魔王編 ㉘
中は暗くて、足場も悪い。
「これじゃ進むのに、時間がかかるぞ」
「そうだね~暗いから先が見えないよね~」
「私が誘導しても良いけど、こうも障害物が多いと・・無理ね」
ピーが言うように、思っていたより中の状態が悪い。
「ヘルプを呼ぶぞ、アルテミスだぞ」
また女神を、提灯の代わりにするのか?
「なに?アリス?あら、ここって」
すぐ来るアルテミスも、アルテミスだ。
「今回も頼むぞ。暗くて困ってるぞ」
「北の大国よね」
「そうです。ここは王宮跡です」
「そう・・やはり、ここに来ちゃったのね・・・」
「???」
「この世界の戦争に、女神が関与していたことは、聞いてるわよね?」
「はい。天界の堕天使と聞いてます」
「そう。でも犯人は分らず仕舞い。天界とか堕天使、女神、天使、神。色々な言い方はあるけどね」
「まだ解決してないかだぞ?」
「ええ。目的も、何も分かっていないわ」
アルテミスは、只照らしてくれているだけではない。
先行して、神の加護で瓦礫や、通行の妨げになる物を、どかしながら進んでくれていた。
「800年前以前、ここは東の大国と戦っていたの。長く互角の戦いをしていたんだけど、ある時から、東の国が優勢になったの。
普通なら、女神は戦争の結果なんか気にしないわ。でも、ティナは原因を探ったのよ。あの子は真面目だから。そうしたら、東の国に神の加護があることに、気が付いたの」
「ケイン、ちょっと待つぞ」
アリスが部屋の中で、何か見つけたようだ。
俺とマオ、アルテミスは、いったん立ち止まる。
「この部屋、礼拝堂だぞ」
ティナの像。椅子に腰かけている像のようだが、椅子は壊れ、ティナの像も横たわっていた。
「この国も、ティナの庇護下だったんだな」
「そうよ。ティナは、この国に神の加護で援助したの。東の大国の使う加護に、対抗できる力を授けていたわ」
「だから~宮殿に女神像があるんだよね~」
アリスは横たわるティナの像を、壁に立てかける。
「像とは言え、横たわってたら可哀そうだぞ」
なんだかんだで、こいつもティナには、感謝してるんだ。
「このままでは座りが悪いぞ。空気椅子だぞ」
腰かけていた椅子が、本体と一体化ではないため、ティナ像の壁に立てかけられた姿が、空気椅子の状態だった。
「これで良いぞ。尻の下に棒でつっかえ棒したぞ」
「・・・・それ、痛々しいわね。あの子の痛い所に刺さってるようだわ」
敢えてそこに、つっかえ棒かよ。地味な悪意も感じた。
「玉座の間は、この先よ。ここからは、崩れていないから通れるわ」
アルテミスは、俺たちに神の加護を使う。
目が良く見えるようになる。
「神の加護『夜目』よ。明るい所に出るまで有効」
「サンキューだぞアルテミス」
俺とマオも礼を言う。
「ケイン、これから彼方が見るもの、感じる事。すべてが真実よ。でもね、真実も見方や捉え方で、見える色が変わるの」
「見える色?」
「そう。白であっても、黒く見えることもある。この空間のようにね」
確かに、暗い部屋では、見えるもの全てが黒だ。白いモノでも黒く見える。
「それは、全が見えた訳では無いからなのよ。結論を出す前に、アリスと…アリッサの意見も聞きなさい」
「???アリッサ?の」
「あなたの、最も信頼する2人。良いわね、約束よ」
「ああ、重要なことを決める時は、必ず相談するよ」
「必ずね」
アルテミスは言い残すと消えた。
「広いぞ、ここは崩れていないぞ」
玉座の間か、ここに昔の王が居たのか。
「ケイン~椅子の所~何か動いてない~」
!?中央の王の椅子、その後ろから、虎?
「誰だ?800年の眠りから、我を起こしたのは?」
喋った?虎が?・・まぁ、鳥やワニが喋る世界だ。今更、驚きはしない。
「我は玉座を守る者。王の間を汚すことは、我が許さん。この宝の箱は、誰にも渡さん」
玉座の横には、いかにもな宝箱もあった。
「そうか、起こしちまって、済まなかったな。俺達は、書庫に用があるだけだ。目が覚め切らない内に、また寝てくれ」
「そうだぞ、ここの宝には、用は無いぞ。お休みだぞ」
俺達は、玉座の間から出た。
「アルテミス様の言うように~ココから先は崩れてないね~」
ああ、あの女神、此処を知っていたな。中の状況も把握していたという事か?
「ケイン~ココに張り紙があるよ~」
なんだこれは?
「この先、左に曲がって、突き当りの右のお部屋が書物古です。後、足素注意です」
明らかに、800年前の物ではない。
この漢字の間違え・・、ティナの仕業だな。
「これって~ティナ様ぽいよね~」
「サイコメトリーしてみるわ。・・・やっぱりティナ様ね。貼ったのは10年前よ」
まぁ、サイコしなくても分かるがな。
「ケイン、こいつ可愛いぞ」
おい。なについて来てるんだ?お前の担当部署は、玉座の間だろう?
「持ち場を離れると、宝を取られるぞ」
「貴様たちが悪さをせんように、見張るためだ」
アリスに撫でられて、嬉しそうにしてやがる。
「そこ左。書庫とはいえ、この国の大事な本だからな。荒らされては堪らん」
「お仕事熱心な虎だぞ。賢いぞ」
顎を突き出して、ナデナデ要求かよ。見張りと言うより甘えてるだけだ。
アリス、ちょっと暑くないか?
「そう言えばだぞ。造形氷魔法、凍り合羽だぞ」
それは寒すぎ。こう、アイスノン的なほうがいいな。
「合羽はポイだぞ。造形氷魔法アイスノンだぞ」
そうそう。それがいい。首筋が冷えると気持ちがいい。
「旨い!なんと鮮麗された氷魔法だ」
こいつ!凍り合羽を食ったのか?
「我は氷属性故に、氷魔法は大好物だ」
「なら、もっと食べるかだぞ?」
おいおい、餌をやるな。変に懐くと困るぞ。
「主殿、このバカ面な男を、食い殺してもよいか?」
「ダメだぞ。それは私の御主人さまだぞ。旦那様だぞ」
「・・・この利発そうな方が、主のご主人様。主の旦那殿、私めは『ヒョウガ』と申します。末永く宜しくお願いします」
突っ込み処、多いな。
「ケイン、ちゃんとお仕事するぞ」
ああ、わかってる。
「誰が主だ?何が末永くだ。虎なのに、なんでヒョウだ?」
「彼女どこから来たの?今暇?彼氏いるの?主の旦那殿、質問の多い男は、モテませんぞ」
なに声色変えて迄、人にモテない指摘だ。
って言うか、こいつを叩き斬って、レベル上げでもするか?
「ケイン~落ち着こうよ~たかが虎の発言だよ~」
「そうだぞケイン。動物を虐めるのは良くないぞ」
くそ!こいつら、甘えてくる動物に弱いな。猛禽類と扱いが違いすぎる。
だが、ここで引いたら、勇者チームのメンバー入りだ。チームが、動物だらけになる。
「ダメだアリス!俺のチームの動物枠は2枠だ。既に埋まってる」
「あら?何時からルール?私と・・後は?」
「ワニが1匹だ」
「トーレフは竜人族だぞ。私と同じ人族だぞ」
「なら、ポセイドンだ。カメは動物だ」
「ダメだよ~ケイン~」
「そうだぞ、ポセイドンをチームに入れたら、勇者が二人に成るぞ。おっきな勇者と、無戦力勇者だぞ。敢えてポセイドンは、チームにカウントしないぞ」
「ヒョウガちゃん~良かったね~動物枠に空きがあるよ~」
くそぉ~俺としたことが、墓穴を掘っちまった。
「ここが書物庫だ。何を調べる?」
「この国の歴史だぞ。800年前以前の歴史が見たいぞ」
「王の日記がある。こっちだ」
意外と役に立ってやがる。
「ケイン、まぁいいじゃない。彼、いい戦力なるわ」
ピーが言うなら間違いないか。
「ケイン!見るぞ!王様の絵日記だぞ」
絵・・なのか?
「王は絵が好きだったからな」
夏休みの宿題か?
北都歴2199年 ティナと言う女神が来た。東の国に対抗する術をくれるという。
なんだ、この前衛的な絵は?
ティナの絵なのか?丸と棒しか書いてないぞ
「王は、絵が好きだった・・だけだからな」
上手くは無かったわけだな。
北都歴2205年 また、サラ族が和平交渉の話を持ってくる。
北都歴2206年 この国は、もうだめだ。魔王には勝てない。
日記は3Pで終わっていた。
・・これだけか?
「王は、3日坊主だからな」
他には無いのか?自分の国の歴史だぞ?
「王は、記録より記憶、と言う人物だったからなぁ」
「糞ダメ王だぞ。こんな奴が王だから、国が亡ぶぞ」
完全に無駄足だ。こんな物しかないなら、来る必要は無かった。
「サラ族が置いて行った、手紙の記録が残っているはず。確か・・そうそう、宝物庫のA-12の棚だ」
よく覚えてるな?
「800年暇だったからな。一人が寂しくて、本を読んでは、気を紛らわせていたのだ」
「ケイン、連れ帰っても良いかだぞ?」
このタイミングで言われたら、ノーとは言えない。
「ピーの推薦もあるし、OKだ」
「宝物庫は、町の北側の崖をくりぬいて作ってある。いったん外に出よう」
俺達は、表に出た。
「ケイン!遅いから心配したぞ」
「なんです!そのケダモノは?」
ケダモノが言うな。虎だ。アリスのペットだ。
「表に出てわかったぞ。ヒョウガは、真っ白だぞ」
ああ、夜目を使っても、色までわからなかったからな。
・・・アルテミスが言いたかったのは、ヒョウガの色の事か?
「で?何かわかりましたか?」
いや、何も分からないと同じだ。だが、宝物庫に、サラ族の記録があるらしい。
「oh!なら宝物庫に行くデスね」
「よし、案内するぞ。ヒョウガに任せるぞ」
俺達は後を追った。
北に向かう。崖で行き止まりだが、ヒョウガは、崖をくり抜いた、と言っていた。
「ここです。ここに隠し扉があります」
なにもないように見える。
「あるわ。相当大きな扉ね。開ける方法はあるの?」
ピーには見えるようだ。
「ない。鍵は王が持っていた。・・今は魔王の腹の中だ」
喰われたのか・・ティナなら祈りを捧げる所だな。
「私が開けるわ。ちょっと強引にだけど、仕方ないわよね」
ピーがそう判断したなら、他に手は無いのだろう。任せた。
ピーの顔が力む。相当な力を使っているようだ。
崖が大きく揺れ、俺達の前の崖が縦に割れる。
石を擦り合わす音。扉は左右に動いた。
「もうダメ・・・お休みマオ」
ピーが力を使い果たした。が、扉は人が横に成れば、通れる程度は開く。
「気を付けて中へ。宝物庫を守る、龍を呼び出すボタンがあります。決して押さないように」
アリス聞いたか?ボタンは押すなよ。
「みんな聞いたかだぞ?ボタンは押すなだぞ。ケイン、みんなに念を押したから、もう大丈夫だぞ」
お前が一番危ない。
「私が~見張ってるよね~」
マオもよく知っている。
中は暗い。夜目の効果は切れてしまった。
「蛍光灯、点けよう」
あるんだ?
ヒョウガが蛍光灯を付ける。中はそう広くないが、金銀財宝、価値の在りそうな像。剣や盾が山に積まれていた。
「管理が悪いぞ。これでは、何があるか目録とか作れないぞ」
政権運営のプリンセスらしい意見だ。
「書類は、奥にある棚だ」
「A-12だったな?みんな、Aの棚を探すんだ」
「棚は1個だけだ。棚はAしかない。おかれている本は12冊。左から12番目の本だ」
分かりやすい。
「ケイン、これか?サラ族訪問記録とあるぞ」
レナ、ソレだ!結構分厚いし、文字もいっぱいだ。
「私が速読しよう」
機械族の速読機能だ。機械族は、こういう時に便利だ。
レナは速読を始めると、読みながら、内容を話してくれた。
「サラ族は他の星からの移民者だ。平和的な種族で、争いは望まなかった。
西の小国から、勇者の使いとして、この国に何度も来ていたらしい。
殆どが訪問記録だ。これと言った情報は・・・・・なるほど。そうだったのか」
「なにか分かったかだぞ?」
「ああ、なぜ西の小国が、大国の脅威に晒されなかったがな」
記録には、こう書かれている。
「『西の女王は、あの聖剣は使いたく無い、と言っています。使えば、世界を滅ぼす可能性のある剣です。南の国の聖剣と、北の国の聖剣、そして、西の国の『炎の剣』を使えば、東の国を抑えられるはずです。3国で力を合わせましょう』と書かれている。
西の国は、炎の剣以外にも、凄い聖剣を持っていたようだ。だが他には、有力な情報は無いな」
なるほど、世界を滅ぼすレベルの聖剣が、西の小国には有った。
だから東の大国は攻められなかった訳か。
「と。言う事は、他の聖剣は、今でもあるのかだぞ?西の国の炎の剣はあったぞ」
炎の剣は、アリッサが使っている奴だ。
「そうだよね~あるかもね~」
「南の大国、わが国にも聖剣があるかもですね?」
「それは凄いデス!聖剣が手に入れば、攻撃力倍増デス」
「なら、北の大国、ここにも聖剣はあるのだな?」
そうだ!ここにも有るはずだ。
「・・・有った・・と言うべきだな」
くそ!誰かに取られた後か!?
「ケイン、今は無い物の事より、とんでもない聖剣と南の国の聖剣だ」
ああ、すぐ戻ろう。聖剣探しだ。
俺達は一人ずつ、宝物庫から出た。
「no!胸が引っかかって、出られませんデス!」
「私が叩き斬ってやろうか?」
「大丈夫だぞ。私が中から押すぞ」
胸がでかくて、入るときも苦労したナナだ。アリスが中から押してくれる。
「ケイン、ごめんだぞ」
???
「押すとこ間違えたぞ。なんかボタンを押しちゃったぞ」
お約束か!
「油断したね~まさか帰りに押すとはね~」
!!地響きと共に、炎の龍が現れた。
「主、この龍は、王がここを守るために、丹念に魔法で強化したファイヤードラゴンですぞ」
「強いのかだぞ?」
「それはもう。魔王には及ばぬ程度ですな」
「今外に出るぞ。ナナ邪魔だぞ!」
アリスは、挟まったナナを足蹴りにすると、外に飛び出してきた。
マオとナナが攻撃を始めた。
「闇魔法!毒霧だよ!」
「膝ロケットでデス!」
炎の前では、毒もミサイルも効果は無い。
「時間停止魔法!炎の龍よ止まれ!」
「駄目デス!、アズサの時間停止魔法は、質量のあるものにだけ、効果が出ますデス!魔法の産物は質量が無いです!」
「あの炎では、疾風を使っても、私が溶かされてしまう」
マオ、ナナ、アズサ、レナ打つ手なしだ。
猛禽類!ここが見せ場だ!って、なに頭抱えて震えてる?
「獣は、本能で炎を怖がります」
まるでダメな奴だ!
「ふふふ・・私の出番だぞ。私の氷魔法なら、炎の相手が出来るぞ」
呼び出したやつが、どや顔で出て来た。
アリスが前に出る。
「さぁ、ファイヤードラゴン、氷の魔法使いの私と勝負だぞ。氷魔法‼ブリザードだぞ!」
アリスが魔法を放つ!
「ごめんだぞ。全然及ばないぞ。レベルが違うぞ」
くそ!ブリザードは、炎でかき消された。
攻撃が来る!みんな防御だ!避けろ!
ファイヤードラゴンの口から、火球が吐き出され、俺たちに襲い掛かる。
「ほい~ほいほいほい~」
マオは、すばしっこく躱す。
「ナナ!私を盾に隠れるな!」
「レナの体は、前も後ろも真っ平デス、盾かと思ったデス」
ナナとアズサは、レナを盾にした。
俺とアリスは、ヒョウガが、守ってくれた。
猛禽類は、その場でしゃがみ込み、震えている。当たらないものなだなぁ、と思った。
「主殿、我を手に持つがいい」
「悪いけど、今は、かまってやれないぞ」
「なぜ、この国に、聖剣が無いか?」
「後にしてくれ、今は、それどころではない」
「持ち主が変わったからだ。王から主殿にな」
「なに?」
「さぁ、我を手に。我は氷の聖剣、雹牙なり!!」
虎の姿のヒョウガは、光に包まれると、剣の形に姿を変える。
聖剣を手にしたアリス。
「これ、すごいぞ。力が漲るぞ」
「主殿のレベルでも、使えるスキルはある。放つがいい!心に浮かびし、我が力を!」
「行くぞ、雹牙!シベリア寒気団だぞ!」
ブリザードより、遥かに強力なスキルが発動した。
剣から放たれる吹雪が、ファイヤードラゴンを包み込む。
「私の勝ちだぞ」
ファイヤードラゴン沈黙。
俺達は、王都への帰路に就いた。




