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残念世界の残念勇者   作者: XT
23/96

魔王編 ㉓

ハウルと戦う事になった俺は、作戦勝ちを狙うが、一瞬で攻撃を貰ってしまった。

「ワシの予想通りじゃ!どうじゃ!2秒でケインの負けじゃ!」

パルスだけが、はしゃいでいる。皆は、俺の名前を叫んでいた。

その場に倒れ、仰向けの俺の腹の上に、ハウルの片足があった。


「なんだと?これが勇者だと言うのか?」

ハウルは怒りで震えていた。あまりの弱さに、失望より大きな怒りを覚えたのが分かる。

「魔獣王ハウル!そこまでです!それ以上は、女神として許しません!」

ティナが止めてくれている・・だが、ハウルの怒りは収まらない。

50人の魔獣軍は、キルコールだ。俺は此処で死ぬかもしれない。



「ターナミラクルキック!」

ターナ!?

ターナが、ハウルに飛び蹴りをかました。

「なんだ娘?正式な決闘の邪魔をするというのか!?食い殺されたいか!」

ダメだターナ。お前の敵う相手ではない。逃げろ!

「魔獣王ハウル。お前言った。力を見せろと」

ターナはハウルの前に立ち、見上げるように言う。

「その通りだ。が、貴様の力ではない!勇者の力を見せろと言ったのだ!」

声の大きさが、振動で伝わる。

「私たちはチーム。個人の力など関係ない。チームとして戦い、チームとして勝つ!。それがケインの勇者チーム!」

「・・・・・」

負けていない。ターナは、気迫でハウルを押し返した。


「審判!」

ハウルが叫んだ。猛禽類、いつの間に眼鏡をかけた?

手に持っているのは、何のルールブックだ?

「言い分は正当です、将軍。魔王に個人で挑まなくてはいけない、という決まりはありません。当然、チームで挑むのもアリです。勇者の力=チームの力、言い分に正当性が見られます」

グリス・・・猛禽類の分際で理論派だったのか?

「良し!認めてやる。貴様もかかってくるがいい!」

だがダメだターナ!どうにかできるレベル差ではない。


「ターナタックル!」

ターナはハウルに、タックルに行く。行くが微動だにしない。

「ふふふ!どうした?美しき女よ。1mmも動かん・・・貴様!!!!!」

なに?ハウルが慌てただと?

「私を攻撃したら、ここを噛み切る!」

!!!両手で玉を握り、棒を咥えていた。

「ぐぁぁぁあ!は、離せ!」

あの、ハウルが苦しんでいる。当然だ、男の子の最大の急所だ。

後ろの魔獣達も前かがみで、股間に手を置いて見ていた。痛さを想像したのだ。


「離せ!離せ!ぐはぁぁ」

ターナの頭を押さえつけるが、抑え込むほど、引き離そうとするほど、棒に歯は食い込む。

「うわぁ」と言う溜息に似た声が、魔獣軍から漏れる。

玉を握り締める力が強まる。ターナは手加減する女ではない。

「この手、簡単には離さない!」

「うううう!!!ぐはぁぁぁぁぁぁぁ」

魔獣王ハウル、地に落ちる。


ミネルバが、とことこ歩いて、ターナの前に来た。

「新魔獣王よ、この腐れポンチを、どう処分いたしましょう?」

倒れ、悶絶するハウルを指さし言う。後ろの魔獣軍からは、キルコールだ。

「処分?」

「はい。魔獣の掟。王が正式な決闘で敗れれば、勝者には、王の椅子と、前王の生命与奪権、寝る暇もない書類の判押仕事が与えられます。この負けた、ゴミムシ、いかようにも」

既にグリスは、ターナの左側で片膝を地に付けて、敬服している。

「私に王に成れと?なめるな!そんな椅子に座る程、私の尻は汚れていない!」

「汚れのないお尻、羨ましいです」

「頼むぞ。ケインのいない時に、重いネタはよすぞ。私に突っ込みスキルは無いぞ」


「私はターナ!妖精族、族長にして、ケインの強さを知る者!この美しさと強さは、ケインから貰ったモノだ!ケインが弱いはずがない!」

ターナ!

後ろの魔王軍からは、ターナコールが起こる。

「では、王の権利を放棄すると?言う事でしょうか?またこのクソムシが、王になりますが、宜しいですか?」

ミネルバが聞くと、ターナは即答で首を縦に振った。


「前魔獣王ハウル、勝者が権利放棄の為、王位の移動は無し。このミネルバ、誠心誠意お仕え致しますぞ。魔獣王ハウル殿」

後ろの軍団からは、ハウルコールだ。

いつの間にか、グリスもハウルの横で片膝を付いていた。

こいつらの手の平は、どうなってやがる?


「ぐっ・・・ターナよ、その名は忘れない」

やっと立ち上がったハウルは、ターナを睨むように言う。

「・・・・」

ターナは、無言でそれを聞いていた。

「勇者よ、この娘に感謝するがいい。一時の間、待つとしよう」

療養期間だな?おまえの。

ハウルはグリスに肩を借り、戻ろうとした。

「待て!」

ターナの一言。ハウルは、明らかにビク!とした。そしてゆっくり振り返る。

「はい・・・・」

情けない顔。動物が見せる情けない顔だった。

「匂うぞ、ちゃんと洗え」

「!!!ぐはぁぁぁぁぁぁ」

止めになったようだ。ハウルは両膝から崩れ落ちて行った。

また、ミネルバが駆け寄ってくる。

「ターナ殿、魔獣王の権利が・・・」

ミネルバ、その件はもういい。


ターナは俺に肩を貸す。

「大丈夫?ケイン」

「ああ、助かった。ターナに助けられた」

「何度でも助ける。嫌と言っても助ける」

「だがこれで、俺は逃げられなくなった」

「大丈夫。私が付いている。絶対見つからない場所、知ってる。雲隠れに最適」

・・もう、逃げること前提だ。


「よくやったわい!ターナ」

よくやったじゃない。お前は予想を当てて喜んでいただろ。

「ごめんだぞ。私は動けなかったぞ。犬は本能で、怖いと見ないようにしちゃうぞ」

「私もですわ」

「パパごめん。獣の習性よ」

「実は俺も怖かった。ちょっとちびった」

「パンツは後で私が洗ってやるぞ」

ちょろまかすなよ。



俺達は、魔都に行くことにした。

パルスとトーレフは、出発の準備と、逃げたセイレーンのお仕置きだ。

俺達は王宮跡で、王都再建会議だ。、

王都は全ての建物が崩壊し、テント暮らしを強いられている。

「私が神の加護で・・」

まてまて!他の方法は無いのか?

「ママゾンで、都市再建のチケットを購入もできますが、高いです。コストでは買えません」

「ボーナスが沢山出てるぞ。お金は生きてるうちに使うぞ」

「あれは私の結婚資金です!それに全然足りません」

「金マオ」

「出せる額なら出すよ~幾らぐらいなのかな~」

「目玉飛び出ます。言いますから覚悟してください。6の下に、丸が12個です」

6兆だと!?

「はい。都市再建は、広域にわたり再建しますので、価格も高くなります」

確かに都市を一つ、作りなおすんだ。それなりの額に成るのも分かる。



「大分足らないわ」

6兆だ。持っている額ではない。

「ちょっと、待ってね。今投資で増やすから」

ピーが、マオの金を増やしている。

他の世界で投資と言うが、6兆だ。この世界の国家予算、1000年分だ。

「増えたわよ」

おい。

「ちょっと増えすぎたかしら?600兆に成っちゃったわね」

おいおい。

「その金で、他の世界に夜逃げする」

ターナ、ナイスアイディアだ。

「それも良いですわね。豪華な生活が出来ますわ」

「はい。星を買って、環境を整えて、十分足ります」

「パパと、安心安全な世界で生活。良いわね!」

みんなが口々に、好き放題なことを言った。

が、勿論本気ではない。

アリスとレナ以外は・・・。

「ここが、男の世界域だ。ここは男しか住めない世界にしよう」

「こっちは、私とケインの世界だぞ。私とケイン以外は住めない、二人だけの世界だぞ」

企画書を作り出していた。


「では、ママゾンで都市再建チケットゴールドを購入します!手が震えます・・・こんな高価な買い物、したことがありません」

ティナの手がマジで震えていた。

「ティナ様、そんなに緊張なさらずに」

「そうだよ~気楽にだよね~」

「はい…でも、600億のポイントが付くと考えると、手が震えます」

・・・ポイントは自分の物にするつもりだ。

「600億ポイントって・・600億分の買い物ができるという事だよね!」

「はい。アリッサちゃん、その通りです!」

「ティナ!仲良くしよう!」

心優しき女神と、汚れを知らぬ我が娘・・世俗の垢に汚れていく気がした。


「来ました!ゴールドなので、オプション特権が付きます」

都市再建の特権って?

「はい。3つの中から1つ選べます」

①全面床暖房

②ドーム型、開閉式。

③秘密基地タイプ

「3が良いぞ!」

ノータイムかよ。

「秘密基地は男のロマンだぞ!」

お前は女だ。

「敵襲に備えられるぞ」

その敵を倒したから、今こうなった。

「世界中が注目するぞ。羨ましがられるぞ」

全然秘密に成って無い。

「アリス、グジョップ」

お前もそっち側か?ターナ?


「みんな聞いてくれ。俺は王都が好きだ。石畳や土の道。自然と調和した王宮。確かに近代的ではない。が、そこには温かさがあった。ノスタルジックな温もりが、俺は好きなんだ」

「婿殿・・・他の世界から来た婿殿が、好きだと言ってくださる国。私たちが、努力してきた甲斐がありますわ。ティナ様、王都は元のままでお願いしますわ。床暖房付きで」

犬は温かい、ヌクヌクしたところが好きだったな・・。


「では、チケットを使います!王都再建!床暖房です!」

瓦礫の山と化していた、王都は光に包まれた。そして光が消えると、あら不思議。元通りだ。

「フィクションって便利だぞ」

それは言うな。



全く、とんでも無い事をしてくれたもんだ。

「まさかの事態ですわ。氷魔法、細雪ですわ」

「ちゃんと説明書は読んでから使うぞ。氷魔法、ドカ雪だぞ」

「皆さん、スミマセン。貯まったポイントで人工降雪機を買います」


ーーーー2時間前ーーーー

「これで、すべて元通りです。王都は再生されました」

「素晴らしいですわ!6兆の価値はありますわね」

「秘密基地が良かったぞ・・」

まだ言うか?

「秘密基地、必ず建設する」

魔王を倒してからな。


「なんか、暑くないかだぞ?」

ああ、言われれば暑いな?王都の夏はこんなもんか?

「暑いね~7月だけど~暑すぎるかな~」

「はい。床暖房が入っています。オプションもちゃんと機能しているようです」

そうか、そのせいか。夏場は必要ないだろう。って待て。床暖房は、各建屋についているんじゃないのか?

「違います。全面です。都市に付いてくるんです。王都全体が床暖房の対象です」

「地面の下から温めるという事ですの?」

「はい。王都は、寒さ知らずです」

すぐOFFだ。この暑さは堪らん。

「ティナ様、床暖房の機能を切って頂けます?」

「はい。切れません。床暖房は常時稼働です」

「なんだとぉ!」

「チケ裏、書いてある。気温+50~70°」

70って、どこで使うんだ!?

「パパ!注意書きにあるよ。極寒地以外での使用は、控えてくださいだって」

こんなに細かい字で書かれても、普通に読まん!

「一度稼働すると~都市が消滅するまで~止まらないってさ~」

なんだ、その不親切機能は?

「夏の平均気温が30°だ。床暖房の効果と合わせると、80~100度まで上がることになる」

「全滅だぞ・・王都は熱中症のパンデミックを起こすぞ」

「ママ、おばぁちゃん!とりあえず冷やして!氷魔法だよ!」

「私はママゾンで、人工降雪機を買います」

ーーーーーーーーーーーーーー


アリスとアイリスが雪を降らせる。

雪は地面に落ちると溶けて水に成る。

温かい地面は水を蒸発させる。

「ダメだぞ、サウナの中に居るようだぞ」

「美しすぎる私でも汗が出る」

「これは耐えられないね~霧死風呂だよ~」

上手い表現だ。

完全に都市がサウナ状態だ。このままでは不味いことになる。


「ティナ、ダメだ。この機能はキャンセルだ」

「だめです・・・返品不可に成っています。一度使い出すと、止めることも外すことも出来ません」

「なんでだぁ!!」

「ママゾンに問い合わせました。(説明書は読んでから使おうね)と言われました」

くそぉ~~どうしたらいい?


「ママ、私、良いこと思いついたぞ」

「あらアリス、私もですわよ。ふふふふふ」

「ふふふふふだぞ」

なにやら2人が、悪いことを思いついたようだ。

「ティナ、もうだめだぞ。私の魔法では、王都は守れないぞ」

「ティナ様、私もですわ。魔力が尽きてしまいますわ」

「はい。任せてください!ママゾンでリポDを買います」

「違うぞ!」

「モンスターのほうが良かったですか?」

「違いますわ。神の加護で、何とかしてくださいませ」

「はい!神の加護、解禁ですね!分かりました!奇跡をお見せします!」

なるほど、読めた。ティナに神の加護を使わせて、床暖房を破壊するつもりだな。


「荒ぶる地に住まう邪神よ、女神ティナの名において命じます!静まり給え!神の加護!暑いの暑いの飛んで行け!です!」

お?大地が揺れる!上手く床暖房に作用したのか?

「揺れてるね~揺れすぎてるよね~」

「王宮倒壊」

「街が倒壊していきますわ!」

「これでは元に戻っちゃうぞ。ティナ中止だぞ!」

「は、はい!神の加護緊急停止です!」

もう手遅れだ、チケットを使う前と同じ状況だ。


「私、やらかしちゃいました」

ティナは、瓦礫と化した王都を見てヘタレ込む。

「元に戻ったね~でも床暖房も無くなったよね~」

「6兆のチケットが、パーです・・・こんな損害を出すなんて、わたし・・」

おい、アリス、アイリス!なぜ二人でハイタッチだ?まさかこれを予想していたのか?

「ティナ様、これはもう、責任を取って頂くしかありませんわね」

「王都を元に戻すぞ。女神の責任だぞ」

「流石は王都の女王と、その娘だ。ケイン!あの二人は策士だぞ!」

褒めたらダメだ。これは完全に嵌め手だ。

ティナに責任を押し付けるための嵌め手だ!

「婿殿なら、そう言いますわよね。ティナ様、冗談ですわ」

「嘘だぞ。破壊が目的でも、責任を負わす気はないぞ」

「アリスさん?アイリス様?」

「楽して、王都の再建は無いぞ」

「苦労してこそ、強固な国になりますわ」

「一から作り直す」

「そうだね~自分たちの住むところだもんね~」

「そうだよ皆!ここは私たちの国だよ!自分の手で立て直さないと!」

「ああ、私もそれが良いと思う。労力は惜しむものではない。使い果たすものだ!」

「み、みなさん!」

そうだ、ここはカモミールだ。

人を貶めたり、騙したりは、できない世界だ。

呪いは確かに世界を苦しめている。だが、苦しんだ分、この世界は美しい。

人の心が、思いやりと優しさで満たされた世界だ。



ーーーー天界の一室ーーーー

「何をやらかしてくれてるんだかw彼らは何がしたいんだよ」

モニターを眺めながら、女神は腹を抱えて笑っていた。

そこに、リリスが来る。

「ギルバ?まだ見ているのか?カモミールはもういいぞ。奴らは終わりだ。監視の必要はない」

「あ、部長。いやね、あいつら見てると飽きなくてね」

「また何かやらかしたのか?」

「そうそう、やらかしたの。都市再生チケで、床暖房をつけたんだよ」

「床?あの欠陥品をか。流石はヴィーナスのバカ娘だな。王都に使えば、どうなるかも気が付かんのか。だがギルバ、余り関与はするなよ。悟られないように静かにな」

「はい。その辺は、僕も分かってるよ」

「ああ、頼んだぞ。私は、3日ほど出かける」

「いってらっしゃい」

リリスが部屋を出た。ギルバはモニターの電源を切る。

「部長、まだあいつらは終わってないよ。油断すると足元すくわれるよ。僕にね」

ーーーーーーーーーーーー

リリスは部下に恵まれていなかった。

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