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残念世界の残念勇者   作者: XT
19/96

魔王編 ⑲

ロボットの襲撃から、1週間がたち、街も俺たちも、落ち着きを取り戻していた。


「女王陛下!大変です!大変です!」

「どうしました?今度は何が?」

俺は、アリス、アイリスと朝食を取っていた。

「服を着たワニが、女王陛下に謁見を求めてきました」

「何を馬鹿なことを。ワニは服を着ませし、謁見も求めませんわ。ワニは、ガオーって口を開けて、噛みついては、ブンブン振り回すだけですわ」

・・・もしかして、トーレフか?

「それ、トーレフだぞ。竜人族だぞ。ここに案内するぞ」

衛兵は「OK」とサインを出し下がった。


「いや~この姿でケイン殿の名前を出すと、刺客と間違えられるかと思って、女王陛下に謁見と、伝えたでござるよ」

どっちもOUTだ。

「王都民は、竜人族を知らないぞ」

「ですわよ。下手すると、ハンドバッグですわよ」

アイリスは、初めてだったな。

「紹介しよう。竜人族の科学者で、トーレフだ」

「よろしくお願いしますわ。科学顧問が居ると助かりますわ」

「トーレフは、海の覇王を引き連れてるぞ。頼りになる仲間だぞ」

「仲間でござるか。嬉しい響きでもあり、くすぐったい響きでもあるでござるな。同胞と別れて早800年。久しく忘れておったでござるよ」

「竜人族の大陸には戻れないのか?」

「そうか、ケインは知らないぞ。カモミールの海を」

「普通のどこにでもある海だろ?」

「どこにもありませんわ。カモミールは不思議な星なのですわ」



全球が海。カモミールは、海洋惑星だそうだ。

大陸と思っていたのは、厚さが3000kmにも及ぶ、浮遊大陸だった。

大陸が、海の上に浮かんでいるのだ。

この星に、地殻はない。


大陸は沖に1000k程度は続いているが、そこから先は、水深6000kmの、底なしの海。

底のない部分の海は、海流が早く、船の往来はできない。

飛行技術の遅れていたカモミールでは、竜人族の飛行船を使って、竜人族との大陸を行き来していた。


「こんなデカい大陸が、浮かんでるだと?」

「ええ、カモミール7不思議の一つですわ」

「で?移動もしないのか?」

「そうだぞ、カモミール13の謎の一つだぞ」

謎は幾つだ?


トーレフが懐かしそうに、語りだした。

「拙者は、戦争のさなか、エー大陸に来たでござるが、現れた魔王が飛行船を破壊して、帰る術を失ったでござるよ」

あんたは一体何歳だ?

「魔王から逃げまどい、浜辺を彷徨っていた拙者は、罠にかかっていた亀を助けたでござる」

余裕だな?カメを助けてる余裕が良くあったな?

「カメは、たいそう喜んだでござるよ。拙者が背中に乗ると、亀は海に向かって泳ぎ出したでござる」

昔話が、おとぎ話に成って来た。


「ポセイドンでござる!!」

いきなり叫ぶな!驚くだろう。

「ケイン!あれを見るぞ!」

!何だ!?あれは?

海の方に、おっきな勇者が居る。

「じ、自衛隊ですわ!フェザー砲ですわ!対G兵器ですわ!」

「拙者の友人の、ポセイドンでござる。ほら手を振ってるでござろう」

暴れようとしてるんじゃないのか?

50m近い大きさのカメが、二足立ちして、両手をばたつかせていた。

「今では、大の仲良しでござる」

あれが罠にかかっていただと?

「足の小指の先が、痛々しかったでござる」

何故、魔王にぶつけようと考えなかった?あれなら勝てたんじゃないか?

「大きいだけの亀でござるよ。口から火炎を吐くことしか、できないでござるよ。無理でござる」

充分だ。俺、いらなくね?俺は無戦力の勇者だが、向こうは、大きな勇者だ。



「みんなが来た島は、ポセイドンの背に在るでござる」

あの島は、亀の甲羅の上だったのか?

「魔都へは、ポセイドンが連れて行ってくれるでござる」

「そうか、パルスが考えがあるというのは、ポセイドンの事だったんだな」

「なぁ、ケイン。マオの鳥、ロプロスに名前変えたくなったぞ」

いやだ。俺は、魔王以外にヨミと戦う事に成る。

「なら、ギャオスでもいいぞ」

なにをさせたい?


「今日は、セイレーンの修復用の材料が足らなくなったので、協力をお願いしに来たでござる」

「婿殿から伺ってますわ。勿論できる協力は、惜しみませんわ」

「助かるでござるよ」

「だが、セイレーンを直す部品なんか、ここにあるのか?」

「レプリケーターシステムを直したでござる。小さいモノなら、空気中の元素からでも作れるでござるが、大きなものとなると、空気中からでは無理でござる」

意味が分からん。簡単に頼む。


「全ての物質は、元素で構成されているでござる。モノも人も、元素の組み合わせの産物でござる。

レプリケーターシステムとは、物質を元素に分解して、要求した物質に変えるシステムでござる」

「アリス、分かったか?」

「簡単だぞ。空中元素固定装置だぞ」

なるほど、俺も理解した。


「しかしシステムの仕様上、モノなら、なんでもいいと言う訳ではござらん。生ゴミ以外は、システムが受け付けないでござる」

何で、生ゴミだ?

「リサイクル用に、開発したからでござるかな?」

「生ゴミなら、王都は大量に出るぞ」

「それを分けて欲しいでござる。ポセイドンと来たのは、大量輸送ができるからでござる」

「早速手配しますわ」

「助かるでござる」

・・・セレスもそれで直すのか?

「そうでござる。セレス殿も、70%はリサイクルゴミで再生するでござるよ」

「なんか、哀れだぞ・・」

トーレフも、70%がアリスエキスだったな・・・。


「折角来たので、食糧の買い出しに行きたいでござる」

おお、いいぞ、付き合う。

「パパ!おはよう!」

アリッサだ。アリッサは、ティナと一緒の部屋で寝ている。

「皆さん、おはようございます」

ティナと二人で来た。

「!!!なんで女神さまが?ここに居るでござるか!?」

トーレフも信者か?

「拙者、持ち合わせ・・・」

懐から財布を取り出すと、中身を全部ティナの前に置いた。

「今はこれしか、持ち合わせがないでござる」

そう言うと、ティナの前で膝を付き、両手を合わせた。

「絵的には、服を着たワニを、追剥してる女神だぞ」

これで許してください、的な絵だな。


ティナは「ふん!」と気合を入れる。

後光が射した。そして女神の顔に成る。

「竜人族の信者よ。貴方の信仰心の深さ、これっポッチの布施ですが、深く感謝いたします。神の加護が有らん事を」

「ティナ、たまに黒いぞ」

「天然だ。悪気で言っているわけではない」

「さぁ、トーレフ様、私は女神として来ているわけではありません。今は、只のティナです。皆さんのように、普通に接してください」

「・・ごめん、私、何時も普通に接してたぞ」

俺もだ。


「買い出しの資金が、無くなったでござるよ。収入がない拙者は、浜に打ち上げられたお金を、拾い集めるしかないでござる」

なけなしの金を、女神に貢いだのか?

「直接会えることなど、ないでござるからな」

「信仰心があついぞ」

「大丈夫ですわよ。トーレフ様は、勇者チームの一員ですわ。王都からお給料が出ますわ」

「お給料?俺にもか?」

「言ってなかったぞ。危険なことを頼んで、無償は無いぞ。防衛費から、勇者チームには報酬が出てるぞ。これが、ケインの口座だぞ、振り込まれてるぞ」

!?○が一杯だ。

まだ3か月なのに、1000万Gだと!?

「妥当な報酬ですわ。魔王を倒す、どれほど国の為になるか。危険な仕事ですわ、危険手当も含まれての額ですわ。

因みに、婿殿の受け取る報酬の98.6%は、マオ様の支援で成り立っていますわ」

「先月までは、1か月税込み7万だったぞ。勿論危険手当込みだぞ。マオの協力で、今月から昇給したぞ」

知らなかった。俺は、マオに雇われているんだ。


「拙者、こんな金額、見たこともないでござるよ」

今月分の報酬を手にしたトーレフは、震えていた。

「これで買い出しが出来るぞ。街に行くぞ」

「私は、お留守番ですわ。あまり街に行くと、国民の皆さんの負担が増えますわ」

そうだ、アイリスが行くと、みんな貢物をしてくれる。

国民の負担を考える、良い女王だ。

「私も、お留守番しますね。大勢の人の前に出ると、奇跡を起こしたくなります」

今は、しょぼい加護しか使えなかったな。

「パパ、私も行かない。今日はレベル上げをしなくちゃ」

アリッサ、そんなに頑張らないで、ちゃんと休むんだぞ。

「うん!大丈夫だよパパ」

くそ~いい子だ。パパ臭いの思春期は完全に消え去った。


トーレフは、袴姿に帯刀をしている。

この世界では、帯刀は禁止ではない。が、やはり目立つ。街の美女たちの反応だ。

「ワニが服着てるわ」

「ワニッて、ガオーて口を開けるのよね」

「噛みついたら、ブンブン振り回すわ」

世の中の認識は、みんな同じだ。

「気にしないでござるよ。この姿は800年前も目立ったでござる」

随分と長生きなんだな。

「竜人族は平均3000年は、生きるでござる。拙者はまだ1200歳でござるよ」

生きた化石じゃない。生きてる化石だ。


「魚を貰うでござる」

魚屋の前で、アユみたいな川魚を選んだ。

「海に居ると、川魚が恋しくなるでござるよ」

分かる。やはり海と陸では、味が違うからな。

「川魚は鮮度が命でござるから・・」

トーレフは刀を抜いた。周りが、ざわつく。

「待つぞ!ここで抜刀は不味いぞ」

「驚かせて、済まないでござる。大丈夫でござるよ。見ているでござる」

刀の刃を、魚に刺す。

!?魚が生き返った?だと??

「もともと生きていたでござったか。この刀は「残念剣」傷付けた相手に、念を残す剣でござる」

「念?残す?どうい事だ?」

「拙者は、新鮮!と念じて刺したでござる。魚に新鮮の念が入り、元気を取り戻したでござる」

なるほど。それは凄い剣だな。

「冷蔵庫がない島での生活には、必要不可欠でござる」

無駄に高性能だ。


買い出しが済んだ。

トーレフは、沢山の買い物をした。ご満悦だ。

俺達は、大きな荷物を抱え王宮に戻る。

!?王宮の職員と衛兵が、庭に集まってる?

「婿殿お帰りですわ」

「ぱぱ、おかえり」

「おかえりなさい。随分買いましたね」

3人とも慌ててはいない。だが、何事だ?

「私のレベル上げの最中。皆には、協力してもらってるの」

そうか、レベル上げの最中か・・・何もしていないように見えるのは、気のせいか?っておい!!王宮の窓から煙だ!

「大丈夫ですわ。バルサンですわよ」

「はい。虫さんを殲滅中です」

そうか、バルサンを焚いていたのか。

「来たよ!レベルアップだよ!」

「おお、すごいぞ、アリッサのレベルが、どんどん上がるぞ」

何故上がる?

「虫は害虫よ。人類の敵!私が炊いたバルサンで、敵を殲滅したの。レベルが上がるわ!」

マジか?

「バルサン、レベルアップ法だぞ。ネズミの罠を仕掛けても、上がるぞ」

そんなのアリなのか?

「人類さんは、魔獣さんとは、レベル差が大きすぎて戦えません。戦う相手が居なくては、レベルも上がりません。王都の方達は、工夫を凝らして、独自のレベル上げを考え出したんです」

言い方を変えると、すごい偉業風に聞こえるな。


「トーレフ様、生ゴミの用意が出来ましたわ」

「助かったでござる。これでセレス殿も修理できるでござるよ」

「ゴミセレスが帰ってくるぞ」

哀れ過ぎる。


アリスと、見送りに浜辺まで来た。

地引網に、大量のゴミ袋を入れて、ポセイドンが引っ張る。

トーレフは、ポセイドンと共に、夕日の沈む海に帰って行った。

「なんか、エンディングロールが、流れそうな絵だぞ」

ああ、沈む夕日に向かって、海を行く大きな勇者か。

「この世界の海には、巨大生物やら、なぞの生物が沢山いるという噂だぞ」

「水深が6000kmもあれば、どんな生き物がいるかなど、想像すらできん」

「一説によると、海の中に宇宙人の基地があるぞ」

今更、宇宙人ぐらいでは驚かん。


辺りが暗く成った。今日は月が出ていない。

「アリス、足元が暗いから、気を付けるんだぞ」

「流石に、日が落ちると真っ暗だぞ」

「電灯を持ってくれば、よかったな」

「大丈夫だぞ、有るぞ」

お?流石は奥さん。用意が良いな。

「アルテミス、ちょっと来るぞ」

おい。

「何かしら?アリス」

アルテミスは、アリスの呼びかけに応じた。

「足元が暗いぞ。先行してほしいぞ」

女神の後光を提灯代わりかよ。

「いいわよ」

良いのか!?

「私はアリスの守護者よ。アリスが転んで怪我でもしたら大変」

いやいや、女神の使い方、違うだろ。

「使えるものは、親の尻でも使うぞ」

「そうそう、アリスはそうでなくっちゃね」

随分おおらかな女神だ。


「でも、私だけよ。他の女神には頼まないでね」

アルテミスは、いつもそうなのか?

「・・・女神は、困っている人を助けるのが仕事。私はそう考えている。でも、あれはダメだとか、奇跡の安売りはするなとか、自律性が無くなるとか、うるさいのよね」

「女神の世界も大変だぞ」

ああ、良い悪いは、考え次第で変わるからな。

「アルテミスやティナが、天界を仕切っていたら、平和だぞ」

「あら、仕切ってるわよ。これでも16評議会の一員よ」

「16評議会?」

「天界の最高意思決定機関。16人の女神一人よ」

「知らなったぞ、大物だぞ。提灯代わりに使って悪かったぞ。前回来た時、お手洗いで洗った手を、アルテミスの服で拭いたの謝るぞ」

ひでぇな。

「まだまだあるぞ。懺悔は、朝まで続きそうだぞ」

「良いのよアリス。偉いとか偉くなとか関係ないから。私は、私が遣りたいように、遣りたいだけ。・・・・って!ちょっと!あのシミ、アリスだったのね」


「その最高なんたらが、天界の行動を決めてるんだよな」

「ん~~~そうとも言えないけどね。概ねは決めてるわ」

「概ねだぞ?」

「非公式だけど、上に天界四天王が居るのよ」

なんだそれは?

「私たちで決めたことを、覆せる人たちね」

「最高の意味がないぞ」

「じゃ、その四天王が、事実上の最高なんだな」

「違うわ、その上にボスが居るのよ」

どこかの悪の組織みたいだ。


「ボスの名前は、ヴィーナス。ツルの一声で、すべてを覆すわ」

「大物だぞ」

有名な女神だ。美の女神だったよな。

「そうそう。ティナの、母上ね」

!!!!なんだと!?

「四天王は、ヴィーナスの4女迄の4人よ。ティナは3女」

!!!ティナは、四天王だったのか!?

「私、ティナ様と呼ぶぞ」

また、様を付けないで呼んでたのか。


「さぁ、着いたわよアリス」

「ありがとうございましただぞ。これからは、アルテミス様とお呼びしますだぞ」

「何言ってるのよ。どうせ明日に成れば忘れて、・・アルテミス、ちょっと来るだぞ。棚の上に手が届かないぞ。下で台の代わりするぞ、とか言うでしょ」

真似が上手いが、お前16評議員に、台の代わり迄させてたのか?

「知らぬが仏だぞ」

使い方間違えてる。


「ケイン、覚えておいて。これから、あなた達には、色々なことがあるわ。ティナが信じられなくなる時も、有るかもしれない。でもね、ティナは絶対あなたを裏切らない。あの子は自分を裏切っても、あなただけは裏切らない。覚えておいてね」

ティナも同じことを・・・

「ああ、わかった、覚えておくよ」

「違うぞケイン。わかりました。覚えておきます、だぞ」

お前、権力に弱いな。


アルテミスは消えた。

ティナは、何を知っている?

そして、何を隠している?

俺が、ティナを信じられなくなるような、何かがある?

今は考えても分からない。

その時が来るまではな。

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