ループワールド・勇者ケイン編 60
「アリス、アリス」
窓をたたく音がした。レナとセレスだ。
「逃亡兵が、戻って来たぞ。衛兵を呼ぶかだぞ?」
意地悪しないで入れてやれ。
「バカ女神はどうした?」
入ってくるなり、それか?
「だってバカ女神、神の加護を使って、私たちの電源を切るのよ」
「神の加護なら簡単だぞ。ティナは道義上問題があるからって使わないぞ」
神の加護なら、機械族の体内にあるスイッチを押すなど簡単だ。
だがカモミールでは、機械族にも人権がある。単なる機械としての扱いではない。共に歩む、一種族なのだ。
勝手に電源を切るのは傷害罪に当る。
「誰が、バカ女神ですか?」
俺達の部屋には、シータも居たのだ。
「ケイン、こちらの方は?」
「ティナと似てるわね」
ぼさぼさ髪に、瓶底眼鏡のシータしか見ていないレナ達には、美しくなったシータは、分からないようだ。
「シータ様だぞ。本来のお姿に戻られたぞ」
レナ達は、えっ?という顔をした。が、レナは即対応した。
「お美しい。セレス、女神様への暴言は、不敬罪に問われるぞ」
即裏切った。
「ちょ!レナ!あなた!酷くない?」
酷い。ひどいが同情はしない。
「ごめんなさい。もうやりません、神に誓って約束します」
シータは、怒ることなく、二人に頭を下げて謝った。
「シータは誤ったぞ。一言でも文句を言ったら、私が凄いことするぞ」
奥さんは、やると言ったらやる。奥さんの辞書に脅しと言う文字はない。
「分かってもらえればいいのだ。私も女神様相手に使う言葉ではなかった。謝罪しょう」
潔さはレナの良いところだ。
「まぁ、分かればいいのよ。でも私は謝らないからね」
これがセレスだ。
「これから、よろしくお願いします」
シータの笑顔は、ザ・女神の物だった。
「これから?シータ様は、カモミールの女神に成ると言う事なのか?」
ああ、当面シータが担当で、ティナが補助につく。天界のルールが変わってな、カモミールがモデルケースに選ばれた。
「もうすぐティナも戻ってくるぞ。大宴会の準備中だぞ」
山は無事越えたようだ。
「で、ケイン、マリーからの伝言だ。大陸の地下で、振動を感知したようだ。原因などはまだ不明のようだが、人工的な振動だと言っていた」
「やはりか・・前にトーレフが懸念していたんだ。魔王軍の残党が居るかもってな」
「やはり居たかだぞ」
「あの時、倒したんじゃないの?セイレーンは、海に居た連中も破壊したのよ」
奴ら大陸の地下で活動していた。破壊したのは赤道付近だけだ。
「あの?魔王軍って?」
シータは知らないか。俺たちは去年、魔王と戦う前に、魔王軍と戦ったんだが、残党が残っているようなんだ。
「後で、マリーの所へ行くぞ。詳しく聞くぞ」
ああ、そうだな。
「皆さん!お待たせしました!可愛い女神ティナ、華麗に復活です!」
ティナだ。元気な姿できた。
「でも、絶対安静状態です。強い刺激は与えないでください」
全然元気じゃない。
「待っていたぞ。大変だったと聞いてるぞ」
「はい。ケインさんに婚約してもらって、うれしくて飛び跳ねていたら、灯篭にダイブしました。頭蓋骨に灯篭が突き刺さって、危なく死んじゃうところでした」
灯篭って刺さるんだ。
「はい。我が家の灯篭は、金でできています。硬いんです」
「金持ちだぞ。無駄に金掛けてるぞ」
まぁ死ななくてよかった。
「ねぇ様?ケインさんと婚約って?」
「はい。5年後に挙式です。二人は結ばれます」
「嬉しそうだぞ。私も嬉しいぞ」
寛容な奥さんだ。
「と、いう事は・・・アリスさんは私のおねぇさん?」
俺は、義兄だよな?俺の嫁は?
「分からないぞ!そんなの考えたことが無いぞ。でも、おねぇちゃんって呼んでも良いぞ」
「アリスさんが、おねぇちゃんなら、アイリス様は?アリッサちゃんは?どうなるのでしょうか?」
シータ、それは難しすぎる。
「大賢者答えるぞ」
だから、よその子に聞くな。
『解。知った事か』
気にしないという事に決まった。
ティナが戻り、大宴会が催された。
「シータ様歓迎式典。ティナ様復帰式典。勇者ケインとティナ様婚約式典」
名目は立派だが、今回も屋台が立ち並んだ。
「国民全員が楽しめるように、外部委託にしましたわ」
「パパ、初めて見る出店もあるよ」
そうか、俺は水あめさえあればいい。
「前回は水あめネタだったぞ。今回は型抜きをやるぞ」
「型抜きか。私の出番だな」
レナが剣を抜いた。
「機械族の正確さと、私の疾風を使えば、抜けない型はない」
「私は違うものが抜きたいわ」
俺の股間を見て言うな。
「へいらっしゃ!型抜きだよ。1等商品は聖剣だよ」
なんだと!?
型抜き屋の親父(派遣)が、商品棚にある、剣を指さした。
「その聖剣って、名前はありますか?」
ティナが、すかさず聞く。
「名前か?名前は聞いてないな。社長がいらないから、景品にしなさいってくれた奴だ。社長はコレクターだから、本物だよ」
もしかして、社長って?
「ノスヘラトゥだよ。有名だろ?業界2位の大手だからな」
「1位はマオ商会だぞ。ノスヘラトゥのコレクションなら、本物の可能性が高いぞ」
「はい。確かにオーラはあります。たぶんBランクですが、間違いなく聖剣だと思います」
よし、いただきだ。
「1回1000円。ここでは10回で1Gだな」
型抜きは、自分で型を選べない。封に入った型を買って、出てきた型をやるしかない。
「ティナに買わせるぞ。幸運度の高い奴が買うと、当たりが出やすいぞ」
そうだな、今、俺が買った10枚は、全部最下位の7等だった。
「では、おじさま様、1G分ください。10枚あれば1等を引き当てられます」
「まいどぉ~」
ティナなら10枚でも多いぐらいだ。
「神の加護、開封作業省略です」
型が10枚現れたが、最高でも3等だ。
「おかしいです。女神たる私が10枚も引いたのに、3等が最高なんてありえません。
さらに50枚追加です。女神の威信が掛かっいます。私の引きに、世界の未来が掛かっています」
大げさだが、ここはマオを呼んだ方がよさそうだな。
「だぞ。私の推理が正しければ、これは由々しき事態だぞ」
「ですわ。カモミールで、あってはならないことが起こりそうですわ」
開封を終えたティナが叫んだ。
「あり得ません!4等までしか出ないなんて!後100枚追加です!ママゾンポイントは使えますか?」
間違いなさそうだ。あたりは入っていない。
「ほいほいだよね~」
マオが来た。
「マオ、1枚引いて欲しいぞ。気合いの1発を頼むぞ」
これではっきりする。あたりが入っていれば、マオなら1枚で引き当てる。
「ほい!これだよね~」
4等だ。既に3等も残っていない。1等どころか、2等すら入れてないとは。
「さらに150枚追加です!生活費全投入です!」
待てティナ。ここは当たりを入れていない、ぼったくり露店だ。
「おいおい兄ちゃん、言いがかりはよしてもらおうか?」
露店の親父の顔から笑顔が消えた。
「私の王都で、このような詐欺行為は認めませんわ!」
アイリスが前に出る。
「そうだよ!カモミールは嘘のない国なんだ。こんなズルは許さないよ」
アリッサも出た。
「今なら許してやるぞ。聖剣置いて逃げ帰るぞ」
アリスは、逆に脅した。
「俺たち相手に良いのか?ノスヘラトゥ商会を敵に回すと、大変なことに成るでぇ~」
いきなり態度が変わった。10数人の仲間が集まってくる。
「来るぞセイレーン!こいつらに、私たちの恐ろしさを教えてやるぞ!」
魔道兵器だと!?本気か?
「はい、マスター。話は聞いています。クジに当たりを入れないなんて、こんな恐ろしい連中は敵です!ハドロンブラスターGX、何時でも発射可能です!」
魔王軍には打てなくても、くじに当たりを入れない的屋は撃てるんだ。
「いいかだぞ?王都の街と一緒に焼き払うぞ」
王都の街はよせ。アリス、これを使うんだ。
俺は1枚の名刺をアリスに渡した。アリスは名刺を見ると、俺の意図が分かった。
「宇宙的屋を舐めるな!魔道兵器で引くと思うなよ!いでよ、宇宙戦艦893号!」
空に大型の宇宙戦艦だと!?こいつらもマジか?
「アリッサ、セイレーンの指揮権を渡すぞ」
電話中のアリスが、アリッサに指揮権委譲の意思を示す。
これでセイレーンの指揮は、アリッサが取れる。
「艦隊追加だ!」
的屋は援軍を呼びやがった。
「ケイン、これはいったい?」
「またトラブル?平和に遊びなさいよ」
人魚すくいをしていた、レナ達が来た。
「レナさん、実は、これこれなのですわ」
アイリスが説明する。
「なんだとぉ!!!くじに当たりを入れていないだと!」
「許せません!この神剣使いのセレスが、夜這いよ」
成敗だ。
レナとセレスが斬りかかる。
本気のレナ達相手に、的屋の連中は互角に戦う。戦い慣れていやがる。
「こいつら機械族だ!源さん!任せたぜ」
的屋の一人が叫ぶと、一人のおじさんが出て来た。
「ゴト師の源、お相手しよう」
源と名乗る男が、何かを投げつけた。小さな玉のようなモノが辺りに散らばる。
「源だか、みなもとだか知らんが、疾風のレナの前…な、なに・・体が上手く動かない」
「私も、体が変、意識が・・・」
斬りかかろうとした、レナとセレスの動きがおかしい。
「あれは、磁石ですわ!磁力でレナさん達のシステムに、異常を発生させていますわ」
ゴト師ってパチンコのイカサマ師のことか!
「まかれた球が強力な磁石ですわ」
くそ、ポンコツだ。磁石で動きを封じられるとは・・。
「セイレーン!あの戦艦を撃っちゃって!全力だよ。跡形も残さず消滅させるんだよ」
「了解です。マスターの娘さんの指示に従います」
「娘さん、仰せのままに」
「娘さん、任せてです」
「ハドロンブラスターGX、目標宇宙戦艦893号」
「ねぇ様、照準よし」
「ねぇ様、オールグリーンです」
「皆さんに、良いところをお見せします!発射です!」
轟音と閃光。マジで打ちやがった。轟沈だ!
「マスターの娘さん、遣りました!私役に立ってます」
最近好成績だ。
上空に戦艦5隻が現れた。
「ハドロン砲の再充電までに、10分かかります」
上から狙われたら不利だ。
「ブリザードですわ!」
動きの止められたレナ達に変わり、アイリスが魔法を放つ。
「連携防壁!」
数人がかりで張った防壁に阻まれた。
「毒魔法だよ~毒霧だよ~」
「風神召還!」
風神による風で、マオの毒霧も無効化された。
「魔法キャンセラーで、無力化してやる」
なんだその装置は?
「ノスヘラトゥ開発部の最高傑作やで!俺たちの体には、魔法の効果が利かなくなる。動きが重いのが欠点だが、お前らの相手ならこれで十分だ!」
魔法使い殺しの装置だ。不味い!こいつら、ただ戦い慣れした連中じゃない。
「わいらな、今は的屋稼業やが、元は傭兵。諦めてハズレくじ引きなや!」
くそ!認めやがった。
「攻撃用バード、発進です」
「ねぇ様。全機発進」
「ねぇ様。通常兵器にて、対空攻撃開始します」
「こんな事も、あろうかとでござる。セイレーンに、攻撃用のドローンを搭載してるでござるよ」
「こんな連中は、許さないですよ」
トーレフとマリーも来てくれた。
セイレーン本体から発進した戦闘用のドローン、攻撃用バードが多数敵に向かう。
上空の戦艦から砲撃が来る。
「神の加護、防壁です」
「見習い女神の加護、プチ防壁です」
2人の女神が、防壁で俺達を砲撃から守る。
「女神は砲撃の守りで手一杯だ!全員で掛かれ!奴らを仕留めろ!」
くそ、アリッサはセイレーンの指揮で手が離せない。アイリスとマオの魔法も通用しない。マジでヤバい。
「大将の首をとれ!」
マオとアイリスが俺の前に出るが、戦い慣れした奴らは、二人を回り込んで、俺の後ろから襲い掛かって来た。
「ハウル将軍パンチ!待たせたな勇者よ」
「危なかった。感謝は金で」
迫る敵を退けたのは、ハウル!ターナ!
良し!全員が揃った。策はある。俺達の反撃だ!
「陣形を立て直す!アリッサ!セイレーンはトーレフ達に任せて、戻ってくれ!」
「分かったよパパ!」
「ハウル、奴らを近づけるな」
「任せろ勇者」
「アイリス、奴らを囲むように氷壁を展開だ。閉じ込めろ。体に触れなければ、キャンセラーは発動しない」
「はいですわ!氷魔法氷壁ですわ」
奴らの周りに氷の壁が出来る。
「アリッサ!レナ達の周りに火炎斬だ!」
「行くよパパ!魔法剣!火炎斬!」
アリッサの魔法は、味方には効果はない。火炎斬の熱の減磁効果から、磁石の効果は薄れる。レナ達は復活だ。
「マオ、毒魔法で動きを制約するんだ」
「あいよ~毒魔法毒霧だよ~~~」
キャンセラーを使うと動きが鈍くなるようだ。マオの毒を張ることで、奴らはキャンセラーを止められない。
そして、氷壁があるから逃げることもできない。
「よくも磁石などと、こざかしい真似を」
「嫌いなものランク1位よ」
「魔獣王の出番のようだな」
「妖精魔法。物理攻撃強化」
ターナの支援魔法でパワーアップしたハウル、レナ、セレス。
動きが重いお前たちに躱せるかな?
「ハドロンブラスター再充電完了です。発射できます」
「ねぇ様。戦闘ドローン回収」
「ねぇ様。敵殲滅です」
セイレーンの方も、準備が出来たようだ。
俺達の勝ちだ。
「待つぞ。話が付いたぞ」
電話をしていたアリスが、俺のGOサインを止めた。




