魔王編 ㉝
ザイクが俺に、カードを引けと迫る。
「ダメだ。お前たちが用意したカードで、勝負などできるか」
「ん?このカードは新品だ。天界公認カードだぜ」
「はい、カードは間違いなく、天界公認の物です」
「それを信じるほど、俺は甘ちゃんではない」
「疑り深い・・今まで騙された人生を歩んできたのね。人を信じられない。可哀そうに・・魂が汚れてるのね」
「私が汚したせいです」
それは良いから。
「当たり前だろ。いきなり勝負しろ、と言う奴が出すカードを、信じる方が無理がある」
「だが、その理屈なら、お前たちの出すカードも・・だぞ」
パルム、想定内の発言ありがとう。
「ティナ、この場でママゾンから購入だ。2デッキ買ってくれ。女神がこの場で買うんだ。どうだ?」
「なるほどね。良いわ。坊や、中々やるわね」
なんか嬉しそうだな?
ティナは、ママゾンから、2デッキの新品トランプを買う。
勿論ポイントでだ。
「さぁ、勝負だ。坊主から引いていいぞ」
「まだだ。裏返しのカード。お前が魔法かスキルで、表が見えないとは限らない。箱に入れさせてもらう」
「どれだけ疑り深いんだ・・好きにするさ」
ザイクは少し苛立ったようだ。
「アリス、マオ、隣のモーソンで、700円買うと引けるくじをやっていた。くじの入った箱を貰ってきてくれ」
ザイクだけではない。パルムも不快そうな顔つきだ。
セシルだけは、まだニコやかだが、いつまでもつかな?
「ケイン、箱だぞ。売り物ではないというから、マオに店舗ごと買わせたぞ」
「7億出したら~土地ごと売ってくれたよね~」
「7億ですか?魔都の土地価格は、1平米3円です。魔都全体の土地が買えてしまいます」
「土地が欲しいわけじゃ無いぞ。この箱が欲しいぞ。ケインが欲しがるこの箱には、7億の価値があるぞ」
流石のパルムたちも、びっくりだ。
俺は、箱の中にカードを2デッキ入れた。
「ティナ、この箱に加護をかけて、どんなに振っても、カードが表向きにならないようにしてくれ」
「はい。神の加護、カードよ裏返しのままです!」
「これで準備はできたな」
ようやくか・・そんな顔のザイクだ。
「ルールを追加する」
「おい、まだ何かするつもりか?数字のデカい方が勝ちの、簡単なゲームだぞ」
「1つ。一度引いたカードは、いかなる理由があっても、箱には戻せない。
2つ。カードが足らなくなっても、追加は無い。引けなくなったり、引かなかったりした時は、手札無しで勝負だ。当然手札の無い側の負けだ。
3つ。先攻後攻は、先行を持っている側に選択権がある。先行を持つ側が自分で選ぶことができる。
これをルールとして追加してもらう」
「もう何でもいいさ、さっさと始めよ…」
「ダメだ。まだ承諾はしていないぞ。セシルどうする?」
「ええ・・・」
なるほど、ザイクは余り利口ではない。
パルムは、理解している。俺が策を講じた可能性に。
そして、セシルがこのチームの司令塔だ。
「(・・・坊やの運では、間違いなく負ける。坊やは何か策を考えている。
これは間違いない。でも、今までの条件から、策は見えてこない。
だとすると、この後に出す条件・・・だわね)
良いわ。認めてあげる。追加はこれだけ?後から追加の条件は認めないわよ」
セシルは、少しだけ考えて結論を出した。
「後は・・これは頼みだが、俺の運では勝ち目が薄い。自分の力量で戦える1戦が欲しい」
「どんな戦いを希望かしら?」
よし、食いついた。
「引いたカードの数字を当てる。当たれば俺たちの1勝。当たらなければ、そっちの勝ちで要求を呑もう」
「(・・・私たち有利。よね?坊やの狙いが全く見えないわ・・・。
引きの悪さは知っているけど、それでもカードを当てるのは1/13。分のいい勝負とは思えない。・・とするとイカサマ?)」
悩め、悩んで悩んで全てを見失え。
「良いだろう。お前の勝負、受けてやる」
考えるセシルを横に、パルムが答えた。
「ちょっと!パルム!」
「考えても無駄だ。どう考えても我々の優位は、変わらない。考えるだけ、奴の策にはまりやすくなる」
くそ!こいつら良いチームだ。混乱を誘う狙いが崩れた。
だが、これだけだ思うなよ。最低運気で生きてきた、俺の恐ろしさ、思い知らせてやる。
「では、勝負だ。ザイク好きなだけ箱を振れ」
「やっとか・・まぁ、俺に勝てる奴はいない。俺の運気は100回中99回はAを引き込む程だ」
・・・馬鹿め。その油断が死を招くぞ。
「よし、これでいい。さぁ勇者。1枚引くがいい」
俺は、ザイクから箱を受け取る。念入りにかき回す。
念入りにだ。念には念を入れてだ。更に念を入れてだ。
「おい!!!いつまでかき回していやがる!!」
「ダメか?ルール違反か?」
「ザイク、落ち着きなさい。坊やは何もできないわ」
「くそ!カード1枚引くのに、10分かける奴など初めてだ」
「悪いが、後ろの連中には、少し離れてもらおうか」
パルムが警戒しだしたか?
「私達かだぞ?良いぞ下がるぞ」
アリス達が3歩下がる。俺に手は届かない位置だ。
「待たせたな。箱に細工が無いか手探りしていた」
「お前たちが用意した箱だぞ!」
「隣で使われていた箱だ。お前たちが先に来ていたからな」
「どんな人生を歩めば、こんなに疑い深い子に・・・魂が・・」
「私が汚しました!」
もう、本当に良いから。
「これだ。俺のカードだ」
俺は、1枚のカードを引くと、テーブルに置いた。
「やり直しだ」
覗き込むように見ていたパルムが、俺を睨みながら言う。
「理由は?正当な理由があるんだろうな?」
「ない。流れが気に入らないだけだ」
「それが理由かだぞ?認めないぞ」
「なるほど、感と言う奴か?だが、さすがに今更認める訳には行かない。
が、こうしよう。俺はカードの数字を宣言する。そして開く。当たれば俺の1勝。負ければ1敗。この状態で気に入らなければ、やり直しに応じよう」
「・・・・どいう事なの?」
さぁ、また考えろ。今度はパルムが口を出す程、単純じゃないぞ。
セシルは思考に沈んだ。
「(・・・・宣言で1勝したい?多分イカサマをしたはず。あのカードは10以上。
宣言で当てて1勝。カードもそこそこで、勝負に成ると考えている?
A以外なら、やり直しを言われないと思ってる?
でもザイクなら、1発でAが引けるはず。A以外なら問題は無い。
坊やの狙いは?・・・確実な1勝?あわよくば、強いカードで2勝。
最優先は、アイリス達を救うのが目的ね。間違いない、この線だわ)
良いわ。坊やの案、呑むわ」
「では、宣言する。このカードは『2』だ」
「なんだと!?」
「2ですって?」
そこそこに強いカードと予想したか?
「開くぞ。2で当たって気に入らなければ、やり直すからな」
俺は、指先でカードを掴むと裏返した。ハートの2だ。
「さぁ、どうする?やり直すか?俺の1勝で?」
「セシル!」
パルムが声を高めた。
「(・・・どいう事?勝つ気が無い?アイリス達だけを助ければいいの?
私たちのチームに来たいと思ってる?なら、なんで、こんな面倒くさく?
・・坊やの考えが読めない。・・・ダメ落ち着いて、落ち着くのよ。
状況だけを考えるの。敵は1勝。でも手札は2。私たちは、万に一つも負けは無い。最悪引き分け。これは十分な状況。引き直しをさせる必要はない)
良いわ。あなたの勝ちよ坊や。要求を言いなさい」
「アイリスとアリッサの開放だ」
「・・・やはり狙いは、それよね」
「ああ、わかった約束だ。解放しよう」
氷の檻は消え、二人は俺達の元に来た。
「パパ、ごめんね」
「婿殿、ごめんねですわ」
まさか護衛を付けた二人が、拉致られるとはな・・・
「ザイク、強いよ。レナがまるで歯が立たなかった」
獄中3姉妹は?
「あの方たちは、食事が忙しくて、来てくれませんでしたわ」
アズサ、あいつらは返品だ。
「分かってるな?坊主。俺のカードが2以外なら、お前の負けだ」
「ああ、当然分かっている。さぁ引くがいい。『魔の箱』の中に手を入れてな」
俺は、ザイクに箱を手渡しながら言った。
「ん?魔の箱の中?だと?」
「俺の運の悪さは、知ってるよな?」
「ええ、情報として持っているわよ。不運の勇者ってね」
「不運?情報不足だ。俺の運の悪さは、世界一だ。100回引けば、100回『2』を引く男だ。イカサマ?違うな。俺は自分の運気で『2』が引ける事を知っていた」
「そこまで運が無いのか?」
パルム、憐れむ様な顔はよせ。
「ない。運気レベルはマイナス2億だ!」
「な、なんだとぉ!」
「な、なんですって!」
「な、ななにぃぃぃ!!」
「はい。ケインさんの運気はマイナス2億。女神の私が証言します」
「・・・・・」
声も出ないか?
「その俺がだ、丹念に箱とカードに『不運汁』を塗りたぐった。
この箱やカードに触れた奴は、俺の不運汁の効果で、運が消えうせる」
「だぁ!!!」
ザイクが箱から手を離した。
「ザイク・・触れたよな?この箱に?」
「ば、ば、馬鹿なことを・・・何が不運汁だ、聞いたことがねぇ」
煙草をプカプカふかしていやがる。動揺が見え見えだ。
「それは無いさ。マイナス2億なんか、居ないからな」
「ケインさんの運気の無さは、半端ありません」
女神の追い打ちに、さらに動揺が広がるザイクだ。
「な、な、なに、ぬぬぬ、かす。俺の運気は1億5千万だ」
「ならマイナス5000万まで下がるぞ」
「!!なんだとぉ!」
俺のセリフだが、使用を許可しよう。
「さぁ引けよ。今のお前に引けるのは俺同様に『2』だけだ。もう、お互いに最低数字しか引けなくなったんだよ」
「・・・・・これが坊やの狙い!?カードの追加や、戻すことを認めない。引き分けを52回続ければ、勝負は坊やの1勝で終わる。なんて、恐ろしい策なの?」
「落ち着けザイク!不運が移った所で、どうと言う事は無い」
「あるんだよ!ばくち打ちは運が命だ。運は命より重いんだ!」
利根川さんも似たことを言って負けたな。
ザイクの顔から余裕は消え失せていた。汗が頬を流れていく。
箱に向けた手が動かない。
「さぁ、10分以上過ぎたぞ。1枚引くのに、なに時間かけてるんだ?」
「う、うるせぇ。箱に触れないように…そおっとだ。そおっと一瞬で引くんだ」
手を入れる口は小さい。縁に触れないように、ザイクはゆっくり手を差し込む。
「ハクションだぞ!」
「うぁ!!」
「ごめんだぞ、くしゃみだぞ」
肩で息をするザイク。良い感じに病んできた。
アリッサとアイリスを拉致した罪は重い。俺の勝ちだけで済ませてやると思うなよ。
「ふう・・ふう・・声を出すな・・音もダメだ・・息もするな・・いいな」
ザイクは再び箱に手を。手が震えている。汗も相当出ている。
極度の緊張状態だ。
セシルとパルムも、体中に力が入りまくってる。
もう、こいつらは俺の掌の上だ。
「よし!引いたぞ!どうだ!ざまぁみろ!」
縁に触れないように真上から手を入れ、カードを指先で挟むように引き抜いた。
「よし、引きさえすれば、お前の運気だ。2以外もあり得る」
「そうね。よく引いたわ。偉いわ。頑張ったわ」
馬鹿め。ここからが本当の地獄だ。
「おい・・だぞ。これ2枚あるぞ」
「なんだと!」
ザイクは、テーブルに置いたカードに目をやる。2枚重なっていた。
「俺の不幸汁、汗だが、触ってるうちに、くっいたんだな」
「こ、これはどうする?1枚戻すか?まだ見ていないぞ」
「ダメだ。ルール1、いかなる理由でも、引いたカードは戻せない。そう決めたはずだ」
「・・・坊や!これが狙いだったの?」
「まさか、この展開を読んでいたというのか?」
「反則負けだぞ。ケインの勝ちだぞ。2勝だぞ」
「そうだよね~これは反則だよね~」
「当然」
「申し開きは出来ませんよ。2枚引くなど反則です」
もっと言ってやれ。
「仕方ないわ。この勝負も、私たちの負けね」
「まぁ、待て。提案だ」
「ケイン!勝ちを取るぞ。ここは勝ちを取っておくぞ」
「まぁ焦るなアリス。これは事故だ。俺の汗のせいでもある。そこでだ、ハンデ戦にしよう」
「どういう事だ?」
「どうせ俺は何度引いても『2』しか引けない。なら、その2枚、両方で、俺の『2』と勝負だ」
「な、なんだとぉ!」
多いな。さっきからそればっかだぞ。
「どちらかが『2』以上なら、私たちの1勝でいいの?両方『2』以上なら2勝よ。3戦した事に成るから、勝負は終わりよ」
「ああいいぞ。だが、もし両方とも『2』なら、引き分けではない。俺の1勝だ。どうだ?」
「タイムよ。考えるわ。条件が良過ぎよ。あり得ない好物件だわ」
「ああ、考えろ。俺は自分の運気を知っている。俺の不運汁の効果もな」
さっきまでの余裕顔は、青ざめた顔になっていた。
「ケインの勝ちだぞ。主導権を完全に握ったぞ。でも、ここは勝ちだけを取っておいたほうが良かったぞ」
「はい。何がどうなっているのか分かりませんが、一度手にした勝ちを手放すのは・・・」
「だよね~ケイン変だよ~」
みんなの言い分は分かる。
普通に2勝でも良いが、2人を拉致した事を、後悔させれやる。
「ケイン怒ってる」
当然だ。俺の仲間に手を出したんだ。
ザイクは潰してやる。
話し合いが終わったようだ。
「良いわ、この提案受け入れるわ」
「俺の『2』と、その2枚勝負だな?」
「ああ、そうだ。危なくお前の策にやられる所だった。その2枚が『2』であるはずがない」
「そうさ、世の中にはな、確率と言う奴がある。103枚の中で『2』は、たったの7枚だ。それを2枚とも引くはずがない。仮にも俺は、幸運のクローバーを名に持つザイクだぜ。へっへっへ・・・危なく貴様の策にはまるところだったぜ」
「坊やの真の狙いは、箱に触れることを恐れたザイクが、カードを引けなくすることよ。ルール2を追加したのは、この狙いの為。そうでしょ?」
「まぁ、いいさ。開けば分かることだ」
ザイクの手は震えていた。強がっていても、奴は恐れている。
「2のはずがねぇ。俺はザイクだ・・2のはずは・・」
震える手で、カードを捲る。
「2」1枚目は「2」だ。
「ば!ばかな・・・・なんで・・・」
ザイクが膝から崩れ落ちる。心が折れたようだ。
「ダメよザイク!たまたまよ。まだ終わってないわ」
「そうだ!確率を信じろ!しっかりするんだ」
ザイクには、二人の声は届かない。
無駄だ。そいつは既に死んでいる。もう、使いものにはならん。
「さぁ、もう一枚も開くぞ」
アリスの声に、セシルがカードを手にする。
そして、一言「・・うそよ」
手から落ちたカードは、床で表を晒す「2」だ。
ザイクは床に落ちた「2」のカードを見て、気を失った。
「確か3戦だったな?俺は2勝だから、後1戦だ。ザイクは行けるのか?」
口から魂がはみ出てるやつが、行けるはずもない。
「ならば俺が行く」
パルムが出てきたが、もう負けは無い。
「俺は2戦したから、後はメンバーを出すぞ。マオ、頼んだよ」
「はいよ~任せるだよね~」
マオなら楽勝だ。ここで、パルムとセシルの魂を砕いてやる。ザイクのようにな。
「なんかさ~かわいそうだから~ハンデをあげるよね~
私が8枚引くから~そっちの1枚が~私の8枚の中の~1つにでも勝てば~勝ちでいいよ~」
マオの出した条件は、マオは8枚、パルムは1枚。パルムのカードが、マオの8枚のうち、どれか1枚にでも勝てば、パルムの勝ち。
好条件だ。食いつくがいい。マオの恐ろしさを知らない、お前たちなら、喜んで食いつくだろう。
「なに?その好条件!パルム行きなさい。こいつら完全に私達を舐めてるわ。調子に乗りすぎよ。逆立ちしても勝てるわ」
「私とて、永久凍土のパル・・・なんだと!?」
マオは立て続けに8枚引いた。Aが8枚だ。
「なにこの子!?」
「ば、ばかな!?全部、8枚全部がAだと!?」
マオ的にはデフォだ。A以外を引く方が難しいのがマオだ。
「さぁ、引いていいよ~」
もう箱の中にはAは無い。何を引いてもマオの勝ちだ。
「はい。マオさんの運気は2億です。世界断トツの運気の持ち主です」
「なんだと!!!」
俺のセリフ・・まぁいいか。
だが、この勝負、俺達の勝ちだ!




