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残念世界の残念勇者   作者: XT
21/96

魔王編 ㉑

セイレーン本体の修復が完了した。

アリスに遊ばれたセレスの損傷は激しく、修理は間に合わない。

本体には、魚の下半身を付けた、セイレーンが乗り込む。

パルス曰く

「なに、魔道兵器のない奴らの攻撃なら、貰っても痛くはないわ。1撃貰えば、セイレーンでも撃ち返せるから問題なしじゃ」

と言う事らしい。


ティナは、このことを知らない。

アリッサとの山籠もりの最中、リリスから緊急要請を受け、5日ほど、この世界を留守にするらしい。戻るのは明後日だ。

ティナは、自分がいない時のサポートを、姉に頼んだという。

防壁は、大女神に張ってもらう予定だ。


「婿殿、ご武運を」

ああ、王都は任せたぞ。

「お守りだぞ。千人針だぞ。5銭と10銭も縫い合わせたぞ」

誰も知らん。いつの時代のものだ。って、お前は俺と一緒に、戦闘参加組みだ。

敵の襲撃に備え、王都にはアイリスとレナ、壊れたセレス、獄中3姉妹を残す。


※アリスのうんちくコーナー

5銭→4銭(死線)を超えるの意味だぞ。

10銭→9銭(苦戦)を超えるの意味だぞ

これ、実際に戦時中は、あったぞ。



「長き戦いに今日!終止符を打つ!800年の悲願に向けて!出発じゃ!!!」

「いよいよだぞ。でも、なんか忘れてる気がしてならないぞ」

「あら、私もですわ。何を忘れているのでしょう?」

「あれ~私もだよ~」

「私も」

なんだなんだ、みんなで物忘れか?

思い出さないことは、大したことではない。気にしなくて良しだ。


「みんな、私は行かないが、カモミールの未来を頼む」

昨日までの敵から、激励を受けた。

因みにレナは、パッチを当てられただけだった。修正プログラムが、奴を犬に変えていた。


「王都は、ネオ勇者チームが守るわね」

「私たちに任せなさい」

「いつもご飯、美味しいです。ありがとうございます」

勝手にチームを作るな。

「婿殿~~~アリス~~~~頑張るのですよ~~」

港で別れを済ませ、俺たちは、ポセイドンの背に乗る島で沖に向かう。

セイレーンも横を進んでいる。


「作戦を言い渡す! 敵との総力戦じゃ!殲滅か死かじゃ!」

それを作戦とは言わん。

「まずセイレーンが、敵の艦隊を殲滅でござる。その後、大陸の残存兵、施設などを、完膚なきまでに叩くでござる。作戦名は「フルボッコ、タコ殴り大作戦」でござる」

良いのか?その作戦名が歴史の教科書に載るんだぞ?


ティナ!ティナ!ティナ!・・居ないと分かっていても、女神を呼び出さないと防壁が頼めない。

「ほよ。ケイン君~ティナから聞いてるかな。何でも協力するかなぁ~」

やはりビューティーが出て来た。

「これから、魔王軍との決戦に入ります。被害が出ないように、防壁をお願いしたのですが」

「ほよよ?それは聞いてないかな?」

「襲撃を2度受けました。これ以上の襲撃に耐えられるか不明なので、撃って出ることにしました」

「なるほどなのかなぁ。国同士の争いや戦争には、女神は関与できないかな。

・・・でも、被害を減らす防壁ならOKなんだなぁ。了解したんだな。魔獣域と赤道魔王軍の境界線上に、防壁を張るかな」

「お願いします」

「これでいいかな?ケイン君、頑張るかな」

ビューティーは即、防壁を張ってくれた。

 


丁度12時。

赤道付近で、セイレーンが敵を見つける。いよいよ決戦だ。

「みなさん、敵です。黒い船の艦隊です」

「皆さん、総数800隻。プラマイ20隻」

「皆さん、大型艦多数、魔道エンジン反応なしです」

海は黒の艦隊で、埋め尽くされていた。陸に敵の気配はない。


「セイレーン、武器システム起動だぞ!」

「はい!マスター」

「ねぇ様から、武器システム起動命令・・来ません」

「ねぇ様から、ごめんね・ごめんね・ごめんね信号受信」

「無理でした。ごめんなさいマスター」

「ケイン、やっぱ使えない子だぞ」

まぁそういうな。パルスは織り込み済みだ。


「微速前進、敵有効射程内に入り、停止じゃ」

「シールド展開でござる」

お?島の周りにバリアか?

「セイレーンのシステムの一部を、パクったでござる。この島も魔道電池を使った、シールドが張れるでござる」

「それなら安心して、キャンプファイヤーが出来るぞ」

もう薪を積みだしていた。


「撃ってこないぞ」

「ああ、セイレーンの弱点も、バレた可能性があるな」

「困ったでござるな。陸にも艦隊にも動きなしでござる」

「アリス~盆踊りの準備も出来たよ~」

「浴衣装備OK」

遊ぶ気満々だ。


「みんな!なにやってるの!?」

アリッサ!さぁ言ってやれ!馬鹿どもよ、1歳児に小言を貰って、悔やむがいい。

「キャンプファイヤーの周りで、盆踊りは邪道よ!」

ちくしょうーその通りだ。リンボーダンスに切り替わった。


「ねぇ様、陸に微弱な魔道兵器反応」

「ねぇ様、複数確認。索敵開始です」

「皆さん、敵はまだ魔道兵器を持っています。ルカの情報から、小型の砲台と推測できます」

「やはり持って居ったか。まぁシールドがあるから問題なしじゃ」

「ねぇ様、敵砲台展開しました」

「ねぇ様、砲撃照準を受けてます」

「撃って貰えれば、反撃可能でござる」

既にお見合いは、3時間を過ぎた。


「セイレーン降りてくるだぞ!私が誤作動させてやるぞ」

アリスが業を煮やした。

「ダメでござるよ。今、降りるのは、敵の狙いかもしれないでござる」

「そうじゃ。奴らはこちらの情報を知っておるからな」

時間だけが過ぎていく。


ーーーーー魔獣域 魔獣城 玉座の間ーーーーーー

「将軍、見張りより報告が来ました。 『人類は、魔王軍に決戦を挑む』以上です」

魔獣。人が魔に落ちた姿。

だが、800年の時を経て、知性を持ち、独自の文化を築き上げていた。

「ばかな!挑むなどありえん!世界を滅ぼすつもりなのか?」

3mはある身丈に、クマの体、ライオンの顔。魔獣最強。魔獣王「ハウル」だ。

「見張りを増やせ。増員し、奴らの動きを事細かに見張れ!動きは逐次報告せよ」

指示を出す。配下の者、数名が即座に動く。

「勇者よ?何を考えている?」

ハウルは、窓から外を眺める。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


12時間が経過し夜中だ。風が出て来た。月は雲に隠れ、闇が照らしていた。

「これは、時化るでござるな」

長年、海で暮らすトーレフは、時化の匂いをかぎ取った。

海は時間と共に荒れだす。

ポセイドンの背にあるとはいえ、左右前後に大きく揺れるようになった。


揺れてもやることはない。とりあえず寝ることにした。

「大分揺れるぞ。ケイン、この揺れの中のHは新鮮だぞ」

おねだりしてもダメだ。

「パパ、アリッサはいい子だよ。隣で寝てもいい?」

ああ、勿論だ。親子並んで寝よう。

って、ちょい待ちだ。何で脱ぐ?アリッサは下着を脱ぎだした。

「アリッサに、パパの横で寝る時の作法を教えておいたぞ」

寛容すぎる奥さんの、歪んだ性教育キターーーー。


「なんか私~気持ちが悪くなって~きたよ~」

「私も」

これだけ揺れるからな。船酔いだ。

「私は大丈夫だぞ。ちょっとリバースしただけだぞ」

それを船酔いと言うんだ。

「任せて、超能力で、治してあげる」

ピーは、青い光を放つ。

「あ~なおったよ~」

「私も」

「私は前から治っていたぞ」

自覚が無かっただけだ。


超能力。これって、よくよく考えると、魔法と同じだよな?

魔法と言うより、ティナの使う、神の加護に近いのか?

「あら、バレたようね」

ピーが、テレパスを俺に送った。

「マオ達には内緒よ。私は下界の鳥じゃないの」

!?天界の?

「そんなところね。だから万能魔法が使えるのよ」

そうか。クーちゃんとは違うのか。

異世界物に超能力って、違和感があったが、納得だ。


アリスがいきなり、ニタリと微笑む。

「ケイン、私、良いこと思いついたぞ」

ウぁ、ダメなことを思いついた時の顔だ。


「セイレーン聞こえてるかだぞ?」

「はい、マスター聞こえています」

「レナから聞いたぞ。敵に捕らわれた時に、聞いたらしいぞ。敵は、セイレーンを何て呼んでたかだぞ」

「私をですか?海の覇王以外に有りますか?それとも、セイレーンですか?」

「兎の糞だぞ。あの兎の糞を攻撃だ!的な扱いだったらしいぞ」

「ぬぁんですと!?私が兎の糞!?」

黒くて丸い。まぁ悪口としては的確だな。

「ルピ!ルカ!私の自尊心は、酷く傷つきました!これは私への口撃です。攻撃命令を出します!」

非常に的確な表現だ。

「ちょろいぞ」

「ちょろちょろうだね~」

「ちょろ」

「よくやったアリス!これで先に進める。このまま終わらない戦いに成るかと思ったわい」

「ポセイドン防御姿勢でござる。揺れるでござる。何かに掴まるでござるよ」

4人中4人が、俺の股間の棒に掴まった。


セイレーンの武器システムが起動する。

「ねぇ様、システムスタンバイ」

「ねぇ様、システムオールグリーンです」

「ルピは陸の敵に照準、ルカは海の艦隊に照準。マスター、攻撃準備が出来ました。命令を」

いよいよだ。

「800年の遺恨に終止符じゃ!行けアリス!セイレーンに命令じゃ」

アリスの一声で、戦が始まる。

「良し!プリンセスアリスの名において命じるぞ。敵を攻撃だちょ!」

噛んだ。ここ一番で噛んだ。


セイレーンの通常兵器が火を噴いた。敵も攻撃を開始する。

砲撃戦が始まった。

「攻撃が来るでござる。揺れるでござるよ」

俺は、股間の防御態勢を強化した。


複数の映像が、空中に映し出されている。

海の艦隊の映像。陸の映像。左右の映像。

「勝ったなじゃ」

「ああでござる」

また、やってた。外界を拒絶していた二人だ。ネタが少ない。


「凄いぞ、楽勝だぞ」

「一方的だね~」

「私たち強い」

ああ、陸の砲門も次々と破壊していく。敵戦艦も、半分沈めてしまった。楽勝だ。

「おかしいよ。手応えが無さすぎるよ」

アリッサの不安・・・的中する。


「ねぇ様、海中に魔道エンジン反応多数」

「ねぇ様、高エネルギー反応、多数確認です」

「ルピ、ルカ、シールド展開、魔道システム解放。ハドロン砲の充電を開始してください」

敵はまだ、魔道兵器を持っていただと?


セイレーンの南、敵戦艦の後方の海が持ち上がる。

!?セイレーンと同型だ!

さらに北側からも、西側からも1機。

「なんじゃと!?」

「セイレーンと同じ型でござる」

真っ黒な球体。セイレーンと同じ型の機体が3機現れた。


「ねぇ様、私たちと同型を確認」

「ねぇ様、敵内部に高エネルギー反応です」

「皆さん、海に潜ってください。私の側は危険です」

セイレーンの指示で、トーレフはポセイドンを海中に移動させる。

シールドのおかげで海中に潜れるのだ。


「不味いぞ、これは不味いぞ」

「想定外じゃ、このままでは負けじゃ」

映像と音声は来ている。三方を囲まれたセイレーンの映像だ。

「皆さん、私は回避行動をとりながら、敵の殲滅を行います。もし、私がやられたら、逃げてください」

セイレーンの声は、落ち着いていた。



「ルピ、ルカ行きます!指示通りに動いてください!」

「はい。ねぇ様。ハドロンスピア発射です」

「はい。ねぇ様。高速移動です」

セイレーンは、西側の敵にハドロンスピアを放った。

と、同時に西に向かって猛スピードで移動する。

スピアの刺さった、偽セイレーンに体当たりした。偽セイレーンは大破、爆散する。


「上手いでござる!強度の高いセイレーンなら、敵に当ってもダメージが無いでござるよ」

「ナイスじゃ!包囲網を突破した!いい策じゃ」

1体を倒し、広い海に出たセイレーンは、とりあえず窮地を脱する。

残りの2機が、セイレーンを追う。映像が増える。上空からの映像だ。

「これはセイレーンのバードアイでござる。カメラアイを搭載した、飛行型モジュールでござる」

なるほど上から見ることで、より多くの情報が得られるわけだ。


!!なんだとぉ!!

更に、3つの偽セイレーンが現れ、前を塞いだ。

5対1だ。

セイレーンは飛行しているわけではない。

波をキャンセルしながら、海の上を転がっているのだ。

前方の3つの偽セイレーンに対し、直角に南に曲がる。重力をもキャンセルすることが出来る。

偽セイレーンは追走しながら、交代に魔道兵器を使う。セイレーンは、それを器用に躱している。

「上手いぞ!上手く躱しているぞ」

ああ、だが、攻撃手段がない。逃げるのが精いっぱいだ。


5対1では、魔道兵器の発射が出来ない。打つ瞬間に隙が出来るからだ。

逃げていてもいつかは食らう。状況は最悪だ。



「ねぇ様。ご注文の品、出来ました」

「ねぇ様、匠の逸品です」

「はい。待っていました。さぁ反撃です。チビレーン射出です」

セイレーンから黒い球。ボーリングの玉程度の黒い球が複数射出された。

「兎の糞だぞ」

おい・・・・。


敵の動きが止まる。

妨害電波でも出ているのか?

「あれはファンネルだぞ!あれで攻撃するんだぞ」

あれも兵器か?

チビレーンは、高速で複雑な動きをしていた。

が、逃げるでなし、攻めるでなし。ランダムな動きに見える。

敵は海の上で、前後左右に少し動くものの、セイレーンを追走しようとはしない。


「分かったでござる!あれはデコイでござるよ。セイレーンと、同じ信号を出しているでござる」

そうか!敵はどれがセイレーンか分からなくなったのか?

「あいつらは只のプログラムで動いておる。わしらのような知恵はないタダの機械じゃ。データーが全て。見ればわかることも分からないのじゃ」

知恵と経験の差だ!


セイレーンは反転する。高速で敵に体当たりを繰り返す。

「チビレーンには、高エネルギー反応は出せません。私も魔道兵器は使えませんが、強度の差で勝ちます!」

偽セイレーンは、動けないまま、セイレーンの体当たりを食らい沈んでいく。


雨が降り出し、風は一段と強くなる。

海は大荒れだ。


「とどめです!陸に向かい、フルチャージのハイドロン砲を撃ちます」

もう偽セイレーンはいない。陸の魔道砲台も沈黙した。後は、施設の破壊のみだ。


「長かったでござる。人類の敵の、最後の時でござるよ」

「この戦い!わしらの勝ちじゃ!」

「撃つぞセイレーン!戦いに終止符だぞ!」

アリスの命令で、セイレーンの最大兵器ハドロン砲が火を噴く。

光の帯は、陸に直撃。

大地を大きく削り、爆煙を上ながら、光の帯は内陸へと進む。

上空からの映像で、光の帯が、地面を抉りながら、魔王軍領地を突き進んでいくのが分かる。

そして、ビューティーの張る防壁にぶつかると、光は四散して消えていく。


終わったか?俺たちの勝ちか?


赤く溶けた大地が、爆煙の中から姿を現す。

!!!!内陸中央付近に何かある!?銀色のドームだ!

でかい!山2つ分はある。

ハイドロン砲でも溶けていない。無傷に見える。


「なんだぞ?あれは?」

「なにかなぁ~」

「なに?」


「ルピ、ルカ索敵です!あの物体の索敵です」

「はい。ねぇ様。各センサー起動」

「はい。ねぇ様。索敵開始です」

山が崩れる!銀色のドームの中央が、左右にスライドし、両脇にある山を、押しのけるように開いて行く。

中は基地だ。

上空からの映像で確認できる。深部に黒い物体がある。

「ねぇ様、900m地下に超魔道エンジンの反応です」

「ねぇ様、900m地下に超弩級エネルギー反応です」

「皆さん!あれは私の20倍の大きさの魔道兵器です」

20倍だと!?

「ねぇ様、深部の魔道兵器、微速上昇中」

「ねぇ様、深部の魔道兵器、上部到着まで48分です」

「ケイン!後48分しかないぞ!」

「ああ!大急ぎで準備だ!」

「ターナ、マオ、アリッサ!手伝うぞ!時間がないぞ」

俺の考えることは、アリスは分かっている。

俺達は既に、阿吽の呼吸だ。


「ケインさん!かなぁ!星を滅ぼ・・す・・レベル・・何をしてるのかな?」

「ああ、ビューティー様。48分あったので、食事です」

「時間が無かったから刺身ですだぞ。残念剣のおかげで、新鮮なまま食べられますだぞ」

「この緊急事態にかな?食事なのかな?何故余裕かな?」

「もう、戦いは終わっておりますじゃ」

「そうでごござる。拙者たちの勝ちでざる。これは鯛でござるな。旨いでござるよ」

「皆さん、気がふれたかな?現実逃避してるんだなぁ。」



「さて、食ったぞ。そろそろいい感じに上がってきたぞ」

「マスター、超巨大魔道兵器、地上まで150mです」

「マスター、超巨大魔道兵器、地上まで8分です」

「頃合いだな」

「頃合いって?なのがかな?」

「俺たちの勝ち迄、いい頃合いの時間になったという事です」

「???かな?」

「これで2度目のパターンだぞ。次回に続くぞ」

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