魔王編 ㉔
王都再建。
機械族の機動力と、セイレーンのレプリケーターシステムが、大いに役に立つ。
僅かな時間で、5割ほどが復旧を果たす。
王都再建組にはアイリス、マオ、トーレフ、パルス、獄中3人組が残る。
獄中3人組は、王宮が崩れると、飯にありつけないことを悟り、森の中で生活していた。実に逞しい連中だ。
敵は既にいない、護衛は必要ないが、万が一の時にも、マオが残れば大丈夫だ。
豪華客船、プリンセスアリス3世号に乗り込む。
浜に座礁したアリス号。アイリスが凍り魔法で、地面と海を凍らせ、洋上まで運んだ。
「旗を掲げるぞ!我らの自由の旗だぞ!」
ドクロの旗かと思いきや、まさかの白旗だ。誰に降伏するんだ?
「間に合わなかったぞ。旗まで用意できなかったぞ」
「でも、白い旗、素敵です。戦わない象徴です」
降服旗だ。戦わないんじゃなく、負けた印しだ。
「出港だぞ!錨を上げるぞ!」
アリスの号令で、汽笛が鳴る。
アリス号が動き出した。いよいよ魔都に出発だ。
「部長にお願いして、魔王軍に伝えるように頼みました。きっとアズサさん喜びます」
魔王アズサか・・魔都の大将だ。名前は可愛いが、どんな奴だろう?
情報は、出してはくれないか?
「アズサって、かわいい名前だぞ。どんな奴だぞ?」
ストレートに聞きやがった。
「はい。キュートで可愛い方です」
「女の子なのか?」
「はい。皆さんと同年代です」
「私と同じなの?なら1歳なのね?」
アリッサは対象外だ。成長速度が、かぐや姫だからな。
「会えば分かります。皆さんと仲良くできる方です」
それは楽しみだ。
アリスに促されて船内に入る。
「船内を案内するぞ。船長のターナだぞ」
「よく来た。タイタニックに乗った気分で、寛いでくれたまえ」
ほぉ。美しすぎるターナの船長姿。絵に成っていた。
「私も綺麗ですが、ターナさんも良い勝負です」
やはり女神は、自意識高いな。
「ここが食堂だぞ」
広い。何人分の席があるんだ?
「2000人同時に座れるぞ。同時に来られたら、作るのが間に合わないぞ。待ち時間は16時間だぞ」
そんなに乗ることは無いから、いらぬ心配だな。
「ここは礼拝堂ですね!わたしの像もちゃんと在るんですね」
「当然だぞ。唯一神のティナを拝まないと、1日は始まらないぞ」
「信仰心の深さを感じます。感謝します」
ティナは気が付かなかったのか?隣にターナ像もあった。
「ここが便所だぞ。最新式ウオッシュレット付便座を導入したぞ」
「愛を感じます。感謝します」
「ここが医療室だぞ。ボラギノールは、箱で常備してるぞ」
「慈しみ心を感じます。感謝します」
「こいつが医療ドクターだぞ。肛門科医だぞ」
「よろしくお願いします。患者します」
ドダジャレ落ちか。だが、ティナの痔は、隠す気が無いと見た。
「この船のクルーは、何人ぐらいなんだ?」
「10人だぞ。医療班が3人だぞ。さっきの医者と、ミーちゃんケーちゃんだぞ」
あの二人が乗ってるのか?
「たまに出てくるぞ」
「後は、王宮から連れて来たメイドが4人だぞ。掃除や食事を担当してくれるぞ」
俺たちの世話係だな。
「残りはレギュラー陣だぞ。船長のターナだぞ。機関員のレナだぞ。操船はセレスに任せたぞ」
大丈夫なのか?セレスで?
「セイレーンを操る位だぞ。この船なんかオモチャと同じはずだぞ」
そうか、言われてみてば、そうだが・・・今この船、陸に向かってる気がするんだが。
目の前には海原は無く、陸が迫っていた。前が岩礁だ。
「ちょっと!止めてよ!ブレーキ!レナさんブレーキ!」
「そんなものは船にはない!舵を取って方向を変えろセレス!」
「火事は嫌い!火事なんか大っ嫌い!」
トラウマ炸裂か。だめだ。この船は沈む。
座礁の瞬間、世界がセピア色に変わった。
岩とぶつかろうか、と言う瞬間で、船が止まっている?
なにが起こった?
「セイレーンさん、今のうちに、船の向きを変えてください」
ティナがセイレーンに指示を出す。
セイレーン本体が、船首側面から船を押す。船は、まるで宙に浮かんでいるかのように回転した。
世界の色が元に戻る。船は反転し、海原に向かっている。後ろが岩礁だ。
「なんだぞ?何が起こったかだぞ?」
「コレ、美しすぎる私の奇跡」
「パパ!ママ!これは魔法よ!警戒して!」
「皆さん大丈夫です。これはアズサさんの魔法で、時間停止魔法です」
アズサ?魔王アズサだと!?
「王都の皆さん!お迎えに上がりました!」
南の方角に浮かぶイカダから、叫び声が聞こえる。
イカダの上で女性が旗を振っていた。「SOS」と書かれた旗を。
タラップから駆け上がる様に、女性はアリス号に乗り込む。
「王都の皆さん!ようこそ魔都へ!私は魔王軍の魔王アズサです!」
元気のいいショートカットの女の子。
この子が魔王?
「ようこそって、ここまだ王都だぞ。港から3kぐらいしか南下してないぞ」
「あははは!お迎えに出るつもりが、潮に流されて、王都まで来てしまったようです」
で、遭難したんだ。SOSの旗は遭難信号だな?
「ティナ様と連絡が取れなくなり、心配で、いてもたっても・・」
「たぶん出張の時ですね。王都の方の対応は、姉に頼みましたが、アズサさんへの連絡は忘れていました」
忘れるってサラッと言うか?
「こうして、王都の皆さんにお会いできたのも、ティナ様の加護のおかげです」
「はい。私の加護は、奇跡を簡単に起こしてくれます。信者急増中です」
急増だと?カモミール以外も担当してるのか?
「はい。優秀ランク7位のケインさんの担当で、私は他の世界から、引っ張りだこです。今は、他に2つの世界を掛け持ちしています」
知らなかった・・・。ここだけでも手一杯な感じなのに大丈夫か?
「とりあえず歓迎するぞ。私はプリンセスアリスだぞ。王都のプリンセス、そしてケインの嫁だぞ」
「私はアリッサ!パパの娘よ!」
「婿でパパです」
「ターナ。妖精族の族長。今船長」
「あれが、セイレーンだぞ。魔道兵器で、中には3人の機械族が乗ってるぞ」
「ティナ様から伺っていた通りの方々です!会える日を楽しみにしていました」
アズサには、こっちの話をしていたのか?
「はい。アズサさんは、王都を敵とは見ていませんでした。なので情報は、駄々洩れ状態です」
「ケインさんの勇者資格取りこぼしの話や、アリスさんと出来婚の話など、沢山伺っています」
ティナの奴、後でお仕置きだ。
今後の行動をどうするか決めた。
王都は再建中。魔都は遠い。プリンセスアリス号の中で、正式な国家代表会議と、友好国調印がされることになった。
「私は王都の代表。プリンセスアリスだぞ」
「私は魔都代表。魔王アズサです」
「女神ティナの名において、この場を2国間の正式な会議の場とします」
互いに友好を旨とした宣誓書が取り交わされる。
「これで王都と魔都は、国として友好国同士です。情報の共有が可能になりました」
プライベートな情報交換は無しな。個人情報は保護だ。
「私とアズサさんには、切っても切れない絆があります。とても深い絆です」
「いい話そうだぞ。是非聞かせて欲しいぞ」
「私たちの個人情報なので、ケインさんから、ダメ出しが出てしまいました」
そう、うるさく言うつもりではない。一般的な話だ。
「私は構いません。恥じるべき人生は歩んでません」
アズサは、はきはきしていて、清々しくも堂々とした態度だ
「はい。では、あの時の話です。アズサさん9歳。8年前です。鉄棒に跨ったアズサさんは、体験したことのない感覚に戸惑いました」
「聞いたことあるぞ。初めての感じちゃった話だぞ」
「それは、小さな膨らみ・・そう!イボ痔だったのです!」
そう来たか。
「私とティナ様は、同じ苦しみを持つ者同士、強いきずなで結ばれました」
切っても切れない仲?違うな、切れた切ったの仲だな。
「肛門医を乗せておいて、よかったぞ」
お前って、時々すごいよな。
アリスが本題に入る。
「私たちは魔王軍を倒しちゃったぞ。魔王が呼び出せないぞ。困ってるぞ」
そうだ。アズサに会うのは、魔王を倒した後、どうするかと言う話だ。
「私たち魔王軍は、過去の歴史を調べました。いくつかの事実を知りました。中でも重要なのは2つです。
魔王は出現当時、魔獣落ちの呪いをかけていないという事。そして、先に魔王を倒してはいけないという事です」
「呪いをかけていない?」
「順を追って説明します」
「800年前、
東と北の大国が領土争いを繰り広げ、南の大国は戦火に巻き込まれていきました。
東の大国は機械文明を武器に、北と南の大国は魔法を武器に戦いました。
しかし、東の機械文明は魔法を凌駕し、ついには魔王を生み出すシステムを作り上げたのです。
魔王の戦力は凄まじく、最初に北の大国が壊滅的被害を受けました。
南の大国は、国境沿いに全兵力を投じ、防衛戦を張りましたが、止めることはできませんでした。
南の大国の首都、南都には、西の小国から停戦の働きかけに来ていた、サラ族が居ました。サラ族は、不思議な力を持つ一族で、西の小国に協力して、この戦争を終わらせる活動をしていたのです。
サラ族は、女子供を西の小国に避難させることを提案しました。
王は、悩んだ末に提案を受け入れ、西の小国への避難が始まります。
が、間に合いませんでした。魔王は、行く手を阻んだのです。
サラ族は、海岸線の一部の地域に、500年持つと言う結界を張り巡らせると、大事な言葉だから、語り継ぐようにと言い残して、去って行きました。
数日後、魔王は突然消えました。と、同時に、結界の外では、魔獣落ちの呪いが発生します。
サラ族の残した言葉は、
「魔王は、美しい心の持ち主にしか倒せない。この世界で生き延びるために、君たちは美しい心を身に付けなさい。
そして、魔王と東の大国は、同時には倒せない。大国を倒すのだ。
先に、魔王を倒してはいけない。魔法が使えなくなる。いいね?必ず、この言葉を後の世に伝えるんだ」
彼らの言葉は、語り継がれました。
ティナ様の導きで、先祖たちは500年間を結界の中で暮らし、魔獣落ちすることなく、今日まで私たちは生き残りました。
この言葉の意味までは分かりません。
でも、先に倒すのは、東の大国、つまり魔王軍なのです」
「ケイン大変だぞ、ギャグがまるでないぞ。この世界は、10行ギャグないと死んじゃうぞ」
何時からルールだ?
「なるほど、魔王の消滅と同時に、魔獣落ちの呪いが発動したという事か」
「私たちの祖先は、この結界の上に街を作りました。魔都です。発掘調査をすることで、ここまでの歴史を知ることが出来ました」
「ティナは、知ってるんだよな?」
「はい。その質問は2度目ですね、ケインさん」
「何も教えてくれないのかだぞ?」
「いいえ、魔王軍との友好条約が結ばれた今なら、お教えできることもあります」
サラ族。
900年ほど前に、自星が滅び、この星に来た一族。
高度な精神文化を持ち、超平和的種族。
サラ族は、星を出た後に移民船が故障し、仲間と離れ離れとなり、カモミールに辿りつくも、西の小国近海に墜落した。
西の小国は、ティナの信者が多く、大国と違い平和な国だった。
西の王は、サラ族を快く受け入れた。サラ族もまた、民の優しさに感銘し、互いの関係は良好なものになった。西の小国、これが今の王都となる。
魔王を封印したのは、サラ族。
その方法は、自らの命と引き換えに行われ、サラ族は一人残らず全滅した。
ティナの説明だ・・が、謎は増えた。
「ケイン、今の話で、分からないことだらけだぞ」
ああ、なぜティナは、すべてを教えない?
今なら、教えられるはずだ・・なぜだ?
「王都に戻ろう。今までの話をパルスに聞かせよう」
「パルスなら、何かわかるかもだぞ」
「賛成」
「私もそれがいと思う」
満場一致だ。セレスがまだ、船は嫌いだと文句を言っているが、無視だ。




