第8話:冒険者兄妹と鍛冶屋兄妹
1
俺たちは、ギルドに来ていた。冬を越すための最低限の金を稼ぐためである。
本来、冬は冒険者たちは、内職をして生計を立てているらしいのだが、生憎俺たちのレベルではまだスキルを習得出来ないため、このように、秋のうちにクエストをこなして、なるべく多くの金を稼ぐのだ。
「ところで、なんでこいつが居るんだ?」
「や、やっぱり家でナイトと一緒に留守番していた方がよかったでしょうか…」
メアリーは、おどおどとして俺に聞き返した。
というか、そもそもこいつはどうやら地縛霊から幽霊になったらしく、俺たちのクエストにも参加…と言うことになるのだろうか?
とにかく、少しは貢献できるようになったらしい。
「何を言ってるんですか、お兄ちゃん!メアリーさんだって、私たちのパーティの一人なんですよ?」
「ま、まあそれもそうだが…本当にいいのか?幽霊がクエスト参加して」
俺たちも幽霊のようなものだが、人に認識されているだけマシである。
問題はメアリーの方だ。こいつは、常人には見えないタイプの幽霊なので、パーティメンバーとして認められない可能性が高い。
本来、パーティメンバー以外がクエストに参加するときは、色々手続きが必要なのだ。過去、俺とシュガーとミナミの三人でクエストを行っていた時は、そのような手続きは全てミナミにやらせていた。
だが、メアリーは先ほども言った通り常人には見えないタイプなので、手続き自体ができないのだ。
物には触れられるらしいが、そんなことをすればポルターガイスト現象で一帯大パニックだ。
「お兄ちゃん、あの名言があるじゃないですか」
「なんだよ、その名言って」
俺がそう聞くと、このバカ妹はまたバカなことを言い出した。
「バレなきゃ犯罪じゃないんですよ」
「どこの這い寄る混沌だよ!バレれば重罪だろうが!」
そんなことを叫んでいると、先にクエストの手続きをしていたシュガーとルキアが帰ってきた。
「三人とも、手続き終わった。いつでも出発できる」
「今回の敵はコボルトの群れだよね、張り切っていこう!」
コボルト。そう、かの有名な雑魚敵の象徴、コボルトである。
「そういえば、メアリーは連れて言っても大丈夫なのか?」
「普通の人には見えないし、大丈夫。バレなきゃいい」
「お前もかよ!ミナミといいお前といい、なんで後先考えないんだよ!バレるかもしれないだろ?な、ルキア?」
頼む、ルキア!お前だけはまともな人間…じゃなかった。まともな鬼であることを証明してくれ!
「もう、普通はバレることないしいいんじゃないかな?」
このパーティはもうダメかもしれない。もしかして、俺が間違ってるのか?
2
遠くに草原が見える。俺たちは、茂みの中から、コボルトたちの様子をうかがっていた。
「結構多いな、見たところ10体くらいか」
「コボルトはもっと多いと思う。そもそもコボルトは2、3の群れで行動する。だから、あともう20体ほど居ると思う」
雑魚敵特有の集団戦法だ。ああいうタイプのやつは、大体は一つの群れだけを狙っても、ほかの群れに囲まれ、袋叩きにあうのがオチだ。
「でも、どうするんだ?あの時みたいに大魔法一つ放って帰るか?」
「いや、それは無理があると思います。シュガーちゃんの魔法は、放つともうそれで終わり。もしもう何個か群れがあるとすれば、それにやられて終わりですよ」
確かにそうだ。いま、このパーティには、最大火力のシュガーを除くと、ほぼルキアしか有効打点がない。
それも、ルキアもほぼ魔法は使えないらしい。さすがに、20体ほどを、剣と盾だけで戦うのは無理があると思う。
「でも、どうする?僕も、体力と力しか自信ないし…」
「どうしましょうかね…?」
そうメアリーが言った瞬間、シュガーが「そうだ」と、手を打った。…何故だろう、悪い予感しかしない!
「囮作戦でいこう」
広い草原、包み込む草の匂い、俺は…。
「うわぁぁぁ!こいつら、やっぱ足速い!」
コボルトから全力疾走で逃げていた!
簡単に言うと、俺の役割はこいつらの注意を引きつけて囮となること。
ミナミはもしも負傷した時の回復要員。少しなら状態異常回復と、体力回復ができるらしい。
ルキアはシュガーの防衛。シュガーが気を失いでもしたら、俺たちに勝ち目はない。
一応ここら一帯のコボルトはおびき出すことに成功したが、シュガーの魔法の射程範囲まで体力が持つか…。
「お兄ちゃん、こっちですよ!」
「よ、よっしゃ!これで俺の役割は終わりだな!」
「演唱はもう終わってるらしいから、早くこっち!」
ルキアにそう呼びかけられて、シュガーが魔法を発動する直前…俺は、背後から襲ってきたコボルトに気がつかなかった。
3
「あ、お兄ちゃん、気がつきましたか?」
「お、おう、なんで聞くんだ。見ればわかるだろ」
そう言うと、ミナミは俺に抱きついてきた。今更だが、目覚めたのがベットの上だと言うことに気づく。そしてもう一つ…。
「よかった、よかったですよ…!」
「俺、なんでお前のベットで寝てんの?」
そう聞くと、ミナミの表情が固まった。頬を引きつったまま、何やら話し出す。
「え、ええと、これはですね?癖で…そう!いつも私そこで寝てますし、癖でそこに寝かせてしまって…」
「そんなんで信じると思うか?」
そんな会話をして居ると、シュガーが入ってきた。
「ごめんね、私の魔法が当たっちゃって、こんなことに…」
「いや、お前は悪くないよ。悪いのはあのコボルトどもだ。今度会ったらとっちめてやる!」
「え、ええと、では、私はこれで…」
何やらこの場を離れようとするミナミに、シュガーが話しかけた。
「そういえば、さっきミナミ、『ここにお兄ちゃんを寝かせてください。目が醒めるまで、私の抱き枕にしますからうへへへへ』って言ってたけど、抱き心地はどうだったの?」
「そりゃもう最高で…て、何言わせるんですか!?お、お兄ちゃん、嘘ですよ?嘘!シュガーちゃん、嘘つきは悪いんですよ?」
シュガーは何も言わず、静かに出て行った。というか、さっきシュガーが言っていたことが、とても気になるのだが、本当だろうか。
いや、おそらく本当だろう!
「おい妹よ…お前、俺に何しようとした?」
「い、いや、だから嘘ですって!抱き枕に見立てて、抱きつこうなんて考えてなかったですよ!?」
本当、未遂に終わってよかった。俺が目覚めるのがもう少し遅れていれば、俺は大切な何かをこいつに奪われていたかもしれない。
「完全に実行しようとしてたじゃないか!」
「あだぁ!?」
4
その翌日、俺とルキアは、ある鍛冶屋に来ていた。
他の三人はと言うと、シュガーとメアリーにミナミの監視をお願いしたのだ。あいつは、もう完全に頭がピンクなんだ。もう救いようがない。
あいつは、一生治らない『馬鹿』という病気らしい。
そういえば、今から行く鍛冶屋は、ルーン戦で負傷した防具を直してもらいに行ったのと同じところらしい。
「いらっしゃい。街の小さな鍛冶屋、いつもあなたの心の中に、鍛冶屋ロイトスへようこそ」
そう言って出迎えてくれた?のは、はたまたコンビニでアルバイトしようとしたら一瞬でつまみ出されそうな、十代前半くらいの女の子だった。
「やあ、ステラ。今日は僕じゃなくて、彼の装備を直して欲しいんだ。あ、あと、彼女の名前は、アステラ・ロイトス。こちらの彼が、イリヤ・ユウマ」
「うん、よろしくユウマ。防具のことは任せて。兄ちゃんがなんとかしてくれる。ちょっと待ってて」
「あ、ああ、よろしくな」
そう言うと、少女はトテトテと店の奥まで歩いて行った。ていうか、さっきから気になって居るのだが…。
「なあルキア、このドラゴンの置物、よくできてるな…て、うわぁ!?」
「きゅう!」
俺がその置物のドラゴンに触れると、ドラゴンは翼でバタバタと音を立てて、飛び回り始めた。
「あ、それ本物らしいよ?なにも、マスコット的存在だったり」
確かに、こいつよく見るとかなりかわいい。あんなに凶悪そうに描かれるドラゴンだが、こんなにかわいいやつもあるものなのか。
「その子はチール。今年で三歳の子供ドラゴン。兄ちゃんはもう呼んだので、もう少し待っていて」
「きゅう!きゅあ!」
そう言われてしばらく経つと、店の奥から二十歳くらいの男性が姿を現した。
「全く、今日くらいは惰眠できると思ったんだけどな…」
「兄ちゃん、今回の依頼品はこれ」
そう言うと、ステラは、すでに渡しておいた装備一式を、兄に見せた。
「ちょ、結構深刻じゃないか。どうしたらこんな傷に…」
「コボルトに噛まれたり、大魔法を受けたりしたからな。あ、あと俺はイリヤ・ユウマ、よろしく」
「そ、そうなのか?お前も大変だな。俺は、ネージス・ロイトス。鍛冶担当だ。ま、全部修理するのには、時間かかるから、適当に時間潰しといてくれ」
そう言われて30分くらいだろうか。もう防具が修理し終わったらしい。
「ほい、修理完了だ。お代はステラに渡しといてくれ。ふぁ〜…俺はもう一度寝とくからよ」
「あ、ああ、ありがとうな」
俺がそう言うと、彼は背を向けたまま手を振って、店の奥へと歩いて行った。
「二千ルナになります」
「なあ、ルキア。防具の修理ってこのくらい金かかるもんなのか?」
「まあ、店によるだろうね。対して上限もないし」
「この店は、武器は千五百ルナ、防具は、一式で二千ルナだよ。気に入ったらまた来てね。ユウマ」
「きゅー、きゅあ!」
「おう、またくる機会があればな」
俺は、初めて気の許せる歳の近い男性を見つけた気がした。




