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残念世界の残念勇者   作者: XT
47/96

ループワールド・勇者ケイン編 47

「婿殿!出ましたわ!グールですわ」

アイリスが、俺たちの部屋に飛び込んできた。

「またかだぞ!?」

「パパ、ママ!戦闘準備だよ」


俺がカモミールへ戻って3ヶ月。

安らぎの日は、長くは続かなかった。

邪神グールの、昼夜を問わない襲来に、戦いの日々を送っていた。


「ケイン!マオは、お疲れで使えないぞ」

「アズサさんも、魔法の冷却期間ですわ」

頼みのティナも、先日の戦いで傷つき、療養中だ。

俺達で何とかするしかない。


「パパ!非戦闘員の避難完了したよ」

「ケイン!そこだぞ!グールだぞ!今回は3体いるぞ」

アリスが指さす先に、邪神グールが3体。

「くそ!展開させるな!アリス、アイリス、アリッサ!攻撃だ!」

グールは高い攻撃力と、高度な知能を有し、素早い上に、飛行形態まで持っている。


「3体が、密集している間に勝負だ!」

「氷魔法!ブリザードだぞ!」

「氷魔法!雹弾ですわ!」

「魔法剣!火炎斬!」

3人はグールに魔法を撃つ。周囲を粉砕し、爆煙が視界を遮った。

「倒したか?」

爆煙の中から、1体のグールが飛行形態で襲い掛かって来た。


「ママ!気を付けるぞ!ティナがやられた攻撃だぞ!」

2体は倒した。が、残りの1体は、3人の魔法を避け、アイリスに襲い掛かった。

「ひぃ~~~ですわ!」

「落ち着けアイリス!ブリザードだ!」

迫りくるグールを前に、流石のアイリスも恐怖で身動きができない。


「疾風のレナ!参上!」

「神剣使いのセレス!参ります!」

レナ達剣士は、飛行形態のグール相手なら、無類の強さを誇る。


「倒したぞ。王宮の平和は守れたぞ」

「ママ!調理場とか壁が、被害甚大だよ」

戦いの場は王宮内が殆どだ。3体のグール相手に、調理場や壁ぐらい安いものだ。


「こんなの相手に大騒ぎって、人間て不思議ね」

セレスは、レナが切り裂いたグールを指で摘まみ上げた。

「ああ、確かにゴキブリは好まぬ虫だが、そんなに脅威とは思えないのだがな」

機械族、何を言い出す。グールは全人類の共通の敵だ。

「バカ言うなだぞ!グールは魔王より脅威だぞ!」

そうだ。魔王は単体で、呪いをかけたり、破壊活動ぐらいしかしないが、グールは違う。1匹いれば1億匹はいる。しかも、気配を消し、闇から迫りくる。

「そうですわ!グールに比べたら、魔王なんて可愛いものですわ」


そうだ。すでに被害は甚大だ。

マオは毒魔法を連呼しすぎて、のどをやられた。

ティナは、飛行形態からのグールが顔に止まって失神し、今も意識が戻っていない。

アズサに至っては、時間停止魔法を使い、逃げる最中に階段から転げ落ち、入院する羽目になったことがある。


「でもおかしいぞ。これだけ出ると言う事は、繁殖してるぞ」

確かに。アリスの衛生管理は、グールの繁殖を許すほど甘くはない。だが、王宮内のどこかで繁殖している可能性は高い。

「このままだと、安心して王宮に住めないよ」

「王宮を建て直しますわ。マオさんに相談ですわ」

「ぬるいぞ。建て直しても、侵攻されたら意味が無いぞ。此処は、王都移転だぞ」

王都の移転か?アリだな。

「すでに計画は立てているぞ。グールの侵攻を許さない、海の上にメガフロートを建設する計画を立てているぞ」

アリだ。グールの脅威から逃れるためなら、海上都市もありだ。


俺達を見て、呆れたようにレナ達が出て行った。

「平和だな」

「ええ、平和よね」

機械族はグールの恐ろしさを知らない。

後であいつらの体内に、生きたグールをたっぷり入れてやろう。

少しは恐怖が分かるはずだ。


アリス達は、メガフロート計画を煮詰めに行く。

俺は、ルーフバルコニーに出た。

王都が一望できる、俺のお気に入りの場所だ。



王都、活気に溢れ、決して挫ける事のない魂を持った人々の街。

魔獣と結ばれることで、人口問題は解決するだろう。

そしてこの世界には、もう魔王はいない。

平和は、手の中にある。


「あらケイン。ここに居たのね」

アルテミス?

アリスの守護者にして、天界16評議会副議長。物知りでもあり、何かと便利な奴だ。


「報告と言うか、伝えておくことがあってね」

「ティナ?ティナになにか?」

グールにやられ、ICUで治療中のティナに身に?

「ええ、ティナは2~3日が山だって、先生が言っていたわ。でも、私が来たのは違う話」

2~3日が山!だと!?

それ以上の話があると言うのか!?


「パルム達が聖剣を手に入れたわ」

!?

「聖剣エロクスカリバー。知ってるわよね」

エクスカリバーなら知っているが、そんなの知らん。なんだそれは?

「辺境の星の洞窟で見つかったの。報告を受け、すぐ部隊を派遣する決議を取るために、議会を招集したのよ。でも、報告を受けた10分後には、パルムたちに奪われた」

「10分だと?」

「情報が洩れてるわ」

天界にパルムのスパイがいる・・と言う事か。


「報告は直接私に上がった。私は内容を示さないで、議会に招集をかけたの。でも、この時点で情報は漏れていたわ」

はい1確。貴方が犯人です。と言うか、他に居ないだろ。

「私が犯人なら、貴方に相談しにきた私は、馬鹿?」

盗聴か?

「たぶんね。副議長室に出入りできるのは限られている。一番怪しいのは、ティナよ」

「ない!断言できる。ティナは盗聴する側ではない。される側だ」

俺は自信満々で言える。ティナは、盗聴などする女神ではない。


「ええ、私もティナは信じている。でも、ティナの後ろ。ヴィーナス家は、信用できないのよ」

確かに‥特に、長女のエクセレント。

パルムが勇者だったころの担当女神だし、聖剣九重の所在も知っている。

切れ者のようだが、油断のならん相手でもある。

「ヴィーナスがパルムと繋がっているという事は、ノスヘラトゥとも?と言う事だよな」

「分からないけどね。なんか最近、きな臭いというか、しっくりこないのよ」

分かる。周りで変な思惑を持たれると、空気の匂いが変わる。


「パルムは九重を狙っている。大丈夫なの?貴方達では・・」

気を使ったか?言葉を濁らせたが、言いたいことは分かる。

俺達では、本気のパルムには勝てない。実力が違いすぎる。本気で来られたらお手上げだ。

「パルムの力は別格だもんね。どうするの?」

「・・・その時は、その時さ」

勇者として、いい加減な答えだが、これは本音だ。


正直なところ、どうでも良い、と考えていた。

世界の理を変える力を持つ聖剣九重。パルムやギルバが狙っている。

が、九重は、カモミールに必要なものではない。

存在するものは、いずれ誰かが手にする。

取られて困るものでないのなら、俺は手にしている平和が壊れなければいい。


ん?

「・・・おかしいな」

俺は、あることに気が付いた。

「おかしい?なにが?」


エクセレントは、九重のある場所を知っている。

パルムは、それを狙っている。

2人が繋がっているなら、九重はパルムが手にしているはずだ。

「確かに・・そうね。パルムとエクセレントが繋がりが無い証拠に成るわね。何がどうなっているのかしら?」

まぁ、本人に聞いてみるか?

「聞くって?会えるの?パルムたちに?」

「ああ、第2、第4の火曜日、13:00~17:00まで、攻めてきている」

「なにそれ?どいうこと?」

「なんでも、業務実績を残さないと、報酬にならないらしい。適当に魔法を撃ちあっての茶番だ」

「攻められてるのよね?」

「そうだが、お互いのために成る。向こうは報酬が得られ、こっちとしては、パルムは魔法を受けてくれるから、アリス達はレベルが上がる」

「・・・やっぱり、あなた達って変。変だわ」

「そうか?互いの利益に成るし、特に問題も起こらない」

「敵なのよ。九重を狙う敵と、どうして?」

アルテミスは不思議そうな顔だ。


「昨日の敵は、今日の経験値だぞ。美味しくいただいてるぞ」

アリスがやって来た。

「暫くだぞ」

「お久ねアリス」

守護する側と、される側。二人は仲良しだ。


「ケインは勇者だから、そんなことは考えないはずだぞ。でも、私としては、九重がカモミールに必要なモノだとは思えないぞ。私たちの平和を壊さないのなら、好きに持ってっても良いと思ってるぞ」

すまん、勇者でも考えていた。以心伝心。奥さんと同じ考えだった。

「パルムより、ティナだぞ。大丈夫なのかだぞ?」

そうだ!ティナだ!

2~3日が山って、どういう事だ?


先日のグールとの戦いで、魔法を避けた飛行形態のグールが、ティナの鼻先に止まった。

あり得ない声の悲鳴とともに、気を失ったティナは、天界病院へ緊急搬送された。


「体中の穴から血が吹き出ちゃったのよ。恐怖で毛穴から血が吹き出る・・ってあるけど、あの子の場合、既に切れているところがあるから、吹き出やすかったのね」

ティナは痔なのだ。


「お医者様が診てくれているから、大丈夫だとは思うけど・・。血が止まらないって」

「神の加護は使えないのかだぞ?」

女神が使う万能魔法、神の加護。およそ全ての事柄に対応した、便利な魔法だ。

「普通の痔ならね・・でも今回はあり得ないほど大きな傷になったみたいなので、だめ。基本女神は、痔になんかならないの。痔の治療は神の加護対象外よ」

保険適応外みたいだ。


「ティナにもしものことがあったら、俺はグールだけを狩る、グールスレーヤーに成る。世界中のグールを狩りまくってやる」

「私もプリンセスを辞めるぞ。王都害虫駆除業者の副社長に成るぞ」

「まぁ大丈夫よ。あの子が簡単にくたばるわけないから」

ティナとアルテミスも、大の仲良しだ。



「そうだケイン、この世界にある、伝説の薬草。『ボラギノー草』を探したら?」

ピンポイントだな。絶対に今誕生設定だろ。

「ボラギノー草は、カモミールの尻と言われる、南極の穴の中に生える草だぞ」

それがあれば、ティナは?

「助かるわ。流れから間違いなく助かるわ」

流れってなんだ?

「よし、メンバーを招集するぞ!勇者チーム再結成だぞ。

仲間の危機を、幻のアイテムを探し出し救う。異世界物語の王道パターンだぞ」

俺達に王道は無理だと思うが、ティナが助かるなら、行くか?



俺は仲間と共に、カモミールの尻。南極の穴へ旅立つことにした。

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