魔王編 ㉗
グリス、鷲の顔にクマの体、背中には羽を持ち、魔獣族NO2。
背丈2.5mは、ハウルには及ばぬものの、立派な体格と鋭い目、攻撃的な口ばしが特徴だ。
「はぁ、はぁ、み、皆さん、少し休みましょう」
意外と体力のない男だった。
「まだ20時間しか歩いてないぞ。休憩は48時間後だぞ」
「まだまだだよね~」
森を通り、山を越え20時間歩くのは、普通ではない。
「ばかな・・・魔獣NO2の私が?体力負け?」
猛禽類の考えは一般的だ。事実、アズサはナナが背負っているし、俺はセレスの背中でお姫様抱っこされている。あの二人が体力バカなのだ。
「仕方ないぞ、少し休憩だぞ。マオは先行して、先の様子を見てくるぞ」
「ほいさっさ~だね」
「はぁ・・・」
「グリス様は、もう少し鍛えたほうがいいぞ」
嫁のきつい一言も受け付けない程、猛禽類は疲れていた。
「ケイン、今日の散歩に行くぞ」
ああ、毎日の日課だな。
俺はボールを投げる。アリスは尻尾を振りながら取りに行く。
「な、なにをしている?」
不思議そうに見ていた猛禽類が、俺に尋ねた。
「アリスとの日課だ。あいつは体力が有り余ってるからな」
「・・・・」
ざまぁみろ。声も出ないだろ。
2時間ほど休み、軽食を取っていると、マオが戻って来た。
「この先に~滝があるよ~100m位の高さの滝だよ~」
「・・ああ、その滝は登れない。迂回ルートを・・」
「え~登れるよ~楽勝だよ~。って言うか~登ったよ~」
「・・・・登ったって・・」
猛禽類、心も折れそうだな。
マオが戻り、10分後に出発になった。
30分進むと、マオが言うように高い滝がある。ほぼ垂直だ。
「グリス様は~その羽で飛べるから良いよね~」
「ヴぇ?・・いや、この羽は・・」
「立派な羽だぞ。女神の羽みたいだぞ」
「私から行くわね。ケインを落としたら拾ってよ」
おい。落とすなよ。
セレスが飛び跳ねる。岩と岩をうまく使いながら。僅か10秒ほどで登りきる。
アズサを背負ったナナとマオが続く。
「グリス様、先に行くぞ。滑って落ちたら、私たちが拾ってあげるぞ」
「え?いや、あの・・」
「もしかして、登れないのかだぞ・・NO2のグリス様だぞ?」
もう、確信犯だ。高飛車な態度が気に入らないのは、俺だけではなかった。
レナに抱っこされた猛禽類は、無事に登りきる。
最後にアリスが、勢いよく登ってくる。ラストの1mで大きくジャンプ。月面宙返りを決め着地する。
全員が10点と書かれた札を上げた。グリス以外全員だ。
「グリス様、得点カードも持ち歩るかないかだぞ?」
「ああ、魔獣はセンスにも欠けているようだな」
「長旅で~得点カードは~必要だよね~」
元々真ん丸の目が、丸くなる猛禽類。
もはや、いじめだ。
15時間進んだところで、猛禽類が音を上げた。
今日はここまでだ。
「流石に少し疲れたぞ。後は頼んだぞ、先に落ちるぞ。ぐーーーーだぞ」
流石に無理したようだ。もう寝ちまった。
「私も寝るよね~zzzzzzzzz」
マオも即落ちだ。
「ケイン、見張りは私たちでやろう。お前たちも休むといい」
見張りを機械族3人に任せ、俺とアズサも横に成る。
猛禽類も、死んだように寝ていた。
8時間ほど休んだ。アリスが目を覚ます。
「良く寝たぞ!飯の支度をするぞ」
全く元気な奴だ。
マオとアズサも起きる。猛禽類は死んだように寝ていた。
「さて、この鳥だぞ。どうしてくれるかだぞ?」
「また~死のロードかな~」
やはり確信犯だ。
「ねぇねぇ、チンチン摘まんでもいいかしら?」
「ケイン、お前のを尻に入れるというのはどうだ?」
腐ったレナより、セレスのほうが可愛く見えるから不思議だ。
「皆さん、グリス様が何か?」
「アズサ分かりませんデスか。高飛車な人が、罰を受けてますデス」
ナナも分かっていたようだ。
「同じ手は面白くないぞ。私とマオのガチ喧嘩に巻き込むぞ」
「それ~おもしろいね~」
いや、さすがに可哀そうだ。
「甘いぞケイン。こういう奴は、心を一回砕くぞ。砕いてから優しくするぞ」
怖い奥さんだった。こういう時に、ティナが居ないと止めるやつが居ない。
「ねぇ、マオ。一度話してみたら?」
おっと!ピーが居たか。
アリッサと並び、この世界では、まともランク1位の鳥だ。
「ピーは反対かだぞ?このまま痛めつけて、従順な犬にした方がいいぞ」
「あのね、見ちゃったのよ。この魔獣さんのカバンの中」
カバン?持ち物が入ってるカバンの事か?
アリスが、カバンを開ける。
!!ウノカード、トランプ、花札。人生ゲーム。遊び道具が沢山出て来た。
こいつ遊びに来たのか?
「違うわ。仲良く遊びたかったのよ」
猛禽類がか?
「なるほどだぞ。立場が微妙だぞ。魔獣軍でNO2。敵だけど、上司の奥さんの友人との共同作戦。これは微妙だぞ」
舐められてはいけない。でも上手くやらなくては・・か。
「彼も、困ってるのよ。ちゃんと話をしたほうがいいわ」
流石は良識のある鳥だ。
「可哀そうなことしたかもね~」
「ああ、少しやりすぎたかもしれないな」
「このチンチン、カリが無いわ」
「少し優しくしてあげましょう!」
そうだな。俺たちも態度を改めよう。
「分かったぞ。じゃ起こすぞ」
アリスは、猛禽類の頭を蹴っ飛ばす。おい。今の話の流れはどうした?
「起きるぞ、出発だぞ」
猛禽類は、頭を押さえながら、既に泣きそうだ。
「12時間頑張ったら、ウノだぞ。私は強いぞ」
猛禽類の顔に明るさが戻る。
「魔獣軍に、敗北の文字はありませんよ」
グリスは12時間の移動に耐え、ウノでボロボロにされた。
俺以外のメンバーに、カード類で勝てると思うなよ。
目的の場所まで2/3を過ぎた。相変わらず、森の中を進む。
先頭を行く、レナとセレスが立ち止まった。
「気配だ!?誰か居る」
「みんな!気をつけるのよ」
アリスとマオが、俺の前に立つ。ナナはアズサに付く。
「魔獣か?こんなところに人は居ないはずだ」
「この匂い。覚えがあるぞ」
「ここに魔獣はいません。今は全員が獣都に集まっています。王の挙式に参加しているはずです」
と、いう事は・・・。
前方から、複数のナイフが飛んでくる!が、レナが全て剣で叩き落す。
「ほう・・やるな」
帽子に、くわえタバコ、痩せ顔の男が表れた。
「貴様!?何者だ!」
レナが問う。セレスが双剣を抜く。
「俺の名はザイク。クローバーのザイクと呼ぶ奴もいる」
深く帽子を被り直す仕草・・余裕と貫禄がある。只モノではない。
「クローバーが何の用だ?」
「なに、道に迷ってな。交番はどっちだ?」
「ナイフを投げる奴に教える道は、人の道だけだ!」
レナが斬りかかる。セレスも続く。
レナが疾風を使い、セレスが双剣を使う。だがザイクと名乗る男は、余裕で二人の剣を躱していた。
「油断するなだぞ。まだ他にもいるぞ。最低2人だぞ」
俺はアズサと並ぶ。前にナナ。左右に アリスとマオ。
後ろに猛禽類。
お前は前で戦ったらどうだ?NO2だろ?
「大将は、前線には出ません」
何時から大将になった?魔獣なら戦えよ!
「・・・実は、実践は初めてで・・」
足が震えてやがる。
体力は無い。戦えない。ウノも弱い。良いところ無しだ。
「そこだぞ!氷魔法!氷弾だぞ!」
アリスが、左側の林に魔法を撃ち込む。
「よくわかったわね。気配は消していたのよ」
樹の後ろから女が出てくる。!!!深紅の和服?
王都から海に続く、松林の道ですれ違った女性だ。
「匂いだぞ。一度嗅いだ臭いは、忘れないぞ」
「ほう!なかなかのものだ」
!?背筋が凍る。ナナの目の前。いつの間に?
屈強な体に力強い顎髭。ハウルにも似た雰囲気の男は、いつの間にかナナの目の前に立っていた。
林から出て来た女は、自己紹介を始める。
「名乗らせて貰うわね。私はセシル。紫の炎を纏う女よ」
良い女だ。だが、敵だったとはな。
「俺はパルム。永久凍土のパルムだ」
「ケイン、こいつツンデレだぞ!」
違う!ツンドラだ。
何かやばい感じがする。こいつらの醸し出す雰囲気が、やばすぎる気が・・
「マオ。合図で毒魔法だ」
「はいよ~」
俺は、マオに耳打ちをした。
「oh!なんと逞しいボディー!私好みの殿方デスね」
ナナ!離れろ、そいつは危険だ。
「この胸板、鍛え上げた証デス!。鍛えられた肉体は尊敬デスね!是非握手してくださいデス!」
ナナがパルムに手を差し出した。
「お?おお、握手か?いいぞ」
パルムも右手を差し出した。意外とバカか?
「サンキューデス!握手からの、フィンガーマシンガンデス!」
ナナの指先から銃口。ゼロ距離乱射だ。
銃声が響き渡る。が・・・・
「面白いギミックだ。だが永久凍土の名の俺には、通用せん」
!!手が凍り付いた。着弾より早く、自分の手を氷で覆い、銃弾を止めやがった。
こいつ強敵だ!
「マオ!いけ!」
「闇魔法!毒霧だよ!」
マオの魔法、毒霧が周囲を覆う。
「この魔法は、見たからな」
「やだ、袖が少し溶けたわ」
「紫の・・毒・・か」
なんだと!マオの毒霧が通用しないだと!?
「なんだぞ、こいつら。なんでマオの毒の中で、平然としてるぞ」
3人は、俺たちの前方に集まり、平然と立っていた。
「言ったろ。俺は永久凍土のパルムだ。氷に守られた俺に、攻撃は通用しない。仲間にもな」
「ケイン!ツンデレってすごいぞ」
ツンドラだってばよ。
「今日は此処迄ね。坊や、楽しかったわ」
「なに?」
3人は、かき消すように消えた。
「気配が消えた」
「匂いも消えたぞ」
なんなんだ?あいつらは?
「ケイン、あいつらは・・」
まるで分からんが、勝てる気がしない相手だ。
「ええ・・まるで歯が立たないわ」
「逃げてくれて~助かったね~」
ああ、だが目的も分からない上に、戦えば負けますでは、不安要素が大きすぎる。
「私たちもレベルアップが必要だぞ。特にケインは、まだレベル1だぞ」
この世界に来て、半年近くが過ぎたが、未だ戦闘で、相手にダメージを与えていない。
「凄い勇者ですね」
「oh!ミラクルデス」
そろそろ本腰い入れてレベル上げだ。このまま魔王と対峙では、ミラクルすぎる。
パルムたちは、その後現れなかった。
俺達は、北の大国の首都、北都の入り口まで来た。
「ここからが、北都です。一応気を付けてください。報告では、魔法によるトラップがあるようです」
「トラップ?魔法は、まだ生きているのか?」
「魔法は呪いとは違うからな。術者が死んでも、効果が残るものもある」
「そうだぞ。一度かけると、効果が消える迄残るぞ」
「永続魔法と言うのもあります」
侵入防止用か?厄介だな。
「識別法は無いのか?」
「あるわよ。罠に掛かればいいのよ」
流石はセレスだ。お前が先頭な。
「ああ、それが無難だ。反射能力は、私たちが上だからな」
・・・正攻法だったのか?
樹々に覆われ、殆どの城壁は崩れて入るが、それでも城壁の名残は残っている。
ここは、城門の後だ。
「呼び鈴が付いてるぞ。押してみるぞ」
まて!トラップの可能性が!
「ごめんだぞ。押しちゃったぞ」
!!!骸骨兵が現れる。それも10体。武装している。
槍を手に持つ骸骨兵の一人が、レナに槍を突き付けて言う。
「アカウントとパスワードを言え」
魔法の国と聞いていたが、近代的だ。
「そんなもの言えるか!」
レナが切りかかる。骸骨兵は一瞬で砕け散った。
いわゆる、逆切れだ。それを見た残りの骸骨兵は、白旗を上げ、中に入れてくれた。
セキュリティーの意味をなしていない。
俺達は、城壁の内側に入った。
「今のもトラップなのか?」
俺の質問に、答えようとしたアリスが転んだ。
「今のは違うぞ。私が呼び鈴を押したから出て来ただけだぞ。トラップは、私の足に引っかかってる、紐を引っ張ると発動するぞ」
今転んだのは、足を引っかけたからだよな?
「ごめんだぞ。古典的な罠に掛かったぞ」
俺達の目の前にサイクロプス!1つ目の巨人だ。
「ここは~私が行くよ~闇魔法!毒霧だよ~」
マオが毒霧で、サイクロプスを攻撃した。が、効果は無い。
「こいつは、闇魔法に耐性を持っている!」
「耐魔法効果が使われているわ。私とレナさんの出番よ」
レナとセレスが剣で戦う。苦戦するが、なんとか倒す。
表の骸骨とは、一味違うようだ。
マオの毒霧は、絶対的優位ではなかった。
パルムやサイクロプスに防がれた。
だが、変な話だ。北の大国は、東の大国と戦っていた。
東の大国は機械文明だ。耐魔法効果を付ける必要などあるのか?
「私も、おかしいと思うのよ。今のサイクロプス。パンツを履いてたわ。サイクロプスにパンツは必要あるのかしら?」
「ああ、ケインの疑問と、セレスの疑問。確かに、変な話だ」
同列にするな。俺の高度な考えと、エロセレスは同列ではない。
「全ての属性に耐魔法効果など着けられない。動きが重くなるからな」
アプリみたいだな。
「マオの闇属性と光属性は、表裏一体の神聖属性だ。下界で使える奴など、早々は居ない。その闇属性に耐性を付けるのは、無駄な気がする」
「そう言えば、ティナが天界が絡んでいると、言っていた」
「天界だと?それは本当かケイン?」
「ああ、ティナから聞いたから間違いない。戦争なのに、800年前に勇者が呼ばれたのは、天界が絡んでいたからだそうだ」
「そんな!女神さまが下界の戦争なんかに」
アズサの疑問はもっともだ。
女神は下界の守護者だ。あり得ない話だ。だが、事実だ。
「私に考えがあるぞ!」
おい、なにを?なぜ紐を引っ張てるんだ?
「もう一度サイクロプスを呼び出すぞ」
なんだと!?
「レナ、セレス、私の考えが正しいか調べるから、手を出すなだぞ。ダメなら任すぞ」
「ああ、こいつの相手はしんどいが、仕方あるまい」
「パンツを切ってみるわ。中を見てから倒すのよ」
策があるなら、みんなに伝えてからにしてくれ。
サイクロプスが現れた。
「氷魔法!ブリザードだぞ!」
アリスのブリザード、氷属性だ。
効果がある!と、いう事は、闇魔法に耐性があるという事だ。
「思った通りだぞ。この国は、天界からの攻撃を受けていたんだぞ。女神は、神聖属性だぞ。闇と光のどちらかだぞ」
「ティナの話と辻褄が合う。だが、よく天界の攻撃に耐えられたものだな」
「レナ、セレス、後は任せたぞ」
「私に任せて!そのパンツ、叩き斬ってやるわよ」
「ならば私は、命を絶つ!疾風のレナ参る!」
「私も参戦デス!おっぱいミサイルデス!」
「私は指揮をとろう。応援は任せるんだ」
「こいつ!女だわ!グハぁぁぁぁ」
セレスは、股間の確認後にやられた。馬鹿みたいに、上を見上げているからだ。
「ナナ!私を狙っただろう!」
「no!レナが軸線上に入りましたデス」
サイクロプスは倒した。
レナが、セレスの残骸を回収した。
ここが、北の宮殿跡か?
「大分崩れているぞ。結構危ないぞ」
「だが入らない訳にもいかない。チームを分ける。探査チームと、万が一の時に救助するチームだ」
「私は力には自信がある。救助に回ろう」
猛禽類、逃げ足は速いな。
「私は~探査の方だね~」
「私もナナと待機しています。救助に時間停止魔法は有効です」
「よし、俺とアリスとマオで、中に入ろう」
「迷子にならないように、マーキングをしながら行くぞ」
「私は邪魔な瓦礫を~毒で溶かすよね~」
俺達は、宮殿跡に入った。




