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残念世界の残念勇者   作者: XT
55/96

ループワールド・勇者ケイン編 55

「ティナの回復まで、カモミールを担当させます。まだ見習い女神ですが、よろしくお願いします。さぁシータ、ご挨拶を」

「シータです。よろしくお願いします」

ぼさぼさの髪。瓶底眼鏡。よれよれの白衣。


エクセレントが連れて来たのは、4女のシータ。ティナの妹だ。

女神と言うのは、余りにも洒落っ気が無く、後光も感じられない。

「アリスだぞ。プリンセスだぞ。よろしくだぞ」

「アイリスですわ。女王ですわ」

「パパの娘だよ。アリッサだよ。仲よくしよう」

「よろしく」

愛想もない。


「ケインさん・・・」

エクセレントが困り顔で、俺に近寄り、小声で話し出した。

「シータは成績は優秀で、一応四天王の末席に置いていますが、我が家の女神として、あれでは・・・」

我が家じゃなくても、あれだな。

「ここはひとつ、アリスさん達のお力で、あの子をまっとうな女神へと、導いて欲しいのです」

まっとうな女神か・・。

「はい。駄々洩れの浪費に、狂ったような色恋沙汰。ヴィーナス家の者に相応しく、宵越しの金と恋は持たない、的な女神へとお導きください」

不良にしたいのか?

「聞こえたぞ、いいぞ。私たちに任せるぞ。少なくとも、女の喜びは教えてやるぞ」

おいおい。せっかく真面目な子なんだ。変なこと教えるなよ。

「ケイン、あの子に信者が付くと思うかだぞ?あの姿では、進学塾の生徒しか付いてこないぞ」

まぁ、確かに。

「お願いしますアリス様。姉としてあの子の未来が心配です。せめて、ティナ位の女神に、成長させてやってください」

「任せるぞ。怠惰の道を教えてやるぞ。落ちることの楽しさを知れば、変わるぞ」

「お願いします」

良いのか?落ちてもいいんだな?


俺の返事『婚約OK』を、エクセレントから聞いたティナは、喜びの余り跳ね回り、庭の灯篭に突っ込んで、入院生活を余儀なくされた。

その間、ティナに変わり、見習い女神のシータが、カモミールを担当することとなったわけだ。


「良くするのは難しくても、ダメにするのは簡単だぞ。プリンセスのダメ教育を見せてやるぞ」

自慢に成るのか分からんが、自信満々だ。

「まずは見た目だぞ。女神は見てくれがすべてだぞ。美しい女神と言うだけで、信者は群がるぞ」

目の付け所は良いが、嫌な予感しかしない。


「シータ、少し髪をブラッシングするぞ。せっかくの綺麗な金髪が、勿体ないぞ」

アリスがブラシを片手に、シータの髪に手をやる。

「結構です」

シータは、その手を跳ねのけた。

「私の髪より、王宮の経理です。健全な世界は、お金の流れも健全です。カモミールの中心たる王都の経理が不健全では、この世界は崩壊してしまいます」

シータはカバンから書類を出し、椅子に座る。


「4月より新年度が始まり、まだ4ヶ月ですが、なんで王宮の予算が0なんですか?」

「それはだぞ、色々買い物があったぞ。魔界の敵に襲われたりしたからだぞ」

「これですね。バルサン6800億個」

6800億だと?

「グール対策で買ったぞ。ケチって駆除できないと嫌だから、有り金全部つぎ込んだぞ」

「で、予算も無いのに、アトラン秘密基地建造費8000億って、なんですか?」

マジだったのか?

「それはだぞ・・えっとだぞ・・」


「女王陛下、夜の慰め代?これは?」

「つまりですわ・・それはですわ・・一人寝は寂しいですわ」

「なるほど、分かりました。私も子供ではありません。これが何か、理解しました。しかし使用する量として、毎日50本は異常ではないですか?」

50だと?あれがか?毎日か?

「同じのは2度は使いませんわ。女王としてセレブな使い方ですわ」

でも50って・・。毎晩50回昇天だと?


「予算の切りつめを行います。既に0なので、バルサンを全て売却して、王宮予算とします。女王陛下も、ご協力お願いします。

あれが必要なら、割り箸に雑巾でも巻き付けて使ってください。紐の巻き方を工夫すれば、それなりに快楽を得られるはずです」

割りばしに雑巾って、すごい切り詰めだ。


「アリスさん、食費も節約します。無駄に高級食材が多すぎます」

「それはダメだぞ。ケインに毎日おいしいものを食べさせるぞ」

「調理を工夫すれば、庭に生えている草でも美味しく頂けます」

結界の中で生活していた、魔都の連中が言われていた言葉だ。

「今後の事も含めて、大幅な見直しが必要です。女王陛下とプリンセスは残ってください。ケインさんとアリッサさんは、下がってよろしいですよ」

これはツワモノだ。ダメ教育をしようとしたアリスが、逆に健全な教育をされてしまう。


3時間後、解放されたアリスとアイリス。

「うううう・・だぞ。ケイン、シータが怖いぞ」

「うううう・・ですわ。婿殿、シータ様が怖いですわ」

この二人を、たった3時間でやり込めるとは、やはり只者ではないな。

「食事の予算が大幅に削減されたぞ。ご飯のおかずがご飯だぞ。ごはん&ごはんだぞ」

「エロ予算が、ほぼ無くなりましたわ」

予算0状態だからだ。今年度は節約するしかないな。


「女王陛下!これはいったい、どいう事ですか?」

「軍の予算が1/50って、これでは、横流しでお小遣い稼ぎもできないわ」

流してたんだ?犯罪だぞ、それ。

「シータ様がお決めになりましたわ」

「私たちも、難民レベルの生活を余儀なくされてるぞ」

「分かった、私が交渉する。セレス行くぞ」

「ええ、こんな不当な扱いは、例え女神でも許しませんわ」

鼻息荒く、部屋に入って行った。


レナとセレスの怒鳴り声が聞こえる。激しくやりあっているようだ。

が、突然静かになった。

部屋からシータだけが出てくる。

「魔王の居た時なら予算の多さも理解しますが、この世界には魔王は居ません。

当時と同じ予算では、明らかに使いすぎです。そして機械族も」

俺はシータから4本の魔道電池を渡された。

「彼女たちは、女神に対する不敬罪で停止処分にしました。魔道電池も只ではありません。機械族の1日の稼働時間は8時間迄です」

これは、やりすぎだ。

「私は他に無駄が無いか、見回ってきます」

そう言い残すと、シータは王宮の奥へ消えて行った。


「ケイン・・私、間違っていたぞ」

確かに予算を無駄に使ったが、あれはやりすぎだ。

「違うぞ。ダメ教育をしてやろうと思ったことが間違っていたぞ。シータには、人格が崩壊するぐらい、強烈な教育が必要だぞ」

うぁぁぁ目が燃えていやがる。

「アリス、今回は私も本気ですわ。徹底的にやっておしまいですわ」

母娘で燃えていた。

「準備をするぞ。その間は我慢だぞ」

奥さんには策があるようだ。



「アリス、トイレの紙が無いんだが」

「桶に水が入ってるぞ。それで洗うぞ。で、その水は流すのに使うぞ」


「アリス、電気が付かない。部屋が真っ暗だ」

「電気代の節約だぞ。7時過ぎたら寝るしかないぞ」


「ケイン、今日は、3日に一度の風呂の日だぞ。シャワーや追い炊きは禁止だぞ。だから全員で、一度に入るぞ」

「ケイン、裏庭に畑を作ったぞ。種をまいてきてほしいぞ」


「機械族の皆さん、ごめんね。シータの言いつけで、8時間で電源を切るよ」

「お茶は勿体ないから、水ですわ。常温で頂きますわ」


10日間、俺たちは耐えた。

そしてついに、アリスの準備が整った。

「反撃だぞ!」



「やぁケイン」

ターナとハウルが来た。

「元気がないな?どうした勇者?」

ターナは目いっぱい着飾っていた。ハウルは骨付きの肉を食いながらだ。

「ここ、貧乏くさくなった」

「貧乏臭がしているな」

「予算の関係です。節約していただいています」

シータが無表情のまま答える。


「良くおいでくださいましたわ。お水ですわ。遠慮なくどうぞ」

アイリスがターナ達に水を出した。

「待て陛下。なんで陛下が水など出すのだ。メイド達はどうした?」

「機械族の電池代もばかになりません。1日の稼働時間に制限を付けています」

やはり無表情だ。淡々と書類にサインしている。


「今日は相談に来た。私、カモミールでも女神遣る」

書類にサインしていた手が、ピクっとした。

「ティナ神殿は、ティナ様不在のため、シータ像が置かれ、今はシータ神殿だ。妻が狙うなら今だ」

「ティナには敵う気がしない。でもシータなら楽勝。この世界の女神に、私成る」

「待ってください。女神の重複はアトランだけの特例のはずです」

シータも、黙ってはない。由々しき事態だ。

「ごめんねシータ。ここの人たちには、私では逆らえないのよ」

アルテミスが、許可証を持ってきてくれた。アリスの根回しだ。


「いやなら私と勝負。どちらがカモミールの女神にふさわしいか、民が決める」

勝負するまでもない。国民の間では人気のターナだ。

ティナとでもいい勝負に成る。シータでは、鼻っから勝ち目はない。

「それは・・・」

シータもわかっている。


「ターナ!失礼だぞ。仮にもこの世界の守護者だぞ。アルテミスも何でそんな許可出すぞ」

「そうですわ。シータ様は王宮の事を考えて、色々尽力してくださっていますわ」

「ダメだよターナさん。シータさんに・・パパ、この漢字なんて読むの?」

それは、『迷惑』だ。『めいわく』と読むんだ。

「シータさんに迷惑かけちゃ」

勿論これは出来レースだ。台本があり、アリスの策だ。が、読み合わせぐらいしてからにしろ。


「アリス。私、女神遣りたい。女神に成る」

「妻は女神の素質アリだ。カモミールの女神にふさわしい美しさを持っている」

「良いぞ、勝負するぞ。シータが勝ったら、ターナは諦めるぞ」

「私が勝ったら女神の座は頂く」

「シータ、戦うぞ。良いかだぞ?戦わずして女神の座を奪われても良いかだぞ?」

「アリスさん・・・。でも私では・・」

自分の事を分かっているようだ。悪い子ではない。自分にできる事で貢献しょうとしているだけだ。

「任せるぞ。女神を知り尽くした私たちだぞ。私たちがシータを勝たせるぞ」

「決戦は明日。神殿にて」

「了解したぞ。シータの力、見せてやるぞ」

こうして、出来レースの戦が決まった。


「アリスさん、私・・」

シータが初めて見せた感情。それは、困り切った表情だ。

「大丈夫だぞ。シータもヴィーナスの血が流れているぞ。基本は美人だぞ。ターナにだって負けない美しさを秘めているぞ」

「でも、私は姉たちのようには・・」

「任せるぞ。コーディネートは、得意だぞ」

不安に覚えたシータを、アリスは優しく抱きしめた。


なるほど、そっち系から攻めるのか?

美しく着飾り、自分の美に目覚めさせるつもりだな。


シータを抱きしめたアリスの顔は、悪いことを企んでいる時の顔だった。

「私に任せておけば、何の心配もないぞ。くくくくくだぞ」


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