ループワールド・勇者ケイン編 59
「坊主、楽しませてくれたな」
「坊や、あれ私に頂戴」
ハウルとセシルだ。俺達は正面から対峙した。
「遣らないぞ。今回は何が目的だぞ?」
分かっているが一応聞いておく。
「俺たちの仕事はアイテムの回収だ」
「巨大ロボ奪取よ」
よほど気に入ったらしい。
「どっちも渡さないぞ。アイテムは回収済みだぞ。欲しければ力で奪い取るぞ」
「ふふふ、俺たち相手に言うようになったな坊主。今回は本気で行くぞ。アイテムはもらった!」
「良いわね坊や。本気の私たちは強いわよ。巨大ロボは頂いたわ!」
どうしてもロボの方か?
ハウルとセシルが構えた。
「行くぞケイン」
アリスが小声で囁く。俺は小さく頷いた。
「絶対零度だぞ!」
「!?いきなりか?絶対防壁!正面に多重展開!」
行けマオ!あいつは今動けない。前面のみに防壁を張っている。全方位から攻撃だ!
「あいよ~毒魔法!毒霧だよだよだよ~」
アリスの絶対零度から守るには、防壁を集中させる必要がある。
前以外は無防備だ!
「あら良い作戦。ハウルに防壁を張らすために、切り札を使うなんてやるわね。でも甘いわ。紫炎防壁展開よ」
なんだと!?セシルの周りに紫の炎の防壁が展開された。
前はハウルが、横と後ろはセシルの防壁で守られていやがる。
「不味いぞケイン、効果が切れるぞ」
全員いない状態だ。戦力不足だ。正面から遣り合ったら負ける。
「あんなの見せてくれなかったぞ。茶番戦闘だから隠していたぞ」
まぁ当然だ。敵である俺たちに、手の内を全て見せる訳が無い。
マジヤバだ。策は?策はあるのか?
「ケイン試したいことがあるぞ。私に任せてだぞ」
アリス?よし任せた。
「みんな散開するぞ!奴らの攻撃から逃げ惑うぞ。少し時間を稼ぐぞ」
みんなアリスの指示に従え!マオ!ターナ!ルーンとシータを任せた。
「どうせ狙いはケインと私だぞ。逃げまくるぞ」
「さぁ反撃だ。行くぞ坊主!」
「紫炎火炎弾!」
攻撃はセシルだ。基本このチームは役割分担が出来ている。
守りはハウル。攻めはセシルだ。
2人は互いに離れることなく、攻撃をハウルが受け止め、その間にセシルが攻撃してくる。隙の無いチームワークだ。
俺達は逃げ惑うしかなかった。
幸い狙いは俺達で、シータ達には攻撃はない。
アリスが言う試したいことの準備のため、俺たちはセシルの攻撃から逃げまくっていた。
「魔砲 1式弾装填だぞ。2式弾装填だぞ。目標固定だぞ。発射だぞ」
それ、使えるのか?
「あれから何度か撃ったぞ。それで分かったぞ。これは進化する魔法だぞ。進化して2式弾が打てるようになったぞ。発射してから少しなら動いても発動するようになったぞ」
海岸線の岬まで追い詰められた俺たちは、後ろの崖に阻まれ逃げることが出来なくなっていた。
「追いかけっこは終わりだ坊主」
「全く、逃げるのが上手いわね」
ゆっくりと近づいてくるハウルとセシル。
構えたまま、じりじりと下がるアリス。だが、これは只構えているだけではない。アリスの魔砲の発動待ちでもある。
ハウル達は油断している。いきなり発動するアリスの魔砲なら。
「残念だな。その魔法は知っている」
「試し打ちしてるとこ、見ちゃったのよ」
くそ!バレてやがる。
「発動まで時間のかかる、使えない魔法だが、知らない相手になら、有効だな」
「そうね。でも、使い勝手が悪すぎよ」
詳しく知ってやがる。
「そうだぞ。使い勝手が悪いぞ。でも、私たちの勝ちだぞ」
「ん?」
「ハウル上!上よ!」
セシルが自らの影の異変に気が付いた。
「なんだと?」
セイレーンが落ちて来た!
「絶対防壁!直上多重展開!!!」
「さっき見たぞ。ミサイル相手に多重展開していたぞ。ハウルの絶対防壁は、魔法には強くても、単純な物理攻撃にはそれほど強くないぞ」
「紫炎防壁!!全力展開よ!!」
「炎で落下エネルギーを燃やせるかだぞ?」
アリスの策は、セイレーンを落とすという事だった。
巨大重量のセイレーンを、上から落とすことで、落下エネルギーも加わる。
その為に油断させる必要があった。
逃げまくる事、アリスが隠していた魔砲を構えることで、ハウルたちは、魔砲を切り札と考え、すっかり油断した。
真上から落ちてくるセイレーン本体。ハウルは絶対防壁の多重展開で耐える。
セシルの紫炎防壁も加わり、2人はセイレーンの重量を耐え抜いた。
「ハァハァ。。耐えたぞ。耐え抜いたぞ!どうだ!」
「はぁはぁ・・残念ね、アリスちゃん。惜しかったわね」
よく耐えたな。でも俺たちの勝ちだ。
「だぞ」
魔砲が発動した。1式弾は雹弾が打ち出され、2式弾は氷柱が打ち出される。
全力を出し尽くしたハウルには、防壁を張る力は残っていなかった。
「ぐはぁぁぁぁぁ」
「ぐはぁぁぁぁぁよ」
魔砲の攻撃を受け、パルムたちは倒れた。
「俺たちの勝ちだ!」
「ケイン!やった」
「見事だ勇者」
ああ、だが、俺はまた何もしていない気がする。
「ケインさん。この二人は、天界指名手配犯です。凄いです」
シータ、よく知ってるな。
「エク姉様が元担当でした。確か歴代3位の勇者チームです。負けたことが無いと聞いています」
じゃ、俺達が初めての土を付けた訳だな。大金星だ。
「シータ、済まないけど、この二人、蘇生してやってくれだぞ」
「え?蘇生ですか?逮捕ではなく?」
「ああ、頼むよ。こいつらには、借りが沢山あるんだ。俺はこいつに勇者を教えてもらった。心が折れそうなとき支えてもらった。だから、俺からも頼む」
「よし、撤収だぞ。セイレーンもよくやってくれたぞ」
「ルピ、ルカ、久々にマスターからお褒めの言葉です」
「ねぇ様、最初で最後かも」
「ねぇ様、死亡フラグ成立かもです」
ーーーーーノスフェラトゥーーーーー
「あはははは!腹が、腹が痛い。あははは」
腹を抱えて笑うノスフェラトゥ。
「社長、ご自分の傭兵が負けて、何が面白いんですか?」
「だってレイラ君、あははは、完敗だよ。完敗。見事なまでの負けだよ」
「だから、なぜお笑いに?」
秘書のレイラは、怪訝そうに聞く。
「何でだろうね?私もよくわからないが、なぜか楽しくて・・あははは」
笑いが止まらないノスフェラトゥだった。
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ターナは残ったが、俺たちはカモミールへ戻って来た。
エクセレントの前で、回収した宝箱を開ける。
「黒い羽?だぞ?」
中には1枚の黒い羽が入っていた。
「特に魔力は感じません。ただの羽のようですが、カラスの羽でしょうか?」
エクセントも不思議そうだ。
「黒い羽募金でも~やってるのかな~」
カラスの羽にしては大きめだが、これが宝?
「他の箱も開けるぞ」
4箱全部、黒い羽が1枚ずつ入っていた。
「これが欲しくてパルムたちは来たのかだぞ?」
黒い羽を手に取り、アリスが首をかしげながら言う。
「いや、おそらくパルムたちも中身までの情報はないでしょう。魔王軍のドロップアイテムと言う事で、来たと思います」
だよな。どう見ても価値が有りそうには見えない。
「一応、天界の方で調べてもらいます。お預かりしても良いでしょうか?」
ああ、頼んだ。
エクセレントは、それぞれの箱に、黒い羽をを戻すと、天界へ帰って行った。
「アリスさん、私、分かりました!秘密基地って重要です」
「だぞ。ターナのマジンターナがあったからこそ、私たちは勝てたぞ。秘密基地があれば、もっと簡単に勝ってるぞ」
「予算は、ふんだんに出します。カモミールとアトランに、建設しちゃってください」
ふんだんって言うが、王都の税収って、そんなにあるのか?
「婿殿、優秀な女王は、やりくりも上手ですわ」
「マオの固定資産税だぞ。足らない時は適当な理由で請求すると、いくらでも払ってくれるぞ」
「私のキャッシュカードは~アリスが持ってるよね~いつも自由に使ってるよね~」
「とりあえず、秘密基地建設費用だぞ。マオ、呼吸税を払うぞ。息してると税がかかるぞ」
「あいよ~3兆ほど払うよね~」
1個人のお財布が国を支えていた。
ところでレナとセレスを見ないが。
「あいつら、シータが出した稼働制限に反対して、逃げたぞ」
「パパ、セイレーンのドックだよ。マリーが来た時に、迷惑だって言ってたよ」
科学班に迷惑かけてるのか?
「マリーがね、レナ達が壁を切りつけたり、叩いたりしてるんだって。『くそ女神』とか叫びながら叩くから、五月蠅って言ってたよ」
「誰が、くそ女神なんでしょう?」
あ。シータの顔。初めて会った時の顔だ。
「皆さん、聞いてください。私は見習い女神として、初めてカモミールへ来ました。わずかな期間でしたが、私の価値観は、粉々に打ち砕かれました。でも、おかげで、私は大きく成長できた気がします。これからは姉たちに負けないよう、立派な女神を目指します」
ああ、二人の女神に守られる俺たちは、幸せだ。
「明日ティナが復帰したら、お祝いの宴会をやるぞ」
「予算は、お好きなだけどうぞ」
今度もハッピーエンドだ!
ーーーー天界ヴィーナス家ーーーーー
「いろいろと順調ですが、今までの周回には無い流れが幾つかあります」
エクセレンが、ヴィーナスへの報告をしていた。
「黒い羽も気になりますね。あれはいったい?」
「調べています。が、魔力は検知されません。普通の黒い羽です」
「魔王達の所持してた物、それもドロップしたアイテムが、ただの羽とは思えません。詳しく調べてください」
ヴィーナスは黒い羽を気にしているようだ。
「ケインさん達は、守護者様と友好的関係です。コンタクトの依頼をしてみては、如何でしょうか?守護者様なら、ループワールドについて、ご存知かもしれません」
「そうですね。そろそろケインさんにも、真実を伝えるべき時期かもしれませんね」
「では、頃合いを見計らい、私から」
「ええ、お願いします。今後はアイリスさんの魔法の暴走を食い止めることを、最優先としましょう」
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カモミールは、時間を繰り返す、ループワールドへ陥っている。
原因は女神達にもわからない。
あることがきっかけと成り、時間は巻き戻される。
きっかけを取り除けば、カモミールは正常な時間を取り戻せる。
ヴィーナスは、その事実をケインに話す決断をした。
ーーーーーー天界 悪だくみルームーーーー
「くそぉぉ!せっかくティナとケインを、カモミールから引き離せる算段を立てたのに」
悔しがるリリス。
「見事に逆手に取られたね。これってさケインのやり方だよ」
ポテチ大好きギルバは、指についたポテチ粉(以降、ポ粉と呼称)を舐めながら言うが、リリスほど悔しそうな感じでは無い。
「分かっている。女神にあんな悪知恵はない。間違いなくケインの策だ」
「どうするの?僕たち手詰まりだよ」
「私の挙動不信にも、気が付いた頃だろう」
「魔界への依頼についてもバレるかもね」
「どこかと手を組む事を考えよう。これだけの話だ。大手なら食いつく奴は多くいるはずだ」
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リリスは単独での聖杯と起源の水の入手を断念した。
ーーーーーノスフェラトゥ 社長室ーーーーーー
「面目ない・・・・」
「穴があったら入りたいわ」
肩を落とすパルムとセシル。
「・・・・・・」
無言で笑みを浮かべるノスフェラトゥ。この状態が数分続いていた。
「何か言え、空気が重くて耐え難い」
「笑ってばかりで、言いたいことがあったら言えばいいわ」
ほぼ逆切れ。
「いやね、君たちでも負けるんだなと思ってね」
「言い訳はしない。あいつの姑息なのは知っている。充分注意したうえでの敗北だ」
「完敗よ。ぐうの音も出ないわ」
「はははは。次やったら、どうかな?」
ノスヘラトゥは、怒っている様子、不機嫌な様子はない。
「分からん。あいつら相手に、勝てると言い切れる自信はない」
「引出しの多さ。あの子たちは私たちより柔軟で、発想が自由なの。読み切れないのが現実ね」
「君たちの、そういう所が好きだよ。正直で結構だ。だが、それは勇者チームとしてだよね。傭兵パルムとしてならどうだね?」
目が笑っていなかった。
「言ったはずだ。俺は坊主の前では勇者だ。傭兵としての姿は絶対に見せない」
「親が子に見せる訳ないでしょ。どうしてもと言うなら、他を雇う事ね」
2人はマジだった。
「はははは。冗談さ。それを了承しての関係だからね。とは言え、君たちが勝てないとなると問題だよ。
価値は跳ね上がるし。力でも劣る。困ったよ。私はケイン君が欲しいからね」
この笑顔は、本当の笑顔だった。
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知らない所で、色々な物語が進んでいることを、ケインたちはまだ知らない。




