魔王編 ㉖
食べ過ぎたアズサは、ピーの能力「三共胃腸薬」を使ってもらい、ゆっくりと休んだ。
翌朝、俺を起こしたのは衛兵だった。
「勇者様!大変です!街に魔獣が!」
「なんだと!」
俺は飛び起きる。
「どうしたぞケイン?まだ寝ていたいぞ。後5分だぞ」
「そうですわ、今婿殿の健康チェックを・・」
なんで、アイリスが俺たちのベットに居る?
「陛下!プリンセス!お急ぎください!魔獣が街に現れたのです!」
「急げ!起きないと尻尾を引き抜くぞ」
2人は目をパチっと開く。尻尾は大事らしい。
「マジかだぞ?」
「あら、大変ですわ」
俺達は、街に急いだ。
「ケイン!魔獣が現れたと聞いた」
「ケイン~~大変だよ~街で暴れたら~大変だよ~」
レナ!マオ!途中でレナとマオと合流する。
街に付くと、人だかりができていた。どうやら暴れている様子はない。
俺達が行くと、人垣に道ができる。
ハウル!?
街に来ていたのは、魔獣王ハウルと、ゆかいな仲間たち2人だった。
「勇者よ。久しいな」
股間は良くなったか?
「何しに来たぞ!ここは王都だぞ」
「心配するな。王は買い物に来ただけだ」
猛禽類?買い物だと?
「そうですな。戦う気はありません。ほれこの通り」
ミネルバは、首から下げたカードを指さし言う。
3人は、首からプラカードをぶら下げている。
「私たちは敵ではありません」
「ホープ&ピース」
「餌を与えないでください」
なんだこれは?
「見てわからんのか勇者よ。私たちに戦闘の意思がないことを示したカードだ」
魔獣王が「ホープ&ピース」だと?前後が逆だ。
それだと、タバコの宣伝かと思うだろう。
「パパ!ママ下がって!魔獣王!私が相手よ!」
「ハウル将軍、これは重大な違約です!」
アリッサとティナも来た。
「女神ティナ様、将軍は『一時様子を見る』と、仰ったはずです。今は非戦闘期間でございます」
猛禽類、また眼鏡をかけて、クィ!をやるか?
「確かに先日、聞きました。しかし、王が王都の街に足を踏み入れる等、言語道断です」
「魔獣はケダモノ・・と言う事ですな。ケダモノは、買い物すらさせては貰えぬと」
おっと、なんだその悲しそうな顔は?
「い、いえ‥そういう訳では・・」
ティナの弱い、人情で攻めたか?
「分かりました。確かに約束に反していたようだ。帰りましょう。勇者よ騒がせたな。済まなかった」
上手いなハウル。演技派だったか?これでティナは落ちた。
「待ってください!アイリス女王、ハウル王の話だけでも、聞いてあげてください」
「やられたぞ。あいつ頭も良いぞ」
ああ。只の筋肉馬鹿ではないようだな。
だが、何が狙いだ?
「そっちん王、なんの用だ?」
ターナも駆けつけて来た。
「・・い、いや・・あの・・」
ターナを恐れている。流石の魔獣王もしどろもどろだ。
「王は背広を買いに来たのですよ、ターナ様」
猛禽類!ターナ様だと?
「背広だぞ?魔獣が服を着るのかだぞ?」
「アリス様、魔獣とて文化ぐらいは身に着けております。戦いの場こそ、戦闘服の裸でございますが、獣都では、衣類を纏う者もおりますのじゃ」
ミネルバ?アリスにも様付けか?
「分かりましたわ魔獣王ハウル様。貴方達が危害を加える気が無いという事は信用します。ですが、ここは王都。行動の自由は認めますが、勇者チームを着けさせていただきますわ」
女王アイリス。この顔の時の彼女は、クィーンの名にふさわしい方だ。
「感謝する、女王アイリス殿」
深く頭を下げるハウルもまた、礼を重んじる。
「背広なら、王都青山だぞ。安くていいなら、王都デスカウントだぞ」
「王が身に着けるものは、1級品のみです。品の良い方でお願いします」
猛禽類は、丁寧な口調で言う。
「王都青山に行くぞ。紳士服だぞ。合うサイズが無いと、その場で繕ってくれるぞ」
「それは助かる。私に合う服など、早々は無いからな」
3mもある奴の服など、置いてると思うのか?
「ママゾンならあるかもだぞ」
あるのか?
「はい。ママゾンさんは、無い物を探す方が大変です。女神用品も充実しています」
流石はママゾンだ。
ハウルたち3人を取り囲むように、俺たちは街を歩いた。
道の両脇では、美人民たちが口々にする。
「魔獣よ・・怖そうな口」
「ガオーって開けて、噛みついたらブンブン振り回すのね」
「でも、あの胸板。よくない?」
「股間にぶらぶらしてるわ!」
よく見てやがる。毛で隠れているが基本裸だ。
「スミマセン!寝坊して騒ぎに気が付きませんでした」
「私もよく寝たデス」
アズサとナナだ。騒ぎを聞きつけて来た。
「あれが魔獣王ですね。流石に貫禄があります」
「股間にも興味津々デス」
「ああ、だが油断するな。俺はアレに一撃でやられた」
「ケイン様が!?あの股間の一物にですか!?」
いや、股間は忘れて。
「・・・・それもアリか?」
レナ。何を真面目な顔してる?
「ここが王都青山だぞ。中に入って、好きなのを選ぶぞ」
「感謝するプリンセスよ」
魔獣たちは中に入る。
事前に連絡を入れたおかげで、店員は至って普通の対応だ。
「では、お客様、採寸を致します」
女性店員が、ハウルの胸囲を図ろうと、メジャーを巻き付ける・・が、手の長さより胸囲のほうが長い。
抱き着く形になる。胸がハウルに押し当てられた。
「お、おい・・ちょっと、胸が・・」
魔獣王、意外にもシャイ。
「申し訳ありません、このサイズですと、当店には在庫がありません。オーダーメイドとなりますと、お値段が、こちらです」
提示された値段を見た3人。
目とは、本当に飛び出るものだと分かった。
がっくり肩を落とす3人。今更だが、3匹か?
「予算オーバーだぞ。おそらく桁が違ったぞ」
ああ、オーダーメイドは高いからな。
「騒がせたな。帰る」
力ない一言に、マオが助け舟を出す。
「陛下が~プレゼントするってさぁ~」
アイリスも、マオの一言で気が付いたようだ。ここで恩を売れば・・・と。
「そうですわ!魔獣王ハウル様。王都に来た記念に、私がプレゼントいたしますわ」
一瞬、顔が明るくなるが。
「そう言う訳にもいかん。我らはまだ敵同士だ」
直ぐ将軍の顔に戻る。だが、この交渉はアイリスの勝ちだ。格の違いだ。王としての格が違う。
「あら、残念ですわ。敵とか味方とか関係ないですわ。王都に来た記念ですわ。ねぇ婿殿」
俺に振る。俺はやられた本人だ。俺が「うん」と言えば、相手は引けなくなる。
アイリスの勝ちだ。
「ああ、必要だから欲しかったんだろう?女王陛下自らの申し出だ。断るのは失礼だぞ」
「しかし・・」
ハウルは困惑状態だ。アイリスが決めに行く。
「わたくしの申し出では、受け取れぬと?仰います?」
「決まったぞ。絡めとったぞ」
「流石女王だ。もう逃げられんな」
ああ。格の違いだ。
「い、いや!とんでもない。ありがたく頂戴させていただきます」
ハウル陥落。これで2連勝か?
「店員さん、お金に糸目は付けませんわ。最高級の品を差し上げてくださいな。請求書はマオ様宛で」
この顔の時のクィーンは、抜け目もない。
白の背広だと?意外にもガタイが良いから、似合うのが悔しい。
「ケインも着るぞ、負けたらダメだぞ」
なんの戦いだ?
「あいつカッコいいぞ。ケインも白の背広で立ち向かうぞ」
ダメだ、男の俺から見ても、いい男だ。丸で勝てない。
「そんなことないぞ!ケインの方が100倍カッコいいはずだぞ」
ラブビジョンだ。
「そうよ!パパのほうが・・・」
何故言葉が途切れる?
「ごめんパパ!探したけど、言葉が出てこなかった」
正直な娘だ。
ハウルは気に入ったようだ。アイリスに礼を言うと、ターナの前に来た。
「ターナよ、ワシ、いや私と結婚しろ」
!?なんだと?
「これ、プロポーズだぞ」
ターナは意外にも冷静だ、表情一つ変えてはいない。
「お前は強い。私は強い奴が好きだ。お前を妻にしてやろう」
無言のターナにハウルは続けた。
「だめだぞ。言い方が高飛車だぞ。あれではターナは、うんとは言わないぞ」
「自分の立場を重んじてるんだね~これじゃ~ターナは~うんとは言わないよね~」
ああ、ダメなプロポーズの代表例だ。
「そうか、お前は強いのが好きか?」
「ああ!そうとも。私は魔獣王!我が伴侶は強くなくては務まらぬ」
ターナはアズサの横に行く。
「私、これに完敗。私より強い」
「!!!なんだとぉ!」
魔獣王、それは俺専用のセリフだ。使うな。
「私より強い奴に求愛しろ」
「・・いや、その、だな」
「お前は私が強いから求愛した。なら私より強いアズサが適任」
アズサは困って声も出せない。
「魔獣王、口から出た音に真実などない」
言い返したのか?俺に言った言葉を。
ハウルは、突然ターナに抱き着いた。
そして、耳元で一言呟く。ターナは、相変わらずの無表情だ。
「許可貰う」
ターナは、俺の前に来る。
「ケイン、私、嫁に行く。いいか?」
ターナ・・・。
「ターナが良いと思う相手なら、俺は賛成するよ」
「うん」
ターナの笑顔。こいつ嬉しかったのか?
「魔獣相手でも、結婚は女の子の夢だぞ」
「意外とお似合いかもですわ」
「美女と~魔獣だね~」
「ハウル聞け!嫁に成ってやるから約束守れ。私を悲しませない事。出来るか?」
ターナはハウルの前に行くと、条件を付けた。
が、ターナの勝ちだ。既にハウルは顔がにやけている。
「魔獣王ハウルの名に懸けて、俺はターナを悲しませたりはしない!」
ターナの嫁ぎ先が決まった。
ターナを右の肩に乗せたハウルは、俺の前に来た。
「俺は、貴様を信用してはいない、いて!」
ターナがパンチを食らわせた。
「俺は、貴様を信じている。魔王を呼び出せ、そして勝て!勇者よ」
ああ、任せろ。
「私たちは、サラ族に関して調べているぞ。800年前に居た種族だぞ。何か知らないかだぞ?」
アリス、ナイスだ。
「サラ族ですか?申し訳ありませんが、我らの歴史には、聞かない名ですなぁ」
ミネルバなら、なんとなく期待したんだが、知らないか。
「最近までケダモノしていましたからな」
今でも獣だろ?
「いや、まて。確か北に遺跡があったはず。800年前の戦いで滅んだ国だ」
確かか?
「ああ、我らは興味が無いから、入った者はいないはずだ」
「婿殿!」
ああ、ありがたい情報だ。800年前の北の大国の遺跡なら、何かわかるはずだ。
ターナはハウルの頭をナデナデしていた。ハウルは嬉しそうだった。
「では、勇者よ。また会おう」
「ああ、ターナを泣かせてみろ。俺が噛み切ってやるからな」
「それも・・・アリか?」
だからレナ。想像するな。
「魔獣王の名に誓った。泣かせることはしない」
そういうとハウルは振り返る。森に戻っていく。
「ターナ、好きな時に戻ってくるぞ」
「必ず来てね~」
ターナは笑顔で手を振っていた。
まさかの急展開だが、ターナはあれでよかったのか?
政略結婚ぽくなってしまったがな。
「ターナは、気に入らない相手と結婚などしない。ケイン、それはお前もよくわかっているはずだ」
そうだな。
「以外と気に入ってたぞ。ターナはライオンが好きだぞ」
ティナ?
いつもなら真っ先に、神の祝福とか言い出すティナが、大人しい。
「スミマセン、ちょっと長く下界に居すぎたようです。いったん戻ります」
ティナは、そそくさに天界に帰って行った。やはり何かおかしい。
俺達は方針が決まっいた。北の地に赴き、北の大国の遺跡を調べることになる。
遠征メンバーは、アリス、マオ、レナ、セレス、アズサ、ナナだ。
アイリスとアリッサはお留守番だ。
トーレフがまだ戻らない。セイレーンが探しているが、ポセイドンと共に行方不明なのだ。何かがあっても、アリッサとアイリスなら、対応できるはずだ。
出発の日の朝、猛禽類が来た。
「魔獣王より、道案内を任されました」
なるほど、北の大国と言えば、たぶん広い。
そこで一つの遺跡を探すとなると、大変な作業だ。
「助かるぞ。私はプリンセスアリスだぞ。ケインの嫁だぞ」
「私はマオだよ~」
「ピーよ」
「アズサです。魔王軍で魔王をやってます」
「ケインと、他2名だ」
「慈悲深い魔獣王に感謝してください。私の事はグリス様と、呼んでください」
高飛車な態度が気に入らないから、猛禽類と呼ぼう。
あれからティナは連絡が無い。心配だ。尻が悪化していないと良いが。
俺達は王都を離れ、人類域の外、魔獣域にある北の大国跡地へ向かった。




