魔王編 ㉜
「出来ません。と、言うかやりませんよ。私は美しい心が生み出した、正の思念体です。不浄なことは、嫌いですよ」
「Hは不浄じゃないぞ。Hをしないと世界が滅ぶぞ」
「それは人類の話ですよ。私はHで子孫を残せません。Hは単なる快楽の行為に過ぎないのですよ」
確かにそうだ。アリス達は、子を産む為のHだが、子を産まないマリーには、不浄行為に成る・・と言う事だな。
「そうですよ。皆さんのHを止めはしませんが、私に求めないでくださいね。勇者ケイン様、魔獣王河童様」
この世界で、一番倫理観の真面な人だ!
「で?魔王様。確か先ほど、聖剣と聞いたのですが」
「マリーは何か知っていますか?」
「エロ牙?ですか?存じておりますよ」
なんだと!?どこにあるか分かるのか?
「山に埋めましたよ。あの様な不浄な存在は、世に有ってはいけませんよ」
・・・潔癖型か?
「不味いぞ。マリーにセレスに会わせたら、埋められるぞ」
「間違いなく埋められるね~」
「女王も危ない」
だな。
「あの山に有る、杉の木。見えますか?」
窓からマリーが指さす先に、杉林があった。
くそ!5~60本は生えていやがる。
「よし、みんな!あのあたりを掘りまくるぞ」
「お待ちください。歓迎の準備が整いましたよ。せっかくの用意の品が、冷めてしまいますよ」
「聖剣が先だぞ。今は食事は・・・」
言いかけたアリスを、俺は止めた。
「頂こう。なぁアリス。聖剣は逃げないさ」
魔都は物資に乏しい。苦しい中で用意してくれたものだ。無駄にさせたら失礼だ。
「そだね~せっかくだから頂きたいよね~」
「歓迎してもらう」
マオとターナも気が付いた。
「そうだぞ。まずは歓迎を受けるぞ」
アリスも分かったようだ。
「では、お席にご案内いたしますよ」
マリーは微笑む。
「王都の皆さん!お恥ずかしい限りですが、これが我が国での精いっぱいの歓迎の品です。どうぞお召し上がりください」
アズサの言葉通りだった。
草のサラダ。草のお浸し。草の天婦羅。草のジュース。
「私たちの国では、草が主食ですよ」
苦しかったんだな・・・。が、旨い。たかが草だが、味が旨すぎる。
「凄いぞコレ。レシピが欲しいぞ」
アリスが言うなら、本物だ。
「草以外はご馳走。我が国に、古くから伝わる言葉です。草の一本でも無駄にはしない。マリーの教えです」
「苦しい中、皆さんは良くついて来てくれましたよ。でも、こんな生活も、魔王と共に封じなくてはいけない時代が来たようですね」
俺達が来たからだよな?
「ええ。外の世界を知れば、今のような生活には耐えられなくなりますよ。それが人間ですよ。魔王を倒した後の世は、王都との交流や、人口の増加。魔都の世界は変わりますよ」
「王都のプリンセスとして、援助を申し出るぞ」
「うんうん~私も協力するよ~」
「魔獣の肉、喰わせてやる」
「皆さん、ありがとうございます!魔都の王として、感謝の言葉もありません!」
マリーは出来る子だ・・・マリーの出した料理は、歓迎と言いながら、プリンセスから援助を引き出す為のものだ。
「草以外はご馳走」
つまり、ご馳走もあるという事だからな。
自分たちの苦しさを、アピールしたものだ。
「しかし驚きました。マリーが人間ではないとは」
「拙者も納得でござるよ。マリー殿の知識の多さはには、驚愕したでござる」
「どおりで私の修理も出来たデス。今考えると不思議一杯でしたデスね」
「普通はおかしいと思いますよ。今まで気が付かない方が、おかしいですよ」
流石はアズサ一族だ。
「マリーまた質問だぞ」
失礼なのはよせよ。
「構いませんよ。プリンセス、何でも聞いてください」
「魔王は負のエネルギーだぞ。マリーは正のエネルギーだぞ。マリーと魔王が触れたらどうなるぞ?」
「対消滅を起こしますよ。エネルギー量から、私は消滅。魔王は僅かなダメージを受けるだけですよ」
「私の命は、どちらのエネルギーだぞ?」
おい、お前まさか?
「聞いておくだけだぞ。先人たちが使っていた、封印の珠の謎を知りたいぞ」
封印の珠?
「あまり言いたくない事だけどね~昔は~生贄制度があったんだよね~」
生贄だと!?
「ママが廃止したぞ。政権を取って、すぐに止めさせたぞ」
そんな最近まで!?
マリーの顔から微笑が消えた。
「魔王を倒すには、膨大な正のエネルギーが必要ですよ。倒せなければ封印して、次の勇者に希望をつなぐ。倒すのに比べれば、封印のほうが簡単ですよ。
封印だけなら・・・それでも、多くの人の命が必要になりますよ」
「やはり命が、封印の珠の材料だったかだぞ」
「だから、生贄で封印の珠を作っていたのか?」
「そうだぞ。昔は、生まれた直後が、生贄候補だったと聞くぞ」
「生まれたて、一番きれいな心」
「なんて事をしてきたんだ!この世界は美しいはずじゃなかったのか?」
「ケインさん、それほど、この世界を維持することは、大変な事だったんですよ。ティナ様も、心をどれだけ苦しめられていたか」
「・・・そうだよな。苦しんだ人の分まで、いい世界にしないとな」
「で、私の魂はだぞ?」
「皆さんの心は、正のエネルギーで満ち溢れていますよ。正のエネルギーは、喜び、愛情、慈しみから生まれますよ。皆さんからは、負のエネルギーの源、負の感情は感じられませんよ」
「いざとなったら特攻」
「だね~この身を武器に戦うだよね~」
「ダメだ!俺は認めないぞ。皆で生きてこの世界で暮らすんだ。誰一人欠けさせるものか」
「大丈夫だぞ。冗談だぞ。みんなケインを信じているぞ。ケインが魔王を倒してくれると、信じているぞ」
ああ、任せろ。俺の相手は俺だ。俺が負けるはずがない。
「よし、歓迎も受けたぞ。穴掘りだぞ。セイレーンたちも呼ぶぞ。機械族は無限体力だぞ」
「24時間穴掘れる」
「休みいらずだよね~」
「ナナ、お願いします。動けなくなるまで、穴を掘ってください」
「相当深く埋めたから・・大変ですよ」
またマリーは、小悪魔的な笑みを見せた。
杉林に来た。俺たちは驚きを隠せなかった。
既に、いくつもの穴が掘られている。
「誰かが先に、聖剣を掘り出してるぞ」
穴は、古いモノではない。ごく最近掘られた形跡だ。
「マリーに聞いてみます。誰かに、ここの事を伝えたか?」
ああ、できる子だが油断はならない。あの小悪魔的な笑みの理由が、これだとしたら?
「どうするぞケイン?」
「いったん戻ろう。マリーの話を聞かない事には、作業が無駄になりかねないからな」
くそ!2時間もかけてきて無駄足だ。
俺達は2時間かけて、魔都の街に戻って来た。
随分騒がしい。
「魔王!街の食堂で、見かけない連中が居ると報告が来ていますよ」
マリーが、慌てた様子で駆けつけて来た。
「見かけない?魔都に訪問者の予定など聞いて居ません」
「あの穴を掘った連中か?」
「かもしれないぞ。行ってみるぞ」
魔都の街。王都とは違い、プレハブ小屋が立ち並んでいる。
商店街と言う程、栄えてはいない。売るものが無いのだ。
が、大手スーパーチェーン「モーソン」はある。
外から見ただけだが、棚はガラガラだ。
モーソンの隣が食堂。
中は、薄暗くテーブルが置いてあるだけの、まるで西部劇の酒場だ。
奥のテーブルに2人。
「この匂い、覚えがあるぞ」
「ああ、あの3人組だ」
パルムとセシルの二人が座っていた。
「よお!勇者」
慣れ慣れしく話しかけてきたのは、屈強な髭面の男、パルムだ。
俺はテーブルに歩み寄る。
「いきなりナイフは、飛んでこないだろうな?」
「あら、そんなこと、誰がするの?野蛮ね」
よく言う。前回レナ達に、やらかしてくれただろう。
「お前たち、何の用で魔都に来た?私は許可は出していません」
アズサが魔王としての質問をした。
「なに、勇者とゲームでもしようと思ってな」
ゲームだと?こいつら、なにを企んでいやがる?
「座りなさい。私たちに戦闘の意思はないわ」
確かに、殺気は感じられない。
「お前たちが、何を企んでいるかは知らないが、俺はゲームで遊ぶほど暇ではない」
「あら、仕方ないわね」
「ザイク。頼む」
!!!な、なんだと!?
パルムの真後ろにゲート。中からザイクと、アイリス、アリッサ。
「パパ!ごめん。掴まっちゃった」
「婿殿!」
「き、貴様!!」
「安心しろ。ご招待しただけだぜ。危害は加えないさ」
煙草をふかしながらザイクは言うが、パルムは、二人を氷の檻に閉じ込めた。
今度は、後ろにゲートが現れる。中からはティナだ。
「ケインさん!大変です!アリッサちゃんとアイリス・・さまが・・」
「2人ともここだぞ。こいつらに拉致られたぞ」
「!!あなたはパルム!?」
「ティナ、知ってるのか?」
「はい。傭兵パルム。お金で動く何でも屋です」
ろくな連中ではないと思っていたが、傭兵だったのか?
「さぁ勇者。俺たちとゲームだ」
くそ、アイリス達は、俺をゲームとやらに誘い込む餌か?
「どうするぞケイン?」
「罠」
「誘いに~乗っちゃダメだよ~」
あからさまだ。だが・・・・
「分かってると思うけど、あなたに拒否権は無いわ」
深紅の着物が良く似合う美人だ。
パルムとセシルが席を立つ。代わりにザイクが座った。
「さぁ、ぼうず。俺と勝負だ」
ザイクはトランプを取り出した。
「勝負だと?良いだろう。受けて立ってやる。だが、その前にアイリス達を開放しろ」
「解放、質問、要求。すべては勝者のみに与えられる」
パルム、俺にザイクと勝負して、勝ってから言えと言う事か?
「私たちの要求は・・そうね。坊や、私たちのチームに来なさい」
「なんだと!だぞ!」
アリス、俺のセリフだ。
「ベットハンティングだぞ」
いや、それでは、ベットで狩りに成る。
「それも良いぞ、狩られる側に成るぞ」
「パルム!ケインさんを、どうしようというのですか?」
ティナが珍しく呼び捨てだ。
「どうする?だって可哀そうでしょう。こんな優秀な子が、勇者じゃ」
「優秀?」
ターナ、喰いつくところがそこなのか?
「勇者なんて割の合わない仕事よ。拘束時間は長いし、保証もない。休みはある?保険とかは入れてる?」
「傭兵に言われたくないぞ。ケインは高給待遇だぞ」
「10倍だそう、幾ら貰っているかは、知らないがな」
ザイク・・貧乏そうな割に、大盤振る舞いだな。
「30だよね~月額~」
「プっ!30?たったの?ヤダ、どこが高給待遇よ。お小遣いにもならないわ」
「月額30億だぞ」
「なんだと!?」パルムが声を上げた。
「なんだと!?」俺も声を上げた。
「ケインの通帳だぞ。2か月前に昇給したぞ。ピーが600兆稼いだ後。給料跳ね上がったぞ」
セシルが通帳を見て、目が丸くなった。
「お。お。お金じゃないわ・・そう、体がきついとか・・」
目が泳いでるぞ。
「まぁ、30億は出せないが、3億ぐらいなら良いだろう」
10倍が1/10になった。
「やはりお前たちは面白い。俺たちが勝ったら、チームごと引き取ってやる」
「そんなこと女神の私が認めません!」
「断れる状況だと思う?」
くそ!やはりアイリス達を使ってきたか。
「分かったよ。勝負して・・・」
「待ってください!作戦タイムです。女神として要求します」
ティナ?
「認めるわ。手短にお願いね」
認めるんだ?
「ケインさん、皆さん、私の知ってることを、お教えします」
ティナは、パルムの情報を教えてくれた。
元勇者。それも優秀勇者ランク3位。世界を100回救った勇者チーム。
それが今のパルムチームだ。
担当はティナの姉。長女のエクセレントだった。
パルムは、永久凍土の冠を持つ、絶対防御の氷の魔法使い。
セシルは、超高温の紫の炎を使う、炎の魔法使い。
ザイクは、飛び道具の魔法使いにして、天才的なギャンブラー。
今の俺に勝てる所は、何もない。
「なんの相談だか知らないが、俺に博打で勝てるとは、思わない事だな」
トランプを捌きながら、咥えたタバコをふかす。
絵に成ってやがる。天才ギャンブラーと言うのも、雰囲気から伺えた。
「で?どんな勝負だ?」
「そうだな・・簡単なほうがいい」
ザイクはトランプをテーブルに広げた。勿論裏返しでだ。
「1枚引いて、数字がでかい方の勝ち。Aが最強。2が最弱。絵柄は関係ない。同じカードを引いたらやり直しだ」
俺の最も苦手な運勝負か?こいつら俺の情報を持ってやがる。
「勝負に勝ったら、相手に要求を突きつけられる。負けた側に拒否権は無い」
「生臭いのはダメよ。命を貰うとか、怪我をさせるのとかはね。これはあくまでもゲームよ」
なるほど、その手の要求は考えていない、と言う事か?
「回数は、そうだな、3戦に決めよう」
要求は3つという事か?
「俺たちはチームだ。俺以外でも良いのか?」
「ダメだ。最低2戦は、お前が勝負しろ。お前のチームだからな」
身を乗り出してザイクは言うが、俺たちの情報を持ってれば、2戦は無い。幸運の塊のマオが居るんだ。
こいつら、俺の情報しか持ってないという事か?
「勝った方の要求に、負けた方は答える。だが、一度通った要求は、後で取り返すことはできないとする」
パルムが言うのは、俺が負けてパルムのチームに行くとする。
2回目以降に俺が勝っても、俺を勇者チームに取り戻すことはできない、と言う事だ。
「3戦なら、3連勝しないとケインが取られるぞ」
ああ、だが、奴らの要求は3つだ。
俺をチーム欲しいというのはダミーだろう。
3つ勝つもりの奴らは、後2つ、何かを企んでいるはずだ。
「さぁ勇者、勝負と行こうか?」
ザイクが、広げたカードを指しながら俺を睨む。
勝負師の目だ。
が、俺が正攻法で勝てるはずがない。俺の流れに引き込んでやる。
次回、カード勝負だ。




