魔王編 ㉓
ハウルと戦う事になった俺は、作戦勝ちを狙うが、一瞬で攻撃を貰ってしまった。
「ワシの予想通りじゃ!どうじゃ!2秒でケインの負けじゃ!」
パルスだけが、はしゃいでいる。皆は、俺の名前を叫んでいた。
その場に倒れ、仰向けの俺の腹の上に、ハウルの片足があった。
「なんだと?これが勇者だと言うのか?」
ハウルは怒りで震えていた。あまりの弱さに、失望より大きな怒りを覚えたのが分かる。
「魔獣王ハウル!そこまでです!それ以上は、女神として許しません!」
ティナが止めてくれている・・だが、ハウルの怒りは収まらない。
50人の魔獣軍は、キルコールだ。俺は此処で死ぬかもしれない。
「ターナミラクルキック!」
ターナ!?
ターナが、ハウルに飛び蹴りをかました。
「なんだ娘?正式な決闘の邪魔をするというのか!?食い殺されたいか!」
ダメだターナ。お前の敵う相手ではない。逃げろ!
「魔獣王ハウル。お前言った。力を見せろと」
ターナはハウルの前に立ち、見上げるように言う。
「その通りだ。が、貴様の力ではない!勇者の力を見せろと言ったのだ!」
声の大きさが、振動で伝わる。
「私たちはチーム。個人の力など関係ない。チームとして戦い、チームとして勝つ!。それがケインの勇者チーム!」
「・・・・・」
負けていない。ターナは、気迫でハウルを押し返した。
「審判!」
ハウルが叫んだ。猛禽類、いつの間に眼鏡をかけた?
手に持っているのは、何のルールブックだ?
「言い分は正当です、将軍。魔王に個人で挑まなくてはいけない、という決まりはありません。当然、チームで挑むのもアリです。勇者の力=チームの力、言い分に正当性が見られます」
グリス・・・猛禽類の分際で理論派だったのか?
「良し!認めてやる。貴様もかかってくるがいい!」
だがダメだターナ!どうにかできるレベル差ではない。
「ターナタックル!」
ターナはハウルに、タックルに行く。行くが微動だにしない。
「ふふふ!どうした?美しき女よ。1mmも動かん・・・貴様!!!!!」
なに?ハウルが慌てただと?
「私を攻撃したら、ここを噛み切る!」
!!!両手で玉を握り、棒を咥えていた。
「ぐぁぁぁあ!は、離せ!」
あの、ハウルが苦しんでいる。当然だ、男の子の最大の急所だ。
後ろの魔獣達も前かがみで、股間に手を置いて見ていた。痛さを想像したのだ。
「離せ!離せ!ぐはぁぁ」
ターナの頭を押さえつけるが、抑え込むほど、引き離そうとするほど、棒に歯は食い込む。
「うわぁ」と言う溜息に似た声が、魔獣軍から漏れる。
玉を握り締める力が強まる。ターナは手加減する女ではない。
「この手、簡単には離さない!」
「うううう!!!ぐはぁぁぁぁぁぁぁ」
魔獣王ハウル、地に落ちる。
ミネルバが、とことこ歩いて、ターナの前に来た。
「新魔獣王よ、この腐れポンチを、どう処分いたしましょう?」
倒れ、悶絶するハウルを指さし言う。後ろの魔獣軍からは、キルコールだ。
「処分?」
「はい。魔獣の掟。王が正式な決闘で敗れれば、勝者には、王の椅子と、前王の生命与奪権、寝る暇もない書類の判押仕事が与えられます。この負けた、ゴミムシ、いかようにも」
既にグリスは、ターナの左側で片膝を地に付けて、敬服している。
「私に王に成れと?なめるな!そんな椅子に座る程、私の尻は汚れていない!」
「汚れのないお尻、羨ましいです」
「頼むぞ。ケインのいない時に、重いネタはよすぞ。私に突っ込みスキルは無いぞ」
「私はターナ!妖精族、族長にして、ケインの強さを知る者!この美しさと強さは、ケインから貰ったモノだ!ケインが弱いはずがない!」
ターナ!
後ろの魔王軍からは、ターナコールが起こる。
「では、王の権利を放棄すると?言う事でしょうか?またこのクソムシが、王になりますが、宜しいですか?」
ミネルバが聞くと、ターナは即答で首を縦に振った。
「前魔獣王ハウル、勝者が権利放棄の為、王位の移動は無し。このミネルバ、誠心誠意お仕え致しますぞ。魔獣王ハウル殿」
後ろの軍団からは、ハウルコールだ。
いつの間にか、グリスもハウルの横で片膝を付いていた。
こいつらの手の平は、どうなってやがる?
「ぐっ・・・ターナよ、その名は忘れない」
やっと立ち上がったハウルは、ターナを睨むように言う。
「・・・・」
ターナは、無言でそれを聞いていた。
「勇者よ、この娘に感謝するがいい。一時の間、待つとしよう」
療養期間だな?おまえの。
ハウルはグリスに肩を借り、戻ろうとした。
「待て!」
ターナの一言。ハウルは、明らかにビク!とした。そしてゆっくり振り返る。
「はい・・・・」
情けない顔。動物が見せる情けない顔だった。
「匂うぞ、ちゃんと洗え」
「!!!ぐはぁぁぁぁぁぁ」
止めになったようだ。ハウルは両膝から崩れ落ちて行った。
また、ミネルバが駆け寄ってくる。
「ターナ殿、魔獣王の権利が・・・」
ミネルバ、その件はもういい。
ターナは俺に肩を貸す。
「大丈夫?ケイン」
「ああ、助かった。ターナに助けられた」
「何度でも助ける。嫌と言っても助ける」
「だがこれで、俺は逃げられなくなった」
「大丈夫。私が付いている。絶対見つからない場所、知ってる。雲隠れに最適」
・・もう、逃げること前提だ。
「よくやったわい!ターナ」
よくやったじゃない。お前は予想を当てて喜んでいただろ。
「ごめんだぞ。私は動けなかったぞ。犬は本能で、怖いと見ないようにしちゃうぞ」
「私もですわ」
「パパごめん。獣の習性よ」
「実は俺も怖かった。ちょっとちびった」
「パンツは後で私が洗ってやるぞ」
ちょろまかすなよ。
俺達は、魔都に行くことにした。
パルスとトーレフは、出発の準備と、逃げたセイレーンのお仕置きだ。
俺達は王宮跡で、王都再建会議だ。、
王都は全ての建物が崩壊し、テント暮らしを強いられている。
「私が神の加護で・・」
まてまて!他の方法は無いのか?
「ママゾンで、都市再建のチケットを購入もできますが、高いです。コストでは買えません」
「ボーナスが沢山出てるぞ。お金は生きてるうちに使うぞ」
「あれは私の結婚資金です!それに全然足りません」
「金マオ」
「出せる額なら出すよ~幾らぐらいなのかな~」
「目玉飛び出ます。言いますから覚悟してください。6の下に、丸が12個です」
6兆だと!?
「はい。都市再建は、広域にわたり再建しますので、価格も高くなります」
確かに都市を一つ、作りなおすんだ。それなりの額に成るのも分かる。
「大分足らないわ」
6兆だ。持っている額ではない。
「ちょっと、待ってね。今投資で増やすから」
ピーが、マオの金を増やしている。
他の世界で投資と言うが、6兆だ。この世界の国家予算、1000年分だ。
「増えたわよ」
おい。
「ちょっと増えすぎたかしら?600兆に成っちゃったわね」
おいおい。
「その金で、他の世界に夜逃げする」
ターナ、ナイスアイディアだ。
「それも良いですわね。豪華な生活が出来ますわ」
「はい。星を買って、環境を整えて、十分足ります」
「パパと、安心安全な世界で生活。良いわね!」
みんなが口々に、好き放題なことを言った。
が、勿論本気ではない。
アリスとレナ以外は・・・。
「ここが、男の世界域だ。ここは男しか住めない世界にしよう」
「こっちは、私とケインの世界だぞ。私とケイン以外は住めない、二人だけの世界だぞ」
企画書を作り出していた。
「では、ママゾンで都市再建チケットゴールドを購入します!手が震えます・・・こんな高価な買い物、したことがありません」
ティナの手がマジで震えていた。
「ティナ様、そんなに緊張なさらずに」
「そうだよ~気楽にだよね~」
「はい…でも、600億のポイントが付くと考えると、手が震えます」
・・・ポイントは自分の物にするつもりだ。
「600億ポイントって・・600億分の買い物ができるという事だよね!」
「はい。アリッサちゃん、その通りです!」
「ティナ!仲良くしよう!」
心優しき女神と、汚れを知らぬ我が娘・・世俗の垢に汚れていく気がした。
「来ました!ゴールドなので、オプション特権が付きます」
都市再建の特権って?
「はい。3つの中から1つ選べます」
①全面床暖房
②ドーム型、開閉式。
③秘密基地タイプ
「3が良いぞ!」
ノータイムかよ。
「秘密基地は男のロマンだぞ!」
お前は女だ。
「敵襲に備えられるぞ」
その敵を倒したから、今こうなった。
「世界中が注目するぞ。羨ましがられるぞ」
全然秘密に成って無い。
「アリス、グジョップ」
お前もそっち側か?ターナ?
「みんな聞いてくれ。俺は王都が好きだ。石畳や土の道。自然と調和した王宮。確かに近代的ではない。が、そこには温かさがあった。ノスタルジックな温もりが、俺は好きなんだ」
「婿殿・・・他の世界から来た婿殿が、好きだと言ってくださる国。私たちが、努力してきた甲斐がありますわ。ティナ様、王都は元のままでお願いしますわ。床暖房付きで」
犬は温かい、ヌクヌクしたところが好きだったな・・。
「では、チケットを使います!王都再建!床暖房です!」
瓦礫の山と化していた、王都は光に包まれた。そして光が消えると、あら不思議。元通りだ。
「フィクションって便利だぞ」
それは言うな。
全く、とんでも無い事をしてくれたもんだ。
「まさかの事態ですわ。氷魔法、細雪ですわ」
「ちゃんと説明書は読んでから使うぞ。氷魔法、ドカ雪だぞ」
「皆さん、スミマセン。貯まったポイントで人工降雪機を買います」
ーーーー2時間前ーーーー
「これで、すべて元通りです。王都は再生されました」
「素晴らしいですわ!6兆の価値はありますわね」
「秘密基地が良かったぞ・・」
まだ言うか?
「秘密基地、必ず建設する」
魔王を倒してからな。
「なんか、暑くないかだぞ?」
ああ、言われれば暑いな?王都の夏はこんなもんか?
「暑いね~7月だけど~暑すぎるかな~」
「はい。床暖房が入っています。オプションもちゃんと機能しているようです」
そうか、そのせいか。夏場は必要ないだろう。って待て。床暖房は、各建屋についているんじゃないのか?
「違います。全面です。都市に付いてくるんです。王都全体が床暖房の対象です」
「地面の下から温めるという事ですの?」
「はい。王都は、寒さ知らずです」
すぐOFFだ。この暑さは堪らん。
「ティナ様、床暖房の機能を切って頂けます?」
「はい。切れません。床暖房は常時稼働です」
「なんだとぉ!」
「チケ裏、書いてある。気温+50~70°」
70って、どこで使うんだ!?
「パパ!注意書きにあるよ。極寒地以外での使用は、控えてくださいだって」
こんなに細かい字で書かれても、普通に読まん!
「一度稼働すると~都市が消滅するまで~止まらないってさ~」
なんだ、その不親切機能は?
「夏の平均気温が30°だ。床暖房の効果と合わせると、80~100度まで上がることになる」
「全滅だぞ・・王都は熱中症のパンデミックを起こすぞ」
「ママ、おばぁちゃん!とりあえず冷やして!氷魔法だよ!」
「私はママゾンで、人工降雪機を買います」
ーーーーーーーーーーーーーー
アリスとアイリスが雪を降らせる。
雪は地面に落ちると溶けて水に成る。
温かい地面は水を蒸発させる。
「ダメだぞ、サウナの中に居るようだぞ」
「美しすぎる私でも汗が出る」
「これは耐えられないね~霧死風呂だよ~」
上手い表現だ。
完全に都市がサウナ状態だ。このままでは不味いことになる。
「ティナ、ダメだ。この機能はキャンセルだ」
「だめです・・・返品不可に成っています。一度使い出すと、止めることも外すことも出来ません」
「なんでだぁ!!」
「ママゾンに問い合わせました。(説明書は読んでから使おうね)と言われました」
くそぉ~~どうしたらいい?
「ママ、私、良いこと思いついたぞ」
「あらアリス、私もですわよ。ふふふふふ」
「ふふふふふだぞ」
なにやら2人が、悪いことを思いついたようだ。
「ティナ、もうだめだぞ。私の魔法では、王都は守れないぞ」
「ティナ様、私もですわ。魔力が尽きてしまいますわ」
「はい。任せてください!ママゾンでリポDを買います」
「違うぞ!」
「モンスターのほうが良かったですか?」
「違いますわ。神の加護で、何とかしてくださいませ」
「はい!神の加護、解禁ですね!分かりました!奇跡をお見せします!」
なるほど、読めた。ティナに神の加護を使わせて、床暖房を破壊するつもりだな。
「荒ぶる地に住まう邪神よ、女神ティナの名において命じます!静まり給え!神の加護!暑いの暑いの飛んで行け!です!」
お?大地が揺れる!上手く床暖房に作用したのか?
「揺れてるね~揺れすぎてるよね~」
「王宮倒壊」
「街が倒壊していきますわ!」
「これでは元に戻っちゃうぞ。ティナ中止だぞ!」
「は、はい!神の加護緊急停止です!」
もう手遅れだ、チケットを使う前と同じ状況だ。
「私、やらかしちゃいました」
ティナは、瓦礫と化した王都を見てヘタレ込む。
「元に戻ったね~でも床暖房も無くなったよね~」
「6兆のチケットが、パーです・・・こんな損害を出すなんて、わたし・・」
おい、アリス、アイリス!なぜ二人でハイタッチだ?まさかこれを予想していたのか?
「ティナ様、これはもう、責任を取って頂くしかありませんわね」
「王都を元に戻すぞ。女神の責任だぞ」
「流石は王都の女王と、その娘だ。ケイン!あの二人は策士だぞ!」
褒めたらダメだ。これは完全に嵌め手だ。
ティナに責任を押し付けるための嵌め手だ!
「婿殿なら、そう言いますわよね。ティナ様、冗談ですわ」
「嘘だぞ。破壊が目的でも、責任を負わす気はないぞ」
「アリスさん?アイリス様?」
「楽して、王都の再建は無いぞ」
「苦労してこそ、強固な国になりますわ」
「一から作り直す」
「そうだね~自分たちの住むところだもんね~」
「そうだよ皆!ここは私たちの国だよ!自分の手で立て直さないと!」
「ああ、私もそれが良いと思う。労力は惜しむものではない。使い果たすものだ!」
「み、みなさん!」
そうだ、ここはカモミールだ。
人を貶めたり、騙したりは、できない世界だ。
呪いは確かに世界を苦しめている。だが、苦しんだ分、この世界は美しい。
人の心が、思いやりと優しさで満たされた世界だ。
ーーーー天界の一室ーーーー
「何をやらかしてくれてるんだかw彼らは何がしたいんだよ」
モニターを眺めながら、女神は腹を抱えて笑っていた。
そこに、リリスが来る。
「ギルバ?まだ見ているのか?カモミールはもういいぞ。奴らは終わりだ。監視の必要はない」
「あ、部長。いやね、あいつら見てると飽きなくてね」
「また何かやらかしたのか?」
「そうそう、やらかしたの。都市再生チケで、床暖房をつけたんだよ」
「床?あの欠陥品をか。流石はヴィーナスのバカ娘だな。王都に使えば、どうなるかも気が付かんのか。だがギルバ、余り関与はするなよ。悟られないように静かにな」
「はい。その辺は、僕も分かってるよ」
「ああ、頼んだぞ。私は、3日ほど出かける」
「いってらっしゃい」
リリスが部屋を出た。ギルバはモニターの電源を切る。
「部長、まだあいつらは終わってないよ。油断すると足元すくわれるよ。僕にね」
ーーーーーーーーーーーー
リリスは部下に恵まれていなかった。




