魔王編 ㉑
セイレーン本体の修復が完了した。
アリスに遊ばれたセレスの損傷は激しく、修理は間に合わない。
本体には、魚の下半身を付けた、セイレーンが乗り込む。
パルス曰く
「なに、魔道兵器のない奴らの攻撃なら、貰っても痛くはないわ。1撃貰えば、セイレーンでも撃ち返せるから問題なしじゃ」
と言う事らしい。
ティナは、このことを知らない。
アリッサとの山籠もりの最中、リリスから緊急要請を受け、5日ほど、この世界を留守にするらしい。戻るのは明後日だ。
ティナは、自分がいない時のサポートを、姉に頼んだという。
防壁は、大女神に張ってもらう予定だ。
「婿殿、ご武運を」
ああ、王都は任せたぞ。
「お守りだぞ。千人針だぞ。5銭と10銭も縫い合わせたぞ」
誰も知らん。いつの時代のものだ。って、お前は俺と一緒に、戦闘参加組みだ。
敵の襲撃に備え、王都にはアイリスとレナ、壊れたセレス、獄中3姉妹を残す。
※アリスのうんちくコーナー
5銭→4銭(死線)を超えるの意味だぞ。
10銭→9銭(苦戦)を超えるの意味だぞ
これ、実際に戦時中は、あったぞ。
「長き戦いに今日!終止符を打つ!800年の悲願に向けて!出発じゃ!!!」
「いよいよだぞ。でも、なんか忘れてる気がしてならないぞ」
「あら、私もですわ。何を忘れているのでしょう?」
「あれ~私もだよ~」
「私も」
なんだなんだ、みんなで物忘れか?
思い出さないことは、大したことではない。気にしなくて良しだ。
「みんな、私は行かないが、カモミールの未来を頼む」
昨日までの敵から、激励を受けた。
因みにレナは、パッチを当てられただけだった。修正プログラムが、奴を犬に変えていた。
「王都は、ネオ勇者チームが守るわね」
「私たちに任せなさい」
「いつもご飯、美味しいです。ありがとうございます」
勝手にチームを作るな。
「婿殿~~~アリス~~~~頑張るのですよ~~」
港で別れを済ませ、俺たちは、ポセイドンの背に乗る島で沖に向かう。
セイレーンも横を進んでいる。
「作戦を言い渡す! 敵との総力戦じゃ!殲滅か死かじゃ!」
それを作戦とは言わん。
「まずセイレーンが、敵の艦隊を殲滅でござる。その後、大陸の残存兵、施設などを、完膚なきまでに叩くでござる。作戦名は「フルボッコ、タコ殴り大作戦」でござる」
良いのか?その作戦名が歴史の教科書に載るんだぞ?
ティナ!ティナ!ティナ!・・居ないと分かっていても、女神を呼び出さないと防壁が頼めない。
「ほよ。ケイン君~ティナから聞いてるかな。何でも協力するかなぁ~」
やはりビューティーが出て来た。
「これから、魔王軍との決戦に入ります。被害が出ないように、防壁をお願いしたのですが」
「ほよよ?それは聞いてないかな?」
「襲撃を2度受けました。これ以上の襲撃に耐えられるか不明なので、撃って出ることにしました」
「なるほどなのかなぁ。国同士の争いや戦争には、女神は関与できないかな。
・・・でも、被害を減らす防壁ならOKなんだなぁ。了解したんだな。魔獣域と赤道魔王軍の境界線上に、防壁を張るかな」
「お願いします」
「これでいいかな?ケイン君、頑張るかな」
ビューティーは即、防壁を張ってくれた。
丁度12時。
赤道付近で、セイレーンが敵を見つける。いよいよ決戦だ。
「みなさん、敵です。黒い船の艦隊です」
「皆さん、総数800隻。プラマイ20隻」
「皆さん、大型艦多数、魔道エンジン反応なしです」
海は黒の艦隊で、埋め尽くされていた。陸に敵の気配はない。
「セイレーン、武器システム起動だぞ!」
「はい!マスター」
「ねぇ様から、武器システム起動命令・・来ません」
「ねぇ様から、ごめんね・ごめんね・ごめんね信号受信」
「無理でした。ごめんなさいマスター」
「ケイン、やっぱ使えない子だぞ」
まぁそういうな。パルスは織り込み済みだ。
「微速前進、敵有効射程内に入り、停止じゃ」
「シールド展開でござる」
お?島の周りにバリアか?
「セイレーンのシステムの一部を、パクったでござる。この島も魔道電池を使った、シールドが張れるでござる」
「それなら安心して、キャンプファイヤーが出来るぞ」
もう薪を積みだしていた。
「撃ってこないぞ」
「ああ、セイレーンの弱点も、バレた可能性があるな」
「困ったでござるな。陸にも艦隊にも動きなしでござる」
「アリス~盆踊りの準備も出来たよ~」
「浴衣装備OK」
遊ぶ気満々だ。
「みんな!なにやってるの!?」
アリッサ!さぁ言ってやれ!馬鹿どもよ、1歳児に小言を貰って、悔やむがいい。
「キャンプファイヤーの周りで、盆踊りは邪道よ!」
ちくしょうーその通りだ。リンボーダンスに切り替わった。
「ねぇ様、陸に微弱な魔道兵器反応」
「ねぇ様、複数確認。索敵開始です」
「皆さん、敵はまだ魔道兵器を持っています。ルカの情報から、小型の砲台と推測できます」
「やはり持って居ったか。まぁシールドがあるから問題なしじゃ」
「ねぇ様、敵砲台展開しました」
「ねぇ様、砲撃照準を受けてます」
「撃って貰えれば、反撃可能でござる」
既にお見合いは、3時間を過ぎた。
「セイレーン降りてくるだぞ!私が誤作動させてやるぞ」
アリスが業を煮やした。
「ダメでござるよ。今、降りるのは、敵の狙いかもしれないでござる」
「そうじゃ。奴らはこちらの情報を知っておるからな」
時間だけが過ぎていく。
ーーーーー魔獣域 魔獣城 玉座の間ーーーーーー
「将軍、見張りより報告が来ました。 『人類は、魔王軍に決戦を挑む』以上です」
魔獣。人が魔に落ちた姿。
だが、800年の時を経て、知性を持ち、独自の文化を築き上げていた。
「ばかな!挑むなどありえん!世界を滅ぼすつもりなのか?」
3mはある身丈に、クマの体、ライオンの顔。魔獣最強。魔獣王「ハウル」だ。
「見張りを増やせ。増員し、奴らの動きを事細かに見張れ!動きは逐次報告せよ」
指示を出す。配下の者、数名が即座に動く。
「勇者よ?何を考えている?」
ハウルは、窓から外を眺める。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
12時間が経過し夜中だ。風が出て来た。月は雲に隠れ、闇が照らしていた。
「これは、時化るでござるな」
長年、海で暮らすトーレフは、時化の匂いをかぎ取った。
海は時間と共に荒れだす。
ポセイドンの背にあるとはいえ、左右前後に大きく揺れるようになった。
揺れてもやることはない。とりあえず寝ることにした。
「大分揺れるぞ。ケイン、この揺れの中のHは新鮮だぞ」
おねだりしてもダメだ。
「パパ、アリッサはいい子だよ。隣で寝てもいい?」
ああ、勿論だ。親子並んで寝よう。
って、ちょい待ちだ。何で脱ぐ?アリッサは下着を脱ぎだした。
「アリッサに、パパの横で寝る時の作法を教えておいたぞ」
寛容すぎる奥さんの、歪んだ性教育キターーーー。
「なんか私~気持ちが悪くなって~きたよ~」
「私も」
これだけ揺れるからな。船酔いだ。
「私は大丈夫だぞ。ちょっとリバースしただけだぞ」
それを船酔いと言うんだ。
「任せて、超能力で、治してあげる」
ピーは、青い光を放つ。
「あ~なおったよ~」
「私も」
「私は前から治っていたぞ」
自覚が無かっただけだ。
超能力。これって、よくよく考えると、魔法と同じだよな?
魔法と言うより、ティナの使う、神の加護に近いのか?
「あら、バレたようね」
ピーが、テレパスを俺に送った。
「マオ達には内緒よ。私は下界の鳥じゃないの」
!?天界の?
「そんなところね。だから万能魔法が使えるのよ」
そうか。クーちゃんとは違うのか。
異世界物に超能力って、違和感があったが、納得だ。
アリスがいきなり、ニタリと微笑む。
「ケイン、私、良いこと思いついたぞ」
ウぁ、ダメなことを思いついた時の顔だ。
「セイレーン聞こえてるかだぞ?」
「はい、マスター聞こえています」
「レナから聞いたぞ。敵に捕らわれた時に、聞いたらしいぞ。敵は、セイレーンを何て呼んでたかだぞ」
「私をですか?海の覇王以外に有りますか?それとも、セイレーンですか?」
「兎の糞だぞ。あの兎の糞を攻撃だ!的な扱いだったらしいぞ」
「ぬぁんですと!?私が兎の糞!?」
黒くて丸い。まぁ悪口としては的確だな。
「ルピ!ルカ!私の自尊心は、酷く傷つきました!これは私への口撃です。攻撃命令を出します!」
非常に的確な表現だ。
「ちょろいぞ」
「ちょろちょろうだね~」
「ちょろ」
「よくやったアリス!これで先に進める。このまま終わらない戦いに成るかと思ったわい」
「ポセイドン防御姿勢でござる。揺れるでござる。何かに掴まるでござるよ」
4人中4人が、俺の股間の棒に掴まった。
セイレーンの武器システムが起動する。
「ねぇ様、システムスタンバイ」
「ねぇ様、システムオールグリーンです」
「ルピは陸の敵に照準、ルカは海の艦隊に照準。マスター、攻撃準備が出来ました。命令を」
いよいよだ。
「800年の遺恨に終止符じゃ!行けアリス!セイレーンに命令じゃ」
アリスの一声で、戦が始まる。
「良し!プリンセスアリスの名において命じるぞ。敵を攻撃だちょ!」
噛んだ。ここ一番で噛んだ。
セイレーンの通常兵器が火を噴いた。敵も攻撃を開始する。
砲撃戦が始まった。
「攻撃が来るでござる。揺れるでござるよ」
俺は、股間の防御態勢を強化した。
複数の映像が、空中に映し出されている。
海の艦隊の映像。陸の映像。左右の映像。
「勝ったなじゃ」
「ああでござる」
また、やってた。外界を拒絶していた二人だ。ネタが少ない。
「凄いぞ、楽勝だぞ」
「一方的だね~」
「私たち強い」
ああ、陸の砲門も次々と破壊していく。敵戦艦も、半分沈めてしまった。楽勝だ。
「おかしいよ。手応えが無さすぎるよ」
アリッサの不安・・・的中する。
「ねぇ様、海中に魔道エンジン反応多数」
「ねぇ様、高エネルギー反応、多数確認です」
「ルピ、ルカ、シールド展開、魔道システム解放。ハドロン砲の充電を開始してください」
敵はまだ、魔道兵器を持っていただと?
セイレーンの南、敵戦艦の後方の海が持ち上がる。
!?セイレーンと同型だ!
さらに北側からも、西側からも1機。
「なんじゃと!?」
「セイレーンと同じ型でござる」
真っ黒な球体。セイレーンと同じ型の機体が3機現れた。
「ねぇ様、私たちと同型を確認」
「ねぇ様、敵内部に高エネルギー反応です」
「皆さん、海に潜ってください。私の側は危険です」
セイレーンの指示で、トーレフはポセイドンを海中に移動させる。
シールドのおかげで海中に潜れるのだ。
「不味いぞ、これは不味いぞ」
「想定外じゃ、このままでは負けじゃ」
映像と音声は来ている。三方を囲まれたセイレーンの映像だ。
「皆さん、私は回避行動をとりながら、敵の殲滅を行います。もし、私がやられたら、逃げてください」
セイレーンの声は、落ち着いていた。
「ルピ、ルカ行きます!指示通りに動いてください!」
「はい。ねぇ様。ハドロンスピア発射です」
「はい。ねぇ様。高速移動です」
セイレーンは、西側の敵にハドロンスピアを放った。
と、同時に西に向かって猛スピードで移動する。
スピアの刺さった、偽セイレーンに体当たりした。偽セイレーンは大破、爆散する。
「上手いでござる!強度の高いセイレーンなら、敵に当ってもダメージが無いでござるよ」
「ナイスじゃ!包囲網を突破した!いい策じゃ」
1体を倒し、広い海に出たセイレーンは、とりあえず窮地を脱する。
残りの2機が、セイレーンを追う。映像が増える。上空からの映像だ。
「これはセイレーンのバードアイでござる。カメラアイを搭載した、飛行型モジュールでござる」
なるほど上から見ることで、より多くの情報が得られるわけだ。
!!なんだとぉ!!
更に、3つの偽セイレーンが現れ、前を塞いだ。
5対1だ。
セイレーンは飛行しているわけではない。
波をキャンセルしながら、海の上を転がっているのだ。
前方の3つの偽セイレーンに対し、直角に南に曲がる。重力をもキャンセルすることが出来る。
偽セイレーンは追走しながら、交代に魔道兵器を使う。セイレーンは、それを器用に躱している。
「上手いぞ!上手く躱しているぞ」
ああ、だが、攻撃手段がない。逃げるのが精いっぱいだ。
5対1では、魔道兵器の発射が出来ない。打つ瞬間に隙が出来るからだ。
逃げていてもいつかは食らう。状況は最悪だ。
「ねぇ様。ご注文の品、出来ました」
「ねぇ様、匠の逸品です」
「はい。待っていました。さぁ反撃です。チビレーン射出です」
セイレーンから黒い球。ボーリングの玉程度の黒い球が複数射出された。
「兎の糞だぞ」
おい・・・・。
敵の動きが止まる。
妨害電波でも出ているのか?
「あれはファンネルだぞ!あれで攻撃するんだぞ」
あれも兵器か?
チビレーンは、高速で複雑な動きをしていた。
が、逃げるでなし、攻めるでなし。ランダムな動きに見える。
敵は海の上で、前後左右に少し動くものの、セイレーンを追走しようとはしない。
「分かったでござる!あれはデコイでござるよ。セイレーンと、同じ信号を出しているでござる」
そうか!敵はどれがセイレーンか分からなくなったのか?
「あいつらは只のプログラムで動いておる。わしらのような知恵はないタダの機械じゃ。データーが全て。見ればわかることも分からないのじゃ」
知恵と経験の差だ!
セイレーンは反転する。高速で敵に体当たりを繰り返す。
「チビレーンには、高エネルギー反応は出せません。私も魔道兵器は使えませんが、強度の差で勝ちます!」
偽セイレーンは、動けないまま、セイレーンの体当たりを食らい沈んでいく。
雨が降り出し、風は一段と強くなる。
海は大荒れだ。
「とどめです!陸に向かい、フルチャージのハイドロン砲を撃ちます」
もう偽セイレーンはいない。陸の魔道砲台も沈黙した。後は、施設の破壊のみだ。
「長かったでござる。人類の敵の、最後の時でござるよ」
「この戦い!わしらの勝ちじゃ!」
「撃つぞセイレーン!戦いに終止符だぞ!」
アリスの命令で、セイレーンの最大兵器ハドロン砲が火を噴く。
光の帯は、陸に直撃。
大地を大きく削り、爆煙を上ながら、光の帯は内陸へと進む。
上空からの映像で、光の帯が、地面を抉りながら、魔王軍領地を突き進んでいくのが分かる。
そして、ビューティーの張る防壁にぶつかると、光は四散して消えていく。
終わったか?俺たちの勝ちか?
赤く溶けた大地が、爆煙の中から姿を現す。
!!!!内陸中央付近に何かある!?銀色のドームだ!
でかい!山2つ分はある。
ハイドロン砲でも溶けていない。無傷に見える。
「なんだぞ?あれは?」
「なにかなぁ~」
「なに?」
「ルピ、ルカ索敵です!あの物体の索敵です」
「はい。ねぇ様。各センサー起動」
「はい。ねぇ様。索敵開始です」
山が崩れる!銀色のドームの中央が、左右にスライドし、両脇にある山を、押しのけるように開いて行く。
中は基地だ。
上空からの映像で確認できる。深部に黒い物体がある。
「ねぇ様、900m地下に超魔道エンジンの反応です」
「ねぇ様、900m地下に超弩級エネルギー反応です」
「皆さん!あれは私の20倍の大きさの魔道兵器です」
20倍だと!?
「ねぇ様、深部の魔道兵器、微速上昇中」
「ねぇ様、深部の魔道兵器、上部到着まで48分です」
「ケイン!後48分しかないぞ!」
「ああ!大急ぎで準備だ!」
「ターナ、マオ、アリッサ!手伝うぞ!時間がないぞ」
俺の考えることは、アリスは分かっている。
俺達は既に、阿吽の呼吸だ。
「ケインさん!かなぁ!星を滅ぼ・・す・・レベル・・何をしてるのかな?」
「ああ、ビューティー様。48分あったので、食事です」
「時間が無かったから刺身ですだぞ。残念剣のおかげで、新鮮なまま食べられますだぞ」
「この緊急事態にかな?食事なのかな?何故余裕かな?」
「もう、戦いは終わっておりますじゃ」
「そうでごござる。拙者たちの勝ちでざる。これは鯛でござるな。旨いでござるよ」
「皆さん、気がふれたかな?現実逃避してるんだなぁ。」
「さて、食ったぞ。そろそろいい感じに上がってきたぞ」
「マスター、超巨大魔道兵器、地上まで150mです」
「マスター、超巨大魔道兵器、地上まで8分です」
「頃合いだな」
「頃合いって?なのがかな?」
「俺たちの勝ち迄、いい頃合いの時間になったという事です」
「???かな?」
「これで2度目のパターンだぞ。次回に続くぞ」




