ループワールド・勇者ケイン編 58
「アトランでのレンタル勇者、女神競争、そして、先日のカモミールでの女神対決。
今までの枠に拘らない取り組みは、下界より高い支持を受けています。我々女神は、下界の守護者として、できる取り組みを速やかに行う事が求められています」
リリスが16評議会で演説していた。
「シータ、王宮食費予算の承認が欲しいぞ。月8000万だぞ」
「は~い。これですと、たいして良い物が食べられませんね。月3億で承認です」
「シータ、防衛費なんだが、色々と物入りでな、3兆6400億に成ってしまった」
「は~い。対G兵器フェザー砲ですか。分かりました。でもキリの良いところで、5兆にしておきましょう。4は縁起が悪いですから」
「シータ様、王宮の交遊費予算ですわ。お祭り回数などを減らして、切り詰めて2億ですわね」
「は~い。真面目に遊びましょう。30億で承認です」
大分砕けた。
「だぞ。前は小数点以下5桁まで出していたぞ。今は億以下は切り上げだぞ。
2とか4とか6、偶数も使わないぞ。全部切り上げてるぞ」
「パパ、さっきボールペンを1ダース欲しいと言ったら、1億の予算が下りたよ」
砕けたというより、ザルになったな。
「シータ、これから仕事さぼって買い物に行くけど、一緒するかだぞ?」
「勿論です。お洋服ですか?装飾品ですか?」
「水着だぞ。来週海でイベントがあるぞ。みんなで買いに行く予定だぞ」
「行きたいです。ご一緒させてください。ちょっと貯金下ろし来ます。アリッサちゃん、そこにある未読の書類、シュレッターに入れちゃってください」
マジで怠惰させた。
「見事です」
エクセレント!?
「急に現れるなだぞ。びっくりしたぞ」
「あのシータが、よくぞここまで・・・嬉しくて涙が止まりません」
泣くほどの事か?
「良い話と悪い話があります。どちらからお聞きに成りたいですか?」
「悪い方からだぞ。美味しい所は取っておくぞ。希望は最後まで手放さないぞ」
奥さんは、こういう人だ。
「では悪い方です。議会でレンタル勇者制度と、補助女神制度が承認されそうです」
レンタル勇者って、アトランに行った俺たちのような感じか?
「そうです。魔王に勝てない勇者に変わって、強い勇者が、他の世界にレンタルされる制度です」
「補助女神制度ってなんだぞ?」
「これもレンタルと似ています。能力の低い女神の元へ、優秀な女神が補助に行きます」
これが悪い話なのか?良いような気がするけど。
「提案者はリリスです」
「!?狙いは俺達か?」
「たぶん」
そうか、リリスはギルバと共謀して、カモミールにある聖剣九重を狙っている。
ティナと俺達を分断したり、俺たちを他の世界に派遣することで、カモミールを狙いやすくすることが狙いだ。
「言い分はもっともなので、露骨に妨害は出来ません。しかし、いきなり制度を変えると混乱を招くという理由で、一部での試験導入と言う事になりそうです」
その間にリリスたちの尻尾を掴めば、奴らを逮捕出来るんだよな。
「魔界の刺客とのコンタクトは重罪です。今調査をしていますが、手口は巧妙で、検挙できるほどの証拠は手に入れていません」
「で、良い方の話だぞ。美味しくいただきたいぞ」
「ティナの事です。灯篭に豪快にダイブして頭を打ちましたが、今夜の山を乗り切れば、大丈夫だろうと言う事です」
あまり良い話ではない。
「また、今夜が山なのかだぞ?山岳地帯で人生歩んでるぞ」
「復帰時期ですが、山さえ乗り切れば、明日にも復帰できそうです」
山ってそういうモノなのか?
「当面は絶対安静状態なので、強い刺激や振動は与えないようにお願いします」
その状態で現場復帰かよ。タフだな。女神って。
エクセレントの携帯が鳴る。
胸元から携帯を取り出すエクセレント。待ち受け画面は自分のドレス姿だ。
「すみません、ちょっと失礼します。私だ。ああ、なんだと?好き勝手じゃないか?ああ、ああ、分かった。ケインさん達に相談してみる。引き延ばせ。決議の投票は避けるんだ、いいな」
良い内容ではないな。
「アルテミスからの連絡です。試験導入がカモミールになったとのことです」
まぁ、当然と言えば当然だ。既にレンタル実績もある。
「しかし、ここまで好き勝手にされると・・ヴィーナスとしては、意地でも妨害したくなります」
「体裁もあるぞ。別の方法でやり返せばいいぞ」
にこやかにアリスが言う。
奥さんも気が付いているようだ。逆転の一手がある。
「まず、権限を議会が持つようにしてくれ。レンタルと、補助の許可は議会が承認するだ。
そして、勇者のレンタルには、勇者の同意が必要だ。しかし、正当な理由のない場合は、断れないものとする。これを、ごり押しして欲しい」
「はい。しかしこれだけで宜しいのでしょうか?母の一言で、すべて却下もできますが」
「リリスの思惑はともかく、言ってることは正しいぞ。余り強引なことはしない方がいいぞ。ここは敵の策に乗ったうえで、後の先を取りに行くぞ」
「分かりました、この程度なら楽勝です。早速アルテミスにやらせます」
「エク姉様。いらしていたんですね」
「シータ、ご苦労だったな。明日、ティナが生きていれば復帰する」
さらっと物騒なことを言った。
「姉さまが復帰、ですか?では、私は」
「また見習い女神として、天界で四天王の雑務に励んでくれ」
「・・・あの!私、もう少しここで」
シータは戻りたくないようだ。
「しかし、神殿はティナに返さないと、それが女神のルールだ」
「くくくくく・・・大丈夫だぞ。権限はこっち側だぞ」
そうだ。敵の策を逆に利用してやる。
「カモミールの女神はシータで良いぞ。見習い故に補助が必要だぞ。優秀な女神が補助につくぞ」
「あ!」
「シータの補助にティナが付く。補助制度の有効利用だ」
「で、私たちの世界は、魔界の刺客の攻撃を受けてるぞ。今は動けないぞ」
「あ!!」
「自分たちの世界が攻撃を受けている訳だ。これは、断る正当な理由に成る」
「皆さん、悪だくみがリリスの上を行ってます」
悪だくみとか言うな。
「自分が仕掛けた攻撃で、自分の目論見が崩れるぞ。悔しがる姿が見たいぞ」
「早速手配します。制度を通されたときは、どうしようかと思いましたが、見事な返し技です」
丁度手駒がぴったりの綺麗な詰めだ。
「あの、私、ここに居ても良いのですか?」
シータは状況を知らない。
「シータ、当分はカモミールで女神として、ケインさん達の力になりなさい。補助にティナを付けるので、安心して励むといい」
「良かったぞ。当分シータと一緒だぞ」
「嬉しいよ!仲良くできるよね」
「女神が二人も。カモミールは安泰ですわ」
だな。今度こそハッピーエンドだ。
「まだ終わらない。アトランが大変」
ターナ?
「アトランがどうしただぞ」
「勇者よ、アトランで魔王を倒した後、アイテムがドロップされていたようだ」
「なんだと!」
「ハンター沢山来た」
エクセレント?どうなっている?
「今確認しています。少しお待ちください」
連絡中だった。
「魔界のアイテムなので管轄が違うため、確認が遅れてしまいました。
確かに4つのアイテムがドロップされています。内容は現在調査中です」
女神より先に情報が漏れるなんて。
「全世界放送のせいだぞ。アイテムハンターたちは、魔王の討伐よりアイテムの方を見ているぞ。迂闊だったぞ」
3000年居座った魔王だ。アイテムも強力な可能性が高い。
「速やかに回収するべきです。ケインさん!レンタルお願いします」
分かった。回収班を結成しよう。
「ママとアリッサ、レナ、セレスは残るぞ。ケインと私、マオとターナ、ハウル、セイレーンで行くぞ」
回収が目的だ。ハンターたちが居るが、大規模戦闘にはならないだろう。
妥当な人選だ。
「シータも行くぞ」
「私もですか?」
「初陣だぞ。勇者チームでの初陣だぞ」
「はい!」
アズサには待機指令を出し、俺たちはアトランへ向かった。
ーーーーノスフェラトゥーーーーー
「急に呼び出して済まなかったね」
デスクに座るノスフェラトゥ。横には秘書のレイラが立っていた。
「どうした?聖剣か?」
「先日ケイン君が倒した魔王。どうやらアイテムをドロップしていたようなんだ」
「魔王軍のお宝?あら、興味あるわね。高価なアイテムなの?」
セシルは食いついた。
「いいえ、中身は確認されていません。七魔将軍が倒された際にドロップされた模様で、現在水深300m~400mの海底に4つ確認されています」
秘書のレイラが資料を読み上げる。
「400m。きついな。深海ではゲートは使えんからな」
「潜水艇でもないと無理よ。用意できる?」
「普通なら、そうだろうね。でもケイン君達なら取って来れるとは思わないかい?」
「セイレーンか?」
「奪え。と言うの?せっかく友好を築いて居るのに?」
「彼らも、その辺りはドライだろうからね。友好には傷はつかないと思うよ。それに、遣りあってみたくないかね?」
ノスフェラトゥは、優しい笑みを浮かべていた。
「なるほどな。中身もわからないアイテムで、あんたが取りに行けと言うのも変だと思った」
「そうね、カモミールではないし、私たちもお仕事だと分かれば、お互いドライになれるわね」
「絶好の機会だと思うよ」
「ああ、この仕事受けよう」
「坊やと本気の戦い。悪くないわ。いつもの茶番には飽きていたの」
パルムとセシルが参戦した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「うぁぁぁぁだぞ。うじゃうじゃいるぞ」
凄い数のハンターたちだ。海を埋め尽くしている。
アイテムは水深400m程の所に有るらしい。装備なしでは無理だから、動けないでいるようだ。
「アトランへのルートを遮断しましたが、私の力では防壁が弱くて、大量に入られてしまいました」
ルーンがベソをかきながら報告した。
「君たちは不法入国です。直ちに退去してください」
アトランの防衛隊が、ハンターたちの周りで退去を訴えるが、だれも聞き入れない。
ハンターとは、勇者不在のチームが殆どだ。
依頼を受けて動く奴ら、独自に宝物やアイテムを手に入れては売りさばく奴ら。
無許可で成れる上、自分ルールで動ける。
国や女神のお抱えチームとは違い、一般的には無法者の集まりだ。
「どうするぞケイン?セイレーンを潜らせるにしても、あいつら邪魔だぞ」
だな。遠くから潜らせて、波が立たないように取りに行かせるか?
「アリス絶対零度で凍らせる」
いやいや。それじゃ可哀そうだ。
「ターナ様の作戦に賛成です。問題ありません。彼らは法を犯しています。撤退命令にも従っていません」
「女神様にしては~過激だね~」
ルーンも過激だ。ターナを信心するから、影響を受けている。
「のんびりしてると、潜水艇を用意されちゃうぞ」
だな。
海の表面が白くなる。冷気だ。アリス?
「違うぞ、私じゃないぞ」
海上に居たハンターたちが凍り付いた。
「ケイン!あれ!」
ターナが、岬を指さす。ハウルとセシルだ。俺達を見ていた。
「あいつらも、お宝狙いだぞ」
ああ、そのようだな。
「これは一戦~避けられそうにないよね~」
「ケイン、戦力が足らないわ。正面からは無理よ」
マオとピーも分かっていた。
今回はカモミールで第2、第4火曜日にやっている、茶番戦闘ではない。
奴らはプロとして仕事で来ている。本気の戦闘になる。
「セイレーンを潜らせてアイテムを回収させるぞ」
だがセイレーンは攻撃できない。パルムたちを敵と認識が出来ないからな。
「撃てる奴を呼ぶ」
ん?
「マジンターナ!ゴーーーー」
台地が揺れた!神殿が崩れる!中からターナ像が歩き出す!
魔道エンジン搭載。守護神!マジンターナだ!
「ターナ殿!出撃するなら言うでござるよ。危なくスタッフが神殿の下敷きでござる」
発進通路の確保はしなかったんだ?
駆け付けたトーレフが、ターナに文句を言うが、ターナは聞いてはいない。
「行けマジンターナ!敵を倒せ」
まだ頭部が完成していない。今回は乗り込まず地上からリモコン操作に成る。
マジンターナはハウルたちに向かって、ミサイル攻撃を始めた。
「ちょっとあれ!巨大ロボよ!巨大ロボ!」
セシルは目を輝かせていた。
「落ち着け。ミサイルを避けるぞ」
「キャーキャー!巨大ロボよ!!」
どうやら、巨大ロボに目が無い様だ。
「絶対防壁!展開だ」
ミサイル攻撃を防壁で凌ぐ。
「マジンターナおっぱいミサイル」
大型のミサイルがハウルたちを襲う。
「くそ!デカいな。絶対防壁!多重展開!耐えろ!」
大型のミサイル攻撃も堪えられた。
「おい、紫炎竜だ!奴を攻撃しろ」
「何で?なんで私が巨大ロボと戦わないといけないの?」
「くそ!こうなったセシルは使えん!氷弾!」
氷の塊が高速でマジンターナに当る。
ガン!ガン!と音を立てるが、装甲は傷一つない。
「当然でござる。物理攻撃には滅法強いでござるよ」
トーレフがドヤ顔をしたような気がする。ワニの表情は分からない。
「それって、魔法には滅法弱いって落ちじゃないかだぞ?」
「各種魔法耐性付けてる」
マジか?使えるんでね?
マジンターナビーム!マジンターナハリケーン!マジンターナファイヤー!
連撃で、ハウルたちは防戦一方だ。
「これって、もしかすると、もしかするぞ」
ああ、奴らを追い詰めている。攻撃が来ない。一撃でも当たれば倒せるぞ。
「打ち止めでござる」
なに?
「燃料切れた。もう動かない」
こんな落ちかよ。
「マスター、ケインさん、アイテム4つ回収しました。これより浮上します」
セイレーンから回収完了の報告が来た。
「やはり私たちで戦うしかないぞ」
ああ、魔王を倒した俺達だ。やすやす負けはしない。全力で行くぞ。
「ケイン~作戦お願いだよね~」
「シータとルーンは後方待機!支援してくれ。アリス、いきなり行くぞ。絶対零度だ。マオは毒霧で奴らの動きを封じるんだ」
「分かったぞ開始直後にぶっ放すぞ」
「了解だよね~」
ハウルたちと本気の戦いが始まる。




