魔王編 ⑲
ロボットの襲撃から、1週間がたち、街も俺たちも、落ち着きを取り戻していた。
「女王陛下!大変です!大変です!」
「どうしました?今度は何が?」
俺は、アリス、アイリスと朝食を取っていた。
「服を着たワニが、女王陛下に謁見を求めてきました」
「何を馬鹿なことを。ワニは服を着ませし、謁見も求めませんわ。ワニは、ガオーって口を開けて、噛みついては、ブンブン振り回すだけですわ」
・・・もしかして、トーレフか?
「それ、トーレフだぞ。竜人族だぞ。ここに案内するぞ」
衛兵は「OK」とサインを出し下がった。
「いや~この姿でケイン殿の名前を出すと、刺客と間違えられるかと思って、女王陛下に謁見と、伝えたでござるよ」
どっちもOUTだ。
「王都民は、竜人族を知らないぞ」
「ですわよ。下手すると、ハンドバッグですわよ」
アイリスは、初めてだったな。
「紹介しよう。竜人族の科学者で、トーレフだ」
「よろしくお願いしますわ。科学顧問が居ると助かりますわ」
「トーレフは、海の覇王を引き連れてるぞ。頼りになる仲間だぞ」
「仲間でござるか。嬉しい響きでもあり、くすぐったい響きでもあるでござるな。同胞と別れて早800年。久しく忘れておったでござるよ」
「竜人族の大陸には戻れないのか?」
「そうか、ケインは知らないぞ。カモミールの海を」
「普通のどこにでもある海だろ?」
「どこにもありませんわ。カモミールは不思議な星なのですわ」
全球が海。カモミールは、海洋惑星だそうだ。
大陸と思っていたのは、厚さが3000kmにも及ぶ、浮遊大陸だった。
大陸が、海の上に浮かんでいるのだ。
この星に、地殻はない。
大陸は沖に1000k程度は続いているが、そこから先は、水深6000kmの、底なしの海。
底のない部分の海は、海流が早く、船の往来はできない。
飛行技術の遅れていたカモミールでは、竜人族の飛行船を使って、竜人族との大陸を行き来していた。
「こんなデカい大陸が、浮かんでるだと?」
「ええ、カモミール7不思議の一つですわ」
「で?移動もしないのか?」
「そうだぞ、カモミール13の謎の一つだぞ」
謎は幾つだ?
トーレフが懐かしそうに、語りだした。
「拙者は、戦争のさなか、エー大陸に来たでござるが、現れた魔王が飛行船を破壊して、帰る術を失ったでござるよ」
あんたは一体何歳だ?
「魔王から逃げまどい、浜辺を彷徨っていた拙者は、罠にかかっていた亀を助けたでござる」
余裕だな?カメを助けてる余裕が良くあったな?
「カメは、たいそう喜んだでござるよ。拙者が背中に乗ると、亀は海に向かって泳ぎ出したでござる」
昔話が、おとぎ話に成って来た。
「ポセイドンでござる!!」
いきなり叫ぶな!驚くだろう。
「ケイン!あれを見るぞ!」
!何だ!?あれは?
海の方に、おっきな勇者が居る。
「じ、自衛隊ですわ!フェザー砲ですわ!対G兵器ですわ!」
「拙者の友人の、ポセイドンでござる。ほら手を振ってるでござろう」
暴れようとしてるんじゃないのか?
50m近い大きさのカメが、二足立ちして、両手をばたつかせていた。
「今では、大の仲良しでござる」
あれが罠にかかっていただと?
「足の小指の先が、痛々しかったでござる」
何故、魔王にぶつけようと考えなかった?あれなら勝てたんじゃないか?
「大きいだけの亀でござるよ。口から火炎を吐くことしか、できないでござるよ。無理でござる」
充分だ。俺、いらなくね?俺は無戦力の勇者だが、向こうは、大きな勇者だ。
「みんなが来た島は、ポセイドンの背に在るでござる」
あの島は、亀の甲羅の上だったのか?
「魔都へは、ポセイドンが連れて行ってくれるでござる」
「そうか、パルスが考えがあるというのは、ポセイドンの事だったんだな」
「なぁ、ケイン。マオの鳥、ロプロスに名前変えたくなったぞ」
いやだ。俺は、魔王以外にヨミと戦う事に成る。
「なら、ギャオスでもいいぞ」
なにをさせたい?
「今日は、セイレーンの修復用の材料が足らなくなったので、協力をお願いしに来たでござる」
「婿殿から伺ってますわ。勿論できる協力は、惜しみませんわ」
「助かるでござるよ」
「だが、セイレーンを直す部品なんか、ここにあるのか?」
「レプリケーターシステムを直したでござる。小さいモノなら、空気中の元素からでも作れるでござるが、大きなものとなると、空気中からでは無理でござる」
意味が分からん。簡単に頼む。
「全ての物質は、元素で構成されているでござる。モノも人も、元素の組み合わせの産物でござる。
レプリケーターシステムとは、物質を元素に分解して、要求した物質に変えるシステムでござる」
「アリス、分かったか?」
「簡単だぞ。空中元素固定装置だぞ」
なるほど、俺も理解した。
「しかしシステムの仕様上、モノなら、なんでもいいと言う訳ではござらん。生ゴミ以外は、システムが受け付けないでござる」
何で、生ゴミだ?
「リサイクル用に、開発したからでござるかな?」
「生ゴミなら、王都は大量に出るぞ」
「それを分けて欲しいでござる。ポセイドンと来たのは、大量輸送ができるからでござる」
「早速手配しますわ」
「助かるでござる」
・・・セレスもそれで直すのか?
「そうでござる。セレス殿も、70%はリサイクルゴミで再生するでござるよ」
「なんか、哀れだぞ・・」
トーレフも、70%がアリスエキスだったな・・・。
「折角来たので、食糧の買い出しに行きたいでござる」
おお、いいぞ、付き合う。
「パパ!おはよう!」
アリッサだ。アリッサは、ティナと一緒の部屋で寝ている。
「皆さん、おはようございます」
ティナと二人で来た。
「!!!なんで女神さまが?ここに居るでござるか!?」
トーレフも信者か?
「拙者、持ち合わせ・・・」
懐から財布を取り出すと、中身を全部ティナの前に置いた。
「今はこれしか、持ち合わせがないでござる」
そう言うと、ティナの前で膝を付き、両手を合わせた。
「絵的には、服を着たワニを、追剥してる女神だぞ」
これで許してください、的な絵だな。
ティナは「ふん!」と気合を入れる。
後光が射した。そして女神の顔に成る。
「竜人族の信者よ。貴方の信仰心の深さ、これっポッチの布施ですが、深く感謝いたします。神の加護が有らん事を」
「ティナ、たまに黒いぞ」
「天然だ。悪気で言っているわけではない」
「さぁ、トーレフ様、私は女神として来ているわけではありません。今は、只のティナです。皆さんのように、普通に接してください」
「・・ごめん、私、何時も普通に接してたぞ」
俺もだ。
「買い出しの資金が、無くなったでござるよ。収入がない拙者は、浜に打ち上げられたお金を、拾い集めるしかないでござる」
なけなしの金を、女神に貢いだのか?
「直接会えることなど、ないでござるからな」
「信仰心があついぞ」
「大丈夫ですわよ。トーレフ様は、勇者チームの一員ですわ。王都からお給料が出ますわ」
「お給料?俺にもか?」
「言ってなかったぞ。危険なことを頼んで、無償は無いぞ。防衛費から、勇者チームには報酬が出てるぞ。これが、ケインの口座だぞ、振り込まれてるぞ」
!?○が一杯だ。
まだ3か月なのに、1000万Gだと!?
「妥当な報酬ですわ。魔王を倒す、どれほど国の為になるか。危険な仕事ですわ、危険手当も含まれての額ですわ。
因みに、婿殿の受け取る報酬の98.6%は、マオ様の支援で成り立っていますわ」
「先月までは、1か月税込み7万だったぞ。勿論危険手当込みだぞ。マオの協力で、今月から昇給したぞ」
知らなかった。俺は、マオに雇われているんだ。
「拙者、こんな金額、見たこともないでござるよ」
今月分の報酬を手にしたトーレフは、震えていた。
「これで買い出しが出来るぞ。街に行くぞ」
「私は、お留守番ですわ。あまり街に行くと、国民の皆さんの負担が増えますわ」
そうだ、アイリスが行くと、みんな貢物をしてくれる。
国民の負担を考える、良い女王だ。
「私も、お留守番しますね。大勢の人の前に出ると、奇跡を起こしたくなります」
今は、しょぼい加護しか使えなかったな。
「パパ、私も行かない。今日はレベル上げをしなくちゃ」
アリッサ、そんなに頑張らないで、ちゃんと休むんだぞ。
「うん!大丈夫だよパパ」
くそ~いい子だ。パパ臭いの思春期は完全に消え去った。
トーレフは、袴姿に帯刀をしている。
この世界では、帯刀は禁止ではない。が、やはり目立つ。街の美女たちの反応だ。
「ワニが服着てるわ」
「ワニッて、ガオーて口を開けるのよね」
「噛みついたら、ブンブン振り回すわ」
世の中の認識は、みんな同じだ。
「気にしないでござるよ。この姿は800年前も目立ったでござる」
随分と長生きなんだな。
「竜人族は平均3000年は、生きるでござる。拙者はまだ1200歳でござるよ」
生きた化石じゃない。生きてる化石だ。
「魚を貰うでござる」
魚屋の前で、アユみたいな川魚を選んだ。
「海に居ると、川魚が恋しくなるでござるよ」
分かる。やはり海と陸では、味が違うからな。
「川魚は鮮度が命でござるから・・」
トーレフは刀を抜いた。周りが、ざわつく。
「待つぞ!ここで抜刀は不味いぞ」
「驚かせて、済まないでござる。大丈夫でござるよ。見ているでござる」
刀の刃を、魚に刺す。
!?魚が生き返った?だと??
「もともと生きていたでござったか。この刀は「残念剣」傷付けた相手に、念を残す剣でござる」
「念?残す?どうい事だ?」
「拙者は、新鮮!と念じて刺したでござる。魚に新鮮の念が入り、元気を取り戻したでござる」
なるほど。それは凄い剣だな。
「冷蔵庫がない島での生活には、必要不可欠でござる」
無駄に高性能だ。
買い出しが済んだ。
トーレフは、沢山の買い物をした。ご満悦だ。
俺達は、大きな荷物を抱え王宮に戻る。
!?王宮の職員と衛兵が、庭に集まってる?
「婿殿お帰りですわ」
「ぱぱ、おかえり」
「おかえりなさい。随分買いましたね」
3人とも慌ててはいない。だが、何事だ?
「私のレベル上げの最中。皆には、協力してもらってるの」
そうか、レベル上げの最中か・・・何もしていないように見えるのは、気のせいか?っておい!!王宮の窓から煙だ!
「大丈夫ですわ。バルサンですわよ」
「はい。虫さんを殲滅中です」
そうか、バルサンを焚いていたのか。
「来たよ!レベルアップだよ!」
「おお、すごいぞ、アリッサのレベルが、どんどん上がるぞ」
何故上がる?
「虫は害虫よ。人類の敵!私が炊いたバルサンで、敵を殲滅したの。レベルが上がるわ!」
マジか?
「バルサン、レベルアップ法だぞ。ネズミの罠を仕掛けても、上がるぞ」
そんなのアリなのか?
「人類さんは、魔獣さんとは、レベル差が大きすぎて戦えません。戦う相手が居なくては、レベルも上がりません。王都の方達は、工夫を凝らして、独自のレベル上げを考え出したんです」
言い方を変えると、すごい偉業風に聞こえるな。
「トーレフ様、生ゴミの用意が出来ましたわ」
「助かったでござる。これでセレス殿も修理できるでござるよ」
「ゴミセレスが帰ってくるぞ」
哀れ過ぎる。
アリスと、見送りに浜辺まで来た。
地引網に、大量のゴミ袋を入れて、ポセイドンが引っ張る。
トーレフは、ポセイドンと共に、夕日の沈む海に帰って行った。
「なんか、エンディングロールが、流れそうな絵だぞ」
ああ、沈む夕日に向かって、海を行く大きな勇者か。
「この世界の海には、巨大生物やら、なぞの生物が沢山いるという噂だぞ」
「水深が6000kmもあれば、どんな生き物がいるかなど、想像すらできん」
「一説によると、海の中に宇宙人の基地があるぞ」
今更、宇宙人ぐらいでは驚かん。
辺りが暗く成った。今日は月が出ていない。
「アリス、足元が暗いから、気を付けるんだぞ」
「流石に、日が落ちると真っ暗だぞ」
「電灯を持ってくれば、よかったな」
「大丈夫だぞ、有るぞ」
お?流石は奥さん。用意が良いな。
「アルテミス、ちょっと来るぞ」
おい。
「何かしら?アリス」
アルテミスは、アリスの呼びかけに応じた。
「足元が暗いぞ。先行してほしいぞ」
女神の後光を提灯代わりかよ。
「いいわよ」
良いのか!?
「私はアリスの守護者よ。アリスが転んで怪我でもしたら大変」
いやいや、女神の使い方、違うだろ。
「使えるものは、親の尻でも使うぞ」
「そうそう、アリスはそうでなくっちゃね」
随分おおらかな女神だ。
「でも、私だけよ。他の女神には頼まないでね」
アルテミスは、いつもそうなのか?
「・・・女神は、困っている人を助けるのが仕事。私はそう考えている。でも、あれはダメだとか、奇跡の安売りはするなとか、自律性が無くなるとか、うるさいのよね」
「女神の世界も大変だぞ」
ああ、良い悪いは、考え次第で変わるからな。
「アルテミスやティナが、天界を仕切っていたら、平和だぞ」
「あら、仕切ってるわよ。これでも16評議会の一員よ」
「16評議会?」
「天界の最高意思決定機関。16人の女神一人よ」
「知らなったぞ、大物だぞ。提灯代わりに使って悪かったぞ。前回来た時、お手洗いで洗った手を、アルテミスの服で拭いたの謝るぞ」
ひでぇな。
「まだまだあるぞ。懺悔は、朝まで続きそうだぞ」
「良いのよアリス。偉いとか偉くなとか関係ないから。私は、私が遣りたいように、遣りたいだけ。・・・・って!ちょっと!あのシミ、アリスだったのね」
「その最高なんたらが、天界の行動を決めてるんだよな」
「ん~~~そうとも言えないけどね。概ねは決めてるわ」
「概ねだぞ?」
「非公式だけど、上に天界四天王が居るのよ」
なんだそれは?
「私たちで決めたことを、覆せる人たちね」
「最高の意味がないぞ」
「じゃ、その四天王が、事実上の最高なんだな」
「違うわ、その上にボスが居るのよ」
どこかの悪の組織みたいだ。
「ボスの名前は、ヴィーナス。ツルの一声で、すべてを覆すわ」
「大物だぞ」
有名な女神だ。美の女神だったよな。
「そうそう。ティナの、母上ね」
!!!!なんだと!?
「四天王は、ヴィーナスの4女迄の4人よ。ティナは3女」
!!!ティナは、四天王だったのか!?
「私、ティナ様と呼ぶぞ」
また、様を付けないで呼んでたのか。
「さぁ、着いたわよアリス」
「ありがとうございましただぞ。これからは、アルテミス様とお呼びしますだぞ」
「何言ってるのよ。どうせ明日に成れば忘れて、・・アルテミス、ちょっと来るだぞ。棚の上に手が届かないぞ。下で台の代わりするぞ、とか言うでしょ」
真似が上手いが、お前16評議員に、台の代わり迄させてたのか?
「知らぬが仏だぞ」
使い方間違えてる。
「ケイン、覚えておいて。これから、あなた達には、色々なことがあるわ。ティナが信じられなくなる時も、有るかもしれない。でもね、ティナは絶対あなたを裏切らない。あの子は自分を裏切っても、あなただけは裏切らない。覚えておいてね」
ティナも同じことを・・・
「ああ、わかった、覚えておくよ」
「違うぞケイン。わかりました。覚えておきます、だぞ」
お前、権力に弱いな。
アルテミスは消えた。
ティナは、何を知っている?
そして、何を隠している?
俺が、ティナを信じられなくなるような、何かがある?
今は考えても分からない。
その時が来るまではな。




