


「俺の負けだ。ケイン、お前は強い。俺より強いと言う事だ」

随分あっさりだな。

「ああ、これで踏ん切りがついたぜ」

随分さわやかな顔だ。

「パルム、セシル、済まないが、俺は引退する」

!?

「なんだと!?お前本気なのか?」

「そうよ、引退って」

パルムたちが驚くのも無理はない。俺だって驚きだ。

「ケインは、俺より強い。これはカードだけの話じゃねぇ。俺は2度続けて、イカサマを見破れなかった。これは勝負師としての格付けが済んだという事だ」

ほぉ。イカサマと分かっていたのか?

「お前が最弱以外のカードを引けるはずがない。それは知っていたからな。

問題は、どうやったかだ。だが、それが分からねぇ。次やっても負けると言う事だ。だから引退だ」

ザイクの電撃引退宣言が飛び出した。

予想外だ。どうなる?

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