魔王編 ㉛
俺達は、魔都へ行くことにした。
「メンバーの人選は、俺とアリス、マオ、ターナ、アズサ、ナナだ。アリッサとレナ、獄中3姉妹は、アイリスの護衛に残す」
敵はいないだろうが、万が一のためだ。
「ケイン、ハウルが迎えに来ている」
ハウルが?ならターナは参加できないか?
「ハウルも連れて行くぞ。3国会議が出来るぞ。この世界の未来に向けた会議をするぞ。ついでにケインを殴った恨みも晴らすぞ」
「と、プリンセスが申しているが、ターナから話してもらえるか?恨みの所は伏せてな」
「分かった。連れて行く」
本人の承諾なしに、妻が決めた。
「私が、魔都へ?私はそんなに暇では…いて」
ターナの蹴りが決まる。
「勿論、お供させていただこう」
完全に尻に引かれていた。
「決まりだぞ。では、船のドックへ向かうぞ。マオ、転送だぞ」
「ほいきたよ~ぽちっとなぁ~だよね~」
転送だと!?
「女神の力を、科学で再現だぞ」
!?一瞬でセイレーンのドックだ。まさに女神の使うゲートだ。
「でも気を付けるぞ。ハエ1匹入っただけで、映画が2~3本作れるストーリーに成るぞ」
安全対策が出来るまで、使用禁止な。
「なんだココは!?」
「魔道兵器セイレーンと、魔道客船アリス号のドックだぞ」
「私たちの秘密基地」
ハウルは初めて、真近でセイレーンを見る。
「この程度で驚くな。底が知れる」
ターナが蹴っ飛ばすが、驚きで痛みを感じていない。
「ルカに依頼して、アリス号の改造をしたぞ」
大型の機器が立ち並ぶ。セイレーン本体、その横に白く輝くプリンセスアリス号、圧倒的な存在感を出してる。
「私たちの技術は、800年前の賢者を超えているぞ」
さすがのハウルも後ずさりする。
「よく聞くだぞハウル。これが勇者の力だぞ。私たちの持つ、すべての力は、勇者であるケインの力だぞ」
「ハウル、これ見ろ」
ターナが、空間から絵を取り出した。
これも例の科学力か?
「!!これは!」
ハウルを驚かせた絵、俺の前世が描かれた、魔王と戦うサラ族の絵だ。
「なぜ!?ケイン!貴様が・・・いて」
「ケインじゃない。勇者様と言え」
「何故!?勇者様が、魔王なのだ!」
ケインでいいよ。
「聞くぞハウル!800年前、ケインの前世は、魔王と戦ったぞ」
「な!なんだと!」
だからそれは、俺専用のセリフだから使うな。
「800年前だぞ。魔王は、この世界を滅ぼそうとしたぞ。
北と南の国を滅ぼした魔王は、ティナが召喚した勇者、ケインの前世と戦うぞ。
強大な力を持つ勇者に、流石の魔王も大苦戦するぞ。戦いは7日7晩続くぞ。でも、惜しくも勇者は、敗れてしまうぞ・・・」
大分脚色された史実だ。確か一瞬で食い殺されたはずだ。
「余りの勇者の強さに、勝った魔王は、その姿を模すことにしたぞ。これがその絵だぞ!河童を襲う魔王の絵だぞ」
もはや、その歴史は、ラノベレベルだ。
「ケインは転生を繰り返し、力を付けるぞ。再び戦う魔王との決戦に備えていたぞ!」
「ケインは知っていた。魔王軍と魔王、同時に倒せない」
「そうです!魔王を倒すと、一時的に魔法が使えなくなります。魔王軍の科学力に対し、我々は戦う術を失います」
「だからケインは~先に魔王軍を~倒したんだよね~」
「全てを知る、勇者だからこそデス」
「分かったかだぞ!ケインは、この世界を救う為に800年の時をかけていたんだぞ。人生8回分だぞ!わかったら、土下座して謝るぞ」
「・・・そうだったのか…私は知らなかった・・・」
俺も知らなかった。
「ハウルお座り」
奥さんも鬼だな。
ハウルは両膝を地に付ける。
「待て待て。そこまでだ。詫びなど必要ない。魔獣たちは、これから協力して、この世界を守る仲間だ」
「ケイン・・いや、勇者様」
ケインでいいよ。
「ケイン、私は間違っていた。私たちを、魔獣を、この世界を守る同士として、受け入れてもらえるだろうか?」
「勿論だ。共に戦おう」
「ケインが認めるなら、ハウルは仲間だぞ。仲間に入れてやるぞ」
「ハウル感謝しろ」
「ありがとうケイン。この命、お前たちに預けた」
全くこいつ等には、敵わないな。
魔獣王すら、口車で手玉に取るとは。
「魔道客船プリンセスアリス号だぞ」
「良くいらっしゃいました。マスター、皆さん」
セイレーンとルピ、ルカがアリス号に繋がるタラップの前に居た。
「改造担当は、ルカだぞ」
「いい感じに、仕上がりました」
「魔道改造しました」
「魔改造です」
「早速、魔都に向けて発進だぞ。各自持ち場に付くぞ」
敬礼をした3人・・だが。
「マスターお待ちください。この船は、動物持ち込み禁止です」
「動物は毛が飛びます」
「精密機器は誤作動です」
ハウルは乗ることが出来ないだと?
「ハウル、覚悟するぞ」
「ハウル、覚悟」
「覚悟だね~」
3人は、バリカンを手にしていた。
「動くなだぞ。怪我するぞ」
「ここは妻が念入りに狩る」
「広い背中だね~刈甲斐があるよね~」
毛が刈られていく・・流石に少し哀れに見えて来た。
毛は動物の服であると同時に、愛くるしさの象徴でもある。
毛を狩られた動物の姿は・・・哀れだ。
魔獣王ハウルとて例外ではない。
今のハウルには、魔獣王としての威厳も、迫力もない。
「流石に裸では寒いぞ。これを着ると良いぞ」
アリスは、着ぐるみを持ち出してきた。
「ああ、すまない。この格好では、心もとなくていけない」
たかが毛だが、されど毛だ。
「ハウル似合う」
「いい感じだね~緑の体が似合うね~」
河童の着ぐるみだ。顔の部分が開いていて、ハウルの顔が収まってる。
「よし、記念撮影だぞ。アリス号初搭乗の記念撮影をするぞ」
セイレーンがカメラを取り出した。
レフ版を持ったルピ。三脚を持ったルカ。
・・・準備が良いな?
そもそもハウルが着れるサイズの着ぐるみなんか、よくあったよな。
「復讐完了だぞ。ケインを殴った罪を償わせたぞ」
「だよね~まだ生ぬるいけどね~」
「うちの旦那。これで許せ」
やはり、この3人の企みか・・・。
アリス号の制御は、ルカが担当する。
「アリス号発進だぞ!」
ドック内が海水で満たされる。
「システム安定です。魔道エンジン始動です」
やはり魔道エンジン搭載か?
「第1ゲートオープンです」
アリス号の前のゲートが開き、アリス号はゲートの中へ進む。
「船なのに、海中を進むんだな?」
「アリス号は、海の中も進めます。潜水機能をつけました。完全生活防水です」
セイレーンの説明だが、なんか怖い単語が聞こえた気がした。
「第2ゲートオープンです」
第2ゲートを抜けると、海だ。
「エンジン出力+20です」
「アリス号浮上だぞ!姿勢角アップ20だぞ」
「海上まで~障害物ないよね~」
レーダ担当のマオだ。
「魔道エンジン絶好調です」
機関師は、セイレーンだ。
「艦長!通信だ」
ハウルは通信担当だが、河童の着ぐるみで振り向くな。笑いが込み上げてきた。
「通信だぞ?誰からだぞ?」
「SOS信号だ。これは救難信号だ」
なんだと!
「繋ぐぞ。誰からだぞ?」
「メーデーメーデー。こちら制御室。各所から浸水を確認です」
生活防水じゃ無理だったんだ!
「制御室水没・・・ブクブクです」
エンジンが止まった!船が沈みだした。
船内に警報が鳴り響く。電気が消えて真っ暗だ。
「みんな!落ち着くだぞ。大丈夫だぞ。この船には脱出装置が付いてるぞ」
流石はアリスだ。こんなこともあろうかと、だな。
「脱出装置作動だぞ!」
全員何かに捕まれ!
「・・・ごめんだぞ。脱出装置と脱臭装置間違えたぞ」
なんだと!?
「私は泳げないぞ!」
魔獣王カミングアウトか?
「安心しろだぞ。私も泳げないぞ」
お前もか?
「大丈夫です。ここは水深700mです。泳げる人は居ません」
なにが大丈夫なんだ?
「勇者!私はこんな所で死ぬのは嫌だ!美しすぎる嫁をもらったばかりだ。なんとかしてくれ!してください」
意外と脆いな?魔獣王。
「アリス、と言う事だ。何とかしてやってくれ」
「仕方ないぞ。なんとかするぞ」
って、これもお前の仕込みか?
「セイレーン、ルピに牽引を頼むぞ」
「了解です。ルピ、私たちをけん引して、魔都まで引っ張って行ってください」
「かしこまり。ねぇ様、任せてください」
「ハウル、私に感謝するぞ。もしもを考えて、セイレーンの本体を連れてきてたぞ」
「お、おう。流石はプリンセスだ。感謝する。この恩は生涯忘れない」
グリス同様に、今後の事を考えて主導権を握ろうとしたのか?
「会議の主導権は取れたぞ」
ぼそっと言うアリス。やはり恐るべき嫁だった。
3日後、俺たちは魔都へ着く。
魔都の住人たちは、大勢で出向かえてくれた。
「皆さん!私は帰ってきました!王都の女王アイリス様と友好条約を結び、魔王軍を倒し!そして今、王都プリンセス、魔獣王と共に、生還を果たしました!」
アズサに、惜しみない拍手が送られている。
「確かに漂流して来たとは言え、これだけの実績だぞ。凱旋だぞ」
こうして並べると、確かに凄い実績だ。
「皆さん、王都の勇者チームの方々です!紹介します!勇者ケイン様です!」
「よろしくだ」
「プリンセスアリス様です」
「アリスだぞ、よろしくだぞ」
「妖精族族長、魔獣王ハウル様の妻、ターナ様です」
「よろ」
「闇魔法術師マオ様です」
「はいよ~」
「そして、魔獣王ハウル様です」
「お、おう」
流石だアズサ。ここで勇者チームと紹介すれば、既成事実も完璧だ。
ハウルはチームの一員で、そのチームのリーダーは俺だ。
「ようこそ魔都へ」
!?軍服の女性。この世界の女性は皆綺麗だ。が、この子からは、知的オーラが出ている。知的な感じが滲み出ていた。
「マリー!久しぶりです」
「久しぶりではありませんよ。どれだけ心配したことか?」
「ごめんね。迎えに出たつもりが流されて、王都まで行ってしまいました」
はぁ‥と深いため息をついたものの「まぁ、貴女ならやりかねないわね」的な顔でアズサを見つめていた。
「彼女はマリー。私の両腕です」
「私は両足デス」
アズサが両腕と言う程、できる子か?
「王都の皆さん、魔王様がご迷惑をおかけしなかったでしょうか?」
「大丈夫だぞ、いい関係が築けたぞ」
アリスの言葉に、ほっとした表情を見せた。
「皆様の仲間の方がいらっしゃいます。神殿にご案内いたします」
トーレフだな?死んでんだと?死んだのか?
「ケイン、神殿だぞ」
だよな。
「あの方は、自らを神と名乗りました。そして従者の方もまた、神だと。なので神殿に祭りましたよ」
マリーは、小悪魔的な笑いを見せる。
「トーレフが~神~ないよね~」
「ワニ神・・ない」
俺達は神殿に来た。
「ケイン殿!」
久々だな。元気そうで何よりだ。
「拙者、神にされたでござるよ」
ああ、祭られてるな。
「拙者は竜人族で、トーレフと名乗っただけでござる」
「はい。竜神だと伺いましたよ」
「ポセイドンは、カメだと言ったでござる」
「はい。ポセイドン様は、神だと伺いましたよ」
なるほど、「人・・じん」を「神・・じん」に、
「カメ」を「神・・かみ」にか。上手く利用されたわけだ。
「魔王様は不在。ティナ様は音信不通。神が降臨されていて良かったですよ」
シンボルが無いと、纏まりにくいからな。
「ティナ様も、そうしなさいって、仰ってましたよ。トーレフ様の『アズサさんは無事でござるよ』の言葉で、魔都の民は、どれほど安心したか」
やはりできる子だ。行方知れずのアズサの事を、神と祭られたトーレフに、無事であると言わせれば、民衆は収まる。
「ではマリー、皆さんの歓迎の準備を。私は聖剣の記録を、皆さんにお見せしています」
「・・・・聖剣ですか?・・・分かりました。歓迎の準備に掛かります」
マリーは部下数人に指示を出すと、敬礼をして下がって行った。
「出来る子だぞ。あの子は出来るぞ」
アリスも分かっていたようだ。
「ええ、マリーは代々魔王家に仕えてくれています。私の大事な両腕です」
「私が来た時から、マリーは居ましたデス」
おい。
「!!ナナが来たのは400年前だぞ」
見た目は20才前後だ。機械族じゃないのか?
「NOです。マリーは機械族ではないデス」
なら、説明がつかない。
「確かに・・・言われてみれば・・考えたことがありませんでした。若つくりでしょうか?」
いやいや、普通におかしいだろ。
「Oh!言われてみれば、おかしいです」
アズサ、よく聞け。あの見た目で400歳は無い。
マリーは人ではない。
「では?マリーは?一体何者なのでしょうか?」
「敵じゃないよね~」
「謎の味方キャラ。ピンチになると現れる」
「聞いてみればいいぞ。普通に気が付くところだぞ。隠す気は無いぞ」
ああ、そうだな。本人に聞くのが一番だ。
アズサがマリーの所に来た。
マリーは、花瓶をテーブルに運んでいる最中だった。
「マリー!」
「魔王様、お早いですね」
顔には笑みを浮かべている。どうやら、気が付いたことを悟ったようだ。
「ようやくですね。代々気が付かないから、特にこちらから言う事はありませんでしたよ」
「と言う事は!やはりマリーは!?」
花瓶の向きを確認しながら、マリーは微笑んだままだ。
「私は人間ではありませんよ。800歳の人間なんか居ませんよ」
「拙者1200歳でござる」
竜神は、いいんだ。
「800年前サラ族は、この地に僅かな女、子供と、数名の護衛の兵士を結界で守りましたよ。結界の外は、美しい心を持たなければ、生きていけない世界。私は、結界の中の人たちを、導くための思念体ですよ」
良く生き残れたとは思っていたが、やはり導く者が居たのか。
「私はサラ族の想いから生まれましたよ。サラ族の記憶を受け継ぐ、正のエネルギーの集合体ですよ」
正の?魔王とは逆なのか?
「はい。私はサラ族の持つ、正のエネルギーに、魂を埋め込まれた思念体ですよ」
「知りませんでした。でもマリーが何でも関係ありません。マリーはマリーです」
アズサならノータームで、そう言うだろうな。
「思念体って、Hが出来るかだぞ?」
おい。
「大事なことだぞ。マリーが出来るなら、魔王も出来るぞ」
「おっきな~ケインだよね~」
「魔王ケインのデカそう」
「お答えが欲しいですか?では次回に」
引っ張るところか?




