ループワールド・勇者ケイン編 55
「ティナの回復まで、カモミールを担当させます。まだ見習い女神ですが、よろしくお願いします。さぁシータ、ご挨拶を」
「シータです。よろしくお願いします」
ぼさぼさの髪。瓶底眼鏡。よれよれの白衣。
エクセレントが連れて来たのは、4女のシータ。ティナの妹だ。
女神と言うのは、余りにも洒落っ気が無く、後光も感じられない。
「アリスだぞ。プリンセスだぞ。よろしくだぞ」
「アイリスですわ。女王ですわ」
「パパの娘だよ。アリッサだよ。仲よくしよう」
「よろしく」
愛想もない。
「ケインさん・・・」
エクセレントが困り顔で、俺に近寄り、小声で話し出した。
「シータは成績は優秀で、一応四天王の末席に置いていますが、我が家の女神として、あれでは・・・」
我が家じゃなくても、あれだな。
「ここはひとつ、アリスさん達のお力で、あの子をまっとうな女神へと、導いて欲しいのです」
まっとうな女神か・・。
「はい。駄々洩れの浪費に、狂ったような色恋沙汰。ヴィーナス家の者に相応しく、宵越しの金と恋は持たない、的な女神へとお導きください」
不良にしたいのか?
「聞こえたぞ、いいぞ。私たちに任せるぞ。少なくとも、女の喜びは教えてやるぞ」
おいおい。せっかく真面目な子なんだ。変なこと教えるなよ。
「ケイン、あの子に信者が付くと思うかだぞ?あの姿では、進学塾の生徒しか付いてこないぞ」
まぁ、確かに。
「お願いしますアリス様。姉としてあの子の未来が心配です。せめて、ティナ位の女神に、成長させてやってください」
「任せるぞ。怠惰の道を教えてやるぞ。落ちることの楽しさを知れば、変わるぞ」
「お願いします」
良いのか?落ちてもいいんだな?
俺の返事『婚約OK』を、エクセレントから聞いたティナは、喜びの余り跳ね回り、庭の灯篭に突っ込んで、入院生活を余儀なくされた。
その間、ティナに変わり、見習い女神のシータが、カモミールを担当することとなったわけだ。
「良くするのは難しくても、ダメにするのは簡単だぞ。プリンセスのダメ教育を見せてやるぞ」
自慢に成るのか分からんが、自信満々だ。
「まずは見た目だぞ。女神は見てくれがすべてだぞ。美しい女神と言うだけで、信者は群がるぞ」
目の付け所は良いが、嫌な予感しかしない。
「シータ、少し髪をブラッシングするぞ。せっかくの綺麗な金髪が、勿体ないぞ」
アリスがブラシを片手に、シータの髪に手をやる。
「結構です」
シータは、その手を跳ねのけた。
「私の髪より、王宮の経理です。健全な世界は、お金の流れも健全です。カモミールの中心たる王都の経理が不健全では、この世界は崩壊してしまいます」
シータはカバンから書類を出し、椅子に座る。
「4月より新年度が始まり、まだ4ヶ月ですが、なんで王宮の予算が0なんですか?」
「それはだぞ、色々買い物があったぞ。魔界の敵に襲われたりしたからだぞ」
「これですね。バルサン6800億個」
6800億だと?
「グール対策で買ったぞ。ケチって駆除できないと嫌だから、有り金全部つぎ込んだぞ」
「で、予算も無いのに、アトラン秘密基地建造費8000億って、なんですか?」
マジだったのか?
「それはだぞ・・えっとだぞ・・」
「女王陛下、夜の慰め代?これは?」
「つまりですわ・・それはですわ・・一人寝は寂しいですわ」
「なるほど、分かりました。私も子供ではありません。これが何か、理解しました。しかし使用する量として、毎日50本は異常ではないですか?」
50だと?あれがか?毎日か?
「同じのは2度は使いませんわ。女王としてセレブな使い方ですわ」
でも50って・・。毎晩50回昇天だと?
「予算の切りつめを行います。既に0なので、バルサンを全て売却して、王宮予算とします。女王陛下も、ご協力お願いします。
あれが必要なら、割り箸に雑巾でも巻き付けて使ってください。紐の巻き方を工夫すれば、それなりに快楽を得られるはずです」
割りばしに雑巾って、すごい切り詰めだ。
「アリスさん、食費も節約します。無駄に高級食材が多すぎます」
「それはダメだぞ。ケインに毎日おいしいものを食べさせるぞ」
「調理を工夫すれば、庭に生えている草でも美味しく頂けます」
結界の中で生活していた、魔都の連中が言われていた言葉だ。
「今後の事も含めて、大幅な見直しが必要です。女王陛下とプリンセスは残ってください。ケインさんとアリッサさんは、下がってよろしいですよ」
これはツワモノだ。ダメ教育をしようとしたアリスが、逆に健全な教育をされてしまう。
3時間後、解放されたアリスとアイリス。
「うううう・・だぞ。ケイン、シータが怖いぞ」
「うううう・・ですわ。婿殿、シータ様が怖いですわ」
この二人を、たった3時間でやり込めるとは、やはり只者ではないな。
「食事の予算が大幅に削減されたぞ。ご飯のおかずがご飯だぞ。ごはん&ごはんだぞ」
「エロ予算が、ほぼ無くなりましたわ」
予算0状態だからだ。今年度は節約するしかないな。
「女王陛下!これはいったい、どいう事ですか?」
「軍の予算が1/50って、これでは、横流しでお小遣い稼ぎもできないわ」
流してたんだ?犯罪だぞ、それ。
「シータ様がお決めになりましたわ」
「私たちも、難民レベルの生活を余儀なくされてるぞ」
「分かった、私が交渉する。セレス行くぞ」
「ええ、こんな不当な扱いは、例え女神でも許しませんわ」
鼻息荒く、部屋に入って行った。
レナとセレスの怒鳴り声が聞こえる。激しくやりあっているようだ。
が、突然静かになった。
部屋からシータだけが出てくる。
「魔王の居た時なら予算の多さも理解しますが、この世界には魔王は居ません。
当時と同じ予算では、明らかに使いすぎです。そして機械族も」
俺はシータから4本の魔道電池を渡された。
「彼女たちは、女神に対する不敬罪で停止処分にしました。魔道電池も只ではありません。機械族の1日の稼働時間は8時間迄です」
これは、やりすぎだ。
「私は他に無駄が無いか、見回ってきます」
そう言い残すと、シータは王宮の奥へ消えて行った。
「ケイン・・私、間違っていたぞ」
確かに予算を無駄に使ったが、あれはやりすぎだ。
「違うぞ。ダメ教育をしてやろうと思ったことが間違っていたぞ。シータには、人格が崩壊するぐらい、強烈な教育が必要だぞ」
うぁぁぁ目が燃えていやがる。
「アリス、今回は私も本気ですわ。徹底的にやっておしまいですわ」
母娘で燃えていた。
「準備をするぞ。その間は我慢だぞ」
奥さんには策があるようだ。
「アリス、トイレの紙が無いんだが」
「桶に水が入ってるぞ。それで洗うぞ。で、その水は流すのに使うぞ」
「アリス、電気が付かない。部屋が真っ暗だ」
「電気代の節約だぞ。7時過ぎたら寝るしかないぞ」
「ケイン、今日は、3日に一度の風呂の日だぞ。シャワーや追い炊きは禁止だぞ。だから全員で、一度に入るぞ」
「ケイン、裏庭に畑を作ったぞ。種をまいてきてほしいぞ」
「機械族の皆さん、ごめんね。シータの言いつけで、8時間で電源を切るよ」
「お茶は勿体ないから、水ですわ。常温で頂きますわ」
10日間、俺たちは耐えた。
そしてついに、アリスの準備が整った。
「反撃だぞ!」
「やぁケイン」
ターナとハウルが来た。
「元気がないな?どうした勇者?」
ターナは目いっぱい着飾っていた。ハウルは骨付きの肉を食いながらだ。
「ここ、貧乏くさくなった」
「貧乏臭がしているな」
「予算の関係です。節約していただいています」
シータが無表情のまま答える。
「良くおいでくださいましたわ。お水ですわ。遠慮なくどうぞ」
アイリスがターナ達に水を出した。
「待て陛下。なんで陛下が水など出すのだ。メイド達はどうした?」
「機械族の電池代もばかになりません。1日の稼働時間に制限を付けています」
やはり無表情だ。淡々と書類にサインしている。
「今日は相談に来た。私、カモミールでも女神遣る」
書類にサインしていた手が、ピクっとした。
「ティナ神殿は、ティナ様不在のため、シータ像が置かれ、今はシータ神殿だ。妻が狙うなら今だ」
「ティナには敵う気がしない。でもシータなら楽勝。この世界の女神に、私成る」
「待ってください。女神の重複はアトランだけの特例のはずです」
シータも、黙ってはない。由々しき事態だ。
「ごめんねシータ。ここの人たちには、私では逆らえないのよ」
アルテミスが、許可証を持ってきてくれた。アリスの根回しだ。
「いやなら私と勝負。どちらがカモミールの女神にふさわしいか、民が決める」
勝負するまでもない。国民の間では人気のターナだ。
ティナとでもいい勝負に成る。シータでは、鼻っから勝ち目はない。
「それは・・・」
シータもわかっている。
「ターナ!失礼だぞ。仮にもこの世界の守護者だぞ。アルテミスも何でそんな許可出すぞ」
「そうですわ。シータ様は王宮の事を考えて、色々尽力してくださっていますわ」
「ダメだよターナさん。シータさんに・・パパ、この漢字なんて読むの?」
それは、『迷惑』だ。『めいわく』と読むんだ。
「シータさんに迷惑かけちゃ」
勿論これは出来レースだ。台本があり、アリスの策だ。が、読み合わせぐらいしてからにしろ。
「アリス。私、女神遣りたい。女神に成る」
「妻は女神の素質アリだ。カモミールの女神にふさわしい美しさを持っている」
「良いぞ、勝負するぞ。シータが勝ったら、ターナは諦めるぞ」
「私が勝ったら女神の座は頂く」
「シータ、戦うぞ。良いかだぞ?戦わずして女神の座を奪われても良いかだぞ?」
「アリスさん・・・。でも私では・・」
自分の事を分かっているようだ。悪い子ではない。自分にできる事で貢献しょうとしているだけだ。
「任せるぞ。女神を知り尽くした私たちだぞ。私たちがシータを勝たせるぞ」
「決戦は明日。神殿にて」
「了解したぞ。シータの力、見せてやるぞ」
こうして、出来レースの戦が決まった。
「アリスさん、私・・」
シータが初めて見せた感情。それは、困り切った表情だ。
「大丈夫だぞ。シータもヴィーナスの血が流れているぞ。基本は美人だぞ。ターナにだって負けない美しさを秘めているぞ」
「でも、私は姉たちのようには・・」
「任せるぞ。コーディネートは、得意だぞ」
不安に覚えたシータを、アリスは優しく抱きしめた。
なるほど、そっち系から攻めるのか?
美しく着飾り、自分の美に目覚めさせるつもりだな。
シータを抱きしめたアリスの顔は、悪いことを企んでいる時の顔だった。
「私に任せておけば、何の心配もないぞ。くくくくくだぞ」




