ループワールド・勇者ケイン編 62
爺さんとアリスの、ぬか話が終わった。
「坊主、ポカリを頼む。ワシが必要な時は、遠慮なく呼ぶのじゃぞ」
ああ、ぬかが上手く漬からなかったら呼ぶよ。
「でな、一つだけ伝えてなかったことがあるのじゃが、気を悪くせんで聞いてくれ」
ん?
「お主が、仲間を大事に思っておることは知っておる。じゃがな、あの鳥には気を付けろ」
ピーの事か?
「わしらの能力は知っておろう。あの鳥の心は読めなかった。その上、逆にわしらの心を読みおったのじゃ。お主たちに害のある者か否かとな」
まぁ、ピーなら、そのぐらいは出来そうだな。
「ピーなら大丈夫だぞ。ピーはマオを裏切らないぞ。マオは私たちを裏切らないぞ」
「その通りだ。が、忠告は聞いておくよ。確かにピーは、只ものではないからな」
「うんうん。人の話をちゃんと聞けるのは、お主の良い所じゃ。わしらは側におる。何時でも呼ぶがよい」
ああ、話せてよかった。
「爺さん、まただぞ」
「皆にもよろしくな。がんばれ坊主」
カッパ像の輝きが消える。そして声は聞こえなくなった。
「次からアヤメさんに来てもらうぞ」
アリスがボソッと本音を漏らした。
「ケインさん、セイレーンさんから、出撃の準備が整ったとのことです」
ティナが、準備の完了を知らせに来てくれた。
魔王退治の時間だ。
「ここがセイレーンの中かだぞ」
深海での戦闘用に、セイレーンの内部を改造して、乗り込めるようになった。
「良いね~広くてさ~」
ワンルームだが、広い。中央には調理台や冷蔵庫。壁際には複数のソファーとベット。
「戦いは長期戦に成る場合もあるでござる。快適な居住空間にしてあるでござるよ」
お?カラオケもあるのか?
「私歌う。マジンガーの歌」
後でな。
「あの‥余り色々見ないでください」
真っ赤な顔で、セイレーンはモジモジしていた。
「本体は私も同然です。中に入られると、恥ずかしいです」
機械って分からん。
「ふぅ~んだぞ。じゃ、この壁をナデナデしたら、感じるのかだぞ?」
手がやらしい。アリスは壁をナデナデして見せた。
「感じません!そこの壁は後付けです!」
後付けじゃないと?
「ねぇ様、発進準備できました」
「ねぇ様、制御室まで、お越しください」
ルピとルカから呼び出しが来た。
「分かりました。すぐ行きます。マスターお願いですから、変なところを触らないでくださいね」
結構マジな顔でアリスに言うと、部屋を出て行った。
「変な所って、どんな所かだぞ?」
うぁ、目がやらしい。
「嫌らしい意味ではないでござる。アリス殿の横にあるスィッチ、自爆用でござる。触ってはダメでござるよ」
ござるじゃねぇ!
「ハウル!アリスを確保だ!ティナ!ターナ!スイッチを守れ!アリッサとアイリスは、アリスを壁から引き離せ!マオ!アズサ!ターナの支援だ!」
指示通りに全員が素早く動く。危なく、終わるところだった。
「なんだぞ?みんなどうしたぞ?なにが起こったぞ?」
アリスは押すなと言うスイッチを、確実に押す女だ。
「ママはデフォで押すからね」
「婿殿正解ですわ。あの子なら押しますわ」
「押すよね~」
「押す」
「みんな酷いぞ、私がいつそんなことをしたかだぞ?」
自分が見えていない。
「トーレフ、とりあえず位置を変えてくれ。ここ以外のどこかで頼む」
とりあえず危機は回避した。
『ケインは、適切な指示を出し、経験値を獲得した。レベルが上がった』
忘れていた天の声。
『ケインのレベルはマイナス380からマイナス450になった』
おーーーーい。マイナスの方も忘れかけていた。
「勇者よ。見事な采配だった。このハウル感銘したぞ」
「またレベル上げた。やるなケイン」
「だね~傷が深くなるよね~」
「パパ!よくわからないけど凄いよ」
くそ、俺のプラス復帰が、また遠のいた。
「皆さん?」
魔王の居城まで案内して貰う為に乗り合わせた、女神ノア。
俺達のバタバタを見て、驚きを隠せなかった。
「もう大丈夫だ。最大の危機は去った」
「はい。ご安心ください。私たちの危機は、勇者ケインの手によって回避されました。これで魔王を討伐へ行けます」
「は・・はぁ」
よその子は、俺たちの流れにはついてこれない。
「みなさん、発進します。揺れますので、席に座ってください」
セイレーンの声だ。
「良し発進だぞ。魔王を退治するぞ」
今回は俺が作戦を立てた。魔王は体に纏うぬめりで魔法を無効化する。海の中では無類の強さだ。
が、それは海の中での話。陸に引きずり上げて倒す。
魔王の城へ向けて深海を進む。
「もうすぐです。魔王の城、竜宮城が見えるはずです」
ノアは、暗い海に先を指さす。
「マスター前方に建造物を確認しました」
「ねぇ様、攻撃照準を受けています」
「ねぇ様、距離3500m。射程圏内です」
お?攻撃できるのか?
「できます。私は改造される羽目になりました。辱めを受けました。あいつらは敵です」
逆恨みっぽい。
「なんでもいいぞ。ハドロンが打てるなら問題ないぞ。発射準備だぞ。目標竜宮城。魔王を煮つけにしてやるぞ」
俺の華麗な作戦、必要なさそうだな。
「ハドロンブラスター充電完了です。発射10秒前」
「ねぇ様、目標固定。照準微調整。機体固定完了。オールグリーン」
「ねぇ様、竜宮城から魔王です。魔王、攻撃軸線上に入りました」
良い感じだ。魔王が出てきやがった。巨大なサメ型のようだが、直ぐ煮つけに成る。造形の説明不要だ。
「よし、発射だぞ!サメの煮つけを作るぞ!」
「ハドロンブラスターEX発射します!」
深海の暗闇に閃光が走る。
ハドロンブラスターは魔王に直撃した。
「楽勝だったぞ」
ああ、思いの他、楽だったな。
「マスター!敵影確認!魔王・・・健在です!」
なんだと!?
「ねぇ様、ブラスターキャンセルされました」
「ねぇ様、魔王ノーダメです」
ぬめりは、魔道兵器にも有効なのか?
「ケインの策に移行するぞ。各自持ち場につくぞ。セイレーン、敵の攻撃を躱しつつ、水深100mまで逃げるぞ」
魔王を先頭に、うじゃうじゃ出て来た。魚人共だ。
撃ってくる撃ってくる。
「どうだぞセイレーン、回避は出来そうかだぞ?」
「大丈夫です。シールドを後方に展開しています。魔王の攻撃はシールドで対応可能です」
「ねぇ様、後方700mまで接近」
「ねぇ様、水深130mです」
水深300mの竜宮城から、俺たちは、敵を引きつけつつ、水深100mを目指していた。
後方から魔王とその軍勢が迫る。
「ケインさん!大きな魔力を感じます!魔王の本気攻撃が来ます」
「シールド最大だ!ティナ、防御加護を頼む!」
「はい。神の加護!防壁展開」
機体が大きく揺れた。魔王の本気攻撃だ。
「攻撃を受けました。シールド消失。次弾には耐えられません」
「ねぇ様、浸水箇所多数。ダメージコントロール。隔壁閉鎖」
「ねぇ様、機関出力低下。76%です」
ダメージがでかい。逃げ回る余裕はなさそうだ。
「ここで迎え撃つ。作戦開始だ!」
俺が指示を出すと、仲間たちが動く。
「精霊魔法、この貧弱な者たちに力を!」
「ターナさん貰ったよ!魔法剣!爆裂斬!×3だよ!」
アリッサの爆裂斬が3発、魔王の直下に放たれた。
魔王には無効でも、周りの海水は別だ。海水は、爆裂斬の威力で、魔王を中心に外へと弾かれる。
「時間停止魔法!海よ止まれ!」
弾かれた海水の時間をアズサが止め、アリスが絶対零度を放つ。魔王の周りの海水は、全て凍り付いた。
魔王は海の底、しかし、爆裂斬の威力で、周りには海水はない。
魔王を中心とした海底は、地面を露わにしていた。
手足の生えた巨大なサメは、水を求めてビチビチと跳ねまわる。
「陸に上がったサラ族だぞ」
間違いではないが、カッパで良いだろ。
「パクパクしてるよね~」
ああ、周りの海水は凍らせたからな。海の中に穴が開いてる状態だ。
「ケインさん、程よく温めます。神の加護!灼熱の太陽です!」
魔王の直上に神の加護で出来た火球。ぬめりも乾いた。
とどめはアイリスだ。
「初めての止め番ですわ!気合いで撃ちますわよ!氷魔法!雹弾ですわ!」
アイリスの雹弾が魔王を襲う。
「ぐはぁぁぁぁぁぁぁぁ」
穴だらけになった魔王の、断末魔の悲鳴。
俺達の勝ちだ!
楽勝だった。やはり俺たちつおい。
魔王を失った魚人たちは、魔界へ逃げて行った。
深海でも活動の可能な人魚たちが、セイレーンと共に、竜宮城の探査をする。
「ケインさん、宝の箱が3つ見つかりました。後は大したものはありませんでした」
セイレーンが持ち帰った宝の箱、中からは黒い羽。
いったい、この黒い羽は…?
引き続き探査は行われるが、俺たちはカモミールへ戻ることにした。
サラ族の族長、ヒデキさんは、お礼にと河童の像をくれた。
「只今だぞ」
「おかえり。どうだ魔王は倒せたか?」
「ああ、みんな頑張ったから、早く済んだ」
「魔王を3つも倒すなんて、ケインも立派な勇者様ね」
「はいデス。あのヘタレ勇者は、立派に成長したデス」
レナとセレス、ナナは、王都が平和だったことも告げて来た。
ターナとハウルは獣都へ、アズサとナナは魔都へ、シータは黒い羽を持ってエクセレンの所へ、マオは自宅へ、それぞれ戻って行った。
「ケイン、お昼にするぞ。なにがいいかだぞ?」
そうだな・・きゅうりのぬか漬けの話が出たから、食いたくなったんだが・・。
「塩漬けならありますわ。先日漬かったキュウリとナスが、程よい感じになっていますわ」
それ、使ったのか?漬かったのか?
「使いながら漬かりましたわ」
「ママエキス100%だぞ」
いらね。
「ママ、王都の街で、美味しいって噂の漬物屋さんを聞いたよ」
「悔しいけど、ぬか漬けは買いに行くぞ。ケインには、私が使ったキュウリで漬けた、ぬか漬けを食べさせたかったぞ」
使うな。って、奥さん欲求不満か?
「私も行きます。5年後のために、ケインさんの好みの味を覚えます。」
よし、3人で買い物だ。
アリスとティナ、俺で王都の街に来た。
噂の漬物屋の前だ。流石は人気の店、人だかりができていた。
「スミマセンだぞ。ぬか漬けが欲しいぞ」
「ぎ」
!?
「何でこいつが店員だぞ!」
魔王軍のロボだ。また潜入していたのか?
「ケインさん下がってください!」
ティナとアリスが俺に前に出た。
「ぎぎぎぎぎ!」
手を前に出して左右に振る。あれは、待て意味だ。
「問答無用だぞ!行くぞ絶対・・・」
待てアリス。様子が変だ。俺はアリスを止めた。
ロボはパンツを脱ぐ。ロボはブリーフだった。
脱いだブリーフを、棒に結わえて振り出した。
「よし攻撃OKだぞ。今度こそ絶対零・・・」
待て待て、あれは降参の印だ。
「違いますケインさん。男が女の子の前でパンツを脱いで振り回すのは、戦闘態勢が整っていることの証か、変態行為です」
「どっちにしても攻撃していいぞ」
まぁ、そうだが、あれは降参してる。攻撃は待つんだ。
「ぎぎぎ」
両膝を付いて、手の平を合わせティナを拝むロボ。
「私を拝むとなると、女神として攻撃は出来ません」
「私が話を聞いてみるぞ」
アリスが両膝を付くロボの横へ行く。
「ぎぎぎ!ぎーーぎーーー」
「フムフムだぞ」
「ぎーぎーぎぎぎぎぎ」
「マジかだぞ?それは可哀そうだぞ」
おい、分かるのか?凄いなお前。
「聞けば可哀そうな奴だぞ。私たちが魔王を倒して、存在理由がなくなったぞ。マザーコンピューターも無いから、指示をもらえないぞ。金庫がなくなって、収入もないから、電池が買えなくて、出稼ぎに来てるらしいぞ」
確か魔王軍は、200年ごとに魔王を呼び出すのが役目だったよな。
「はい。本来は魔王を呼ぶのが役目だったはずですが、いつの頃からか、人類を攻撃するようになっていました」
「こいつも、帰りを待ってる妻と子がいるそうだぞ。お腹を空かしてるそうだぞ」
「奥さんとお子さんが・・ケインさん、魔王軍とは言え、討ち取る訳にはいきません」
ああ、戦闘の意思がないなら、脅威にはならない。
が、いくつか質問してからだ。
「残党は何人居るんだ?」
「ぎぎ」
「35体だそうだぞ」
「本当に攻撃の意思はないんだな?」
「ぎぎぎ!」
「ないそうだぞ。そもそも、武器も無いし、数も居ないし、増やすことができないぞ」
その辺は後で、科学班に裏を取らせば分かるな。
「最後の質問だ。なんで魔道兵器なんか作ったんだ?お前らの仕事は、魔王を呼び出すことのはずだ」
「ぎーぎー!ぎぎぎぎぎ!ぎー」
「驚いたぞ。こいつからギルバの名前が出たぞ」
なんだと!?
「ギルバがマザーコンピューターをハッキングしたらしいぞ。ロボたちはマザーには逆らえないぞ。事実上、ギルバが魔王軍を操っていたぞ」
「ぎぎぎ!」
「マザーが破壊される寸前に、パソコンにデーターを移してるらしいぞ。解析すれば、ギルバがハックした証拠に成るかもだぞ」
まじか?
「そのパソコンは提出してもらえるのですか?」
「ぎぎ」
「OKだぞ。既にマザーの意思はないらしいぞ。メモリが一杯に成って、人格は移動できなかったらしいぞ」
エクセレントに報告だ。
「ロボは王都で保護するぞ。ママに言って亡命を認めてもらうぞ」
「ぎ~~~」
「平和に暮らせるなら、昨日の敵は今日の友だぞ。馬車馬の如く、こき使うぞ」
「はい。では私は天界に戻ります。姉に伝えてきます」
やはり800年前にカモミールを狙っていた女神は、ギルバとリリスだったんだ。
証拠が出れば、奴らを逮捕してもらえる。
不安要素が無くなれば、俺たちは平和だ。




