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残念世界の残念勇者   作者: XT
59/96

ループワールド・勇者ケイン編 59

「坊主、楽しませてくれたな」

「坊や、あれ私に頂戴」

ハウルとセシルだ。俺達は正面から対峙した。


「遣らないぞ。今回は何が目的だぞ?」

分かっているが一応聞いておく。

「俺たちの仕事はアイテムの回収だ」

「巨大ロボ奪取よ」

よほど気に入ったらしい。


「どっちも渡さないぞ。アイテムは回収済みだぞ。欲しければ力で奪い取るぞ」

「ふふふ、俺たち相手に言うようになったな坊主。今回は本気で行くぞ。アイテムはもらった!」

「良いわね坊や。本気の私たちは強いわよ。巨大ロボは頂いたわ!」

どうしてもロボの方か?


ハウルとセシルが構えた。

「行くぞケイン」

アリスが小声で囁く。俺は小さく頷いた。

「絶対零度だぞ!」

「!?いきなりか?絶対防壁!正面に多重展開!」

行けマオ!あいつは今動けない。前面のみに防壁を張っている。全方位から攻撃だ!

「あいよ~毒魔法!毒霧だよだよだよ~」

アリスの絶対零度から守るには、防壁を集中させる必要がある。

前以外は無防備だ!


「あら良い作戦。ハウルに防壁を張らすために、切り札を使うなんてやるわね。でも甘いわ。紫炎防壁展開よ」

なんだと!?セシルの周りに紫の炎の防壁が展開された。

前はハウルが、横と後ろはセシルの防壁で守られていやがる。

「不味いぞケイン、効果が切れるぞ」

全員いない状態だ。戦力不足だ。正面から遣り合ったら負ける。


「あんなの見せてくれなかったぞ。茶番戦闘だから隠していたぞ」

まぁ当然だ。敵である俺たちに、手の内を全て見せる訳が無い。

マジヤバだ。策は?策はあるのか?


「ケイン試したいことがあるぞ。私に任せてだぞ」

アリス?よし任せた。

「みんな散開するぞ!奴らの攻撃から逃げ惑うぞ。少し時間を稼ぐぞ」

みんなアリスの指示に従え!マオ!ターナ!ルーンとシータを任せた。

「どうせ狙いはケインと私だぞ。逃げまくるぞ」


「さぁ反撃だ。行くぞ坊主!」

「紫炎火炎弾!」

攻撃はセシルだ。基本このチームは役割分担が出来ている。

守りはハウル。攻めはセシルだ。

2人は互いに離れることなく、攻撃をハウルが受け止め、その間にセシルが攻撃してくる。隙の無いチームワークだ。


俺達は逃げ惑うしかなかった。

幸い狙いは俺達で、シータ達には攻撃はない。

アリスが言う試したいことの準備のため、俺たちはセシルの攻撃から逃げまくっていた。


「魔砲 1式弾装填だぞ。2式弾装填だぞ。目標固定だぞ。発射だぞ」

それ、使えるのか?

「あれから何度か撃ったぞ。それで分かったぞ。これは進化する魔法だぞ。進化して2式弾が打てるようになったぞ。発射してから少しなら動いても発動するようになったぞ」

海岸線の岬まで追い詰められた俺たちは、後ろの崖に阻まれ逃げることが出来なくなっていた。


「追いかけっこは終わりだ坊主」

「全く、逃げるのが上手いわね」

ゆっくりと近づいてくるハウルとセシル。

構えたまま、じりじりと下がるアリス。だが、これは只構えているだけではない。アリスの魔砲の発動待ちでもある。

ハウル達は油断している。いきなり発動するアリスの魔砲なら。


「残念だな。その魔法は知っている」

「試し打ちしてるとこ、見ちゃったのよ」

くそ!バレてやがる。

「発動まで時間のかかる、使えない魔法だが、知らない相手になら、有効だな」

「そうね。でも、使い勝手が悪すぎよ」

詳しく知ってやがる。

「そうだぞ。使い勝手が悪いぞ。でも、私たちの勝ちだぞ」

「ん?」

「ハウル上!上よ!」

セシルが自らの影の異変に気が付いた。

「なんだと?」

セイレーンが落ちて来た!


「絶対防壁!直上多重展開!!!」

「さっき見たぞ。ミサイル相手に多重展開していたぞ。ハウルの絶対防壁は、魔法には強くても、単純な物理攻撃にはそれほど強くないぞ」

「紫炎防壁!!全力展開よ!!」

「炎で落下エネルギーを燃やせるかだぞ?」

アリスの策は、セイレーンを落とすという事だった。

巨大重量のセイレーンを、上から落とすことで、落下エネルギーも加わる。

その為に油断させる必要があった。

逃げまくる事、アリスが隠していた魔砲を構えることで、ハウルたちは、魔砲を切り札と考え、すっかり油断した。


真上から落ちてくるセイレーン本体。ハウルは絶対防壁の多重展開で耐える。

セシルの紫炎防壁も加わり、2人はセイレーンの重量を耐え抜いた。

「ハァハァ。。耐えたぞ。耐え抜いたぞ!どうだ!」

「はぁはぁ・・残念ね、アリスちゃん。惜しかったわね」

よく耐えたな。でも俺たちの勝ちだ。

「だぞ」

魔砲が発動した。1式弾は雹弾が打ち出され、2式弾は氷柱が打ち出される。

全力を出し尽くしたハウルには、防壁を張る力は残っていなかった。

「ぐはぁぁぁぁぁ」

「ぐはぁぁぁぁぁよ」

魔砲の攻撃を受け、パルムたちは倒れた。

「俺たちの勝ちだ!」


「ケイン!やった」

「見事だ勇者」

ああ、だが、俺はまた何もしていない気がする。

「ケインさん。この二人は、天界指名手配犯です。凄いです」

シータ、よく知ってるな。

「エク姉様が元担当でした。確か歴代3位の勇者チームです。負けたことが無いと聞いています」

じゃ、俺達が初めての土を付けた訳だな。大金星だ。

「シータ、済まないけど、この二人、蘇生してやってくれだぞ」

「え?蘇生ですか?逮捕ではなく?」

「ああ、頼むよ。こいつらには、借りが沢山あるんだ。俺はこいつに勇者を教えてもらった。心が折れそうなとき支えてもらった。だから、俺からも頼む」

「よし、撤収だぞ。セイレーンもよくやってくれたぞ」

「ルピ、ルカ、久々にマスターからお褒めの言葉です」

「ねぇ様、最初で最後かも」

「ねぇ様、死亡フラグ成立かもです」


ーーーーーノスフェラトゥーーーーー

「あはははは!腹が、腹が痛い。あははは」

腹を抱えて笑うノスフェラトゥ。

「社長、ご自分の傭兵が負けて、何が面白いんですか?」

「だってレイラ君、あははは、完敗だよ。完敗。見事なまでの負けだよ」

「だから、なぜお笑いに?」

秘書のレイラは、怪訝そうに聞く。

「何でだろうね?私もよくわからないが、なぜか楽しくて・・あははは」

笑いが止まらないノスフェラトゥだった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ターナは残ったが、俺たちはカモミールへ戻って来た。

エクセレントの前で、回収した宝箱を開ける。

「黒い羽?だぞ?」

中には1枚の黒い羽が入っていた。

「特に魔力は感じません。ただの羽のようですが、カラスの羽でしょうか?」

エクセントも不思議そうだ。

「黒い羽募金でも~やってるのかな~」

カラスの羽にしては大きめだが、これが宝?

「他の箱も開けるぞ」

4箱全部、黒い羽が1枚ずつ入っていた。


「これが欲しくてパルムたちは来たのかだぞ?」

黒い羽を手に取り、アリスが首をかしげながら言う。

「いや、おそらくパルムたちも中身までの情報はないでしょう。魔王軍のドロップアイテムと言う事で、来たと思います」

だよな。どう見ても価値が有りそうには見えない。

「一応、天界の方で調べてもらいます。お預かりしても良いでしょうか?」

ああ、頼んだ。

エクセレントは、それぞれの箱に、黒い羽をを戻すと、天界へ帰って行った。


「アリスさん、私、分かりました!秘密基地って重要です」

「だぞ。ターナのマジンターナがあったからこそ、私たちは勝てたぞ。秘密基地があれば、もっと簡単に勝ってるぞ」

「予算は、ふんだんに出します。カモミールとアトランに、建設しちゃってください」

ふんだんって言うが、王都の税収って、そんなにあるのか?

「婿殿、優秀な女王は、やりくりも上手ですわ」

「マオの固定資産税だぞ。足らない時は適当な理由で請求すると、いくらでも払ってくれるぞ」

「私のキャッシュカードは~アリスが持ってるよね~いつも自由に使ってるよね~」

「とりあえず、秘密基地建設費用だぞ。マオ、呼吸税を払うぞ。息してると税がかかるぞ」

「あいよ~3兆ほど払うよね~」

1個人のお財布が国を支えていた。



ところでレナとセレスを見ないが。

「あいつら、シータが出した稼働制限に反対して、逃げたぞ」

「パパ、セイレーンのドックだよ。マリーが来た時に、迷惑だって言ってたよ」

科学班に迷惑かけてるのか?

「マリーがね、レナ達が壁を切りつけたり、叩いたりしてるんだって。『くそ女神』とか叫びながら叩くから、五月蠅って言ってたよ」

「誰が、くそ女神なんでしょう?」

あ。シータの顔。初めて会った時の顔だ。


「皆さん、聞いてください。私は見習い女神として、初めてカモミールへ来ました。わずかな期間でしたが、私の価値観は、粉々に打ち砕かれました。でも、おかげで、私は大きく成長できた気がします。これからは姉たちに負けないよう、立派な女神を目指します」

ああ、二人の女神に守られる俺たちは、幸せだ。

「明日ティナが復帰したら、お祝いの宴会をやるぞ」

「予算は、お好きなだけどうぞ」

今度もハッピーエンドだ!



ーーーー天界ヴィーナス家ーーーーー

「いろいろと順調ですが、今までの周回には無い流れが幾つかあります」

エクセレンが、ヴィーナスへの報告をしていた。

「黒い羽も気になりますね。あれはいったい?」

「調べています。が、魔力は検知されません。普通の黒い羽です」

「魔王達の所持してた物、それもドロップしたアイテムが、ただの羽とは思えません。詳しく調べてください」

ヴィーナスは黒い羽を気にしているようだ。


「ケインさん達は、守護者様と友好的関係です。コンタクトの依頼をしてみては、如何でしょうか?守護者様なら、ループワールドについて、ご存知かもしれません」

「そうですね。そろそろケインさんにも、真実を伝えるべき時期かもしれませんね」

「では、頃合いを見計らい、私から」

「ええ、お願いします。今後はアイリスさんの魔法の暴走を食い止めることを、最優先としましょう」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

カモミールは、時間を繰り返す、ループワールドへ陥っている。

原因は女神達にもわからない。

あることがきっかけと成り、時間は巻き戻される。

きっかけを取り除けば、カモミールは正常な時間を取り戻せる。

ヴィーナスは、その事実をケインに話す決断をした。



ーーーーーー天界 悪だくみルームーーーー

「くそぉぉ!せっかくティナとケインを、カモミールから引き離せる算段を立てたのに」

悔しがるリリス。

「見事に逆手に取られたね。これってさケインのやり方だよ」

ポテチ大好きギルバは、指についたポテチ粉(以降、ポ粉と呼称)を舐めながら言うが、リリスほど悔しそうな感じでは無い。

「分かっている。女神にあんな悪知恵はない。間違いなくケインの策だ」

「どうするの?僕たち手詰まりだよ」

「私の挙動不信にも、気が付いた頃だろう」

「魔界への依頼についてもバレるかもね」

「どこかと手を組む事を考えよう。これだけの話だ。大手なら食いつく奴は多くいるはずだ」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

リリスは単独での聖杯と起源の水の入手を断念した。



ーーーーーノスフェラトゥ 社長室ーーーーーー

「面目ない・・・・」

「穴があったら入りたいわ」

肩を落とすパルムとセシル。

「・・・・・・」

無言で笑みを浮かべるノスフェラトゥ。この状態が数分続いていた。

「何か言え、空気が重くて耐え難い」

「笑ってばかりで、言いたいことがあったら言えばいいわ」

ほぼ逆切れ。


「いやね、君たちでも負けるんだなと思ってね」

「言い訳はしない。あいつの姑息なのは知っている。充分注意したうえでの敗北だ」

「完敗よ。ぐうの音も出ないわ」

「はははは。次やったら、どうかな?」

ノスヘラトゥは、怒っている様子、不機嫌な様子はない。

「分からん。あいつら相手に、勝てると言い切れる自信はない」

「引出しの多さ。あの子たちは私たちより柔軟で、発想が自由なの。読み切れないのが現実ね」

「君たちの、そういう所が好きだよ。正直で結構だ。だが、それは勇者チームとしてだよね。傭兵パルムとしてならどうだね?」

目が笑っていなかった。

「言ったはずだ。俺は坊主の前では勇者だ。傭兵としての姿は絶対に見せない」

「親が子に見せる訳ないでしょ。どうしてもと言うなら、他を雇う事ね」

2人はマジだった。

「はははは。冗談さ。それを了承しての関係だからね。とは言え、君たちが勝てないとなると問題だよ。

価値は跳ね上がるし。力でも劣る。困ったよ。私はケイン君が欲しいからね」

この笑顔は、本当の笑顔だった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


知らない所で、色々な物語が進んでいることを、ケインたちはまだ知らない。

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