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残念世界の残念勇者   作者: XT
33/96

魔王編 ㉝

ザイクが俺に、カードを引けと迫る。

「ダメだ。お前たちが用意したカードで、勝負などできるか」

「ん?このカードは新品だ。天界公認カードだぜ」

「はい、カードは間違いなく、天界公認の物です」

「それを信じるほど、俺は甘ちゃんではない」

「疑り深い・・今まで騙された人生を歩んできたのね。人を信じられない。可哀そうに・・魂が汚れてるのね」

「私が汚したせいです」

それは良いから。


「当たり前だろ。いきなり勝負しろ、と言う奴が出すカードを、信じる方が無理がある」

「だが、その理屈なら、お前たちの出すカードも・・だぞ」

パルム、想定内の発言ありがとう。

「ティナ、この場でママゾンから購入だ。2デッキ買ってくれ。女神がこの場で買うんだ。どうだ?」

「なるほどね。良いわ。坊や、中々やるわね」

なんか嬉しそうだな?



ティナは、ママゾンから、2デッキの新品トランプを買う。

勿論ポイントでだ。

「さぁ、勝負だ。坊主から引いていいぞ」

「まだだ。裏返しのカード。お前が魔法かスキルで、表が見えないとは限らない。箱に入れさせてもらう」

「どれだけ疑り深いんだ・・好きにするさ」

ザイクは少し苛立ったようだ。

「アリス、マオ、隣のモーソンで、700円買うと引けるくじをやっていた。くじの入った箱を貰ってきてくれ」

ザイクだけではない。パルムも不快そうな顔つきだ。

セシルだけは、まだニコやかだが、いつまでもつかな?



「ケイン、箱だぞ。売り物ではないというから、マオに店舗ごと買わせたぞ」

「7億出したら~土地ごと売ってくれたよね~」

「7億ですか?魔都の土地価格は、1平米3円です。魔都全体の土地が買えてしまいます」

「土地が欲しいわけじゃ無いぞ。この箱が欲しいぞ。ケインが欲しがるこの箱には、7億の価値があるぞ」

流石のパルムたちも、びっくりだ。


俺は、箱の中にカードを2デッキ入れた。

「ティナ、この箱に加護をかけて、どんなに振っても、カードが表向きにならないようにしてくれ」

「はい。神の加護、カードよ裏返しのままです!」

「これで準備はできたな」

ようやくか・・そんな顔のザイクだ。

「ルールを追加する」

「おい、まだ何かするつもりか?数字のデカい方が勝ちの、簡単なゲームだぞ」

「1つ。一度引いたカードは、いかなる理由があっても、箱には戻せない。

 2つ。カードが足らなくなっても、追加は無い。引けなくなったり、引かなかったりした時は、手札無しで勝負だ。当然手札の無い側の負けだ。

 3つ。先攻後攻は、先行を持っている側に選択権がある。先行を持つ側が自分で選ぶことができる。

これをルールとして追加してもらう」

「もう何でもいいさ、さっさと始めよ…」

「ダメだ。まだ承諾はしていないぞ。セシルどうする?」

「ええ・・・」

なるほど、ザイクは余り利口ではない。

パルムは、理解している。俺が策を講じた可能性に。

そして、セシルがこのチームの司令塔だ。


「(・・・坊やの運では、間違いなく負ける。坊やは何か策を考えている。

 これは間違いない。でも、今までの条件から、策は見えてこない。

 だとすると、この後に出す条件・・・だわね)

良いわ。認めてあげる。追加はこれだけ?後から追加の条件は認めないわよ」

セシルは、少しだけ考えて結論を出した。


「後は・・これは頼みだが、俺の運では勝ち目が薄い。自分の力量で戦える1戦が欲しい」

「どんな戦いを希望かしら?」

よし、食いついた。

「引いたカードの数字を当てる。当たれば俺たちの1勝。当たらなければ、そっちの勝ちで要求を呑もう」

「(・・・私たち有利。よね?坊やの狙いが全く見えないわ・・・。

引きの悪さは知っているけど、それでもカードを当てるのは1/13。分のいい勝負とは思えない。・・とするとイカサマ?)」

悩め、悩んで悩んで全てを見失え。


「良いだろう。お前の勝負、受けてやる」

考えるセシルを横に、パルムが答えた。

「ちょっと!パルム!」

「考えても無駄だ。どう考えても我々の優位は、変わらない。考えるだけ、奴の策にはまりやすくなる」

くそ!こいつら良いチームだ。混乱を誘う狙いが崩れた。

だが、これだけだ思うなよ。最低運気で生きてきた、俺の恐ろしさ、思い知らせてやる。


「では、勝負だ。ザイク好きなだけ箱を振れ」

「やっとか・・まぁ、俺に勝てる奴はいない。俺の運気は100回中99回はAを引き込む程だ」

・・・馬鹿め。その油断が死を招くぞ。

「よし、これでいい。さぁ勇者。1枚引くがいい」

俺は、ザイクから箱を受け取る。念入りにかき回す。

念入りにだ。念には念を入れてだ。更に念を入れてだ。

「おい!!!いつまでかき回していやがる!!」

「ダメか?ルール違反か?」

「ザイク、落ち着きなさい。坊やは何もできないわ」

「くそ!カード1枚引くのに、10分かける奴など初めてだ」

「悪いが、後ろの連中には、少し離れてもらおうか」

パルムが警戒しだしたか?

「私達かだぞ?良いぞ下がるぞ」

アリス達が3歩下がる。俺に手は届かない位置だ。


「待たせたな。箱に細工が無いか手探りしていた」

「お前たちが用意した箱だぞ!」

「隣で使われていた箱だ。お前たちが先に来ていたからな」

「どんな人生を歩めば、こんなに疑い深い子に・・・魂が・・」

「私が汚しました!」

もう、本当に良いから。


「これだ。俺のカードだ」

俺は、1枚のカードを引くと、テーブルに置いた。

「やり直しだ」

覗き込むように見ていたパルムが、俺を睨みながら言う。

「理由は?正当な理由があるんだろうな?」

「ない。流れが気に入らないだけだ」

「それが理由かだぞ?認めないぞ」

「なるほど、感と言う奴か?だが、さすがに今更認める訳には行かない。

が、こうしよう。俺はカードの数字を宣言する。そして開く。当たれば俺の1勝。負ければ1敗。この状態で気に入らなければ、やり直しに応じよう」

「・・・・どいう事なの?」

さぁ、また考えろ。今度はパルムが口を出す程、単純じゃないぞ。

セシルは思考に沈んだ。


「(・・・・宣言で1勝したい?多分イカサマをしたはず。あのカードは10以上。

 宣言で当てて1勝。カードもそこそこで、勝負に成ると考えている?

 A以外なら、やり直しを言われないと思ってる?

 でもザイクなら、1発でAが引けるはず。A以外なら問題は無い。

 坊やの狙いは?・・・確実な1勝?あわよくば、強いカードで2勝。

 最優先は、アイリス達を救うのが目的ね。間違いない、この線だわ)

 良いわ。坊やの案、呑むわ」

「では、宣言する。このカードは『2』だ」

「なんだと!?」

「2ですって?」

そこそこに強いカードと予想したか?

「開くぞ。2で当たって気に入らなければ、やり直すからな」

俺は、指先でカードを掴むと裏返した。ハートの2だ。

「さぁ、どうする?やり直すか?俺の1勝で?」

「セシル!」

パルムが声を高めた。


「(・・・どいう事?勝つ気が無い?アイリス達だけを助ければいいの?

 私たちのチームに来たいと思ってる?なら、なんで、こんな面倒くさく?

 ・・坊やの考えが読めない。・・・ダメ落ち着いて、落ち着くのよ。

 状況だけを考えるの。敵は1勝。でも手札は2。私たちは、万に一つも負けは無い。最悪引き分け。これは十分な状況。引き直しをさせる必要はない)

良いわ。あなたの勝ちよ坊や。要求を言いなさい」

「アイリスとアリッサの開放だ」

「・・・やはり狙いは、それよね」

「ああ、わかった約束だ。解放しよう」

氷の檻は消え、二人は俺達の元に来た。


「パパ、ごめんね」

「婿殿、ごめんねですわ」

まさか護衛を付けた二人が、拉致られるとはな・・・

「ザイク、強いよ。レナがまるで歯が立たなかった」

獄中3姉妹は?

「あの方たちは、食事が忙しくて、来てくれませんでしたわ」

アズサ、あいつらは返品だ。


「分かってるな?坊主。俺のカードが2以外なら、お前の負けだ」

「ああ、当然分かっている。さぁ引くがいい。『魔の箱』の中に手を入れてな」

俺は、ザイクに箱を手渡しながら言った。

「ん?魔の箱の中?だと?」

「俺の運の悪さは、知ってるよな?」

「ええ、情報として持っているわよ。不運の勇者ってね」

「不運?情報不足だ。俺の運の悪さは、世界一だ。100回引けば、100回『2』を引く男だ。イカサマ?違うな。俺は自分の運気で『2』が引ける事を知っていた」

「そこまで運が無いのか?」

パルム、憐れむ様な顔はよせ。

「ない。運気レベルはマイナス2億だ!」

「な、なんだとぉ!」

「な、なんですって!」

「な、ななにぃぃぃ!!」

「はい。ケインさんの運気はマイナス2億。女神の私が証言します」

「・・・・・」

声も出ないか?

「その俺がだ、丹念に箱とカードに『不運汁』を塗りたぐった。

 この箱やカードに触れた奴は、俺の不運汁の効果で、運が消えうせる」

「だぁ!!!」

ザイクが箱から手を離した。

「ザイク・・触れたよな?この箱に?」

「ば、ば、馬鹿なことを・・・何が不運汁だ、聞いたことがねぇ」

煙草をプカプカふかしていやがる。動揺が見え見えだ。

「それは無いさ。マイナス2億なんか、居ないからな」

「ケインさんの運気の無さは、半端ありません」

女神の追い打ちに、さらに動揺が広がるザイクだ。

「な、な、なに、ぬぬぬ、かす。俺の運気は1億5千万だ」

「ならマイナス5000万まで下がるぞ」

「!!なんだとぉ!」

俺のセリフだが、使用を許可しよう。


「さぁ引けよ。今のお前に引けるのは俺同様に『2』だけだ。もう、お互いに最低数字しか引けなくなったんだよ」

「・・・・・これが坊やの狙い!?カードの追加や、戻すことを認めない。引き分けを52回続ければ、勝負は坊やの1勝で終わる。なんて、恐ろしい策なの?」

「落ち着けザイク!不運が移った所で、どうと言う事は無い」

「あるんだよ!ばくち打ちは運が命だ。運は命より重いんだ!」

利根川さんも似たことを言って負けたな。


ザイクの顔から余裕は消え失せていた。汗が頬を流れていく。

箱に向けた手が動かない。

「さぁ、10分以上過ぎたぞ。1枚引くのに、なに時間かけてるんだ?」

「う、うるせぇ。箱に触れないように…そおっとだ。そおっと一瞬で引くんだ」

手を入れる口は小さい。縁に触れないように、ザイクはゆっくり手を差し込む。

「ハクションだぞ!」

「うぁ!!」

「ごめんだぞ、くしゃみだぞ」

肩で息をするザイク。良い感じに病んできた。

アリッサとアイリスを拉致した罪は重い。俺の勝ちだけで済ませてやると思うなよ。


「ふう・・ふう・・声を出すな・・音もダメだ・・息もするな・・いいな」

ザイクは再び箱に手を。手が震えている。汗も相当出ている。

極度の緊張状態だ。

セシルとパルムも、体中に力が入りまくってる。

もう、こいつらは俺の掌の上だ。

「よし!引いたぞ!どうだ!ざまぁみろ!」

縁に触れないように真上から手を入れ、カードを指先で挟むように引き抜いた。

「よし、引きさえすれば、お前の運気だ。2以外もあり得る」

「そうね。よく引いたわ。偉いわ。頑張ったわ」

馬鹿め。ここからが本当の地獄だ。


「おい・・だぞ。これ2枚あるぞ」

「なんだと!」

ザイクは、テーブルに置いたカードに目をやる。2枚重なっていた。

「俺の不幸汁、汗だが、触ってるうちに、くっいたんだな」

「こ、これはどうする?1枚戻すか?まだ見ていないぞ」

「ダメだ。ルール1、いかなる理由でも、引いたカードは戻せない。そう決めたはずだ」

「・・・坊や!これが狙いだったの?」

「まさか、この展開を読んでいたというのか?」

「反則負けだぞ。ケインの勝ちだぞ。2勝だぞ」

「そうだよね~これは反則だよね~」

「当然」

「申し開きは出来ませんよ。2枚引くなど反則です」

もっと言ってやれ。

「仕方ないわ。この勝負も、私たちの負けね」

「まぁ、待て。提案だ」

「ケイン!勝ちを取るぞ。ここは勝ちを取っておくぞ」

「まぁ焦るなアリス。これは事故だ。俺の汗のせいでもある。そこでだ、ハンデ戦にしよう」

「どういう事だ?」

「どうせ俺は何度引いても『2』しか引けない。なら、その2枚、両方で、俺の『2』と勝負だ」

「な、なんだとぉ!」

多いな。さっきからそればっかだぞ。

「どちらかが『2』以上なら、私たちの1勝でいいの?両方『2』以上なら2勝よ。3戦した事に成るから、勝負は終わりよ」

「ああいいぞ。だが、もし両方とも『2』なら、引き分けではない。俺の1勝だ。どうだ?」

「タイムよ。考えるわ。条件が良過ぎよ。あり得ない好物件だわ」

「ああ、考えろ。俺は自分の運気を知っている。俺の不運汁の効果もな」

さっきまでの余裕顔は、青ざめた顔になっていた。


「ケインの勝ちだぞ。主導権を完全に握ったぞ。でも、ここは勝ちだけを取っておいたほうが良かったぞ」

「はい。何がどうなっているのか分かりませんが、一度手にした勝ちを手放すのは・・・」

「だよね~ケイン変だよ~」

みんなの言い分は分かる。

普通に2勝でも良いが、2人を拉致した事を、後悔させれやる。

「ケイン怒ってる」

当然だ。俺の仲間に手を出したんだ。

ザイクは潰してやる。


話し合いが終わったようだ。

「良いわ、この提案受け入れるわ」

「俺の『2』と、その2枚勝負だな?」

「ああ、そうだ。危なくお前の策にやられる所だった。その2枚が『2』であるはずがない」

「そうさ、世の中にはな、確率と言う奴がある。103枚の中で『2』は、たったの7枚だ。それを2枚とも引くはずがない。仮にも俺は、幸運のクローバーを名に持つザイクだぜ。へっへっへ・・・危なく貴様の策にはまるところだったぜ」

「坊やの真の狙いは、箱に触れることを恐れたザイクが、カードを引けなくすることよ。ルール2を追加したのは、この狙いの為。そうでしょ?」

「まぁ、いいさ。開けば分かることだ」

ザイクの手は震えていた。強がっていても、奴は恐れている。


「2のはずがねぇ。俺はザイクだ・・2のはずは・・」

震える手で、カードを捲る。

「2」1枚目は「2」だ。

「ば!ばかな・・・・なんで・・・」

ザイクが膝から崩れ落ちる。心が折れたようだ。

「ダメよザイク!たまたまよ。まだ終わってないわ」

「そうだ!確率を信じろ!しっかりするんだ」

ザイクには、二人の声は届かない。

無駄だ。そいつは既に死んでいる。もう、使いものにはならん。

「さぁ、もう一枚も開くぞ」

アリスの声に、セシルがカードを手にする。

そして、一言「・・うそよ」

手から落ちたカードは、床で表を晒す「2」だ。

ザイクは床に落ちた「2」のカードを見て、気を失った。


「確か3戦だったな?俺は2勝だから、後1戦だ。ザイクは行けるのか?」

口から魂がはみ出てるやつが、行けるはずもない。

「ならば俺が行く」

パルムが出てきたが、もう負けは無い。

「俺は2戦したから、後はメンバーを出すぞ。マオ、頼んだよ」

「はいよ~任せるだよね~」

マオなら楽勝だ。ここで、パルムとセシルの魂を砕いてやる。ザイクのようにな。

「なんかさ~かわいそうだから~ハンデをあげるよね~

 私が8枚引くから~そっちの1枚が~私の8枚の中の~1つにでも勝てば~勝ちでいいよ~」

マオの出した条件は、マオは8枚、パルムは1枚。パルムのカードが、マオの8枚のうち、どれか1枚にでも勝てば、パルムの勝ち。

好条件だ。食いつくがいい。マオの恐ろしさを知らない、お前たちなら、喜んで食いつくだろう。

「なに?その好条件!パルム行きなさい。こいつら完全に私達を舐めてるわ。調子に乗りすぎよ。逆立ちしても勝てるわ」

「私とて、永久凍土のパル・・・なんだと!?」

マオは立て続けに8枚引いた。Aが8枚だ。

「なにこの子!?」

「ば、ばかな!?全部、8枚全部がAだと!?」

マオ的にはデフォだ。A以外を引く方が難しいのがマオだ。

「さぁ、引いていいよ~」

もう箱の中にはAは無い。何を引いてもマオの勝ちだ。

「はい。マオさんの運気は2億です。世界断トツの運気の持ち主です」

「なんだと!!!」

俺のセリフ・・まぁいいか。

だが、この勝負、俺達の勝ちだ!

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