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残念世界の残念勇者   作者: XT
32/96

魔王編 ㉜

「出来ません。と、言うかやりませんよ。私は美しい心が生み出した、正の思念体です。不浄なことは、嫌いですよ」

「Hは不浄じゃないぞ。Hをしないと世界が滅ぶぞ」

「それは人類の話ですよ。私はHで子孫を残せません。Hは単なる快楽の行為に過ぎないのですよ」

確かにそうだ。アリス達は、子を産む為のHだが、子を産まないマリーには、不浄行為に成る・・と言う事だな。

「そうですよ。皆さんのHを止めはしませんが、私に求めないでくださいね。勇者ケイン様、魔獣王河童様」

この世界で、一番倫理観の真面な人だ!


「で?魔王様。確か先ほど、聖剣と聞いたのですが」

「マリーは何か知っていますか?」

「エロ牙?ですか?存じておりますよ」

なんだと!?どこにあるか分かるのか?

「山に埋めましたよ。あの様な不浄な存在は、世に有ってはいけませんよ」

・・・潔癖型か?

「不味いぞ。マリーにセレスに会わせたら、埋められるぞ」

「間違いなく埋められるね~」

「女王も危ない」

だな。


「あの山に有る、杉の木。見えますか?」

窓からマリーが指さす先に、杉林があった。

くそ!5~60本は生えていやがる。

「よし、みんな!あのあたりを掘りまくるぞ」

「お待ちください。歓迎の準備が整いましたよ。せっかくの用意の品が、冷めてしまいますよ」

「聖剣が先だぞ。今は食事は・・・」

言いかけたアリスを、俺は止めた。

「頂こう。なぁアリス。聖剣は逃げないさ」

魔都は物資に乏しい。苦しい中で用意してくれたものだ。無駄にさせたら失礼だ。

「そだね~せっかくだから頂きたいよね~」

「歓迎してもらう」

マオとターナも気が付いた。

「そうだぞ。まずは歓迎を受けるぞ」

アリスも分かったようだ。

「では、お席にご案内いたしますよ」

マリーは微笑む。


「王都の皆さん!お恥ずかしい限りですが、これが我が国での精いっぱいの歓迎の品です。どうぞお召し上がりください」

アズサの言葉通りだった。

草のサラダ。草のお浸し。草の天婦羅。草のジュース。

「私たちの国では、草が主食ですよ」

苦しかったんだな・・・。が、旨い。たかが草だが、味が旨すぎる。

「凄いぞコレ。レシピが欲しいぞ」

アリスが言うなら、本物だ。

「草以外はご馳走。我が国に、古くから伝わる言葉です。草の一本でも無駄にはしない。マリーの教えです」

「苦しい中、皆さんは良くついて来てくれましたよ。でも、こんな生活も、魔王と共に封じなくてはいけない時代が来たようですね」

俺達が来たからだよな?

「ええ。外の世界を知れば、今のような生活には耐えられなくなりますよ。それが人間ですよ。魔王を倒した後の世は、王都との交流や、人口の増加。魔都の世界は変わりますよ」

「王都のプリンセスとして、援助を申し出るぞ」

「うんうん~私も協力するよ~」

「魔獣の肉、喰わせてやる」

「皆さん、ありがとうございます!魔都の王として、感謝の言葉もありません!」

マリーは出来る子だ・・・マリーの出した料理は、歓迎と言いながら、プリンセスから援助を引き出す為のものだ。

 「草以外はご馳走」

つまり、ご馳走もあるという事だからな。

自分たちの苦しさを、アピールしたものだ。


「しかし驚きました。マリーが人間ではないとは」

「拙者も納得でござるよ。マリー殿の知識の多さはには、驚愕したでござる」

「どおりで私の修理も出来たデス。今考えると不思議一杯でしたデスね」

「普通はおかしいと思いますよ。今まで気が付かない方が、おかしいですよ」

流石はアズサ一族だ。

「マリーまた質問だぞ」

失礼なのはよせよ。

「構いませんよ。プリンセス、何でも聞いてください」

「魔王は負のエネルギーだぞ。マリーは正のエネルギーだぞ。マリーと魔王が触れたらどうなるぞ?」

「対消滅を起こしますよ。エネルギー量から、私は消滅。魔王は僅かなダメージを受けるだけですよ」

「私の命は、どちらのエネルギーだぞ?」

おい、お前まさか?

「聞いておくだけだぞ。先人たちが使っていた、封印の珠の謎を知りたいぞ」

封印の珠?

「あまり言いたくない事だけどね~昔は~生贄制度があったんだよね~」

生贄だと!?

「ママが廃止したぞ。政権を取って、すぐに止めさせたぞ」

そんな最近まで!?


マリーの顔から微笑が消えた。

「魔王を倒すには、膨大な正のエネルギーが必要ですよ。倒せなければ封印して、次の勇者に希望をつなぐ。倒すのに比べれば、封印のほうが簡単ですよ。

封印だけなら・・・それでも、多くの人の命が必要になりますよ」

「やはり命が、封印の珠の材料だったかだぞ」

「だから、生贄で封印の珠を作っていたのか?」

「そうだぞ。昔は、生まれた直後が、生贄候補だったと聞くぞ」

「生まれたて、一番きれいな心」

「なんて事をしてきたんだ!この世界は美しいはずじゃなかったのか?」

「ケインさん、それほど、この世界を維持することは、大変な事だったんですよ。ティナ様も、心をどれだけ苦しめられていたか」

「・・・そうだよな。苦しんだ人の分まで、いい世界にしないとな」

「で、私の魂はだぞ?」

「皆さんの心は、正のエネルギーで満ち溢れていますよ。正のエネルギーは、喜び、愛情、慈しみから生まれますよ。皆さんからは、負のエネルギーの源、負の感情は感じられませんよ」

「いざとなったら特攻」

「だね~この身を武器に戦うだよね~」

「ダメだ!俺は認めないぞ。皆で生きてこの世界で暮らすんだ。誰一人欠けさせるものか」

「大丈夫だぞ。冗談だぞ。みんなケインを信じているぞ。ケインが魔王を倒してくれると、信じているぞ」

ああ、任せろ。俺の相手は俺だ。俺が負けるはずがない。


「よし、歓迎も受けたぞ。穴掘りだぞ。セイレーンたちも呼ぶぞ。機械族は無限体力だぞ」

「24時間穴掘れる」

「休みいらずだよね~」

「ナナ、お願いします。動けなくなるまで、穴を掘ってください」

「相当深く埋めたから・・大変ですよ」

またマリーは、小悪魔的な笑みを見せた。



杉林に来た。俺たちは驚きを隠せなかった。

既に、いくつもの穴が掘られている。

「誰かが先に、聖剣を掘り出してるぞ」

穴は、古いモノではない。ごく最近掘られた形跡だ。

「マリーに聞いてみます。誰かに、ここの事を伝えたか?」

ああ、できる子だが油断はならない。あの小悪魔的な笑みの理由が、これだとしたら?

「どうするぞケイン?」

「いったん戻ろう。マリーの話を聞かない事には、作業が無駄になりかねないからな」

くそ!2時間もかけてきて無駄足だ。


俺達は2時間かけて、魔都の街に戻って来た。

随分騒がしい。

「魔王!街の食堂で、見かけない連中が居ると報告が来ていますよ」

マリーが、慌てた様子で駆けつけて来た。

「見かけない?魔都に訪問者の予定など聞いて居ません」

「あの穴を掘った連中か?」

「かもしれないぞ。行ってみるぞ」


魔都の街。王都とは違い、プレハブ小屋が立ち並んでいる。

商店街と言う程、栄えてはいない。売るものが無いのだ。

が、大手スーパーチェーン「モーソン」はある。

外から見ただけだが、棚はガラガラだ。


モーソンの隣が食堂。

中は、薄暗くテーブルが置いてあるだけの、まるで西部劇の酒場だ。

奥のテーブルに2人。

「この匂い、覚えがあるぞ」

「ああ、あの3人組だ」

パルムとセシルの二人が座っていた。


「よお!勇者」

慣れ慣れしく話しかけてきたのは、屈強な髭面の男、パルムだ。

俺はテーブルに歩み寄る。

「いきなりナイフは、飛んでこないだろうな?」

「あら、そんなこと、誰がするの?野蛮ね」

よく言う。前回レナ達に、やらかしてくれただろう。

「お前たち、何の用で魔都に来た?私は許可は出していません」

アズサが魔王としての質問をした。

「なに、勇者とゲームでもしようと思ってな」

ゲームだと?こいつら、なにを企んでいやがる?

「座りなさい。私たちに戦闘の意思はないわ」

確かに、殺気は感じられない。

「お前たちが、何を企んでいるかは知らないが、俺はゲームで遊ぶほど暇ではない」

「あら、仕方ないわね」

「ザイク。頼む」

!!!な、なんだと!?

パルムの真後ろにゲート。中からザイクと、アイリス、アリッサ。

「パパ!ごめん。掴まっちゃった」

「婿殿!」

「き、貴様!!」

「安心しろ。ご招待しただけだぜ。危害は加えないさ」

煙草をふかしながらザイクは言うが、パルムは、二人を氷の檻に閉じ込めた。


今度は、後ろにゲートが現れる。中からはティナだ。

「ケインさん!大変です!アリッサちゃんとアイリス・・さまが・・」

「2人ともここだぞ。こいつらに拉致られたぞ」

「!!あなたはパルム!?」

「ティナ、知ってるのか?」

「はい。傭兵パルム。お金で動く何でも屋です」

ろくな連中ではないと思っていたが、傭兵だったのか?

「さぁ勇者。俺たちとゲームだ」

くそ、アイリス達は、俺をゲームとやらに誘い込む餌か?

「どうするぞケイン?」

「罠」

「誘いに~乗っちゃダメだよ~」

あからさまだ。だが・・・・


「分かってると思うけど、あなたに拒否権は無いわ」

深紅の着物が良く似合う美人だ。

パルムとセシルが席を立つ。代わりにザイクが座った。

「さぁ、ぼうず。俺と勝負だ」

ザイクはトランプを取り出した。

「勝負だと?良いだろう。受けて立ってやる。だが、その前にアイリス達を開放しろ」

「解放、質問、要求。すべては勝者のみに与えられる」

パルム、俺にザイクと勝負して、勝ってから言えと言う事か?

「私たちの要求は・・そうね。坊や、私たちのチームに来なさい」

「なんだと!だぞ!」

アリス、俺のセリフだ。

「ベットハンティングだぞ」

いや、それでは、ベットで狩りに成る。

「それも良いぞ、狩られる側に成るぞ」

「パルム!ケインさんを、どうしようというのですか?」

ティナが珍しく呼び捨てだ。

「どうする?だって可哀そうでしょう。こんな優秀な子が、勇者じゃ」

「優秀?」

ターナ、喰いつくところがそこなのか?

「勇者なんて割の合わない仕事よ。拘束時間は長いし、保証もない。休みはある?保険とかは入れてる?」

「傭兵に言われたくないぞ。ケインは高給待遇だぞ」

「10倍だそう、幾ら貰っているかは、知らないがな」

ザイク・・貧乏そうな割に、大盤振る舞いだな。

「30だよね~月額~」

「プっ!30?たったの?ヤダ、どこが高給待遇よ。お小遣いにもならないわ」

「月額30億だぞ」

「なんだと!?」パルムが声を上げた。

「なんだと!?」俺も声を上げた。

「ケインの通帳だぞ。2か月前に昇給したぞ。ピーが600兆稼いだ後。給料跳ね上がったぞ」

セシルが通帳を見て、目が丸くなった。


「お。お。お金じゃないわ・・そう、体がきついとか・・」

目が泳いでるぞ。

「まぁ、30億は出せないが、3億ぐらいなら良いだろう」

10倍が1/10になった。

「やはりお前たちは面白い。俺たちが勝ったら、チームごと引き取ってやる」

「そんなこと女神の私が認めません!」

「断れる状況だと思う?」

くそ!やはりアイリス達を使ってきたか。


「分かったよ。勝負して・・・」

「待ってください!作戦タイムです。女神として要求します」

ティナ?

「認めるわ。手短にお願いね」

認めるんだ?

「ケインさん、皆さん、私の知ってることを、お教えします」

ティナは、パルムの情報を教えてくれた。


元勇者。それも優秀勇者ランク3位。世界を100回救った勇者チーム。

それが今のパルムチームだ。

担当はティナの姉。長女のエクセレントだった。

パルムは、永久凍土の冠を持つ、絶対防御の氷の魔法使い。

セシルは、超高温の紫の炎を使う、炎の魔法使い。

ザイクは、飛び道具の魔法使いにして、天才的なギャンブラー。


今の俺に勝てる所は、何もない。

「なんの相談だか知らないが、俺に博打で勝てるとは、思わない事だな」

トランプを捌きながら、咥えたタバコをふかす。

絵に成ってやがる。天才ギャンブラーと言うのも、雰囲気から伺えた。


「で?どんな勝負だ?」

「そうだな・・簡単なほうがいい」

ザイクはトランプをテーブルに広げた。勿論裏返しでだ。

「1枚引いて、数字がでかい方の勝ち。Aが最強。2が最弱。絵柄は関係ない。同じカードを引いたらやり直しだ」

俺の最も苦手な運勝負か?こいつら俺の情報を持ってやがる。

「勝負に勝ったら、相手に要求を突きつけられる。負けた側に拒否権は無い」

「生臭いのはダメよ。命を貰うとか、怪我をさせるのとかはね。これはあくまでもゲームよ」

なるほど、その手の要求は考えていない、と言う事か?

「回数は、そうだな、3戦に決めよう」

要求は3つという事か?

「俺たちはチームだ。俺以外でも良いのか?」

「ダメだ。最低2戦は、お前が勝負しろ。お前のチームだからな」

身を乗り出してザイクは言うが、俺たちの情報を持ってれば、2戦は無い。幸運の塊のマオが居るんだ。

こいつら、俺の情報しか持ってないという事か?

「勝った方の要求に、負けた方は答える。だが、一度通った要求は、後で取り返すことはできないとする」

パルムが言うのは、俺が負けてパルムのチームに行くとする。

2回目以降に俺が勝っても、俺を勇者チームに取り戻すことはできない、と言う事だ。

「3戦なら、3連勝しないとケインが取られるぞ」

ああ、だが、奴らの要求は3つだ。

俺をチーム欲しいというのはダミーだろう。

3つ勝つもりの奴らは、後2つ、何かを企んでいるはずだ。


「さぁ勇者、勝負と行こうか?」

ザイクが、広げたカードを指しながら俺を睨む。

勝負師の目だ。

が、俺が正攻法で勝てるはずがない。俺の流れに引き込んでやる。


次回、カード勝負だ。

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