魔王編 ㊻ 最終回
俺は、戻って2日でボロボロになっていた。
「なんてざまよ。どうすれば、2日でこうなるのかしら?」
ディーバは俺の横に立ち、見下ろして言う。
2日間、涙は止まらなかった。
一睡もしないで、俺は只、泣いていた。
「カモミールに帰せ・・俺をアリス達の元へ・・」
蚊の鳴くような声だった。
自分の声の力の無さに、自分が驚いた。
「ダメ。諦めなさい。貴方は、ここで私のために働くの。あっちの事は忘れて、私と上手くやりましょう」
「帰せ・・俺を‥」
「手間のかかる子ね。神の加護!栄養補給。よく聞くのよ。貴方が倒れたり、死んだりしたら、アリス達が悲しむわよ」
!!!
「食事の用意はしてあげる。早く回復して、働いてね」
・・・俺が死んだら?
だめだ・・アリスが悲しむ。
ディーバは菓子パンを3つ、俺に前に放り投げた。
「これ食べてなさい。また来るわ」
俺は震える手で菓子パンの封を開け、口に運ぶ。
くそ不味い。
1週間が過ぎた。
なにも動きが無い・・不安だ。
2週間が過ぎた。
ティナもアリス達も、動いてくれているはずだ。
1か月が過ぎた。
おかしい、ティナなら何か方法を探すはずだ。
何故、こない?
まさか?魔王を倒した世界に、俺は必要ない?
「ケイン、相変わらず、酷い所で生活してるのね。掃除って知ってる?」
うるさい。
「はい菓子パン3つ。ちゃんと食べるのよ」
1日菓子パン3つ。同じパンを1か月間、食い続けた。
こいつは俺を、気遣ったりしていない。飼っているだけだ。
「そろそろ、気持ちの整理も出来たでしょ。働こうか?」
「お前の元では、何もしない。俺はカモミールへ帰るんだ」
「まだそんなこと。ケインって粘着系?」
「ティナやアリスは、必ず俺を戻してくれる。今も動き回っているはずだ」
「ないわよ。魔王を倒した世界で、勇者は必要ない。彼女たちはケインをあきらめて、新たしい生活を始めているのよ」
「嘘だ!!!」
「それにねケイン、女神には絶対の掟があるのよ。それはね、召還したもの勝ち」
!?
「彼方は、私がこの世界に召喚したの。私が担当なのよ。貴方の意見など聞かない。そして私が貴方を勇者にした。女神の世界ではね、この二つが担当になる条件なの。
例え、実力者の家系のティナでも、女神と勇者の関係の、根底を覆すことはできないのよ」
「そ、それでも、ティナは・・」
「無理。無理。あれから私に連絡すらないのよ。あの子も諦めたの。だからケイン、貴方も諦めて。ね」
「嘘だ!嘘に決まってる!俺を見捨てるはずがない!嘘だ!」
「また来るわ。早く気持ちの整理位つけなさいよ」
もう来るな!
・・ディーバの言葉に迷わされるな。
アリスが信じられないようでどうする!
ティナも、アリッサも、アイリスだって、同じだ。信じてやる。信じて信じて信じ抜く。
12月24日、クリスマス。
「メリークリスマス」
帰れ。
「なにそれ?女神からのプレゼント、欲しくないの?」
無い。帰れ。
「イブにいじけた男って、みじめだわ。今日の分のプレゼント。菓子パン3つよ」
お前の中で、食い物は菓子パンしかないのか?
1月1日 元日
「ハッピーニュー・・・」
帰れ。
「なにそれ?女神からお年玉、欲しくないの?」
無い。帰れ。
「年明け早々いじけた男って、みじめだわ。はいお年玉。菓子パン3つよ」
お前、菓子パンしかないのか?
1月11日 平日
「こんにちわ」
帰れ。・・・いや、ディーバではない。
「俺だ。パルムだ」
!?パルム?
「私も居るわよ。坊や」
セシルも。
人が恋しくなっていた俺は、迂闊にもドアを開けた。
「ちょっと、なんて顔なの?」
「お前、ちゃんと食ってるのか?」
ああ、食ってる。毎日、欠かさず菓子パン3個な。
「手土産にメロンを持ってきて、よかったよ」
!?この方は?
身なりはパルムよりしっかりしていた。きちんと着た背広。真っ直ぐなネクタイ。
なによりも、姿勢が奇麗だった。一言で言うと、好青年だ。
「上がらせてもらうわよ。ノス、それ貸して、切るから」
セシルは部屋に上がると、台所へと行った。
「ノス、汚いところだが、遠慮なく上がってくれ」
俺の部屋だ。
「ああ、ケイン君だったね。上がらせていただくよ」
ノスは態度も言葉も柔らかく、好感が持てた。
「パルム、この家、包丁も無いの。お皿もよ」
そんなものは無い。独身男子の台所など、水飲み場と同じだ。
「これを使え。俺の聖剣は、よく切れるぞ」
お前もか?・・くそ!アリスを思い出してしまった。涙が出て来た。
「ケイン君、早速だが自己紹介させてもらうけど、いいかな?」
「ああ、ケインです」
「私は、ノスフェラトゥ。ノスでいいよ。彼らの雇い主だ」
!?パルムたち傭兵の?・・だと?
「表向きは、超大企業の社長さんだ。裏ではコレクターをやっている、ボンボンだ」
コレクターだと?
「酷いなボンボンは。これでも1代で築き上げた、たたき上げなんだよ」
「コレクターってのはな、使わずに集めるのが趣旨の連中だ。九重も、物欲だけで欲しがっている」
九重・・世界を変える力を持つ聖剣。・・くそ!カモミールを思い出しちまった。また涙が・・。
「今日来たのは、九重とは別件。さぁ食べなさい。メロンは栄養があるわ」
セシルは、凍りの皿にメロンを切り分けてくれた。
俺の皿は、メロンが大きい。3/4が乗っていた。
「坊主、率直に用件を言おう。俺のチームへ来い」
「・・断ったはずだ。賭けの時にな」
「俺のチームへ来れば、カモミールへ戻してやる」
!!!!!なんだと!
「本当か?カモミールへ戻れるのか?」
「ええ、本当よ。私たちは、女神なんか関係ない。自由に何処にでも行ける。貴方をカモミールへ連れて行くことだってできるの」
「仕事の時だけ来てもらえればいいよ。後は自由に暮らすといい」
「場合によっては、お前のチームごとでも構わん」
「俺を!俺を、あんたのチームに・・・・・・・」
「坊や?来てくれるのよね?」
「・・・・いや・・・・断る」
「条件が不満なのかな?譲歩の余地は十分用意してあるよ」
「いや、条件ではない。あいつらは、俺の帰りを待っていてくれるはずだ。俺を戻そうと、動いてくれているはずだ」
「戻れるのよ。同じじゃないの?」
「違う。パルムチームの俺を待っているわけではない。勇者ケインを待っていてくれてるんだ」
断腸の思いだ。マジで腹が痛い。
「・・・そうか。残念だ。帰るぞ、セシル」
パルムは立ち上がった。ノスも続いた。
「ちょ!待ち!坊や、よく考えて。戻れなくなるかもしれないのよ」
「だよな。いい話だ。だが・・だが俺は勇者だ。信念が貫けなければ、剣は振るえない」
「帰るぞ。セシル」
「・・坊や」
セシルも立ち上がった。
「坊や、とにかく食べなさい。そんな顔で戻れても、仲間は悲しむわよ」
「ああ、分かった。食うよ」
「君とはまた会うだろうね。今度は、いい返事を期待しているよ」
「セシルの言うとおりだ。体を作るのも勇者だ」
3人はドアから出る。
「ありがとうな」
俺の声が、聞こえたかは分からない。
「誰に似たの。あの頑固」
「お前じゃないのか?」
「あなたでしょ!全く親子そろって固いんだから」
「すまんなノス。せっかく足を運んでもらったのにな」
「いや、彼の評価は、かなり上がったよ。あの強さは本物だからね」
「ノス、あいつは来ないぞ。俺も今、分かった。あいつの魂は、本当の勇者だ」
「信じてるのよ。仲間を」
「はいダメです。で、諦めていたら、商売はできないよ。私は商人だからね。彼は欲しい。九重と同格だよ」
パルムとセシルの言うとおりだ。
こんな顔では戻れない。食って体力を取り戻す。
そして、策を考えるんだ。
2月14日 バレンタイン
「先輩!好きです」
帰れ。
「バレンタインにいじけた・・あれ?顔色いいわね」
今から悪くなる。お前が来たからな。
「そうか、諦めがついたのね。これあげる。バレンタイン菓子パンよ」
「余裕だなディーバ。だが、いつまで余裕ぶってられるかな?」
「な。なによ。それ」
「俺が情報を持ってないとでも思ったか?お前が見せている余裕、本物なのか?状況は良くないはずだ」
カマだ。情報のない俺にできることは、ディーバを揺さぶって、情報を引き出すことだけだ。
「な、なんであなたが!?」
食いついた。しかもビンゴだ。
「気が付かなかったようだな。パルムが来たよ」
「パルム!?あのパルムが何で?」
「俺を引き抜きたいらしい。俺は優秀だからな」
「!!」
よし、信ぴょう性も出た。いける!
「確かに、ティナには押し込まれてきた。でも、女神のルールは絶対よ。政治的圧力はかけられない。貴方を渡さないわ」
やはり動いてくれていた。
「女神のルールを変えなければ、あなたは私の物よ」
「だと良いがな。情報は筒抜けだと思えよ」
ディーバは無言で帰って行った。
収穫は大きい。
3月21日 とある記念日。
「ケイン、今からあなたを、他の世界に移動させる。この世界を救うのは無理。日本は放棄よ」
「どこに逃げても同じだ。必ずティナが見つけ出してくれる」
「見つからないようなところに逃げるのよ。絶対見つけ出せ・・・」
ディーバが言いかけた時。
『はい!必ず見つけ出します』
ティナ!
ゲートからティナだ!
「お待たせしましたケインさん。すみませんでした」
ティナ!信じてたぞ。
「はい。女神のルールが邪魔していて、時間がかかってしまいました。が、もう大丈夫です。女神審議会が決定を出しました。ケインさんは、カモミールの勇者です!」
ティナの解説だ。
本来なら俺は、ディーバの言うように、日本の勇者で、担当はディーバだ。
カモミールへは貸し出しで、魔王討伐後には、帰らなくてはならない。
が!
が!だ!
俺は、決定打を放っていた。
それは、カモミールで勇者登録に落ちた事だ。
他の世界に行った場合、勇者(仮)になる。その世界で勇者登録が済むまでは(仮)の状態だ。
俺は(仮)を取る適性試験で落ち、冒険者ケインとなったのだ。
しかも、半年以上も冒険者ケインの状態が続いたため、勇者の資格は消滅していた。
つまり、俺はフリーに戻っていたのだ。
しかし、勇者資格を取りこぼす前例がないため、審議会では大もめだったようだ。
女神のルールの根底の問題だけに、ヴィーナス家として、表立って動けないこともあり、審議が長引いた。
決着は、マオが付けたらしい。
マオの資産は。銀河系が数十個買えるぐらいまで膨らんでいた。
下界の銀行の通帳には、記帳できない位の丸が並ぶ。
マオは一括して、天界銀行を使っていた。
その、マオが一言「預金全部~下ろすよね~」
天界銀行総資産の6%に当たるマオの資産が下界に流失すれば、金融危機は避けられない。
天界も無事では済まない。
天界世論は、俺の味方に付いた。
なんやかんやで、やっと審議会は、結論を出したわけだ。
「と言う事です!ディーバさん!ケインさんは返していただきます」
「あちゃぁ。せっかく7位の勇者担当だったのに・・・まぁ、いいわ。元ランク7位の担当でも、十分箔は付くわよね」
くだらない理由で俺を拉致した罪。許しがたきだ!
「はい。でも、ここは我慢です。ディーバさんは、違法なことはしていません」
・・こいつはいつもギリセーフだ。
立ち回りが上手く、一戦は越えない。ある意味、違法を気にしないティナより利口だ。
「ケイン、また機会があれば。ね」
あっさり、ディーバは消えた。
「さぁ、帰りましょう!皆さんが待っています!」
俺はティナの開いたゲートを潜る。
目の前には、涙で顔がぐしゃぐしゃのアリスが居た。
抱き合った。
久々に聞くアリスの声。
「おかえりだぞケイン!」
ああ、ただいまだ。
3月21日、初めてこの世界に来た日から、丁度1年。
俺は、カモミールへ戻って来た。




