魔王編 ㊺
遂に魔王と対峙したケイン。
必勝と思われた、正のエネルギーの攻撃は、パルムの親心攻撃に相殺され、策は不発に終わる。
どうする勇者?
「くそ!レナ達の攻撃では、まるで効果が無かった。正のエネルギーでもダメ。策が無い」
「諦めるなだぞ!まだ魔王は海の中で釘付けだぞ。策を考える時間はあるぞ」
「パパ!頑張って!」
「ですわ!私はまだ、魔法が打てますわ!」
「魔王アズサも、まだ頑張れます!」
「ケイン~頑張って~」
分かっているさ。諦めたりしない。
「皆、聞いてくれ!策を考える!時間を稼いでくれ!」
「よし、分かったぞ!時間を稼ぐぞ。でもその前に、バナナでエネルギー補給だぞ。バナナは直ぐカロリーに成るぞ。頭の回転も速くなるぞ」
「流石はアリスだ!俺にも1本くれ」
「おお!だぞ。・・・ごめんだぞ。バナナと間違えて、山芋持ってきちゃったぞ」
おい。
「これから擦り下ろすぞ。皆、時間を稼いでだぞ!」
アイリスの氷魔法のおかげで、魔王は海から動けない。尻尾で氷を砕く事さえ、できなくなっている。
まだ考える時間はある。
!!魔王から冷気!さっきの攻撃が来る!
「任せろ!疾風のレナ!参る!」
「神剣使いのセレス!行きます!」
「ルピ、ルカ!上陸です!ケインさんの前に出て、盾になります」
魔王が放った氷柱の攻撃を、レナとセレスは剣で薙ぎ払う。
「魔王の攻撃は、私たちに任せろ。お前たちは下がれ」
「ここは一歩も通しませんわ」
「本体を盾に使います。任せてください」
レナ、セレス、セイレーン!頼んだ。
「ケイン、下がるぞ。ここはレナ達に任せるぞ。考える環境を整えるぞ」
「パパ!レジャーシートだよ。ここに座って!」
「婿殿!イルカの浮袋ですわ。これをひじ掛けに」
「ハウル寝ろ。ケイン、ケダモノのクッション用意した」
「ケイン~羽根布団かけてあげるよね~」
みんな!ありがとう!と言うか、なぜレジャーシートや浮き輪、羽根布団まで持って来た。
ハウルのモフモフクッションに、イルカの浮き輪と羽根布団。快適だ。
「ケイン、コーヒー淹れたぞ。飲むぞ」
お?カフェオレか、いいな。
「違うぞ。コーヒーに、擦り下ろした山芋を入れたぞ。栄養満点だぞ」
お。おう。
「私の膝枕で寝ると良いぞ」
俺はアリスの膝に頭を置くと、考えに沈んでいった。
今までのティナの言葉を思い出せ。ティナは、必ず俺に答えを言っている。
ティナの言葉に、魔王を倒す答えがあるはずだ。
ティナは魔王を‥ティナは・・魔王・・・魔・・・。
ウノで徹夜した疲れも重なり、寝てしまった。
ーーーーサラ族とティナたちーーーー
「あいつは何をしておる!!」
「おじい様、どうやら寝ているようですね」
「魔王との闘いの最中に寝るとは、さすがはケインさんです」
「いやいや、ありえんだろ!寝るなどあり得ない!」
「はい。普通の人が出来ない事を、サラっとやるのがケインさん達です」
「でも、理にかなっているわ。疲れをとるのは良いことだわ」
「ないない!疲れなど忘れる位、必死に戦う!これが勇者じゃ」
「おじい様、それでは勝てませんわよ」
「あ・・・じゃが・・・」
「でもティナ、ケインは、あれで大丈夫なのよね」
「はい。多分・・・・」
アルテミスの問いに、さすがのティナも不安になってきた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
・・・・ここは?・・誰かいる。小人?。
あれは・・・俺?・・俺の前に居るのは、小さな俺だ。
目がかすんでいた。良く見えない。
が、確かに俺の前に居るのは、俺だ。俺は俺に剣を向けていた。
俺だけではない。アリスも、アリッサも居る。レナやセレス。マオ、ターナ・・・みんな、小人のように小さい。みんなが俺に剣を向けている。
マオが、笑いながら、俺に向けて魔法を撃つ。
レナやセレスが斬りかかってくる。
アリスとアリッサが、笑顔で攻撃してきた。
なんだこれは?一体どうしたんだ?どうなっている?
「何故だ?なぜ邪魔をする。俺はこの世界を、優しい温かい世界にしたいだけなのに・・なぜ戦う?なぜ俺に攻撃してくるんだ?」
これは、俺の声・・
俺の手が見えた。真っ黒だ。体も、すべてが真っ黒だ。
魔王、俺は魔王なのか?
「何故だ?お前たちは、この世界を良くしたくないのか?なぜ邪魔をする。なぜ俺を攻撃する?」
魔王は・・この世界を?
「!?」
「起きたかだぞ。よく寝ていたぞ。ウノの疲れが出たぞ」
俺は寝てたのか?
「小一時間ぐらい寝てたぞ」
「レナ達が頑張ってくれてるよね~ここには攻撃は来ないよ~」
そうか・・今のは夢か。
「どうしたぞ?顔が怖いぞ。山芋のコーヒーは、食い合わせが悪かったかだぞ?」
「アリス、夢を見たよ。夢の中で俺は、答えを見つけられた」
「だぞ!?」
「俺は、大きな間違えをしていた。魔王も呪いも、すべてを勘違いしていた」
「おはようございます、ケインさん」
ティナたちが来た。
「全く、驚いた奴じゃ。よく寝れるな?」
爺さんか。
「爺さんかではない。諦めるのなら、わしらが封印してやるが・・」
どうやら、俺が諦めたと勘違いしたらしい。
「待ってくれ。俺は諦めた訳ではない。考えていただけだ」
「いや、寝てた。口にヨダレの跡があるわ!」
「爺さんの質問の答えが分かった、と言ってもか?」
「ケインさん、それって?」
「この世界に掛けられた呪いの数は、ゼロだ。違うか?」
「小僧・・・正解じゃ。お主は寝ながら考えとるのか?」
「ああ、俺は「呪い」と言う言葉で、自分を縛っていたんだ。4つ目の呪いは。俺が俺自身に賭けた呪いだ。ありもしない呪いを、あると思い込む呪いだ」
「どうやら、全ての答えが見えたようじゃな」
「ああ、色々手間かけたな。もう大丈夫だ。終わりにして来るよ。あいつは俺だ。ならば手は一つだからな」
『前世の俺が魔王の魂を食らい、俺が魔王になった。俺は戦いに明け暮れる世界に嫌気がさし、強く念じた2つの想いが形になった。
「男のいない世界」「人口の少ない世界」。だがこれは、世界が平和になると願ってのこと。呪いではなかった。俺が強く望んだ想いだ。
そしてサラ族も同じだ。魔獣落ちは人の心を浄化させるためのモノ。長い年月を使い、魔獣は人と同じ心を取り戻し、再び人類と1つになる。呪いではなかった。
魔王は200年ごとに現れ、その力で世界の理、俺たちが呪いだと思っていた効果を維持していた。
みんなが同じ方向を向いていた。ただ見方が違っただけだった。魔王も、俺も・・・・過去の勇者たちも・・カモミールの人たちもだ』
俺は、剣を鞘ごとアリスに預けた。
「丸腰だぞ。なにするつもりだぞ?」
「落雁の槍を持って来た時も、ティナは俺に教えていたんだよな。どんなに優しい気持ちで扱っても、これは武器だ。だよなティナ?」
「はい。その通りです」
「俺がこの世界の呼ばれたときから、ずーっと、同じことを言っていた」
「はい」
「俺でなくては、魔王は倒せないと。それは魔王の想いを知るのは、俺だけだからだ。アリス、みんな、俺を信じてくれ」
「うんだぞ。信じるぞ。ケインを信じるぞ」
「パパ!信じるよ」
「ですわ。信じますとも」
「信じてるよね~」
「信じる。答え知ってるけど」
「信じてやる」
「はい。ケインさん、お願いします」
よし!指示を出す!
「戦闘中止だ!全員武器を手放すんだ」
「ケイン!なにを言い出すのよ!寝て頭が壊れたの?」
「何を考えてる!?そんなことできる訳ないだろう!」
レナ達は、否定的だ。
「ケインの指示だぞ!みんな従うぞ!」
「俺を信じてくれ!魔王は敵ではない。俺に任せるんだ!!」
7万の兵士たち、アリス達は、手の持つ武器を地に置いた。
レナ達も渋々だが、指示に従ってくれた。
俺は、魔王に向かって歩く。
俺の考えが正しければ、魔王は攻撃しては来ない。
ドワーフの時と同じだ。相手が「殺せ」「倒せ」と考えているから、戦いに成る。相手に敵意が無ければ・・。
ーーーーパルムとセシルーーーー
「戦闘を止めた?」
セシルは、魔王に向かって歩くケインの行動に驚いた。
「坊や?投げたの?諦めちゃったの?」
「いや、あれが奴の策だ。あの目は、諦めた目ではない」
「でも、丸腰よ。あれで攻撃されたら・・」
「手出しは無用だ。これがあいつの勝負手。俺たちのフォローは此処までだ」
「でも!だって!坊や、やられちゃわ」
「手出しはしない。勇者の打つ勝負手に、敗北は無い」
「・・・分かった。なら邪魔はしない。でも坊やが攻撃を受けたら、私が魔王を焼き尽くしてあげる。いいわね?」
「ああ、いいさ。あいつが丸腰と言う事は、魔王の攻撃は無い。信じてやれ」
「・・そうね。信じるわ。・・でも!万が一の時は、貴方も防御魔法を撃つのよ!坊やを守るのよ!」
パルムの隠れた援護も止まった。
ーーーーーーーーーーーーーー
俺達が剣を置き、攻撃を止めると、魔王も攻撃を止めた。
俺は魔王の前まで来た。
魔王は、俺を見下ろしていた。
「魔王!いや、もう一人の俺。俺が分かるか?」
言葉は帰ってこない。だが俺と魔王は、互いに視線を交わらせていた。
「この世界を暖かく、美しい世界に変える。優しく、戦いのない世界にする。800年前の俺が望んだことだ。俺の魂を食らったお前が変えようとしていた事だ。見ろ!今のこの世界を!」
魔王は、俺の言葉を理解している。同じ俺同士だから、同じ魂を持つ者同士だから。
俺から目線を切り、周囲をゆっくりと見回す。
魔獣たちと並び、手を取り合う人類が、魔王の目に入る。
「魔獣軍も、魔王軍も、王都軍もない。皆が手を取り合い、この世界を守ろうとしている。
この世界を傷つけていた争いは、もう無い!人々は優しく、美しく、温かな心の持ち主だ!これが、俺たちの望んだ世界だ!お前が作り上げた世界だ!」
「魔王が、ケインの話を聞いているぞ」
「力で勝ち取る平和など、偽りの平和じゃ。真の平和とは、同じ方向を向き、同じものが、同じ色に見せる世界じゃ」
「はい。魔王と皆さんは、同じ方向を見ていました。しかし人類は、魔王を敵とし、召還された勇者は、倒すことだけを考えてしまいました」
ヒロミ爺さんは語りだす。
「わしらが求めたもの、それはな。力では、心には勝てぬという事じゃ。西の国は、勇者と聖剣を使えば、世界を支配できた。じゃが、女王も勇者も、それをしなかった。力で納めても、意味が無いのを知っておったのじゃ。
悪意を持つ敵には、勇敢に立ち向かい、守り切る。
悪意の無い敵には、寛大に受け止め、刃は交えない。
勇者ケインは、気が付いた。
悪意無き敵との戦い方をな。そしてこの世界に教えたのじゃ。
この世界は、800年の苦しみの後に、大事なものを手に入れた。勇者ケインは、この世界の未来を守ったのじゃ」
「私のパパだよ!パパは凄い勇者だよ!」
「ですわ。婿殿には感謝ですわ」
「だよね~やっぱケインは凄いね~」
「私の初めて、あげた奴」
「なんだと!魔獣王が初めてでは、なかったのか!痛がってい居たのは演技か!」
「もうお前の役目は終わった。後は俺たちに任せてくれ。この世界は、俺たちが守る」
魔王は笑った。
「笑ったぞ。魔王が笑ったぞ」
「笑うと可愛いですわ」
「パパと同じ顔だよ!可愛いよ」
「可愛い」
「糞ぉ!妻の初めてを奪ったやつの顔など!可愛いわけあるか!」
魔王は両手を上げた。俺にはガッツポーズに見えた。
そしてもう一度俺を見る。満面の笑顔だった。
「長かったの。ティナ様の勘違い。勇者の想い込み。どうなるかと思ったわい」
「え?私は何か勘違いを?」
「ええ、ティナ様には、魔王軍を先に倒してくださいと、お願いしてあったはずです」
「マジですか?聞いてませんが・・・」
「流石はティナだぞ。導く女神が間違えていたぞ。勝手に自分の考えで、呼び出すものが、居なくなると思っていたかだぞ?」
「だめがみ」
「それは禁句です!」
「なぁアリス!どうなっている?」
レナ達がアリス達の元へ来た。
「正解は戦わないだったぞ。魔王に私達を見せて、納得させるが正解だったぞ」
「あら、そうだったの?先代は真面目だから、戦う事しか頭になかったわ。ケインより馬鹿だったのかしら?」
「誰も気が付かないぞ。ティナが隠してるから悪いぞ」
「え!?私ですか!?」
「ティナ様、800年間、ご苦労様じゃった。今回は流石に大サービスじゃったが、それでも、こうして答えに辿り着けたのは、ティナ様のおかげじゃ。この世界は、苦しみの中から大切なことを学んだ。もう何も案ずることなど無いわ」
「感謝しています。私たちの子孫たちも、安心して暮らせる世界になりました」
「ありがとうございました。一族共々、感謝いたします」
魔王の体が、光に包まれていく。
俺に満面の笑みを見せながら、魔王はこの世界から消えていく。
同じ魂を持った、もう一人の俺。
「ご苦労さん。相棒」
俺の口から自然と出た言葉だ。
魔王の顔が光に包まれる。魔王の最後だ。
「頑張れよ。相棒」
聞こえた。確かに俺の耳に届いたのは、魔王の最後の言葉。
そして小さな光の珠が現れた。魔王のコアだ。
「アヤメ、屑彦!皆の衆!今こそ我らも還るべき所へ、還る刻じゃ」
サラ族は互いに手を取り合うと、光の珠に姿を変える。
「世話になりましたな。転生した時は、温かく迎えてくだされ」
「皆さん、ありがとうございました。さようなら」
「ケインさんによろしくお伝えください」
サラ族の光の珠は、魔王のコアに向かって飛んで行く。
二つの珠が接触した。音も無く珠は弾け飛ぶ。
一片の光の欠片が、俺の元に来る。800年前に魔王に食らいついた、俺の魂の欠片だ。
欠片は俺の胸の中に消えた。
『あばよ、魔王。後は任せろ』
この戦い。俺たちの・・いや、俺たちの世界の勝ちだ!
「この世界を守護する女神として、ここに宣言します!魔王は完全に消滅しました!カモミールは勝利しました!!!」
「やったぞ!やったぞケイン!」
「婿殿!!!」
「パパ!」
「ケイン~だよね~」
「おつ」
「後でゆっくり聞きたいことがある」
「ケイン、やったな」
「マスター!凄いわよ」
「ルピ、ルカ、私たちも本体から出ます」
「はい、ねぇ様。緊急脱出システム作動します」
「はい、ねぇ様。射出座席です。着地に注意です」
俺の元に、みんなが駆け寄ってきた。
「ケインだぞ!私が一番にハグするぞ!」
「パパ!1番は私だよ!」
「婿殿!たまに私と!」
良し!来い!全員同時ハグだ!
!?
なんだ?体が宙に浮いた。
「ケイン!何処へ行くぞ?戻るぞ」
「分からん!なんで浮く?」
「手を伸ばすぞ!私に掴まるぞ」
俺は手を伸ばした。アリスの手に捕まろうとした・・が、指先が触れ合っただけだった。
「アリス!」
「ケイン!」
「氷魔法!氷の階段ですわ!・・ですわ!・・ですわ!・・魔法が打てませんわ」
「魔王を倒した影響」
「使えなくなるんだったよね~」
「ケインさん!神の加護!ケインさんよ、降りてこい!です」
???「無駄よティナ」
!?この声は、ディーバ!?
「ディーバさん!どいう事ですか!?」
「返してもらうのよ。ケインは魔王を倒すために貸していただけでしょ。魔王を倒したら、返すのが当然じゃない?」
「くそ!ディーバ!よせ!お前の言う事など聞かないぞ」
「聞くとか聞かないと関係ないのよ。貴方はランク7位の勇者。私はランク7位の担当に成れるの」
「そんなことは後で話し合えます。ケインさんを戻してください!」
「ディーバ!やめろ、俺をアリスの所へ返せ!」
「ケイン!戻ってくるぞ!」
「アリス!アリッサ!必ず戻る!必ずだ!待っててくれ!!」
俺は空中に表れたゲートの中に・・・。
「おかえりケイン」
ディーバ!貴様!!!
「おっと駄目よ。女神に手を出したら、いくらティナの庇護があっても、あなたは終わりよ」
く!
「カモミールとの接続は切ったわ。これで、来ることも行くこともできない」
「なんだと!」
「ここが、あなたのいる場所よ。諦めて私のために働いてね。ケイン」
くそぉ!!!
「またくるわ」
「待て!ディーバ!」
ディーバは消えた。
カモミールへ行く前に、俺の住んでいた部屋だ。
6畳一間。
さっきまで側にいてくれたアリス、アリッサ…誰も居ない。俺一人だけだ。
部屋が広い・・・・。
もうアリス達に会えない、と思った瞬間、背筋が凍る。
寂寥感が、俺を襲ってきた。止まることの無い涙が流れ落ちる。
俺は、一人なんだ・・・。




