ループワールド・勇者ケイン編 63
「待たせたな」
帽子に顎鬚。入院加療していたザイクが、ノスヘラトゥの社長室へ来た。
「そろそろだとは聞いていたよ。治ってよかったよ」
「ザイク!もう良くなったのか?」
「おかえりなさい。少しやせたわね」
帽子の中から鋭い眼光が、復活を伺わせた。
「俺が居ない間に、やられたらしいな」
「ああ、不覚にもな」
「あの子、本当に強いわよ」
「だが、これで大丈夫だよね。君らが3人揃えば、敵はいないはずだよ」
ケインたちが勝ったのは、パルムとセシルの2人相手だ。パルムチームではない。
「ああ、任せて置け。パルムチームは負けない」
「ええ、あの子が強くても、ザイクが戻ったチームなら、勝てるわ」
ノスヘラトゥは安心したように、椅子にもたれる。
「勘違いするな。俺はまだ復帰するとは言っていないぜ」
3人は、驚く。
「まだやり残したことがある。チーム復帰は、置き忘れたモノを取り返してからだ」
「置き忘れ?坊主に負けたことか?」
「ダメよ。せっかく友好的な関係なんだから、あの子たちに嫌われるようなことしちゃ」
ザイクはニヤリと笑う。
「話は聞いてるさ。俺個人の問題だ。あの時の負けた理由は、まだわからない。だから、このままでは俺は戦えない。もう一度勝負する。前に進むために、俺は勝つ」
「勝てる自信があるのか?」
「また、病院リターンはダメよ」
「ああ、確実に勝てる。絶対イカサマのできないゲームがある。運勝負だ。奴が本当の不運男なら、俺は間違いなく勝つ」
「そうか、勝負師としてのプライド・・・だな」
「分かったわ、協力はできないけど、応援してるわ」
笑顔で成り行きを見ていたノスヘラトゥが口を挟む。
「私としては、余りケイン君に負けて欲しくはないのだけどね。でも、ザイク君が前に進めないのも困るから、ダメとは言わないが、関係が壊れるようなモノを賭けるのは、見過ごせないな」
ザイクは分かってますと、言わんばかりの顔で返す。
「賭けるのはプライドだ。問題ないはずだぜ」
「待てザイク、坊主はそんな勝負、受けてくれないぞ」
「そうよ。坊やは、そんなプライドとか、持ってないわ」
「マジか?」
賭けに対する温度差があった。
「前回は、アイリスたちを人質にして、席に着かせたのを忘れたのか?」
「無理やりだったのよ。ただ行って勝負しろとか、受けてもらえないわ」
「・・・・また人質を」
「却下だよ。ザイク君」
「なら、仕方ない。俺の名を賭ける。クローバーのザイクの名をな」
「たぶん、いらんと言うはずだ」
「無理ね。価値観が違いすぎるわ」
「私が何か、価値のあるモノを提供しても良いのだけど、これは君たち、チームの問題だからね」
「ザイク、これを持っていけ。名を賭けても受けて貰えない時に使え」
「ああ、これなら受けてくれるわ。流石はパルムね」
ポケットティッシュが手渡された。
「これは、濡れティッシュだ。奴の年頃なら、いくら有っても足らんはずだ」
「奥さんと毎晩。お盛んな時期よね」
「なるほど、助かるパルム。これで奴と一勝負してくるぜ」
ザイクは部屋を出た。
「ティッシュをマジに受け取るとは、まだ完治してないようだな」
「ええ、バカが治ってないわ」
「君たちのチームだが、補強を考えるかね?」
哀れザイク、引退は近い。
「ケイン、TV始まるぞ。早く来るだぞ」
王宮の夜。アリス、アリッサ、アイリスはTVの前に居た。
古今東西の珍しい魔法が紹介される人気番組「なにこれ珍魔法」の時間だ。
「皆さんこんばんわ!早速3つ珍魔法を見てみましょう」
司会者の進行で番組が始まる。
「まず最初の珍魔法。花札マンさんです。え?1枚引け?私が?はいはい」
花札マンは、トランプを広げて司会に差し出した。
「では、このカードを引きます。見せるな?花札マンさんにですね。分かりました。私と視聴者は見て良い?はい。これです(ハート5)え?元に戻せ?引いたカードを中に入れます」
花札マンは、カードをカットして、中から1枚抜きだす。
「これ?!!!なんと!ハートの5!私が引いたカードです。凄い魔法です」
それマジックだ。魔法じゃない!
「続きましては、小島プロによる、高難易度魔法です」
マージャン卓が出て来た。
「小島プロの魔法詠唱「明日は晴れるかな?」が詠唱されました。山が積まれて、14枚の手牌とる。配牌を開く!上がっています!これは天和です!33万分の1と言われる天和です!」
イカサマだ!裏芸だ!魔法じゃない!
「3人目の魔法使いは、巾着切りの竜さんです。人込みの中を、するりと歩く、あら不思議!お財布が一杯!何処から出たのか?まさに魔法!」
スリだ!警察だ!魔法じゃない!!
「面白い魔法だったぞ。世の中広いぞ」
「私もできるかな?」
「氷魔法は、普通ですわね」
まぁ、面白いと言うなら良いが・・・。
「では、今週のロスト魔法コーナー。過去に存在した不思議な魔法のご紹介。今回は『魔砲』と言う、世にも不思議な、ロスト魔法のご紹介です」
!?
「今、魔砲って言ってたぞ。私の魔法だぞ」
「僅かな記録はあるものの、謎に包まれたロスト魔法『魔砲』。番組総力取材で、そのベールの一端が明らかに!番組が探し当てた、古文書、古の記録とは?」
タイトル画面で『魔砲』と書かれた文字、間違いないアリスの使う魔法だ。
「その戦力、木星ト0ゲのごとし。その火力、破壊王ゴ0ラのごとし。その威力、波0砲のごとし」
何時の時代の、どの世界の記録だ。
「その獲得法は、特殊な状況下で、特殊な経験値を得た上で、天文学的な確率を引き当て、更には特殊な人格者にのみ、与えられると言われる。まさに奇跡の魔法」
特殊な経験値って、尻に薬草ぶち込まれることか。
「特殊な人格者ってなんだぞ?私は普通だぞ。どこにもいる女の子だぞ」
居ない。ある意味、特殊レアガールだ。
「ママ、私無理だよ。特殊人格者じゃないよ」
「でも、ロスト魔法って凄いですわね」
ああ、アリスが持ってると知れたら、大騒ぎだ。
「既にこの魔法を持つ者は居ない。我々の取材で明らかになった、ロスト魔法『魔砲』は、謎に包まれたままなのだ」
「いるぞ、ここに。名乗り出るぞ」
いや、公にはしな方がいい。後でティナたちに相談だ。
番組が終わる。アリスがお茶を入れてくれた。
俺達は「魔砲」の話題で、話が弾んでいた。
「女王陛下、ケイン様にお客様です」
衛兵が部屋に入って来た。
「あら、こんな時間にですか?どなたでしょう?」
「はい。クローバーがどうのこうのと申しておりました」
「ザイクだぞ。退院したようだぞ」
快気祝いでも貰いに来たか?
「良いですわ。今は、あの方たちとは友好的ですわ。ご案内を」
いまさら俺に何の用だ?
「暫くだな勇者。パルムたちが世話になったようだ」
相変わらず、鋭い眼光と雰囲気は持ってる。
「率直に言おう。俺と勝負しろ」
「いやだ。理由が無い」
「くっ!」
「まだ懲りてないかだぞ。ケインには勝てないぞ。普段は引きの弱いヘタレでも、いざとなれば、無敵の勝負師だぞ」
褒めてるのか?それ褒められてるのか?
「なら、俺の名を賭ける。どうだ、ギャンブラーの世界では、クローバーのザイクの名は、宝だぜ」
「いらない。欲しくない。興味ない」
「くっ!!」
「そんなのケインが欲しがるかだぞ。もっといいの持ってくるぞ」
「ケリのついた勝負に、文句は言わない。だが、前回の勝負は、お前のイカサマ勝ちだ」
証拠はあるのか?
「ない。悔しいが、どんな手法かもわからない。だが、間違いない。俺のソウルがイカサマだと訴えていやがる」
「証拠も無いのにイカサマ扱いはないぞ」
「・・・勇者、俺は勝負師だ。勿論相手のイカサマでも負けは認めるぜ。だが、貴様とはイカサマ抜きで勝負したい。頼む、この1戦、受けてくれ」
気持ちは分かるが、なぁ・・・。
「そうだ!これを賭けよう!ポケットティッシュだ!」
壊れてるのか?なんでそんなものを?
「しかも濡れティッシュだぜ!」
アリスが耳打ちした。
「・・ケイン、受けて立つぞ。頭テンテンしてるぞ。ポケティはないぞ。馬鹿に絡まれると厄介だぞ」
だな。受けて立つか?負けても良いし。
「良いだろう。受けてやるよ」
「流石はパルムだ!ナイスアイディアだ。たすかったぜ相棒」
パルムだと?マジか?あいつがポケティを?
「ただし条件がある。次はない。勝っても負けても、あんたとの勝負はこれっきりだ」
「ああ、分かっているぜ。俺はこの一戦にすべてを賭ける!」
「で、どんな勝負だぞ?」
「聞いて驚くな。絶対にイカサマの出来ない、運勝負だ」
くそ、やはり運か。
「絶対はないぞ。どんな勝負でもイカサマの要素はあるぞ」
「ふふふ、それが無い。この勝負に限ってイカサマは絶対にできない」
大した自信だ。だがアリスの目が輝いた。この勝負も俺の勝ちだ。
「まず、俺と相対した席に座れ。使うカードはこれだ」
俺はザイクの前に座る。ザイクが懐からカードを取り出した。
「それって、あんたの持って来たカードだぞ。そんなの使えないぞ」
俺の肩越しに、後ろに立っていたアリスが咎めた。
「当然だが、このゲームに関しては、どんなカードでも問題はない。まぁ調べたければ、好きに調べろ。俺は裏からでも数字とマークは分かる」
なんだと?全部わかった上での勝負じゃ、俺達が不利だ。
「面白いぞ。それでイカサマ無しと言うなら、このカードで勝負してやるぞ」
いいのか?
「良いぞ。どんなゲームか興味があるぞ。でもイカサマ即負けだぞ。一応カードは調べるぞ」
アリスがカードを手にした。が、相手は裏からでも、どのカードか分かるなら、調べても無意味だがな。
「使い込んでるぞ。見るぞケイン、これ」
アリスが1枚のカードを俺に渡す。ダイヤの5だった。
俺は裏表を確認した。
「ああ、裏に汚れがある」
ザイクの口元に笑いが出た。
「俺の相棒さ。長年俺と勝負を共にした相棒だ。よく見ないと分からない程度の汚れだが、俺は全部覚えている」
俺はアリスにカードを返す。アリスはカットしてからザイクにカードを戻した。
「では勝負だ。今からこのカードを1枚ずつ並べる。これは52枚あることの確認のためだ」
「私が抜いた、とでも言いたいかだぞ」
「勘違いするな。全てのイカサマ要素を排除するためだ」
確かに、裏からでも分かるお前が見れば、抜く、すり替えは、できないな。
「確かに元からあった52枚だ。次にルールだ。1枚ずつ引いて、自分のカードを決める。数の多い方の勝ち。Aは最弱の1扱いで、マークの強さもスペード、ダイヤ、クローバー、ハートの順で強いとする」
今回は、引き分けなしだな。
「そうだ。さぁ最初に自分のカードを選べ」
「待つぞ。それでは普通にイカサマだぞ。ケインが選んでから、裏からでも分かるザイクが選んだら負け確定だぞ」
「そうですわ。イカサマですわ」
「ずるいよ!私でもわかるイカサマだよ」
ザイクが笑う。
「確かにそうだ。だが、俺のカードを選ぶのもケイン、お前だ」
なに?
「俺はカードには触れない。お前自身のカードも、俺のカードも、選ぶのは、お前だ。故に、このゲームはイカサマが出来ない。どうだ?」
なるほど、確かにフェアなゲームだ。
だが、俺相手にはフェアではない。お前は俺が、最弱カードしか引けない事を知っている。
先行が俺なら、俺が引くのはハートのAで、52枚中最弱。引いた時点で負け確定だ。
「良いぞ。思ったよりフェアだぞ。ケイン引くぞ。本気を見せてやるぞ」
俺の後ろから、肩越しに体を乗り出したアリス。真後ろにはアリッサとアイリス。
周りに仲間が居ても、イカサマはできないから、問題なしだ。
「パパ!頑張って!」
「婿殿!気合いですわ」
2人の応援に後押しされて、俺は気合いで1枚引いた。
クローバーのAだ!
「ほぉ。ハートのAじゃない所が、成長の証だな」
「やるわね坊や」
パルム?セシルもか?ゲートで、アリッサの後ろに来ていた。
「応援に来たぞ」
「私は坊やのだけど」
まぁ後ろに立たれても、特に問題はない。
「お前のカードはクローバーのAだ。次に俺のカードを引け」
「ケイン、いつものモードだぞ。今度は、気合いゼロで引くぞ」
ああ、分かってる。任せろ。俺は心を無にしてカードを引いた。
当然、ハートのAだ。俺の勝ちだ!
「俺の負けだ。ケイン、お前は強い。俺より強いと言う事だ」
随分あっさりだな。
「ああ、これで踏ん切りがついたぜ」
随分さわやかな顔だ。
「パルム、セシル、済まないが、俺は引退する」
!?
「なんだと!?お前本気なのか?」
「そうよ、引退って」
パルムたちが驚くのも無理はない。俺だって驚きだ。
「ケインは、俺より強い。これはカードだけの話じゃねぇ。俺は2度続けて、イカサマを見破れなかった。これは勝負師としての格付けが済んだという事だ」
ほぉ。イカサマと分かっていたのか?
「お前が最弱以外のカードを引けるはずがない。それは知っていたからな。
問題は、どうやったかだ。だが、それが分からねぇ。次やっても負けると言う事だ。だから引退だ」
ザイクの電撃引退宣言が飛び出した。
予想外だ。どうなる?




